沈黙の町で

著者 :
  • 朝日新聞出版
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レビュー : 287
  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022510556

作品紹介・あらすじ

中学二年生の名倉祐一が部室の屋上から転落し、死亡した。屋上には五人の足跡が残されていた。事故か?自殺か?それとも…。やがて祐一がいじめを受けていたことが明らかになり、同級生二人が逮捕、二人が補導される。閑静な地方都市で起きた一人の中学生の死をめぐり、静かな波紋がひろがっていく。被害者家族や加害者とされる少年とその親、学校、警察などさまざまな視点から描き出される傑作長篇サスペンス。

感想・レビュー・書評

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  •  朝日新聞の、あの長方形の欄に、一年2ヶ月に渡って連載されていた作品。ちらちらと折を見て紙面で読んでいましたが、全部は読めていませんでしたので、「早く書籍化されないかなあ」と心待ちにしていた作品です。

     中学二年生の転落死は、事故か自殺かー?警察は同じ中学の同じテニス部のメンバー二人を逮捕、二人を補導する。殺人容疑で立件しようとするなんて、無茶な・・・とは思いましたが・・・

     逮捕された二人は14歳。補導された二人は13歳。クラスメイトでありながら、年齢だけでここまで身分が変わってしまうなんて。私、知っているつもりで全然知らなかったです。
     「なぜうちの子は逮捕されているのに、よその子は逮捕されていないのか」と不当に思う母親の気持ちは、もっとも。そのあたり、読んでいて辛かったです。

     しかし、奥田さんは、専業主婦の心情を描くのが本当にうまい。この人自身、専業主婦なんじゃないの?というか、女じゃないの?と毎回思ってしまいます。堀田弁護士や、名倉康一郎のようなイヤミな男を描くのもうまい。妙に、オネエっぽいセリフをいう彼らに寄り添いながら、ああー、今回も出してきたねえ、こういうキャラ・・・って思いながら読みました。

     被害者の親の視点になれば、そちらに心を寄せるし、加害者の親の視点になれば、そちらの方に心を寄せてしまう。単純にどちらにも肩入れできない私がいました。、確かにそうだよなあ、親は誰しも自分の子供は一番可愛いもんなあ、と思わずにはいられません。
     
     明るく笑って暮らせる世の中など、永遠に来ないのかもしれません。少なくとも、中学校にはそんな世の中は存在しないのだと思いました。中学校の3年間は人生で一番のサバイバル期ですから。
     人が一人死ぬことは、やはり大きいことなのだなあと感じました。死なずに生きていられる限りは、生きていきたいです。

  • 最後の一行を読み終わったとき、手が震えていた。
    それまで小説世界を追いかけていた気持ちが行き場を失ってうろうろした。
    「え?これで終わり?」
    そう思った。急いでネットで感想を検索すると、新聞連載終了時のものがいくつかヒットした。
    みな「これは打ち切りじゃないのか」と書いている。
    連載終了とほぼ同時期に、大津のいじめ自殺事件が起きたのだが、その現実と小説のあまりの符合ぶりと、唐突とも思えるような小説の終わり方から、そういう疑問が出たようだった。
    私は連載を読んでいないので、単行本がどれくらい加筆修正されているのかわからない。それでもあのラストは意表を突かれた。
    ただ、読み終わってしばらく反芻していると、じわじわと「やはりあのラストしかなかったのだ」という思いが浮かび上がってきた。
    この作品は、作者の意図はどうであれ、「物語」として存在することを否定していると思う。
    「物語」であれば、作者の思想信条や、価値観などが根底にあって、ひとつの完成した世界を作る。
    その中では、登場人物の気持ちや行動の動機が読者に納得しやすいような形で提示されるものだ。
    「行って帰る」が物語の基本形なので、どんな展開であろうとも最終的にはすべてを回収し納得の地点へ着地させるのが物語なのである。
    それは、現実が決してそういう形をとらないがために、あえて「物語」という結構の中ではきちんと解決させようという人間の願望なのだと思う。

    「1人の中学生の死によって周囲に波紋が広がる」という話ですぐに思い出すのは、宮部みゆきさんの「ソロモンの偽証」全3巻である。
    あれも、1人の生徒の死をめぐって、さまざまな思惑が交差する話なのだが、決定的に違うのは「ソロモンの偽証」はそれなりに決着がついている、ということなのだ。こちらの物語世界はきれいに完結している。出てくる中学生がやけに大人びているじゃないか、とか、こんなこと(中学生が裁判を行なう)現実にはできるわけがない、というような感想は出てくるけれども、「いや、そういう物語なんです」と言い切れるものがある。
    ところが、こちらの「沈黙の町で」では、そんなスーパー中学生は一切現れない。出てくるのはほぼ等身大の中学生と、いやになるくらいリアルな大人たちばかり。
    奥田さんはこういう「閉塞感あふれる田舎町」を描写させたら天下一品なのだが、そういう町で暮らすとはどういうことか、を、ちょっとしたエピソードや展開でくっきりと描き出している。
    いじめの首謀者とされている中学生たちの親の様子は、吐き気がするほど現実的だった。他人の話ならいくらでも正義感を発揮できても、いざ本当に自分の子どもがこういう事態に陥ったらきっとあんなふうになる。
    そして、男子中学生の無口さ、不器用さもまたリアルだと思った。彼らは無口なんじゃなくて、「自分の気持ちを言葉で表現すること」自体に不慣れなのだ。いちいち全部言葉で表現するなんてめんどくさいと思っている。あるいはカッコ悪いとすら思っている。(だって、「言い訳するんじゃない!」って怒られたりすることすらあるんだから)
    また、中学生の時期には、自分で自分の気持ちがわからなくなることが多くなる。いろんな思いが頭のなかをうずまいて、どう説明したらいいのか見当もつかない。それなのに大人はひどく単純な言葉で問い詰めてくる。「どうしてそんなことをしたの」「なぜそんなことをするの」こんな質問に理路整然と説明できるような中学生がどれだけいるだろう。そしてたいてい大人は最初から答えを決めつけているのだ。
    作中で、大人が中学生に質問する場面がいくつかあるが、読んでいるこちらは中学生の様子を描いた場面を読んでいるからなんとなく想像がつく。しかし、実際にそれを説明するとなったら、そりゃあ無理だと絶望的な気持ちになる。

    この作品には答えがない。結末もない。決着はつかない。「物語」のカタルシスを求めて本作を読むと非常に欲求不満がたまるだろう。
    しかし、これほど現実的な小説はないと思う。現実はこの小説以上に曖昧模糊として何も解決せず、ウヤムヤのままに流れていくのだ。
    最後に描かれる「事件の真相」らしき場面も、もしこれが現実の事件だったとしたら絶対知られることのない事実だ。小説だからこそこの場面が書けるのである。

    こうやって、ぽんと材料だけが提示されて、「さてこれをどう受け取りますか」と作者に問われているような気がする。受け取り方は千差万別だろうし、考えることはいくらでも出てきそうだ。そういう問題意識の継続のためのひとつの材料としてこの小説があるのではないかと思った。
    作者の見識を打ち出してある小説を読むのも、小説を読む楽しみの一つだが、本作は断片だけを提示されてあとは自分で考えろという作品であるため、読んだあとも深く深く考えてしまう。


    ラストの「終わってない感」は、「SP」という映画を思い出させる。あれも、「革命篇」で完結と言われているのに、見終わった人の何割かは「絶対続きがあるはず」と思っている。「だって謎が全部解明されてないじゃん」というわけだ。
    私はあの映画のラストはあれしかないと思ったし、十分完結していると思ったが、「物語」として見れば確かに全部謎解きされているわけではないし、行ったきりの話になってしまっているから、終わってないと思う人がいるのも無理は無いと思う。
    同様に、この「沈黙の町で」も、たぶん連載当時に「こんな中途半端で終わるはずがない」と思った人がたくさんいるのだろう。そういう人が単行本化された本作を読んでどう感じるのかちょっと興味がある。

  • 朝日新聞の連載小説。
    奥田英朗ファンなので、単行本まで読まずに我慢していていました。

    男子中学生が校内で転落死しているのが発見される。
    いじめとの関係が徐々に明らかになっていく話は重苦しい内容でした。
    学校側、警察側、記者、遺族、いじめ加害者とされる生徒の親たちなど、それぞれの立場からくる心情がとても現実感に満ちていて気持ちが揺さぶられました。
    様々な人の気持ちの動きが交差して、読み応えがあります。

    そして途中、生徒の立場での視点が入ってきてからは、一気にどきどきする展開に…。
    子どもの事情を読み進んでいくうち、事件に対する自分の感情が定まらなくなってくる。簡単に起こりうる反感と不満とからかいの気持ちはわからなくもないし、いじめがなくならないかもしれないとの思いも消えない。なんとも複雑な思いで読みました。

    中学生という年頃について、このテーマは相当に深いように思います。
    子どもっぽさ、大人への入り口にいる不安定さ、伸び盛りの真っ直ぐさ、そして残酷さが真に迫り、心がひりひりしてきました。
    「中学生の三年間は、人生で一番のサバイバル期だな」という言葉に頷きます。

    終わり方、断ち切られた感はありますが、そうであったのかと納得しました。

  • イジメられる側からの視点だけを全く描くことなく周りの保護者、虐めたとされる側、警察などの視点で話は進む。
    クラスメートからすれば空気読めないとかムカつくんだろうなぁと言うのは凄く伝わってくる。

    ただ、大人になって思うのは中学生は成長速度のバラつきが一番出る時なんだろうと思う。
    謙遜を覚える前の小学生寄りの感性のイジメられっ子。
    大人に強く言われれば従ってしまうのも少し前の小学生であればみんなそんな感じだったろうに中学生としては徹底的に浮いてしまう。

    読んでいる最中はそれぞれの視点に共感しながら読んだが、読み終わってからは描かれる事の無かったイジメられっ子の事を考えてしまう。

  • シリアスなほうの奥田英朗。湊かなえが「告白」で、宮部みゆきが「ソロモンの偽証」でそれぞれ挑んだテーマに、桐野夏生「柔らかな頬」的筆致(特に終章)で迫る感じ。要は手垢がついたテーマなので難しいはずなのに、楽々と持っていきましたね。新聞連載だからか、伏線をまったく回収しきれてないが(要らない登場人物多数)、現実だとこんなもんか。何を書いてもネタバレなので難しいですが、湊かなえや貫井徳郎(「乱反射」にも近いものがある)ほどエグい奴揃いでなく、宮部みゆきほど英雄主義でなく、ドライな感じが好きな方にお薦めです。

  • 久々の奥田作品。奥田さんの作品の中でも笑いなしの100%シリアスなミステリー作品を読んだのは思えば始めてかも。

    地方都市の中学校で起きた男子生徒・名倉君の謎の転落死。
    自殺だったのか事故だったのか、もしくは殺人なのか。その真相を刑事・記者・保護者などあらゆる視点から追っていく重厚なストーリー。
    特に名倉君が合っていた“いじめ”に対する生徒の心理描写は驚くほどリアルで、中学って本当こうだったなとひたすら納得。

    奥田さんは本当に人を書くのがうまいと思う。
    これは私の持論ですが人の内面の動きや、それを取り巻く背景描写を描くのが上手な作家には2種類あると思っています。それは人が好きな作家と嫌いな作家。
    奥田さんは人が好きな作家なんじゃないかな。(ちなみに本を読んでてこの人、人が嫌いなんじゃないかなぁ、と思うのは道尾秀介さんとか朝井リョウさんとか)もちろん完全に私の独断と偏見です。ごめんなさい。
    でも奥田さんの描く登場人物にはそれぞれ愛を感じてしまう。

    例えば名倉君をいじめた中心人物として逮捕される坂井瑛介。私は最初「弱者をいじめるなんて、最低な奴」と警察を応援する立場で読んでいました。ただ物語を読んでいくにつれて坂井君の弱者を守ろうとする男気や、仲間を庇う優しさに惹かれていってしまい最後はとにかく坂井瑛介を応援する立場になっていました。

    また、坂井君の母はヒステリックで自分の子供が一番!と信じる典型的なモンスターペアレントかと思いきや、離婚して母の腕一つで子供を支えてきた強い女性でした。

    対して被害者の名倉くんは読めば読むほど宇宙人。坂井くんが何度も名倉くんを助けても、恩を仇で返す。弱い女子には「うるせぇ」と言って蹴りを入れる。自分の家が裕福だから、持ち物は高級品でそれを惜しげも無く自慢する。自分がいじめられたから、年下の1年生に同じことをする。正直、いじめられる人といじめる人、どっちが悪いと一概には断定できないのかもと思いました。

    「名倉をどうしてそこまでして助けるんだ」という親友の問いかけに対して、坂井瑛介が「おれさぁ、親父も兄弟もいねぇじゃん。だから中学に入るとき、一生を通じて助け合える仲間を作りなさいっておふくろに言われてさ。それで助けられるなら助けたほうがいいかなって・・・」と述べた言葉にただひたすら感心してしまいました。完全にメロメロです。

    こんな風に最初に登場人物それぞれに抱いていた印象が読み終わった頃には逆転していました。
    誰が悪いの?という判断は簡単にはできない。ただただ、そう考えさせられます。

    ひとつ思うのは中学生の“幼さ”がなければこの事件は起きなかっただろうなということ。中学生はそういう意味で一番、過酷で難しい時期なのだと思います。

    真相が知りたくて一気に最後まで読みました。最初は登場人物が多すぎてなかなかリズムに乗って読み進められませんでした。こういう作品にはぜひ登場人物リストがあると嬉しいな。
    あとエンディングはもちろん真相が判明する所でお終いなのですが、少し唐突だったような気がします。もっと余韻の残るラストにして欲しかった。あれだけ登場人物が出てきたんだから、彼らがどうなっていくのか少しでいいからもう少し読ませてもらいたかったです。分厚いボリューム感の割にあっさりとした幕引きだったので、厳し目の★3つ。

  • 中学生のいじめの問題。
    被害者親の立場、加害者親の立場、学校の立場、そして当事者達の立場が痛いほどわかり、心を揺すぶられた。
    被害者親は「何故?」と思い、加害者親は「うちの子を信じる!」と思う。
    当り前ではあるがどっちも分かる!と感じた。
    当事者の中学生たちも、それぞれが夫々の判断、信念、価値観のもとに生きている。責められることもあるが、分かりたいとも思う。
    そんなどの立場からも考えさせられる作品だった。

  • 朝日新聞連載の本格長編サスペンス小説

    物語は中学二年の生徒、名倉裕一の死体が学校で発見されたところから始まる
    警察は亡くなった生徒の携帯からいじめを認定し4人の同級生を逮捕、補導して身柄拘束をする
    ここから遺族、学校、いじめの加害者と認定された生徒の家庭それぞれの苦悩の日々が始まる
    関係者それぞれの苦悩を作者一流の筆捌きで淡々と書き進める
    説得力も十分、迫真力のある一作に仕上がった

    遺族側の少年の叔父、逮捕された少年側の弁護士など押しが強く、品性のカケラもない人物も錦上花を添え?ます

    余談だが朝日新聞の連載終了時に、大津市の同じく中学二年生のいじめ自殺事件が発覚し、作者自身は恐怖を覚えたという
    また連載終了に当たっていじめ事件への配慮で打ち切り?と噂されたこともあったらしいがこの本で読む限りではその気配は感じられない

  • 大好きな作家である奥田英朗の新作。昨日から読み始め、一気に500ページ読み終わってしまった。

    何が面白いって、奥田英朗の筆力。なんでこの人はここまでリアルに様々な人々の心情を描けるのだろうか。一歩引いた視点というところがまたリアルさに拍車をかける。

    しかもこれが中学生自殺事件の以前に書かれていたらしい。

    同じ日に「桐島、部活やめるってよ」のDVDを見て、高校の風景がリアルだと感じたが、この本も中学校が舞台であり被った。スクールカーストのことが丹念によく書かれ同じく等身大で、とってもリアル。中学と高校の風景って基本的に同じだよね。

    それと同時に、地方に住む大人たちの世界もリアル。
    特に名倉呉服店ってまさにその典型。特に叔父の存在が。
    死んでしまった男の子はかわいそう。ある意味イエに殺されたようなもの。
    親は親のエゴを子供に押し付ける。

    狭い世界だけに閉じこもってはいけないなぁ、と改めて感じさせてくれた。

  • いじめがテーマなだけに重くてつらいところもあるけど、さすがに読ませますね。
    自分が親になって、子供が中学生になった時にこんなことにならなければ、と気の早い心配をしてしまうくらい、切実でそして確かに中学生ってこうだったよなー、と思いながら読みました。

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プロフィール

おくだ・ひでお
1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライターなどを経て1997年『ウランバーナの森』でデビュー。2002年『邪魔』で大藪春彦賞受賞。2004年『空中ブランコ』で直木賞、2007年『家日和』で柴田錬三郎賞、2009年『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『最悪』、『イン・ザ・プール』、『マドンナ』、『ガール』、『サウスバウンド』、『家日和』、『無理』、『噂の女』、『我が家のヒミツ』、『ナオミとカナコ』、『向田理髪店』『ヴァラエティ』など。映像化作品も多数あり、コミカルな短篇から社会派長編までさまざまな作風で人気を博している。

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沈黙の町で (朝日文庫) 文庫 沈黙の町で (朝日文庫) 奥田英朗
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