荒神

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.67
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  • レビュー :284
  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022512048

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学小説】江戸から離れた東北の山深い村で突如、民が消え去った。隣り合う二藩の対立、お家騒動と奇妙な病……。怪物はなぜ現れたのか?北の民たちはその”災い”にどう立ち向かうのか―!?現代を生きる読者に希望と勇気をもたらすファンタジー冒険時代小説。

感想・レビュー・書評

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  • これって本当にある神話ベースなのかなぁ、と思いながら読み進め
    何だか難解だなぁと、となかなか読み進まず。
    しかしながら、じわじわと不可解な正体不明な生きものが姿を現して迫ってきて、皆が集結して解決に至る、という流れの中で、やりきれないながらもぞくぞくしてきます。

    呪いや憎しみに狂ってるとはいえ、どうしようもなくホラーな展開と
    どうも腑に落ちない、やりきれない部分があって、何とも言えないもの悲しさの残るお話でした。
    朱音様が潔すぎ。それはないよ。
    人の弱さ、強さ、気高さ、醜さ、罪深さ、非情さ、優しさ。
    諸々の想いがそこにあって、展開は奇獣パニック映画みたいな感じなのに、ほんとなんとも言えない後味です。

    きちんと読んでいくとちゃんと面白いし、登場人物もそれぞれチャーミングだし、消化しきれていない部分も多々残っているんだろうけど、また読みたいとはなんとなく思えないかも。

  • 冒頭───

    つんのめるように駆ける、駆ける。
    裸足の指がつかむ土の感触が変わった。小平良山を登りきるまで、あと少しだ。
    蓑吉は足を緩めた。走るのをやめると身体中の力も抜けてしまい、よろめいて地面に倒れ込んだ。ようよう腕をついて頭を上げ、胸をあえがせて息をつく。
    夜の森に、聞こえるのは己の激しい呼気ばかりだ。蓑吉のほかには誰もいない。
    ───先に行け! 小平良様を登ったら、滝沢へ下りろ!
    蓑吉を番小屋から追い立てるとき、じっちゃが大声でそう叫んだ。

    歴史小説というか、時代小説というか、そういうものを読んだのは久しぶりな気がする。
    そして、そんな小説を読んで涙したのは初めてかもしれない。

    五代目将軍、徳川綱吉の時代。
    主藩と支藩という関係ながら、内実は敵対関係にも近い心情を持った、永津野藩と香山藩が存在していた。
    その境には大平良山がある。
    ある日、香山藩の仁谷村に突然謎の生物が現れ、一夜にして町を壊滅させた。
    その正体は何なのか?
    どこから、何故に現れたのか?
    恐ろしいまでに強力な力を持った不死身の“化け物”。
    人間たちは懸命に立ち向かうが、まるで歯が立たない。
    その“化け物”の出生の秘密には、驚きの事実が隠されていた。

    ───ラストのクライマックスシーン。
    自らが引き起こした過去の過ちを払しょくするために、永津野藩の小台様、朱音は切ない覚悟を胸に怪物に対峙しようと決意する。
    自分の命を賭して、知り合ったすべての人たちを救おうとする朱音。
    その朱音を何とか守りたいと願う周りの人々。
    その姿に、その心情に泣けた、涙が零れた。

    人は助け合って生きていかなければならない。
    他人を思いやり、優しい気持ちを持ち、いざとなれば自らを省みず他人を助ける。
    そんな気持ちを持ち続けることがいかに尊いことか、この本は熱く教えてくれる。

    さすが宮部みゆき。
    とても読み応えのある、そして感動に打ち震える素晴らしい歴史小説だった。

  • 宮部みゆきの書く時代小説は、人の心の機微がとても繊細に描かれる。
    宮部みゆきの書く現代を舞台にしたミステリには、辛い真実にも目をそむけずに現実を受け入れる、強い心を持った人がよく出てくる。
    宮部みゆきのファンタジーは、現実には起こり得ない出来事を通して、成長する過程が詳しい。

    そんな宮部みゆきの小説の心地よい部分が、ひと塊になった小説。
    読んでいてその筆力に圧倒される。

    何が起こったのかわからないまま壊滅した村。
    山を挟んで隣り合う村。となりだからこそ反目しあう藩。
    稲作だけでは生きていけない貧しい村で、心優しい人たちがつましく生きている。

    怪物。お家騒動。
    ひとを使い捨てて顧みることのない、藩主側近。

    思いやりが人の心なら、憎しみも人の心。
    解き放たれた恨みの心には、敵も味方も変わりはない。

    “最初から味方を喰わせようちゅうてぇ、怪物をつくるバカはねえ”

    “「こうしたことをみんな、誰も悪いと思ってしているのではない。よかれと思ってやっているのだ」
    呪詛にしろ、お山の怪物にしろ、曽谷弾正が永津野でやった養蚕の振興策や、人狩りでさえもそうだ。我が藩を富ませるため。我が藩の領民のため。大事な家族のため。この地に生きる民を守るため。”

    “きっと、誰かがこの事を覚えていなくてはならないからだ。
    人の性を。人の業を。罪は、忘れられても消えぬということを。
    「よかれと思い、より良き明日を望んで日々を生きる我々が、その望み故に二度と同じ間違いをせぬように、心弱い私こそが、しっかりと覚えておかねばならない」”

    朱音の生き様。
    蓑吉の行く末。
    私も深く深く考えることにする。

    架空の藩、架空の土地の物語ではあるけれど、今の福島県が舞台になっている。
    となると、自ずと考えてしまうのは…。

  •  時代物が続くと現代物を読みたくなる。現代物が続くと時代物が読みたくなる。宮部みゆきとは、そんな稀有な作家である。待望の新刊は時代物。ある意味、宮部流時代物の頂点を極めたと言えるだろう。宮部みゆき、大爆発だっ!!!

     舞台は陸奥国にあるという架空の藩、永津野藩と香山藩。元々は一つの藩だったが、関ヶ原後の紆余曲折を経て分離した。元禄太平の世にあっても、両藩は敵対関係にある。ある日、香山側の山村が一夜にして壊滅した。逃げ延びた少年が永津野側で保護される。彼の話は到底信じがたい。ところが、ほどなく正しいことが明らかに…。

     宮部流時代物と怪異は切っても切り離せない。怪異をテーマにした傑作は数多い。ところが今回は…ずばり言ってしまおう。本作は時代物にして怪獣小説なのだっ!!! 宮部みゆきにしか書けない。というより、宮部みゆき以外、書くことは許されない。

     この怪獣というのが、現代に出現したら、自衛隊が出動するレベルの強さである。いや、ウルトラマンに来てほしいかもしれない。江戸当時の武器では歯が立つわけがない。それでも勇猛果敢に立ち向かうのは武士の矜持か…。

     怪獣が大暴れする描写に呆気にとられながら読んでいたが、両藩の複雑な関係、それぞれのお家騒動、謎めいた人物たちの背景が次第に明らかになるにつれ、こんな荒唐無稽な設定なのにすっかり引き込まれ、説得力を感じるようになってくる。

     すべての発端は、結局人間の身勝手にあった。ならば、後始末をつけるのも人間しかあるまい。とはいえ、運命のあまりに過酷なことよ…。

     ようやく一件落着かと思いきや、若き香山の藩士は自らの考えに戦慄する。本作は怪獣小説だと書いたが、読み終えてみれば、描かれているのは実は人間の業であることに気づかされるだろう。宮部流時代物は、常に現代社会に通じるテーマをも突きつける。

     でもやっぱり、怪獣なしでも十分訴える作品にできたのではという感が拭えないかな。

  • 時は元禄、太平の世にあって東北の小藩永津野藩と香山藩
    隣合わせの二藩は、燻り・いがみあっていた。
    特に永津野は、八年程前に曽谷弾正という男が現れ、権力を振るうようになって
    状況はさらに悪化《人狩り》まで行うように…。
    遡れば二つの藩は源はひとつなのに…。
    香山藩の山間二谷村が、一夜にして人々は殺され・逃散し壊滅状態になる。
    隣り合う二つの藩の因縁。
    奇異な風土病を巡る騒動…。
    不穏をはらむこの土地に【怪物】は現れた。
    二谷村の香山藩では、奇異な風土病に罹りお家騒動に巻き込まれた直也や
    からくも逃げ切った少年・蓑吉らが、
    反目する永津野藩では、藩主側近の弾正や心優しき妹・朱音らが
    山での凶事に巻き込まれていく。
    恐るべき怪物の正体とは?
    交錯する北の人々はそれぞれの力を結集し【怪物】に立ち向かう…。


    時代小説を読み慣れていないせいか、最初はとても読み進まなかった(。>ω<。)
    しかし、無関係に香山の人々や永津野の人々が登場して物語が進み
    それぞれの視点から描かれ、場面が交互に転換し、次第に絡まってゆく。
    物語が進むにつれ物語に入り込みするすると読めました。
    宮部さんはやはり恐るべき描写力です。

    【怪物】の芯にあるのは、敵を平らげようと欲する人の業の塊。
    人の性を人の業を罪は忘れられても消えぬと言う事。
    人間の性や業や愚かさ・欲・妬み・憎しみ…それが怪物になる。
    やって良い事と悪い事がある。
    しかし、同時にそれを打ち破る愛や知性も人間には宿る
    人間の誰しもが抱える二面性…善と悪
    また、世代間で引き継ぎ守る事の尊さや危うさ
    そんな事を感じました。

  • 朝日新聞連載の書籍化だけあって、なかなかのボリューム。
    正体のわからないものに、やみくもに襲われる怖さ。
    人の業、心の中に巣食うものを描いており、決して楽しい話ではない。
    が、おせんや蓑吉など、心温まる存在があり、暗いだけではない。
    最後も、どこか救いがある。

  • 以前「孤宿の人」を読んだ時も、読み終わってから戸惑った。どう感じたらいいんだろう、と考えてしまったから。
    怖いとも違う、哀しいとも違う、たぶんそんなふうに感じられたらよかったんだろうけど、でも実感としてそういうものが残らない、という感じ。
    この作品もそれに近いものがあった。
    怪物が、なぜかあまり怖くないのだ。作中で、実際に怪物に襲われた蓑吉は、記憶が封印されるほど恐れているのだが、その恐怖が共感できない。
    恐ろしい恐ろしいと言われているわりには、高をくくって攻撃をしかける人間もいるし。
    怪物が人を食らうシーンがちょっとグロテスクだなあというくらいで、でもそれだと「進撃の巨人」の方がショッキングな気がするし。
    他の作品で出てくる怪物や異形の者たちは、非常に恐ろしかった。姿形に大きな特徴はなくても、その成り立ちや表しているもの、含んでいる物語が恐ろしかったのだ。
    しかし、「荒神」に出てくる怪物には悲痛な物語がない。そこにあるのは、どこまでも利己的な人間の欲望だけである。だから、朱音が身を挺して鎮めようとする場面でも、哀しさが伝わらない。

    いつものように読みやすく、引き込まれる物語ではあったが、胸に刺さるものがなかったせいか、不完全燃焼な読後感である。
    宮部さんは何を伝えたかったのかなあ……。
    もしかしたら、徹頭徹尾、利己的で愚かな人間に対する絶望が底にあるのだろうか。

  • 宮部さんの本ということでけっこう期待しました。
    人間の描き方はふむふむ・・・でしたが、
    肝心のアレは?

    シンゴジラと被りました。

  • 朝日新聞の連載に加筆。本当に怖いのは、「つちみかどさま」そのものではなく、それを利用しようとする様々な人々の心だと思った。つちみかどさまを倒した後の後日談のほうが、ぞわりとくる。”かんどり”を生じさせる毒薬は、江戸~大奥にでも伝わるのかな?
    先日、NHKで実写化されていたけど、香山側の事情がすっぽり抜けていて片手落ちな感じだった。

  • 五代将軍綱吉の治世、戦国の世も百年の彼方に過ぎ去った頃、みちのくの二つの小藩の国境の小さな村が、得体の知れないまがまがしい化け物に襲われ、壊滅する。物語は、山を挟んで西と東に分かれるかつては一つの国であった二つの藩でほぼ同時に進行。およそ人の手に負えない、巨大で凶悪、腐臭を放ちながら人を食らい、吐き出す胃液で肉を焼き溶かす「怪物」に、人はどう立ち向かっていくのか、そして、怪物の正体とは?

    NHKのBSでドラマ化されたので興味があって読んでみた――というより、ドラマの出来が余りにもひどかったので「これが宮部みゆきの最高傑作?」と疑問を抱き、仕事先の中学校の図書室にあったものを借りてきて読んだ。結論から言って、ちゃんと面白かった。怪物(つちみかどさま)の形状も人を蹂躙する様も、ドラマとは比べ物にないくらい圧倒的な破壊力を持っていた。はっきり言って、あの程度の映像化ならやらないほうがマシ、といえるレベルのもので、人物も物語の背景も端折りすぎ。錯綜する情報や人物による伏線やミスリードなどの仕掛けも盛りだくさんなのに、それらを全部無視したシナリオによくもまあ書き換えましたね、という感じ。原作者がそれでよくてもファンは裏切られた気分になるんじゃないですかねぇ。

    あと、大ヒットした某怪獣映画の元ネタ(パ○リ元)にもなってますけど、某錬金術士マンガの第一期アニメ版からちょっといただいてるんじゃない?的な設定が出てくるので、まあ、いいのか。

    ラストはきれいにたたまれているので、安心して読み終えることが出来ます。ハードカバー版の表紙がこうの史代さんだということに気が付いて、新聞連載時にはこうのさんの挿絵が付いていたと知って、驚きました。こうのさんの絵で朱音さんやつちみかどさまが見てみたかった、と思ったら『荒神絵巻』という本が出ているんですね。これは手に入れたいと思いました。

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