ことり

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022510228

感想・レビュー・書評

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  • 他に誰も話すことのできない言葉でしか話せないお兄さんと
    世界でたった一人だけお兄さんの話す言葉が理解できる弟。
    両親を早くに亡くし、肩寄せ合って生きる二人の暮らしは
    ささやかだけれど、幸福と信頼に満ちた静かな日々でした。
    ほんの少しの大切な物たち
    (薬局で買うキャンディー、静かに流れるラジオ、毎日庭にやってくる小鳥)
    に囲まれ、訪ねて来る人もめったにいない暮らしが
    どうしてこんなにも幸せそうで満ち足りて見えるのか。。。
    たくさんの物に囲まれ、即座に世界中の情報が手に入る暮らしをしていても
    自分の本当に大切な物もわからず、心の通じ合う会話さえできない人が多い現代で
    自分たちが作り上げた小さな小さな世界の中で
    他人と比較せず、欲張らず、清らかに生きる兄弟の姿に感動さえ覚えるのです。

    日々大量に流されてくる情報をシャットアウトし
    自分に必要最小限のものと本当に大切な人だけに囲まれて暮らす。。。
    憧れるけど、俗物の塊のようなワタシには無理だろうなぁ・・・(涙)

  • 身寄りのない「小鳥の小父さん」が死に、遺体と遺品が処理される場面から物語は始まります。
    そして、なぜ、小鳥の小父さんと呼ばれるようになったのか、その生涯が綴られていきます。

    小鳥が好きで、弟にしか理解できない言語を生み出し操る兄との日々。
    兄を失ってから、いくつかのささやかな出会いと別れを経て年を取って行く日々。
    小鳥への愛情やふと蘇る思い出の温かさ、切なさ。

    この作家は、社会の片隅の、縁の方でこぼれ落ちそうな世界を描くのが本当にうまい。
    その世界はささやかで、ひっそりとしていて、壊れそうなのだけれど、実は、何者にも侵すことの出来ない強固なものなのだと教えてくれるのです。

  • 小鳥と対話ができるお兄さん。でも、人に通じる言葉を持っていません。
    そんな兄を尊敬しつつ、支える弟である小鳥の小父さん。

    ゆっくりとした時間の流れと、純粋な兄弟の優しさが切なくなります。

    保育園にある鳥小屋をずっと眺めていたお兄さん。
    園長先生は、「お兄さんが来ると小鳥たちが競って歌を披露していた」と
    小父さんに話します。
    そんな小鳥たちに気づく園長先生も素敵ですね。

    最後まで読んでから、冒頭に戻ると、飛んで行ったメジロの
    心の声が聞こえくる気がします。

  • 小鳥の小父さんの、そのつつまし過ぎるようにも見えるその生涯は、愛に充ちていた。かけがえのない兄、そして小鳥たち・・・愛するもののために何をするべきか、何をしたいのか。そのことにひたすら心を砕いているうちに、静かに時は過ぎ行く。たとえ世界の誰にも理解されなくとも、それは幸せな人生だったといえるのではないか。

  • 小川洋子さんって改めてものっすごい作家なのかもしれない・・・。

    静謐、という言葉がこれほど似合う物語はないです。
    最初から最後までまったく無駄がない、削るべき一文も蛇足も一切ない完成された作品。

    弟以外誰にも理解できない言葉を話す兄。
    誰にも伝わらないけれど、お兄さんの内側にはゆたかに広がる美しい世界がある。
    たましいという言葉はでてこないけど、お兄さんのたましいはとても小鳥に近かったらしい。
    そして弟も、小鳥の声を聞くために一生をささげた。

    そういう二人の生き方は、たとえばブルドーザーみたいな乱暴で無神経なものの前では、せつないほど無力です。
    傷つきやすく、時には誤解をされる。
    せっかちで雑音にあふれた世間は、彼らを受け入れるほど懐は広くない。

    けれど二人は何を恨むでもなく拗ねるでもなく、愛すべきものを愛して生きている。
    自分たちに似たたましいを探して、外の世界とつながろうともする。
    誰かと心を通わせようとする。
    それがいつも空振りに終わってしまう、そのことはかなしいことではあるけれど、けっしてかわいそうではないのです。
    こんなふうにしか生きられずかわいそう、と言うのは多分ブルドーザー側の人たちで。

    内側に愛するものがあり、小鳥だろうと小猫だろうと、深く心を通わせる存在があれば、それはとても満たされた生き方なんじゃないかと。

  • 小川作品は、いつも乾燥した空気が流れている。
    話の内容がどれだけ重くても、
    現実のドロドロした部分が描かれていても、
    振ったらカサカサと音が鳴るような乾燥した空気が流れている。

    小鳥の小父さんは幸せだったのか。
    愛する兄と過ごした日々は幸せだったのかもしれないが、
    それはいつまでも永遠に続くものではない。
    わずかばかりの周囲の人々の交流だって永遠に続くものではない。
    世間の冷たい目にさらされることだってある。
    だからといって、それを不幸と断定はできない。

    小鳥の小父さんは眠るように逝った。
    その事実に救いがある。

  • 最後まで読んだあと冒頭を読み返すと、感じ方がまったく違って来る。最初、小父さんを知らない状態から見たその死後の姿は、ただの孤独な老人の最期である。なんだかよく分からないが、同情心を抱く。
    小父さんの生きた時を知ってのちは、小鳥がさえずる場面に特別な感動がある。
    その差がまた、醍醐味でもある。

    小鳥の小父さんがまだ子どもだった時、小父さんはお兄さんと両親と四人で暮らしていた。
    お兄さんはある時から、お兄さん独自の言語でしか話さなくなった。小父さんは不思議とお兄さんの言葉が分かったが、お母さんやそのほかの人は違った。お兄さんの言葉を理解できる人は小父さん以外にいなかった。
    お兄さんは、小鳥を眺め、小鳥の声に耳を傾けるのが好きで、小父さんはそんなお兄さんの傍にいた。

    作品内ではたびたび理不尽で悲しい出来事に胸が引き絞られる。
    小鳥の小父さんの、誰にも影響を与えない孤高さが、時に気高く、時に惨めで、それは野生の、群からはぐれた生き物みたいに見えた。

    小父さんが教えた求愛の歌は、別の小鳥に受け取ってもらえただろうか。

  • 読み終わって、また最初のシーンに戻って読んでみる。
    最後にエピローグのように付けてもよかったこのシーンを、なぜ冒頭にもってきたのか、と考えながら。なぜ死から始めたのか、と考えながら。

    羨ましい死に方だ、と思う。
    このように生き、このように死んでいく名もない人はきっと巷にたくさんいるだろう。その皆が一つずつ、小父さんがメジロを抱きしめて逝ったように、自分の物語を抱きしめて逝くのだろう。

  • 終わり方は冒頭で明らかにされているのに、途中経過が魅力にあふれていてそんなことはすっかり忘れていて読み終わる直前にああそうだったかと思い出す、というような感じでした。登場人物の誰にも固有名詞が付いていなくて、お伽噺のような雰囲気で進みつつ、登場人物たちは役割としてお伽噺の流れに埋もれてしまうことも無く、個人としてキラキラ光り輝いていました。悲しくも美しいお話でした。とても面白かったです。

  • 親や他人とは会話ができないけれど小鳥のさえずりはよく理解する兄、
    そして彼の言葉をただ一人世の中でわかる弟。

    その兄弟と小鳥たちの物語なのだけど、
    最初から最後まで静謐で、
    ほんのり死の香りが漂う小川さんらしい世界だった。

    これだけ物や情報に溢れた世界で、
    人間ここまで無欲に生きていけるものなのだろうか・・・。

    現実に置き換えると異質で気味の悪ささえ覚えるかもしれない。
    しかし物語として読むこの人たちは本当に美しい。

    美しすぎてかわいそうに思う。
    もっと幸せになっていい、もっと報われていいと思うけど、
    彼らは十分幸せだったのかもしれないとも思う。

    怖い事は何も起きてはいないのだけど、
    何か怖い事が起きそうで落ち着かなかったのは、
    常に死がまとわりついている感じがしていたからでしょうか・・・。

    小川さんの世界観といえばそうなのですが、
    その中でも本当に美しくてせつなくて怖い本だと思います。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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