優しい鬼

  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022513137

作品紹介・あらすじ

南北戦争以前、横暴な夫のもとに騙されて来た女性が、二人の娘たちと暮らし始めると…。優しくて残酷で詩的で容赦ない長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 文学

  • 次々と起こる残酷な出来事もただ過去の一ページとして、密やかに語られる。
    その言葉の余白にあるのは、後悔や恐れ、悲しみ、憎悪?

    時に小説はそこにある言葉以上に能弁になる。

  •  時系列と登場人物の相関に混乱、空をつかむような読後感。だったので、一気に2回読んじゃった。2回目で糸がほどけたようにスルスルと理解できた。理解できたら、なんという物語なんだと、ため息が出た。

     14歳で騙されるように「楽園」と呼ばれる農場に連れてこられたジニー・ランカスターは、ライナス・ランカスターと結婚し、2人の黒人の少女たちと4人での暮らしを始める。独裁的な夫は3人にとって加害者であり、ジニーは2人の少女たちにとって加害者であり、2人の少女たちはライナス、ジニーにとっての加害者となる。淡々と描かれる支配される側・支配する側がパタンと回転する様は不気味以外のなにものでもない。
     あとがきにて訳者はこう述べている。
    『支配する側・される側の両方に語らせることを通して、奴隷制の悪を「告発」するというような姿勢は作者にはない。といってむろん、奴隷制を肯定しているわけではまったくない。夫との関係においては被害者であり、奴隷との関係においては加害者であるジニーについて、被害者でもあったことによって加害者であったことが相殺されるわけでは決してない、とハントは強調している。』
     こういう図式は世界そのものにも当てはまるのかもしれない。ハントのように、静かで謙虚な目で世界を見つめたい。

     私は、私だけじゃなく多くの人は、言葉で正解を求めすぎるけれど、言葉になる前の何かをそのまま受け取ることだって尊い。ジニーの語りは拙いけれど、綺麗な言葉じゃないからこそ響くものがあった。

  • 素晴らしい作品。
    とっかかりは「何を読んでいるか分からない」、おとぎ話のような語り口で登場人物の立場(主人/奴隷)や人種(黒人/白人)の説明もない。現在と過去、現実と空想が重層的に入り混じる。
    しかし、だんだん「何を読んでいるか分かってくる」と、歴史の暗部を描く、その地獄の闇の深さにおののく。子供のような年齢で嫁いだジニーは残虐な夫に虐待されるが、自分と年齢の近い奴隷の娘たちに対しては虐待を加える。復讐された後でも、その罪は消えず一生背負っていかなくてはならない。次世代のプロスパーの「憎しみは憎しみを返す」という指摘、「善き神は私たちを見下ろすとき色なんか見ない」という言葉などは、我々への問いになっている。
    翻訳も見事だ。ジニーのひらがなの多い童話的な文章と、ジニー、プロスパーの文章の使い分けなど、原文がどうなっているのか分からないが、世界観をくっきりと構築している。さすが柴田さんというしかない。

  • 残酷で痛々しい出来事なのに、淡い夢の中の風景のようにぼんやりしてなんだか輪郭も定かでない。それなのに、大きな年代史のようでもあり、ボルヘスを連想させるようでもあり。。。
    スーがつらい出来事の時に体から心を離してしまうように、残酷で痛々しい日常を遠いところから眺めてぼかしているのかもしれない。

  • 幼稚な語り口でありながら、それぞれの視点から描かれる残酷で美しい日々。毎回この本を開くと、深淵に引き摺り込まれるような恐さがある。傲慢な男、騙された妻、そして奴隷達それぞれの美しい語りが素晴らしい。

  • [メモ]
    語り手の過去と現在が交互に語られるような構成となっていて、そこから現実の中にも過去が張り付いている、過去は通り過ぎたものではなくて、今と交錯しているという印象を強く受けた。

    南北戦争や奴隷制などの時代的背景は物語の中で詳細な説明されることはなく、ちいさな楽園での出来事を、そこで生活するひとの目線で描いている。

    個人的に話の内容は重く苦しいと感じたが、それだけにはとどまらせないそれぞれの語り手たちの語りが幻想的で素敵だった。

  • 柴田元幸さんの訳と、タイトルに惹かれて読んでみた。
    冒頭から素朴で淡々とした文章で、すいすいと読むのだけれど、だんだん不穏な空気が漂ってきて、その展開の仕方に引っ張られて読み終わった。
    悲しく苦しく残酷な物語なのに、読み勧めてしまう物語だった。再会のシーンは言葉が少ないのがとても良かったと思う。

  • 最初の雰囲気から、こうなって行くんだと言う圧巻の作品。ラストに居たり、以前視た「カラーピープル」を思い出した。
    この作品、恐ろしいまでに感情を押し殺し、淡々と、事実を突き詰めて行く手法。
    残酷なシーンも寓話的に、擬人法を多用しているところが逆に寒気を感じさせる。

    選書する際「柴田さんの訳なら最高だ」とチョイスしてよかった。頭に残存する微熱がたまらない。いわゆる「文学」とは大きく異なり、骨組みが無い、ふわふわしていつつ、流れも掴めない。しかしひたひたと何かが起こり、収まって行くという本。

    邦題の「優しい鬼」=kind one
    よくつけたもんだと舌を巻く。
    アノニマスの「人」は本性むき出し・・それが故に無気味で真は冷たい・・んだと。

    善き神は私達を見下ろすとき、色なんか見ないと両親は言っていたわ」の言葉がこの作品のコンセプトか。

  • なんかこう……暗いな……

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著者プロフィール

一九六八年シンガポール生まれ。少年時代に祖母の住むインディアナの農場に移り、ここでの体験がのち小説執筆の大きなインスピレーションとなる。これまでに『インディアナ、インディアナ』『優しい鬼』『ネバーホーム』(以上、邦訳朝日新聞出版)、The Evening Road など長篇九冊を刊行。『ネバーホーム』は二〇一五年フランスで新設された、優れたアメリカ文学仏訳書に与えられるGrand Prix de Littérature Américaine第一回受賞作に。最新作Zorrie (2021)は全米図書賞最終候補となる。現在、ブラウン大学教授。

「2023年 『インディアナ、インディアナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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