ことり

著者 :
  • 朝日新聞出版
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レビュー : 295
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022510228

感想・レビュー・書評

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  • 小鳥をこよなく愛し、鳥たちからも愛された兄弟。「ボーボー語」(←鳥と会話が出来るらしい)しか話せない兄との二人だけの暮らし、その兄が他界してからは、ゲストハウスの管理人の傍ら、幼稚園の鳥小屋の世話に勤しみ、あらゆる小鳥関係の書物を読むために図書館に通い、ほとんどの日常必要品を調達できる子供の頃からの一商店に通う。これが彼のテリトリー、生きている世界だった。
    「鳥籠は小鳥を閉じ込めるための籠ではありません。小鳥に相応しい小さい自由を与えるための籠です」鳥かごの定義が、彼が愛読する本の中ででてくるのだが、思えば、小父さんの暮らしそのものを象徴しているかのようだと気づく。司書によせた淡い感情も、鈴虫の老人との交流も、入れ替わる園長先生や子供達も、皆、彼の前を横切っていくだけ。彼の生活は乱されることなく、ある秩序をもって密やかに繰り返されてきた。
    すくい取った「孤独の中の安らぎ」を見事に表現した作品だと思った。終盤、傷ついためじろのヒナを看病し、美しい鳴き声を奏でられるように小父さんが繰り返し鳴き声を教え導いていき、それが実っていったくだりは、濃密で、何とも言えない心地よさに包まれる箇所だった。
    小鳥とお兄さんと、小父さん。慎ましやかな静かな生涯を通して、自分らしく「生きる」ことの意味を考えさせられる作品。

  • 日常と非日常の隙間にひっそり佇む、美しい文章で綴られた、
    静かな世界観が相変わらず心地いい。

    淡々と物語は進むのだけれど、そこには悲しみや寂しさや喜びが、
    しっかり詰まっている。

    毎日決まった手順で子供達の鳥小屋を綺麗に掃除する、
    小鳥の小父さん。
    ある日、小父さんはメジロの入った鳥籠を抱えたまま、
    穏やかな顔で亡くなった。

    そんな小父さんの小さな世界を、ポーポー語を話す兄、
    図書館の司書など様々な人との関わりの中で、
    静かに少しずつ知っていく。

    最後まで読み進めたところで、冒頭のシーンが印象的によみがえる。

    あぁ良かった。
    少し温かな気持ちで読了。

  • 他に誰も話すことのできない言葉でしか話せないお兄さんと
    世界でたった一人だけお兄さんの話す言葉が理解できる弟。
    両親を早くに亡くし、肩寄せ合って生きる二人の暮らしは
    ささやかだけれど、幸福と信頼に満ちた静かな日々でした。
    ほんの少しの大切な物たち
    (薬局で買うキャンディー、静かに流れるラジオ、毎日庭にやってくる小鳥)
    に囲まれ、訪ねて来る人もめったにいない暮らしが
    どうしてこんなにも幸せそうで満ち足りて見えるのか。。。
    たくさんの物に囲まれ、即座に世界中の情報が手に入る暮らしをしていても
    自分の本当に大切な物もわからず、心の通じ合う会話さえできない人が多い現代で
    自分たちが作り上げた小さな小さな世界の中で
    他人と比較せず、欲張らず、清らかに生きる兄弟の姿に感動さえ覚えるのです。

    日々大量に流されてくる情報をシャットアウトし
    自分に必要最小限のものと本当に大切な人だけに囲まれて暮らす。。。
    憧れるけど、俗物の塊のようなワタシには無理だろうなぁ・・・(涙)

  • 身寄りのない「小鳥の小父さん」が死に、遺体と遺品が処理される場面から物語は始まります。
    そして、なぜ、小鳥の小父さんと呼ばれるようになったのか、その生涯が綴られていきます。

    小鳥が好きで、弟にしか理解できない言語を生み出し操る兄との日々。
    兄を失ってから、いくつかのささやかな出会いと別れを経て年を取って行く日々。
    小鳥への愛情やふと蘇る思い出の温かさ、切なさ。

    この作家は、社会の片隅の、縁の方でこぼれ落ちそうな世界を描くのが本当にうまい。
    その世界はささやかで、ひっそりとしていて、壊れそうなのだけれど、実は、何者にも侵すことの出来ない強固なものなのだと教えてくれるのです。

  • 小鳥の小父さんの、そのつつまし過ぎるようにも見えるその生涯は、愛に充ちていた。かけがえのない兄、そして小鳥たち・・・愛するもののために何をするべきか、何をしたいのか。そのことにひたすら心を砕いているうちに、静かに時は過ぎ行く。たとえ世界の誰にも理解されなくとも、それは幸せな人生だったといえるのではないか。

  • 小川作品は、いつも乾燥した空気が流れている。
    話の内容がどれだけ重くても、
    現実のドロドロした部分が描かれていても、
    振ったらカサカサと音が鳴るような乾燥した空気が流れている。

    小鳥の小父さんは幸せだったのか。
    愛する兄と過ごした日々は幸せだったのかもしれないが、
    それはいつまでも永遠に続くものではない。
    わずかばかりの周囲の人々の交流だって永遠に続くものではない。
    世間の冷たい目にさらされることだってある。
    だからといって、それを不幸と断定はできない。

    小鳥の小父さんは眠るように逝った。
    その事実に救いがある。

  • 親や他人とは会話ができないけれど小鳥のさえずりはよく理解する兄、
    そして彼の言葉をただ一人世の中でわかる弟。

    その兄弟と小鳥たちの物語なのだけど、
    最初から最後まで静謐で、
    ほんのり死の香りが漂う小川さんらしい世界だった。

    これだけ物や情報に溢れた世界で、
    人間ここまで無欲に生きていけるものなのだろうか・・・。

    現実に置き換えると異質で気味の悪ささえ覚えるかもしれない。
    しかし物語として読むこの人たちは本当に美しい。

    美しすぎてかわいそうに思う。
    もっと幸せになっていい、もっと報われていいと思うけど、
    彼らは十分幸せだったのかもしれないとも思う。

    怖い事は何も起きてはいないのだけど、
    何か怖い事が起きそうで落ち着かなかったのは、
    常に死がまとわりついている感じがしていたからでしょうか・・・。

    小川さんの世界観といえばそうなのですが、
    その中でも本当に美しくてせつなくて怖い本だと思います。

  • 「小鳥の小父さん」のお話。
    小さな鳥たちを愛し、誰にも顧みられず死んでいく男の生涯を静かに描いた、小川ワールド。
    寝る前に読むと、とても心穏やかな気持ちになって、やがて眠気がやってくる。このお話が持つ世界観は小川ワールドそのもので、どこまでも静かで純粋で切なくて…、大好きなんだけど、先の展開をわくわくして読む類の本ではないせいか、遅々として頁が進まない。でもまた、そのゆっくりさこそがこの本にふさわしいのかもしれない。
    メジロの囀りが聴きたくなる。

  • 「博士の愛した数式」の博士もこの物語のお兄さんも、障害者です。博士は記憶障害、お兄さんはコミュニケーション障害。
    けれど少欲知足の、幸せを知る人です。世間からは何か欠格しているとみなされているけれど、世間の人の方こそ足るを知ることに関して欠格しています。
    「ことり」の主人公は鳥語を解し人語を話せない兄を世話し、見送ります。
    兄は職業を持たなかったけれど、弟は就業し、兄の死後も一人で社会生活を営むことができました。でも、寡黙で少欲知足だった(=人と変わっていた)ために、世間の誤解と迫害を受けます。
    人と争うことを好まず、隠れるように暮らしていた主人公が最後にしたことは、ものすごく行動力にあふれたことで、自分の欲で動かない彼だからこそできたこと。長い長い廊下を歩いて行って、最後にたどりついた窓を開け放ったようなラストでした。

  • 主人公と,兄,家,勤め先,図書館の分館,薬局,幼稚園,河原・・・
    主人公にかかわるところ以外の世界が全く浮かばない
    常に死の気配がある,というか,生きている,存在の現実味を感じない
    白い画用紙の真ん中に,その場面や登場人物などが描かれていて,その周りが暈されている画を見ているよう

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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