ブラックボックス

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (504ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022510457

作品紹介・あらすじ

サラダ工場のパートタイマー、野菜生産者、学校給食の栄養士は何を見たのか?食と環境の崩壊連鎖をあぶりだす、渾身の大型長編サスペンス。週刊朝日連載の単行本化。

感想・レビュー・書評

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  • 地方のサラダ工場で夜勤をする女性。
    そして同じ町にある完全管理のハイテク野菜栽培工場。
    企業主導のデータ化された栽培マニュアルは一分の隙もない完璧さを誇っている。題名のブラックボックスは、不測の事態が起きた時のデータの算出が全く不明なところからきている。

    地方の町の息苦しさ、農業で生計を立てることの苦労や希望の無さなどの現実がある。
    また、研修生とは名ばかり、外国人を安い労働力として使っている工場の様子も書かれている。研修目的のため労働条件の悪さを申し立てることもできない。

    直木賞作家でもありお名前は知っていましたが読んだのは初めてでした。
    この作品は真正面から書かれた社会派小説で、久々にずっしり重みのある忘れられない本になりました。

    何より、食にかかわることについて本当に考えさせられました。
    大きな顔はできませんが、仮にもスーパーで食材を買い、毎日ご飯を作っている一主婦です。わかっていたつもりでも、知らないことがたくさんあってコワくなりました。
    ケミカルなものが世にどんなにあふれているかを改めて意識させられます。
    加工食品の内実、添加物など一部ですが垣間見て、読んでいるだけで具合が悪くなってしまいそうでした。
    それだけに、ラストは救いがあってよかったです。
    自然の理を忘れないようにしようと心に刻みました。

  • 食の安全を巡ってのサスペンス。
    深夜のサラダ工場の閉塞感や外国人労働者、農業従事者の描写等、すごくリアリティーがあった。
    ぐいぐい読ませる描写で色んな意味ですごく怖いがどんどん読みすすめてしまう。
    農作物も生き物。人為的に操作して生産性を上げる、効率化を図るというのは、どこかで無理が生じるものなんだろうなと感じた。

  • 考えていたら「女たちのジハード」から長く読んでいませんでした。社会派からホラーまで幅広い作家さんで、これはバリバリの社会派です。
    食の安全が揺らいでいる昨今を描くリキの入ったハードパンチです。カット野菜、カップサラダの先進工場で何が行われているのか。技術革新によって生まれた無菌で太陽光を一切浴びず出荷される野菜。そして足りない味を補う得体のしれない液体調味料。皆が気が付かないうちに地域に広がる不気味な病気。
    スキャンダルで名声を奪われた女性が、故郷で偶々ハイテクサラダ工場で働く事から次第に不穏な事件が始まります。恒常的に製造された食品を食べている従業員に異変が。おかしいと思いながらも生活の為に目をつぶろうとするが・・・。
    サラダ工場以上に、野菜工場ともいえるLED光での野菜製造の描写が薄気味悪く、この本を読むとコンビニとかスーパーのカット野菜に不信感を抱く事間違いなしです。
    ある意味一方に傾いた考え方の小説と言えない事もないですが、そもそもどんなにしっかり管理されていても先進性、専門性が先行する限りブラックボックス化は避けられないので、がっちり自衛して選別していくしかないのかもしれません。
    ただ、日本の農薬使用量は世界でトップクラスで、中国よりも沢山の農薬を使っているという現実があります。世界で危険視されている添加物も日本では使って認可されていたり、凶悪な除草剤成分グリホサートは日本ではむしろ奨励されていて、薬局でも大々的にラウンドアップ売り出されているし・・・。

    話は逸れましたが、企業が犯してきた健康被害は枚挙に暇がありません。技術が進んで不自然な事を推し進めるごとに、どこかにしわ寄せが来ます。そんな怖さをじっくりじっくり書いた本です。もう少し圧縮した方が良かったような気がしますが、意義としては高いし、考えさせられる本である事は間違いなしです。

    ちなみに売っている野菜サラダが何故あんなに変色しないのか。それを考えたことも無い人は多いと思います。次亜塩素酸という漂白剤に含まれている成分で消毒しているからなんです。カット野菜も切り口が綺麗なのはそういった処理をしているからです。
    シャウエッセンは大好きでどうしてもたまに食べたくなりますが、亜硝酸塩、いわゆる発色剤と言われるものを加工肉は使っています。ハンバーグを作って加熱したら断面は灰色になりますが、ソーセージやハムはきれいなピンク色です。買う人がそれを望むからいらない添加物を入れるというのが現実です。米だって黒い米がちょっと混ざっているから嫌だとなるから農薬を使って害虫対策せざるを得ないのです。
    全部排除する気は無いし、好きな加工食品山ほどありますが、知って食べるのと知らないで食べるのは全然違うと思います。今では原材料を見て買うようになりました。同じ食品でもメーカーによってタール色素使ってたりしますので、少しでも誠実な会社に投票(購入)したいと思っています。買い物は投票ですよ!

  • 地方のサラダ工場で真夜中に働く女性の目を通して、食の安全、外国人労働者の問題を訴えた作品。

    綿密な取材から編み出す力作も多い作者だが、今回は特に、ストーリーやら人物やらを楽しむ小説というよりも、食の安全を脅かす現実的な問題に肉付けをして小説に仕立てたという印象だった。
    そのため、主人公の設定には、追い詰められた弱者の叫びのような切実さはなく、小説としては少々物足りない。

    でも、それはさておき、食の安全や外国人労働者については、看過できない問題として考えさせられる。とくに食に関しては毎日自分も家族も口に入れるものであり、何を信頼すればいいのか、心の底から恐ろしくなった。
    冷蔵庫の隅に忘れ去られた腐らない野菜は、主婦ならば一度は目にしたことがあるはず。見映えもよく便利で長持ちするものには、それなりの理由が存在するのだ。

    結局のところ、最先端を行くハイテク農業も、従来型のものも一長一短。小説ではそれなりに終結させているが、現実には今後も解決はかなり難しい問題だと思われる。

  • 最新野菜工場の発展過程における食品汚染と、旧来の農法の問題点を相互に浮かびあがらせながら、正も非も答えもない着地点と結末を迎える社会派叙事詩。篠田節子のテンプレのフォーマットですが、この見事なまでの正邪と解決策の無さについてはクライマックスの落ちの付け方も含めて著者の力量に感服。

  • 地味なテーマである。日本の農業について、地方で迷い奮闘する若い世代の視点から切り取られているが、決してヒロイズムで単純に掬うことなく、ルポ風に語られる。

    農業がメインテーマとすれば、サブテーマは外国人労働者の問題だ。過酷な労働にもかかわらず、やはりこちらも一方的な見方(虐げられるだけの外国人労働者)といった語られ方はしない。

    執筆は2010年から2011年初めにかけてだが、農業がまるで原発の問題と重なり合うようだ。構造的には類似だ。

    物語の結末も、私には好ましく読後感はさっぱりしている。

    作家篠田さんの社会への姿勢、関心の在処、書きぶりも、その人柄に根ざしていると思う。10年あまり前、大学生対象のセミナーに一個人として参加し、たまたま私と同室になったことがあったが、新たな作品が出る度に、その当時のことをふと思い出す。

  • 「真夜中のサラダ工場で、最先端のハイテク農場で、閉塞感漂う給食現場で、彼らはどう戦っていくのか」

    現場で働く彼らが見た実情とは…?
    とてもフィクションとは思えないほどリアルだった。先日『震える牛』を読んだばかりだったので、またしても食の安全がテーマとは読むタイミング間違えたか?…と思いきや、ぐいぐい引き込まれて一気読み。

    コンビニやスーパーで売られているカット野菜が、ただ切っただけで翌日になっても切り口が変色することもなく鮮度を保てる訳はない。サラダ工場で多少の保存料や添加物が加えられていても、今さら驚きはしない。けれど、農家さんたちが、自分たちの食べる分だけは別の畑で作ってるという話は衝撃的だった。

    利便性と引き換えに、食のブラックボックス化は今後も進むだろう。太陽光の下で育てた自然な野菜を食べられるのが、オーガニックだのビオだのと名打ったおしゃれショップや高級店だけだなんて悲しい時代が来ないことを願う。

    ラストはさすが小説という感じだったけど、むしろそこに少しホッとした。

  • 野菜を工場で作る時代なんですねぃ。
    怖いけど、たしかにカット野菜は便利だし。
    単なるフィクションとして読むことはできませんでした。
    自分の生活を振り返りつつ、警鐘ならされてるような、ダメ出しされてるような感覚。

  • コンビニのサラダを食べるのが怖くなる…そんな小説。
    篠田作品には農業を取り上げたものがいくつかあるけれど
    今回は最新ハイテク農業で作られる野菜にまつわるお話。
    篠田節全開な全編通して暗くて重い雰囲気なのに
    サクサク読まされてしまうのはさすが。
    難を言えばラストが私的にはイマイチだったかなぁ。

    これを読むと自分の食生活についてちょっと考えさせられる。
    食に興味がある方はぜひ一読を。

  • 深夜のサラダ工場での仕事。
    事情があって田舎へ引っ込むとなると過酷な作業しか選択肢がない。確かに、田舎暮らしは快適だけれど仕事に困るもの。
    昼夜逆転生活に加え、サラダのために作業場は定温。体に不調を感じるのも当たり前と言えば当たり前。
    カット野菜に限らず加工食品って美味しく食べられる期間を長くすることに商品価値があるので、色々工夫されているのはうなずけるけれど…。
    田舎暮らしになって近所にコンビニもないし、コンビニ弁当などを買って食べる機会はかなり減ったけれど、スーパーの惣菜でも同じような工夫がされているのかもしれないなぁ。
    原料なら大丈夫か? と考えても農薬などの心配もあるし、自分が育てたものしか信用できない世の中になってしまったのか。
    野菜の種も微妙なものだけれど。
    便利とは何かを少しずつ狂わせていくものなのかもしれない。
    食はとても身近なものなので、関心を持って読めた。
    正義は勝つって感じで終わるのかと思ったけれど、やはり大規模なものには勝てないってことなのかもしれない。

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

篠田節子の作品

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