終わりと始まり

著者 : 池澤夏樹
  • 朝日新聞出版 (2013年7月5日発売)
3.74
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022510969

作品紹介

C0095【文学/随筆】朝日新聞本紙好評連載の単行本化。沖縄、水俣、東日本大震災の問題にかかわり続け、いまその発言がもっとも注目される小説家が、少数者の居場所や原子力優遇策への批判、震災後の心の傷にふれる。深みのある思索の名コラム。

終わりと始まりの感想・レビュー・書評

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  • この4年の間に朝日新聞に掲載されたコラムです。 折り返しのころに起こった震災・原発事故には動揺しながらも、声高にならず、“良識”を伝えてくれたことに感謝。.



    ・・・本の感想としては反則なのだけど先週掲載されたばかりの朝日のコラムから引用します。

    「終戦記念日」が巡ってくる。

    という出だしで始まり、

    途中の

    昔から自然災害の多い国だったから、ひどい目に遭ってそれを忘れるのには慣れている。国内にいた者は忘れるようにしたし、遠い戦場から帰還した者は何も語らなかった。

    そして

    福島第一の崩壊は東京電力という会社にとって究極の恥であったはずだ。しかし東電はもちろん、一蓮托生でやってきた財界も自民党も恬然として恥じることを知らない。

    と・・・。


    そうなんだよね、戦後、一億総懺悔なんて言い出して、戦争責任を国民のみなで背負うことにしたり、 原発を利権絡みで長年推進してきた国の背景を追求しないままで自民党圧勝を導いたり(民主党は民主党で確かにあまりと言えばあまりの稚拙な政治だったけど)、何でも忘れる日本人なんだなぁ、私たちは、と苦い思いにかられ、

    また、

    野田政権は、電気が足りない、と大飯原発を再稼働させたけど、夏が終わってみれば関西電力は他の電力会社からの融通だけで乗り切れた、とコラムを読むと、
    あぁ、そうだった、なんかもうすっかり前のことみたいで忘れてたよ、なんて重ねて恥ずかしく思ってみたり。

    リアルタイムで読んでいるコラムを一冊にまとめて数年分を一回で読む、という作業の意義をこんなところで感じても仕方ないのだけど、でも、そうだよね、これが大事なんだと思う。

    池澤さんという人の筆致が好きで、だから本来ならば、

    キャラを引用しての事故説明の習慣を捨ててみよう。ぼくってこんな人・・・から脱却しよう。

    なんていう、“非常事態”ではない時のコラムの話をここでは感想として書きたかったのだけど、
    やはりこの一冊の中心はどうしても、震災・津波・原発になってしまう。

    最後にまた引用します。

    今、気になっているのは、みんなが「考える」より「思う」ことで決めるようになったことだ。五分間の論理的な思考より一秒の好悪の判断。


    ・・・・目新しい言い方ではないかもしれないけど、
    改めて、うん、そうだよね、せめて五分間は考える自分でいたいです。

  • 池澤さんの発する言葉は、とても静かだ。何かを攻撃すること、否定すること、破壊することで、自己を主張しようとするような人や言論が脚光をあびるような今の世の中にあって、池澤さんのように丁寧に言葉を紡ぎ出していく人を、私は信用する。「考える」ことと「思う」ことの問題提起にははっとさせられる。「思い」がないと、空疎なものになってしまうと常々考えているので、どきっとしたけれど、「思い」にもいろいろなものがある。池澤さんの危惧する「思い」は感情的な一瞬の反応のことなのだと思う。その時に好きか嫌いかで瞬時に物事を断定してしまう「思い」とは違う「想い」にちかいものは、「考える」ことを続けていく上では欠かせないもののはずだから。池澤さんのように、凝り固まらずしなやかに思考することを心がけたいものだ。

  • 池澤さんの東日本大震災後のエッセイ。じっくり再読しよう。

  • い図。ハードカバーの方。
    多数が少数を飲み込んでしまうことの怖さ。無意識や、傍観するだけという行為はつまり、多数側にまわってしまうということだということ。自分が小中高で感じた友達や先生との関係についの考えや行動…。どのコラムも、読むごとに自分の体験や生活を思い返し、重ね合わせて色々と考えさせられた。こうやって自分と周りのこと、社会の出来事を見つめ直して考える時間をもつこと、大切だな。ほんとは考えるだけでなく行動に移さなければいけないこともあるんだけれど、普段からこうやって立ち止まって考えることをしておかないと、知らぬ間に視野が狭くなってしまう。
    とはいえ、自分の周りの幸せのために行動し、考えることも大切なのだけれど。
    いつなんどきも、自分の足元と、もっと広い社会のどちらにも柔軟に目と体を向けられる人でありたい。それを自分には大それたことだと一歩引くのではなく、踏み込んでいける人でありたい。
    そう思った。

    本や映画、作家や資料を探す際にキーワードとなる出来事が多く紹介されていて、参考になった。再読候補。

    ・p173で取り上げられていた映画『pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』、見たい。
    2017/8/21

    ◆引用
    ・p194…事態を正確に読んだ上で楽天的にふるまう。それは不運を乗り切る力の一つであるだろう。(2012/8/14)

  • 現代にも、ペンで戦おうという気概を持った人はいるのだな。と言うのが読後の率直な感想。
    文学が世の中を変えることが出来る、なんて言える作家が、いや、一般市民でも、果たして何人いるのかな。
    (自分は数年前、今いる会社の人事部の面接担当に文学部出身と言うと、「何をするの?作品を読んで感想を言い合うの?」とか聞かれて、世間の文学の認識ってそんなものなのだろうかと、キレそうになったことを思い出した。閑話休題。)
    2009年から2013年も、全く激動な時期だった。3.11以前と以後、終わりと始まり。
    この時期に、このコラムを残してくれた池澤夏樹に感謝。
    シンボルスカの詩が、刺さる。
    刺さらない方が、この詩の意味を理解できない方が、幸せだとは思うけど。自分以外の人の幸せも、凡人なりに考えなきゃね。

  • 3.11をまたいだエッセイ、たとえば伊集院静など、何冊目だろう。連載エッセイの宿命としてテーマ選択の時系列がどうしても見えてしまうのが気の毒だ。たとえば本書では原発については3.11の一年以上前から連載が始まっているにもかかわらず、一度も取り上げられてはいない。震災直後の「なじらない」「あおらない」という自分への戒めの表明は大変共感するものだが、その後一年半以上も続く震災関連一色ともいえる多少なりともヒステリアぶりには思わず身を引いてしまう。穿った見方であって欲しいが沖縄移住も、もしかして逃げたのではと。

  • 久しぶりに池澤夏樹のエッセイ(というかコラムだとご本人は)を読む。この人の小説は前の世紀のものは殆ど読んだし、エッセイもいくつも読んだ。僕は考え方を同じくする部分が非常に多い作家のひとり。これは朝日の連載を収録したものだそうだが、ちょうどフクシマ前後の日本についてそれぞれ彼の呈示する視点から気づくことは多い。実はその姿勢全てに共感するわけでは無いのだが、多分ちょっと良くも悪くも傍観者的な視点があって、それが共通するものなのかも知れない。読んで気づいたらアクションしないと意味は無いけどね。それと、アメリカ的なものにどっぷりつかってそこから逃れられないのに、アメリカ的なものに対する疑問を抱いている中途半端さも一緒かも(苦笑)。原発のことがあるので、本書に対してネットではアンチな書き込みも見る、それですらひとつひとつ中途半端になるのが結構笑えます。中途半端バンザイ。僕はハードカバーで読んだけど、来月早々に文庫化されるそうです、一読おすすめ。
    余談ですが「終わりと始まり」というタイトルは、ポーランドの詩人、ヴィスワヴァ・シンボルスカの同名の詩からだそう。冒頭と巻尾に引用されていますが、非常に印象に残った。

  • コラム。

  • 核にも反対されている方。原発や政府に対しても、ガツンと言ってくれている。

    メモ
    p13何かを終わらせ何かを始めるためには、一つの積極的な意思がいる

    p29四国学院大学 被差別少数者特別推薦入学

    p43ワープロで書いた小説で芥川賞を受けた最初の作家

    p53どうも日本人は人材論が好きらしい。それもリーダー論が好き

    p67 終末論。映画2012、渚にて、ザ・ロード

    p150子犬が室内で粗相をしたら、その場へ連れて行き、鼻面を押しつけ、自分が出したものの匂いを嗅がせて頭を叩く。お仕置きをしてそれはしてはいけないことだと教える。我々はこの国の電力業界と経済産業省、ならびに少なからぬ数の財政界人から成る原発グループの首根っこを捕まえてフクシマに連れて行き、壊れた原子炉に鼻面を押しつけて頭を叩かなければならない。

    p180怖いというのは理論や思想以前、感情よりもっと深い、ほとんど本能レベルの反応である。

    p181琉球の時代 大いなる歴史像を求めて/高良倉吉

    p196 父と暮らせば/井上ひさし

    p56〜【性格とキャラ立ち】
    p169〜【不安を抱いて生きる】

  • 2009年4月から2013年3月まで毎月一回ずつ連載されたコラム。途中に東日本大震災が起きる。
    時評でもあるが、あと(単行本)で読んでも著者には全くぶれがない。政権への立場、東北や沖縄との自身の距離感。
    著者は自分に問い返しながら、読者にも思考を促す。多様性を身につけたひとならではの視点。言葉が強いが、綺麗事にとどまらない。

    印象的なことば。
    ・多神教とアニミズム。他方で、一神教の神は創造神、個人を救済する。(95-)
    ・ギリシャの幸福 資本主義のありかた、生きる原理の違い。(157-)
    ・「物語」の喪失 小さい文学 仮想(161)
    ・社会の多様性 男女共同参画、子供を見守る社会 (165)(203)
    ・「事態を正確に読んだ上で楽天的にふるまう。それは不運を乗り切る力の一つであるだろう」(194)
    ・コラムとエッセイの違い
    エッセイは「試論」、コラムは基本がジャーナリズム。(227-)

    ・シンボルスカの詩「終わりと始まり」

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