ことり

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 2079
感想 : 319
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022510228

感想・レビュー・書評

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  • 「小鳥の小父さん」のお話。
    小さな鳥たちを愛し、誰にも顧みられず死んでいく男の生涯を静かに描いた、小川ワールド。
    寝る前に読むと、とても心穏やかな気持ちになって、やがて眠気がやってくる。このお話が持つ世界観は小川ワールドそのもので、どこまでも静かで純粋で切なくて…、大好きなんだけど、先の展開をわくわくして読む類の本ではないせいか、遅々として頁が進まない。でもまた、そのゆっくりさこそがこの本にふさわしいのかもしれない。
    メジロの囀りが聴きたくなる。

  • ・・・・・えーっと・・・ちょっと、迂闊に言葉に出来ない感じですね。スピード感があるとか、続きが気になって眠れない!とかいうわけでは、もちろん、全然ないのに、どうしても本を閉じてしまうことができず、読み切ってしまいました。小川さんの世界を存分に堪能できます。小川さんの小説が大好きな方はもちろん、今まで読んだことのない方にも、おススメ。どうぞ、じっくりと味わってください。

  • 多くを望まず、自分の持ち分の中でひっそりと生きる幸せ。小川洋子さんの描くそんな世界が大好きです。


    去年の「人質の朗読会」今年の「最果てアーケード」と、死 を前提にしたような密かやな空間の話が、ここのところ続いていますね。
    「ブラフマンの埋葬」「猫を抱いて象と泳ぐ」もそうだったけど、そこに生きる人たちは優しく、哀しく、今、私が生きる雑駁な現実の日常とは全く違うところがせつなくて、そんなかけ離れ感が好きなんだと思います。

    主人公は「小鳥の小父さん」。長年、幼稚園の鳥小屋の清掃を静かに続けていたことからくる愛称なのですが、おじさんの兄の話がとても大きな印象を与えます。
    お兄さんは幼いある日から、突然、「ポーポー語」しか話さなくなります。それは、彼の中ではしっかりした言語体系を持ち、あらゆる自分の思いを現すことができる言語なのですが、理解できるのは弟だけ。お母さんが必死で“勉強”し、息子の心情を知ろうとするあたりは同じ親としてどんなにか悲しい日々なのか、が伝わってきます。

    ただ、小父さんとお兄さんは、幼い時も大人になってからもとても仲のいい兄弟で、誰の邪魔にもならずひっそりと生きていく毎日。読んでいると、とても静かな気持ちになってきて、うん、これは小川洋子さんの本をめくる時にしか行けない場だなぁ、と。

    小父さんの淡い恋や幼稚園の子どもたちとのあれこれが、きっとこうなるだろう、と思った方向に流れていくのは今の時代だから、ということが大きく関係しているんでしょうね。

    最初の行で小父さんの死が明らかにされているので、読者はずっと、死をベースとした物語として読み進めます。

    ただ、滅びの物語の持つ美しさは、「ブラフマンの埋葬」で空気の色や匂いさえしっくりと身に添うものを感じましたが、この「ことり」では小父さんやお兄さんが可哀想、という気持ちがどうしても強くなってしまって、全面的にはのめりこめなかったかも、です。

  • 「博士の愛した数式」の博士もこの物語のお兄さんも、障害者です。博士は記憶障害、お兄さんはコミュニケーション障害。
    けれど少欲知足の、幸せを知る人です。世間からは何か欠格しているとみなされているけれど、世間の人の方こそ足るを知ることに関して欠格しています。
    「ことり」の主人公は鳥語を解し人語を話せない兄を世話し、見送ります。
    兄は職業を持たなかったけれど、弟は就業し、兄の死後も一人で社会生活を営むことができました。でも、寡黙で少欲知足だった(=人と変わっていた)ために、世間の誤解と迫害を受けます。
    人と争うことを好まず、隠れるように暮らしていた主人公が最後にしたことは、ものすごく行動力にあふれたことで、自分の欲で動かない彼だからこそできたこと。長い長い廊下を歩いて行って、最後にたどりついた窓を開け放ったようなラストでした。

  • 図書館司書の話なんだ。。。

    朝日新聞出版のPR
    「小鳥のさえずりに耳をすませる幼い兄弟--。父母と兄の死、図書館司書との淡い恋で、弟はいつしか「小鳥の小父さん」になってゆく。」

  • 小川さんの作品は優しい
    時々ドキッとする表現があるけれど、読後感はいつも切なく、爽やか
    いつもの小川さんの人柄が伝わってくる優しい話だった

  • 「ことり」小川洋子著、朝日新聞出版、2012.11.30
    252p ¥1,575 C0093 (2022.01.26読了)(2022.01.22借入)(2012.12.20/3刷)

    【目次】(なし)
    1~13

    ☆小川洋子さんの本(既読)
    「完璧な病室」小川洋子著、福武文庫、1991.12.16
    「シュガータイム」小川洋子著、中央公論社、1991.02.25
    「冷めない紅茶」小川洋子著、福武文庫、1993.06.15
    「妊娠カレンダー」小川洋子著、文春文庫、1994.02.10
    「薬指の標本」小川洋子著、新潮社、1994.10.30
    「刺繍する少女」小川洋子著、角川書店、1996.03.25
    「アンジェリーナ」小川洋子著、角川文庫、1997.01.25
    「アンネ・フランクの記憶」小川洋子著、角川文庫、1998.11.25
    「博士の愛した数式」小川洋子著、新潮社、2003.08.30
    「偶然の祝福」小川洋子著、角川文庫、2004.01.25
    「ブラフマンの埋葬」小川洋子著、講談社、2004.04.15
    「まぶた」小川洋子著、新潮文庫、2004.11.01
    「世にも美しい数学入門」藤原正彦・小川洋子著、ちくまプリマー新書、2005.04.10
    「犬のしっぽを撫でながら」小川洋子著、集英社、2006.04.10
    「ミーナの行進」小川洋子著、中央公論新社、2006.04.25
    「深き心の底より」小川洋子著、PHP文庫、2006.10.18(1999.07.)
    「海」小川洋子著、新潮社、2006.10.30
    「物語の役割」小川洋子著、ちくまプリマー新書、2007.02.10
    「博士の本棚」小川洋子著、新潮社、2007.07.25
    「夜明けの縁をさ迷う人々」小川洋子著、角川書店、2007.08.31
    「生きるとは、自分の物語をつくること」河合隼雄・小川洋子著、新潮社、2008.08.30
    「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子著、文芸春秋、2009.01.10
    「小川洋子の偏愛短篇箱」小川洋子編著、河出書房新社、2009.03.30
    「カラーひよことコーヒー豆」小川洋子著、小学館、2009.12.01
    「原稿零枚日記」小川洋子著、集英社、2010.08.10
    「妄想気分」小川洋子著、集英社、2011.01.31
    「人質の朗読会」小川洋子著、中央公論新社、2011.02.25
    「言葉の誕生を科学する」小川洋子・岡ノ谷一夫著、河出書房新社、2011.04.30
    「最果てアーケード」小川洋子著、講談社、2012.06.20
    (アマゾンより)
    12年ぶり、待望の書き下ろし長編小説。
    親や他人とは会話ができないけれど、小鳥のさえずりはよく理解する兄、そして彼の言葉をただ一人世の中でわかるのは弟だけだ。小鳥たちは兄弟の前で、競って歌を披露し、息継ぎを惜しむくらいに、一所懸命歌った。兄はあらゆる医療的な試みにもかかわらず、人間の言葉を話せない。青空薬局で棒つきキャンディーを買って、その包み紙で小鳥ブローチをつくって過ごす。やがて両親は死に、兄は幼稚園の鳥小屋を見学しながら、そのさえずりを聴く。
    弟は働きながら、夜はラジオに耳を傾ける。静かで、温かな二人の生活が続いた。小さな、ひたむきな幸せ……。そして時は過ぎゆき、兄は亡くなり、 弟は図書館司書との淡い恋、鈴虫を小箱に入れて持ち歩く老人、文鳥の耳飾りの少女と出会いながら、「小鳥の小父さん」になってゆく。世の片隅で、小鳥たちの声だけに耳を澄ます兄弟のつつしみ深い一生が、やさしくせつない会心作。

  • 読み終わると、「やっぱり小川洋子の小説好きだなぁ」と思った。じっと耳を澄ませたくなるような文章。

    誰にも気付かれずひっそり世界の片隅で暮らしているような兄弟。静かな寂しさが漂っているけど、園長先生だったり司書だったり、彼らのことをそっと見ている人もいることで少し温かい気持ちになれる。
    後半、メジロを拾ってから物語がふわっと加速して、まるで小鳥が飛び立つかのようにふっとクライマックスを迎える感じが好きだった。

  • 私にはあわない。

  • 万人に伝わらない言葉に意味はあるのか。
    ポーポー語はお兄さんと小鳥のおじさんの間でしか伝わらない。
    だけどその言葉は美しい響きを孕んでいる。
    普段使っている当たり前とされる言葉も全面的に信用されるものではない。
    だからこそ言葉を使ったコミュニケーションは苦悩が伴う。
    そして言葉を使ったからこそ言葉を超えたコミュニケーションが成立する瞬間もある。
    言葉の揺るがない美しさを感じる切ない話だった。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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