ふくわらい

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 3094
レビュー : 457
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022509987

感想・レビュー・書評

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  • 顔、身体、心、経験、口から出る言葉、口に出さない言葉。
    すべてひっくるめて自分なのだ!
    と作品の中で叫び続けている西加奈子さん。

    つい数日前に読んだ『きりこについて』の中では、猫と会話するきりこが
    冷たい井戸水に触れて「Water!」と言葉を得たヘレン・ケラーのごとく
    雷に打たれたような直感と拙い言葉で「まるごとの自分」を叫んでいたけれど、
    この『ふくわらい』では、主人公の定の職業が編集者ということもあって
    その思いは、整った美しい文脈で、言葉を尽くして語られます。

    母の胎内に感情というものをすべて置き忘れてきたような子どもだった定。
    そんな定が、初めて福笑いで創り上げた珍妙な顔を見て笑い転げて以来、
    彼女にとって顔は、目、鼻、口、眉毛というぺらぺらのパーツの集合体となり、
    自由に組み合わせて遊べる、唯一無二のおもちゃになる。

    紀行作家だった父にくっついて辺境の地を転々とした少女時代に
    ある部族のしきたりに乗っ取って、亡くなった女性の肉を口に含んだことを
    父が嬉々として作品に綴ったため、7歳にして奇異な目で見られ始める定。
    世間との間に透明で硬い壁ができても一向に気にせず、奇矯な行動を取っても
    パーツの組み合わせに恋している彼女が、誰かが言葉を積み上げて文章にする、
    そのことに深い興味を抱き、編集者として高い能力を発揮するのがおもしろい。

    福笑いでパーツの集合体としての「顔」に拘り続けてきた定が
    目の見えない武智次郎に、「見えなくても定さんは美人だ」と断言され、
    敬遠していた同僚の小暮しずくが屋上で獣のように泣き叫ぶ傍らに寄り添い、
    怖いのにリングに立ち、体があればいいと思いながら、社会と繋がっていたくて
    思いを言葉にして綴らずにいられないプロレスラー守口の姿を目の当たりにして、
    おにぎりやカルピスと一緒に、消化しきれなかった自分を吐き出すシーンが圧巻です。

    関わりを持ったひとたちを興味深く見つめ、自ら関わろうとするにつれ、
    定が他人の顔のパーツを自由に操って遊ぶのをがまんし始めるのが微笑ましく、
    彼女を慈しみ育ててくれた乳母の頼子が、生まれて初めてできた友だちとして
    小暮しずくを連れて現れた定を見て泣きじゃくる場面には涙が止まらず

    「顔」に拘り続ける定の顔がどうしても想像できないまま辿り着いたラストシーン。
    日曜の新宿通りを、光を浴び、生れたままの姿で、武智次郎と手をつないで歩く定は
    まさに今、新しく世界に生まれ落ちたのだと知り
    幸せに満ち、生き生きと笑っている顔が最後の最後に鮮やかに浮かび上がって
    やっぱり凄いな、西加奈子さん!と唸らせられる1冊でした。

    • まろんさん
      「容れもの」と「こころ」に拘ってきた西さんが、その集大成として
      書かずにはいられなかった作品なのかな、と思いました。

      でもでも、同じテーマ...
      「容れもの」と「こころ」に拘ってきた西さんが、その集大成として
      書かずにはいられなかった作品なのかな、と思いました。

      でもでも、同じテーマなら、素敵な猫、ラムセス2世の視点で描かれる
      『きりこについて』のほうが、私としてはオススメです(*^_^*)

      『きいろいゾウ』は、宮崎あおいちゃんもイメージぴったりだし、
      ご本人もやりたくてたまらなかった役みたいだし、ほんとに楽しみですね♪
      2012/12/16
    • jyunko6822さん
      遅ればせながら読了いたしました。
      この本にはグロい、臭いなどとレビューもあったりしたので、???でしたが、
      私も涙が溢れてきました。
      レビュ...
      遅ればせながら読了いたしました。
      この本にはグロい、臭いなどとレビューもあったりしたので、???でしたが、
      私も涙が溢れてきました。
      レビューに拍手\(^o^)/
      2013/01/13
    • まろんさん
      jyunkoさん☆

      たくさんの人が行き交う中、人目も気にせず武智くんと手をつないで
      定が晴れやかに新宿通りを歩いていくラストシーン、
      涙が...
      jyunkoさん☆

      たくさんの人が行き交う中、人目も気にせず武智くんと手をつないで
      定が晴れやかに新宿通りを歩いていくラストシーン、
      涙が止まりませんよね。
      jyunkoさんも同じように感じてくださって、とてもうれしいです♪
      あとのコメントは、jyunkoさんの素敵なレビューのほうに書かせていただきますね(*'-')フフ♪
      2013/01/13
  •  ます、装丁の絵の不気味さに惹かれました。帯には「マルキ・ド・サド」とか「趣味は暗闇でのひとり遊び」とか、おどろおどろしいことが書かれてあって、
    「これは、変態が主人公の小説だな。主人公は男で、その彼が犯罪すれすれの危ないことする話だな!!」
    と思って、ドキドキしながら手に取りましたが。


     主人公は、女子でした。しかも、ものすごく丁寧な物言いをする書籍編集者。彼女が、可愛らしいんです。
     たしかに、変な趣味を持っていたり、人肉を食べたことがあったりするなど、変わったところはあるにはありますが、彼女が人を敬愛する心や文章が生まれる瞬間を愛おしく思う感覚は、共感しきりでした。

     「先っちょだけ」という表現が好きです。
     今の自分は、自分のなかのすべての先っちょで、生きている間にそのすべてが大きくなっていく。
     「先っちょだけ」という表現は、浅いようでいて、その人の「すべて」を捉える表現だったんだなあ、と読み終えて思い至りました。

     ほかにも、守口廃尊の言葉はたくさんたくさん、心に残りました。彼は、訳の分からんことばっかりいうのに、心に残る。なぜか、心に深いところに刺さって、残る。涙がこみ上げてくる。
     なぜだ。彼の言葉が、好きだ。

     私も、定と次郎が歩くさまを見て、少しでも先へ進ませてあげたいと願う大衆になりたいと思いました。

    • rk25147さん
      はじめまして。
      「先っちょだけ」。深い表現ですよね。
      先っちょのその奥にある広がりを感じさせるって凄いです。
      守口廃尊も不思議な魅力を持った...
      はじめまして。
      「先っちょだけ」。深い表現ですよね。
      先っちょのその奥にある広がりを感じさせるって凄いです。
      守口廃尊も不思議な魅力を持ったキャラクターですねー。
      2013/05/27
    • HNGSKさん
      rk25147さん。こんにちは。
      先っちょにいるのが今の私で、そこから振り返ってみると、信じられないくらい広い空間が広がっているのかもしれな...
      rk25147さん。こんにちは。
      先っちょにいるのが今の私で、そこから振り返ってみると、信じられないくらい広い空間が広がっているのかもしれないですね。
       長く生きていきたいですね。私たち。そして、たくさんの作品に出会って、こうして読んだ作品を語り合いたいです。そうして、繋がって行きたいです。
      2013/05/27
  • この本の感想を表現する、いい言葉が見つからない。
    ただ、凄い本を読んだなと思う。

    ワクワクしたりドキドキしたり、そういったものは少ないのだけど、皆が心を裸にして真っ直ぐであり、読むことをやめさせない、力強い話だった。

    目や鼻や口や耳が、それぞれの顔でそれぞれの場所に納まることによって、その人らしさとなる。
    同じように文字も、ただのそこにあればただの文字なのだけれど、誰かが言葉を、文章を組み合わせて作ることによって、その人らしさとなる。

    あたりまえのことなのだけれど、その単純で純粋なことが心に響いた。

    • HNGSKさん
      初めまして。ayakoと申します。
      私もrkさん同様、すごい本を読んだな、と感じました。
      初めまして。ayakoと申します。
      私もrkさん同様、すごい本を読んだな、と感じました。
      2013/05/16
    • HNGSKさん
      こんにちは。先っちょの表現を、気に入ってくださってありがとうございます。
      先っちょにいるのが今の私で、そこから振り返ってみると、信じられない...
      こんにちは。先っちょの表現を、気に入ってくださってありがとうございます。
      先っちょにいるのが今の私で、そこから振り返ってみると、信じられないくらい広い空間が広がっているのかもしれないですね。
       長く生きていきたいですね。私たち。そして、たくさんの作品に出会って、こうして読んだ作品を語り合いたいです。そうして、繋がって行きたいです。
      2013/05/27
  • すごい!
    もうその一言だけだ。
    表紙に惹かれて、幼い定のふくわらいへの執着に圧倒されて、どんどん引き込まれてしまった。
    映像として想像することを躊躇う描写もいくつかあったけれど、目が離せない。
    物語は読み始めた時には全く予想もしなかった結末にたどり着いた。
    でも、私はあんまり驚いていない。
    とても嬉しいなと思っている。

    みんながみんな、愛おしいなと思える。
    綺麗とか正しいとかじゃない。
    もっともっと純粋な視線で、世界に恋をする幸福を見せてもらる、そんな物語。

  • 西加奈子の作品はタイ料理だ。酸っぱい、甘い、辛い、苦い、それらが個別に識別出来てしかも全体性を持って味わえる。うん。

    人の常識ってなんでしょうね。
    小さい頃に人肉を食べた女というレッテルを貼られた彼女は、もうそこから常識を気にすることはなくなった。
    常識=人の目ですね。

    この人肉を食べるという行為にも、小さい頃に行った未開の地の風習で、亡き人を自分の中に取り込んで一緒に生きるという素晴らしい教義があったんですけどね。

    誰しも人が聞いたらおかしいんじゃないの?っていうことにも自分の理屈で行くと道理に適っていることはあると私は思います。

  • 鳴木戸定。
    個性的だけどとても魅力的。
    その人の眉、目、鼻、口で初めて
    その人が構成されている。
    文字ひとつひとつ、
    その人が紡ぎだすことで
    その人の思いを構成していく。
    ふくわらいのように。

    話している事は真面目で
    本人たちも真剣なんだけど
    どこかコミカルというかユーモラス。
    テンポの良さのせいかな…
    けっこう生臭い話でも
    抵抗なく読める不思議。
    面白かった。

  • 「小説トリッパー」に掲載したものの単行本化。
    西加奈子ワールドですよ。

    紀行作家の娘鳴木戸定は、幼い時福笑いに熱中し、他人の顔のパーツを動かして見ることができる。

    出版社で編集者をしている定の周りにいるのは、目が見えなくなっても定の理解者の乳母悦子、エッセイも書く奇怪な顔のプロレスラー守口 、小説が書けなくなった夫の代わりに夫夫の死後も代筆を続けた水森ヨシ。

    リストカットした守口の家に行き、定が自分を語る。
    「私は、言葉をつらねて文章が出来る瞬間に立ち会いたい。それと同じように、目や鼻や口や眉毛が、どこみどうやって配置されて顔が出来るのか、その瞬間に立ち会いたいんです。

  • うわっ、苦手な分野の話やなぁ と思いながら読み始めたけど、癖になる美味しさだった!
    変な父の変な娘が幼い時に唯一はまった遊び「ふくわらい」が彼女の生活の柱になっている。
    今や編集者の仕事をしている彼女、いまだに顔のパーツ 目 鼻 口 眉 を自在に操ることが生きる術になっている。一度も泣いたことがなく、汗もかいたことがないし、全身にタトゥを入れている。
    そんな彼女にとっての ふくわらい が、関わる人たちによって 福笑い に変わった!汗もかき、泣くことができ、笑うこともできるように!
    人名に遊び、句読点の多さに凝り、ユーモアを散りばめて読み手を逃さない。やはり大した力量です♪

  • 最後そこかい!って思ったけど、なんか主人公の救われてる感がちょっと幸せ。

  • 父の旅に付いて回り幼少を過ごした鳴木戸定は、紀行作家として著名な父の影響をうけ、世間には言いふらすことのできない過去を持ちながらも、現在は文芸誌の編集者として淡々と仕事をこなしていた。幼少期に母がくれた「ふくわらい」は、定に人の顔をパーツにして空想のなかでもてあそぶことを教え、いまなお孤独に世間におかれる彼女の安らぎとなっていたが、ある作家の「顔」に出会ったことで定の中に変化が訪れる。

    ☆☆☆
    ただのえぐい話とかではなく、生きることを真面目に問う話だった。定がきちんと自分を選んで生きていくことを始めたのをみて涙が出た。読めば読むほど彼女は魅力的だった。

著者プロフィール

西加奈子(にし かなこ)
1977年、イランのテヘラン生まれ。エジプトのカイロ、大阪府堺市で育つ。関西大学法学部卒業。雑誌「ぴあ」のライターを経て、2004年『あおい』でデビュー。
2007年『通天閣』で織田作之助賞大賞、2011年咲くやこの花賞、2013年『ふくわらい』で第1回河合隼雄物語賞、2015年『サラバ!』で第152回直木三十五賞を受賞。
その他代表作として、宮崎あおい・向井理出演で映画化された絵本『きいろいゾウ』、同じく映画化された『円卓』、20万部を超えるベストセラー『さくら』、本屋大賞ノミネート作『i』など。2020年初夏、『さくら』が映画化決定。プロレス好きとして知られる。お気に入りの本は『アントニオ猪木詩集』。

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