ことり

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 1796
レビュー : 295
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022510228

感想・レビュー・書評

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  • 気管支が弱くて、いつもコンコン咳をして、入退院を繰り返すこどもでした。
    幼稚園にもロクに通えなくて、当然ながら、かなりの人見知りで苦労して。
    もしも奇跡的に結婚してこどもを持つことができたら、こんな苦労はしないよう、
    丈夫で物怖じしない子に育てなくちゃ! なんて思っていたせいか
    娘は、誰も一人っ子とは信じてくれないくらい元気に育ったのですが。。。

    物怖じしない、の裏返しというか、自分が正しい、素晴らしいと思ったことは
    なにがなんでも押し通そうとするので、お友達とぶつかってばかり。
    いつも言い聞かせるのは、自分のやり方や考え方を人に押し付けないこと。
    誰かが大切にしているものや、大好きなことを、たとえ自分が好きになれなくても
    ばかにしたり、笑ったり、冷たく否定したりしないこと。

    そんなこともあって、この本を娘が読んでくれたらなぁ、としみじみ思いました。

    メジロが入った鳥籠を抱いてたったひとりで亡くなったまま
    何日も発見されなかった「小鳥の小父さん」を
    孤独死した可哀想な老人と決めつけ、憐れむ権利は誰にもない。
    人間の言葉を喋ることをやめ、小鳥と弟にだけ通じるポーポー語で
    美しい世界のことを語り続けていた、小父さんのお兄さんを
    障碍者扱いし、気味悪げに遠巻きにする権利も、誰にもない。

    ましてや、繊細なポーポー語を発明し、進化させ、キャンディーの包装紙を
    何枚も何枚も貼り合わせ、今にも飛び立ちそうな小鳥のブローチを作る兄を
    心から崇拝し、寄り添う小父さんを、手のかかる障碍者の兄を抱えて
    人並みに生きる喜びさえ味わえない気の毒な人、と見下す権利も。

    後世に残るような立派な業績を残さなくても、目に見える形で何かを残さなくても
    「僕たちの巣は安全だ」と、守りたいものをじっと抱きしめて
    外の世界の心ない人々に傷つけられても抗わず、慎み深く生きる小父さんや
    図書館のカウンターで、相応しい本が相応しいひとの手に渡り、
    心をこめて読まれることを何よりのよろこびとする司書さんのような人を
    きちんと認め、尊いと思えるひとになってくれたらなぁ、と思うのです。

    小鳥たちを愛し、繰り返す穏やかな毎日を慈しみ、
    偏見に満ちた人たちの仕打ちも静かに受け入れて一切反撃しなかった叔父さんが
    人間の欲望の餌食となったメジロたちのために決意した、最初で最後のレジスタンス。

    狭い鳥籠の蓋を次々に開け放して、閉じ込められたメジロたちを飛び立たせるたび
    小父さんの魂も少しずつ、お兄さんの待つ空に近づくようで
    この世でやり遂げるべき最後の仕事を無事に終え、横たわる小父さんに
    おつかれさま、と声をかけ、祈りを捧げたくなって。

    片田舎の小さな教会に飾られた宗教画のような
    つつましやかながらも神々しい物語でした。

    • まろんさん
      e-kakasiさん

      素敵なコメントをありがとうございます。
      そして、拙い文章から、私が思い描いた「宗教画」のイメージを
      こんなに鮮やかに...
      e-kakasiさん

      素敵なコメントをありがとうございます。
      そして、拙い文章から、私が思い描いた「宗教画」のイメージを
      こんなに鮮やかに読み取っていただいて、感激です。
      そうなのです、後世に残る巨匠などではなく、信心深く生真面目な職人が
      ニードルでひと針ひと針、心をこめて丁寧に仕上げたエッチング。
      読み終えたとき、小父さんが横たわる狭い部屋が
      不意に私の中では、片田舎の、小さいけれどよく手入れされた教会に変換されて
      その壁に掛けられた宗教画が、やさしく小父さんを見下ろしている
      そんな風景が浮かんだのです。
      すばらしい本でした。
      2013/01/24
    • honaoさん
      私のつたないレビューに花丸ありがとうございました。
      まろんさんのレビューは、表現力が抜群ですね。
      私も似たようなこと感じてはいても、だけど、...
      私のつたないレビューに花丸ありがとうございました。
      まろんさんのレビューは、表現力が抜群ですね。
      私も似たようなこと感じてはいても、だけど、それを表すのが下手なのと、面倒なのと…で、いつもあっさり済ませてしまいます。
      でも色んな方のレビュー読むのは大好きです。ある本を読んで、同じような受けとめ方される人だけではなく、「なるほど、この本を読んでこういうふうに感じる人もいるんだ」というようなレビューも読んでいてすごく楽しいですね。
      これからもまろんさんのレビュー楽しみにしています。
      2013/01/24
    • まろんさん
      honaoさん☆

      つたないだなんて!とんでもありません。
      honaoさんのレビューは、あっさりしているけれど
      短い言葉の中に、しっかり伝え...
      honaoさん☆

      つたないだなんて!とんでもありません。
      honaoさんのレビューは、あっさりしているけれど
      短い言葉の中に、しっかり伝えたい思いが詰まっていて
      そうそう!そうなのよ!と思わず頷きながら読んでしまうところが素敵なのです。
      私は、今日こそ簡潔に書くぞー!と思いながら
      気がつくと、どんどん無駄に文章が長くなってしまうのが悩みなので。。。

      honaoさんがおっしゃる通り、ブクログでは
      同じ本に対しても、いろんな感じ方があるんだなぁ、と
      いくつものレビューを読んで実感できることがうれしいですね♪
      私こそ、これからもどうぞよろしくお願いします!
      2013/01/25
  • ひっそりと生きる小さくて弱い命がただただ愛おしい。

    「小鳥の小父さん」の仕事はゲストハウスの管理人。
    その「仕事」が生きるために必要なのは疑う余地もない。
    ただ、お兄さんがいなくなった後、小鳥の小父さんを生かしていたのは鳥小屋の掃除ではなかっただろうか。
    道具を自分で揃え、給金も発生しない鳥小屋の世話は小鳥の小父さんの中では「仕事」とはまた違う行為のようだった。
    幼稚園の園児のためではなく、お兄さんと自分のために続けているそれは、「仕事」よりももっとずっと切実な何かだった。

    そしてそれは小鳥の小父さんと世界の接点だった。
    司書の女性も園児達も園長先生も「小鳥の小父さん」を見ていた。

    誰かのことを知ろうとする時、いったい何について知るべきなのか?
    小鳥の小父さんの生い立ちもこの本には書かれているけれど、全てを知らなければ小鳥の小父さんのことを知ったことにはならないのだろうか?
    そうだとしたら私は誰のこともきちんと知ることは出来ないのだ。こんなに悲しいことがあるだろうか。

    でもそうではないと信じたい。
    鳥小屋の世話をしている姿を見て、「小鳥の小父さん」と呼んだ子ども達やいつも感謝を示し続けた園長先生は小鳥の小父さんのことをきちんと知っていたと思う。
    小鳥の小父さんが図書館で借りる本が全て小鳥に関する本だと知っていた司書の女性も、小鳥の小父さんに歌を教わったメジロも。
    彼らが見ていたのが小鳥の小父さんの一面に過ぎなかったとしても、きっと小鳥の小父さんを「ことり」とは呼ばないから。

    誤解してしまうことはある。
    誤解されることもある。
    思い込みで見えなくなることも多い。
    それでも私は小鳥の小父さんやお兄さんに疑いの眼差しを向けたくはない。
    理不尽に追い出したくもない。
    全てを知ることは出来なくても、何を大切にしているのか、何がその人を生かしているのかをきちんと知ろうとしよう。
    私には意味が分からないポーポー語が優しい言葉だということを忘れずにいよう。絶対。

    • まろんさん
      胸が痛くなるくらい素晴らしいレビュー!

      この『ことり』という作品を通して、時空をこえてtakanatsuさんとうんうん。と頷きながら握手で...
      胸が痛くなるくらい素晴らしいレビュー!

      この『ことり』という作品を通して、時空をこえてtakanatsuさんとうんうん。と頷きながら握手できたような気がしました。
      レビューの最後の3行が、ことに素晴らしくて
      鳥小屋をじっと見つめるお兄さんのかたちに馴染んだ金網のくぼみや
      仏壇に並んだ、色とりどりのことりのブローチや
      メジロの鳥籠を抱きしめて横たわる小鳥の小父さんの姿が浮かんできて
      愛おしくて、切なくて、また涙が零れました。
      2013/01/31
    • takanatsuさん
      まろんさん、コメントありがとうございます。
      「時空をこえてtakanatsuさんとうんうん。と頷きながら握手できたような気がしました。」
      ...
      まろんさん、コメントありがとうございます。
      「時空をこえてtakanatsuさんとうんうん。と頷きながら握手できたような気がしました。」
      ありがとうございます!
      私もレビュを書き終えてからもう一度まろんさんの書かれたレビュを読んで、本当にその通り!と何度も頷いてました。
      特に小父さんの魂がお兄さんの待つ空に近づくようというところを読んで、すごくすごく嬉しくなりました。
      私も救われた思いでした。
      2013/01/31
  •  あの大震災以来、日本中に「君は一人じゃない」だとか「勇気をもらった」だとか、判で押したような言葉があふれ、閉塞状況から逃れたいと深く念じつつも私は、そうした言葉に疲れ、非国民と罵られるのを恐れて、卑屈な愛想笑いに己を隠して沈黙の殻に閉じこもっています。
     ある日、新聞の書評欄(二〇一二年十二月十日付読売新聞)の見出しに「誰も踏み込めない孤独」とあるのが目に留まりました。確実に「孤独」が詰まっているらしい、小川洋子著『ことり』の存在を知ったのはその時でした。しばらくして今度は、新聞のコラム欄(同年十二月三十一日付読売新聞)に「人間が愛(いと)おしくて、人間が厭(いと)わしくて、異常な心持ちだったね、一年前は…」とあるのを読みました。この筆者は、震災直後の一年前の大晦日の心情を吐露しているように語っていましたが、一年前にそんなことはとても新聞に書けなかっただろうし、二年目の大晦日に同じ心情がさらに深まっていても、「今」とは書けず、「去年のことなんだけどもさぁ」と婉曲に、コラム流の逃げを打ちながら、「話しかけないで。触らないで。独りにして」と、孤独を告白していました。大新聞のコラムニストですら、後ろめたさを引きずりつつ、身の内にずしりと感じる「孤独」を書き留めておかずにはいられなかったのです。
     いま日本中にあふれている前向きで、建設的で、素敵な言葉の氾濫に、私は溺れそうになりながら、自らの存在の奥深くに巣食う孤独ともしかすると向き合えるかもしれないと、この小川洋子著『ことり』のページをめくりました。

    • nico314さん
      e-kakasiさん、はじめまして。
      フォローありがとうございます。

      震災直後、被災した方々のことを思って(つもりになって)、日常生...
      e-kakasiさん、はじめまして。
      フォローありがとうございます。

      震災直後、被災した方々のことを思って(つもりになって)、日常生活のいろいろなシーンであれもこれも自粛したことを思い出します。
      誰かが大声で「自粛だ!」と言えばそれに従って、そうしなければ非難されてしまいそうで声を潜めていたのでした。


      >「誰も踏み込めない孤独」とあるのが目に 留まりました。
      誰にでも、決して踏み込まれない奥の奥に孤独を隠して平静を装っているのではと思うことがあります。
      この本、手元にありますので早速読んで、感じてみたいと思います。
      2013/01/27
    • e-kakasiさん
      nico314さん、お読みになるのを是非お薦めします。そして感想をお聞かせください。
      nico314さん、お読みになるのを是非お薦めします。そして感想をお聞かせください。
      2013/01/28
  • 世の中のあれこれについて
    知らなければいけませんか?
    政治とか経済とか事件とか・・・・・

    職場と自宅の往復で大した出来事もなく毎日を過ごすこと
    それだけじゃいけませんか?

    他人の痛みについて自分のことのように感じなければいけないですか?

    ・・・・淡々と事実だけが語られるだけなのに
    些細な出来事ばかりが過ぎていくだけの文章なのに
    引き込まれていく。
    そして、気がつくと涙してしまっていた。

    私にとって、ずっと忘れない物語になりそうである。
    そんな物語はそんなにない。

    • まろんさん
      素敵なレビューです!
      心が震えました。

      物語の筋に一切触れなくても、
      こんなふうに作品の素晴らしさを語れるなんて、すごいなぁ!
      あんてぃー...
      素敵なレビューです!
      心が震えました。

      物語の筋に一切触れなくても、
      こんなふうに作品の素晴らしさを語れるなんて、すごいなぁ!
      あんてぃーく・ろーずさんのこのレビューを読んで
      この本を手に取らずにいられなくなる人が
      きっとたくさん増えることと思います。
      2013/01/28
    • あんてぃーく・ろーずさん
      まろんさんへ
      コメントありがとうございます~♪
      もったいないお言葉で照れます(^^ゞ
      まろんさんへ
      コメントありがとうございます~♪
      もったいないお言葉で照れます(^^ゞ
      2013/01/31
  • 小さくて、静かな、静かな世界。
    そこに聞こえるのは鳥のさえずり。
    そして鳥たちと心つたえ合う兄弟の話す独特な言葉。
    日々の生活に追われている人々には、
    決してきこえはしない。
    彼らにとって、自分達の言葉が、
    世間のほとんどの人々に伝わらないことは不幸なのか。
    自分だけの、自分しかわからない、
    世界を持つことって幸せなのか。
    私には答えが見つからない。

    ミチル商会の鳥籠。
    「鳥籠は小鳥を閉じ込めるための籠ではありません。
    小鳥に相応しい小さな自由を与えるための籠です。」
    その鳥籠の中にいるように、
    自分に相応しい小さな自由の中で生きた
    小父さんの一生。

    それは幸せなものだったのか。
    世間の尺度で測ったらそうではないと
    判断されてしまうかもしれないが、
    自分は幸せでもあったと思いたい。

    せつなくて、少しだけ残酷、
    しかし美しい大人の童話。

  • 小川洋子さんの描く世界が大好きです。
    本書も小川さんの小説らしい遠慮深さと慎ましさを存分に堪能できます。

    主人公は「小鳥の小父さん」と呼ばれている老人です。
    鳥籠をかかえた小鳥の小父さんの遺体が見つかったところから、物語は始まります。
    小鳥のさえずりのようなポーポー語を話す兄との生活、儀式のような幼稚園の鳥小屋掃除、図書館で芽生えた淡い想い・・・。
    この物語は小鳥の小父さんの生涯そのものなのです。

    読んでいる途中に思い出したのは、小川洋子さんと岡ノ谷一夫先生との対談が収録された『言葉の誕生を科学する』です。
    さえずり起源論などの興味深いお話が種となり、『ことり』で美しく開花したように感じました。

    ひっそりとひっそりと生きた命を、小川さんがそうっと掬い上げ、大切に大切に織り上げた。
    そんな祈りのような物語なのです。

  • 小鳥と対話ができるお兄さん。でも、人に通じる言葉を持っていません。
    そんな兄を尊敬しつつ、支える弟である小鳥の小父さん。

    ゆっくりとした時間の流れと、純粋な兄弟の優しさが切なくなります。

    保育園にある鳥小屋をずっと眺めていたお兄さん。
    園長先生は、「お兄さんが来ると小鳥たちが競って歌を披露していた」と
    小父さんに話します。
    そんな小鳥たちに気づく園長先生も素敵ですね。

    最後まで読んでから、冒頭に戻ると、飛んで行ったメジロの
    心の声が聞こえくる気がします。

  • 小川洋子さんって改めてものっすごい作家なのかもしれない・・・。

    静謐、という言葉がこれほど似合う物語はないです。
    最初から最後までまったく無駄がない、削るべき一文も蛇足も一切ない完成された作品。

    弟以外誰にも理解できない言葉を話す兄。
    誰にも伝わらないけれど、お兄さんの内側にはゆたかに広がる美しい世界がある。
    たましいという言葉はでてこないけど、お兄さんのたましいはとても小鳥に近かったらしい。
    そして弟も、小鳥の声を聞くために一生をささげた。

    そういう二人の生き方は、たとえばブルドーザーみたいな乱暴で無神経なものの前では、せつないほど無力です。
    傷つきやすく、時には誤解をされる。
    せっかちで雑音にあふれた世間は、彼らを受け入れるほど懐は広くない。

    けれど二人は何を恨むでもなく拗ねるでもなく、愛すべきものを愛して生きている。
    自分たちに似たたましいを探して、外の世界とつながろうともする。
    誰かと心を通わせようとする。
    それがいつも空振りに終わってしまう、そのことはかなしいことではあるけれど、けっしてかわいそうではないのです。
    こんなふうにしか生きられずかわいそう、と言うのは多分ブルドーザー側の人たちで。

    内側に愛するものがあり、小鳥だろうと小猫だろうと、深く心を通わせる存在があれば、それはとても満たされた生き方なんじゃないかと。

  • 最後まで読んだあと冒頭を読み返すと、感じ方がまったく違って来る。最初、小父さんを知らない状態から見たその死後の姿は、ただの孤独な老人の最期である。なんだかよく分からないが、同情心を抱く。
    小父さんの生きた時を知ってのちは、小鳥がさえずる場面に特別な感動がある。
    その差がまた、醍醐味でもある。

    小鳥の小父さんがまだ子どもだった時、小父さんはお兄さんと両親と四人で暮らしていた。
    お兄さんはある時から、お兄さん独自の言語でしか話さなくなった。小父さんは不思議とお兄さんの言葉が分かったが、お母さんやそのほかの人は違った。お兄さんの言葉を理解できる人は小父さん以外にいなかった。
    お兄さんは、小鳥を眺め、小鳥の声に耳を傾けるのが好きで、小父さんはそんなお兄さんの傍にいた。

    作品内ではたびたび理不尽で悲しい出来事に胸が引き絞られる。
    小鳥の小父さんの、誰にも影響を与えない孤高さが、時に気高く、時に惨めで、それは野生の、群からはぐれた生き物みたいに見えた。

    小父さんが教えた求愛の歌は、別の小鳥に受け取ってもらえただろうか。

  • 読み終わって、また最初のシーンに戻って読んでみる。
    最後にエピローグのように付けてもよかったこのシーンを、なぜ冒頭にもってきたのか、と考えながら。なぜ死から始めたのか、と考えながら。

    羨ましい死に方だ、と思う。
    このように生き、このように死んでいく名もない人はきっと巷にたくさんいるだろう。その皆が一つずつ、小父さんがメジロを抱きしめて逝ったように、自分の物語を抱きしめて逝くのだろう。

著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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