優しい鬼

  • 朝日新聞出版 (2015年10月30日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (232ページ) / ISBN・EAN: 9784022513137

みんなの感想まとめ

残酷で美しい日々が、幼稚な語り口で描かれる本作は、さまざまな視点から語られる物語が魅力です。傲慢な男や騙された妻、そして奴隷たちのそれぞれの語りは、深い感情を呼び起こし、読者を深淵へと引き込む力を持っ...

感想・レビュー・書評

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  • 幼稚な語り口でありながら、それぞれの視点から描かれる残酷で美しい日々。毎回この本を開くと、深淵に引き摺り込まれるような恐さがある。傲慢な男、騙された妻、そして奴隷達それぞれの美しい語りが素晴らしい。

  • 文学

  • 次々と起こる残酷な出来事もただ過去の一ページとして、密やかに語られる。
    その言葉の余白にあるのは、後悔や恐れ、悲しみ、憎悪?

    時に小説はそこにある言葉以上に能弁になる。

  •  時系列と登場人物の相関に混乱、空をつかむような読後感。だったので、一気に2回読んじゃった。2回目で糸がほどけたようにスルスルと理解できた。理解できたら、なんという物語なんだと、ため息が出た。

     14歳で騙されるように「楽園」と呼ばれる農場に連れてこられたジニー・ランカスターは、ライナス・ランカスターと結婚し、2人の黒人の少女たちと4人での暮らしを始める。独裁的な夫は3人にとって加害者であり、ジニーは2人の少女たちにとって加害者であり、2人の少女たちはライナス、ジニーにとっての加害者となる。淡々と描かれる支配される側・支配する側がパタンと回転する様は不気味以外のなにものでもない。
     あとがきにて訳者はこう述べている。
    『支配する側・される側の両方に語らせることを通して、奴隷制の悪を「告発」するというような姿勢は作者にはない。といってむろん、奴隷制を肯定しているわけではまったくない。夫との関係においては被害者であり、奴隷との関係においては加害者であるジニーについて、被害者でもあったことによって加害者であったことが相殺されるわけでは決してない、とハントは強調している。』
     こういう図式は世界そのものにも当てはまるのかもしれない。ハントのように、静かで謙虚な目で世界を見つめたい。

     私は、私だけじゃなく多くの人は、言葉で正解を求めすぎるけれど、言葉になる前の何かをそのまま受け取ることだって尊い。ジニーの語りは拙いけれど、綺麗な言葉じゃないからこそ響くものがあった。

  • 素晴らしい作品。
    とっかかりは「何を読んでいるか分からない」、おとぎ話のような語り口で登場人物の立場(主人/奴隷)や人種(黒人/白人)の説明もない。現在と過去、現実と空想が重層的に入り混じる。
    しかし、だんだん「何を読んでいるか分かってくる」と、歴史の暗部を描く、その地獄の闇の深さにおののく。子供のような年齢で嫁いだジニーは残虐な夫に虐待されるが、自分と年齢の近い奴隷の娘たちに対しては虐待を加える。復讐された後でも、その罪は消えず一生背負っていかなくてはならない。次世代のプロスパーの「憎しみは憎しみを返す」という指摘、「善き神は私たちを見下ろすとき色なんか見ない」という言葉などは、我々への問いになっている。
    翻訳も見事だ。ジニーのひらがなの多い童話的な文章と、ジニー、プロスパーの文章の使い分けなど、原文がどうなっているのか分からないが、世界観をくっきりと構築している。さすが柴田さんというしかない。

  • 残酷で痛々しい出来事なのに、淡い夢の中の風景のようにぼんやりしてなんだか輪郭も定かでない。それなのに、大きな年代史のようでもあり、ボルヘスを連想させるようでもあり。。。
    スーがつらい出来事の時に体から心を離してしまうように、残酷で痛々しい日常を遠いところから眺めてぼかしているのかもしれない。

  • ふむ

  • [メモ]
    語り手の過去と現在が交互に語られるような構成となっていて、そこから現実の中にも過去が張り付いている、過去は通り過ぎたものではなくて、今と交錯しているという印象を強く受けた。

    南北戦争や奴隷制などの時代的背景は物語の中で詳細な説明されることはなく、ちいさな楽園での出来事を、そこで生活するひとの目線で描いている。

    個人的に話の内容は重く苦しいと感じたが、それだけにはとどまらせないそれぞれの語り手たちの語りが幻想的で素敵だった。

  • 柴田元幸さんの訳と、タイトルに惹かれて読んでみた。
    冒頭から素朴で淡々とした文章で、すいすいと読むのだけれど、だんだん不穏な空気が漂ってきて、その展開の仕方に引っ張られて読み終わった。
    悲しく苦しく残酷な物語なのに、読み勧めてしまう物語だった。再会のシーンは言葉が少ないのがとても良かったと思う。

  • なんかこう……暗いな……

  • 何これ、すごい。
    と、読みながらずーっとビックリしてました。
    世界には、すごい作家がたくさんいるんだなぁ、と毎回思うことをまた思った作品。

    幻想的に描かれているのに、なんだかすごくリアリズム。
    人の記憶の持つ不思議な特性が生々しく再現されている。

    辛い思い出、苦しい記憶というのは、輪郭がボンヤリして、時間の前後も混沌として、後で振り返ろうとしたとき細部がよく分からないことって、実際あるよなぁ、と思う。
    そのボンヤリ具合、抜け落ち具合がすごくリアルで、読んでいると、まるで語り手が本当にそばにいて、少しずつ休み休み話しているのを聞いているような気がしてくる。
    自分の愚かさが原因で起こることは、思い出すのが苦しいから、特にあいまいになる。
    よくこんな作品書けるなぁ。人の罪を、こんなにも美しく。

    最初のうち、主人公が白人なのか黒人なのかも分からない。だから社会のどの階層の人なのかも正確に分からない。南北戦争より少し前の戦争で脚を失った、ってことは、たぶん白人? 「優しい鬼」って、誰のこと? いったい誰のことを指しているの? ねえ、あなたいったい何の話をしているの? と、頭の中をぐるぐる回る疑問。とにかく読むのがやめられない。

    作者がピンホールカメラで撮った、っていう写真もすごくいい。ピントがぼけていて、まるで登場人物の頭の中の風景を覗き込んでいるみたい。

    あとがきで言及されていた他の二作品、「インディアナ、インディアナ」と「ネバーホーム」も柴田さん訳で出ているなんて、くーっ、なんという幸せ。
    絶対読もうと思ってます!

  • 南北戦争以前のアメリカで、奴隷制度や教育の不足から倫理的には獣以下の暮らしを送る人々を、とある白人女性の視点で描いた、壮絶な寓話のような物語。作品の力は文句なしの星5つなのだけど、あまりの悲惨さにメンタルゲージが削られたぶんー1。

  • 重く、深く、残酷で孤独。差別の激しかった時代の南部アメリカ。負の連鎖から逃れられないかのように、優しさと残虐さと懺悔が交錯する。その描写は激烈であるけれど、と同時に風景画のような美しさと温かさを感じる不思議な文章でした。時系列と視点がコロコロ変わるのでゆっくりと読み進めなければ理解が難しい。再読必至。

  • かなり衝撃を受けた。

    物語は、昔の時代や奴隷制度の黒い部分を背景としている。そして、現代でも人種差別は、依然として根深い問題である。

    「楽園」でのジゴクのような日々が、あくまで静かに叙情的に語られる。
    人間は、残酷であると同時に美しくもあるのだ。
    それを切々と訴えかける。

  • 19世紀から20世紀にかけての米国南部が舞台。もちろん人種絡みの話なんだけど、語り手や時代が錯綜するせいか、誰の肌が黒いのかがかなり後半までわからなかった。私って、かなり鈍い⁇

  • ひとのレビューを読んでも、どこにそんなことが書かれていたのかすら分からなかった。
    自分のあたまの悪さを痛感。

  • Twitter文学賞3位2015

  • まだ子どもと言ってもよいくらいの少女が
    騙されて農場主のもとに嫁ぐのだが
    待っていたのは夫が君臨する恐ろしい「楽園」だった。

    冒頭、平易な独白である男が若い頃を回想したかと
    思うと、ふいと少女の話になり、そして次には、…

    語り手が違ってくると見えてくる世界も違うのは当然の
    こと。学問を受けていない語り手たちの、だからこそ
    詩のような語りを見事に日本語に移している。

    ただ、物語は複雑。
    再読必至。

  • 学生時代に読んだ、アメリカの文学作品を思い出した。

    ケンタッキー州の山の中、楽園と名付けられた土地に、騙されるようにして連れてこられた少女(妻)。
    二人の少女とひとりの男性の奴隷。
    力が世の中を支配する、貧しいアメリカの田舎。
    逃亡、そして再訪。

    語られる内容は、ひどく残虐。
    しかし、言葉は選ばれており、語り口は静かで平穏。
    本書に挿入されている、ピンホールカメラの画像のイメージが、その空気を表現していると思う。
    話は徐々に進み、幾人かの語り手をとおして語られる。
    読者は、その言葉をたよりに、前にかかれた物語を補完し、その全体像がつながっていく。
    読み返すことによって、より世界がはっきりしていくと思う。

  • 不思議な気持ちにさせられる、耳元に語りかけられるような小説。南北戦争という歴史と照らし合わせると登場する姉妹の哀しい物語でもあるし、若くして嫁いできた娘の痛々しい回顧録でもあるし。暴力と時代背景に彩られた貧しさがたびたび描かれてはいるけれど目をつぶると広がるその情景はなぜか美しい。

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著者プロフィール

一九六八年シンガポール生まれ。少年時代に祖母の住むインディアナの農場に移り、ここでの体験がのち小説執筆の大きなインスピレーションとなる。これまでに『インディアナ、インディアナ』『優しい鬼』『ネバーホーム』(以上、邦訳朝日新聞出版)、The Evening Road など長篇九冊を刊行。『ネバーホーム』は二〇一五年フランスで新設された、優れたアメリカ文学仏訳書に与えられるGrand Prix de Littérature Américaine第一回受賞作に。最新作Zorrie (2021)は全米図書賞最終候補となる。現在、ブラウン大学教授。

「2023年 『インディアナ、インディアナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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