プーチンの実像 証言で暴く「皇帝」の素顔

  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022513229

作品紹介・あらすじ

【社会科学/政治】救国の英雄か、恐るべき独裁者か。プーチンの評価は真っ二つに分かれる。等身大のプーチンはどのような人物なのか。プーチンと実際に接したことがあるKGB時代の元同僚や、イスラエルの情報機関の元長官などの貴重な証言をもとに実像に迫る。朝日新聞連載に大幅加筆して、待望の書籍化。

感想・レビュー・書評

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  • 大統領であるプーチンがロシアで絶大な権力を持っているため、現在そして今後のロシアの対外政策について知るにはプーチンを知るのがよいあろう。
    ということで手にとった。

    実際の様々の出来事の描写、プーチンを始め様々な関係者の発言や彼らとプーチンの会話の豊富な引用、そしてプーチンと関わった多くの人物へのインタビュー。これらを交えて様々な顔を持つリアルな政治家としてのプーチンの姿を描き出している。

    特に関係者へのインタビューは素晴らしく、貴重である。
    プーチンと接した日本の政治家や官僚など関係者はもとより、他国のジャーナリスト、プーチンのインタビュー本の著者、東ドイツドレスデンでのKGB時代の同僚や同市長、ベルリンの壁崩壊後にKGBへ突撃してプーチンと対峙したデモ隊、サンクトペテルブルク副市長時代の市長の妻、同市の大学学長かつプーチンによる資源利権の恩恵を得る富豪、イスラエルの情報機関「ナティーフ」の元長官、など。

    様々な証言から、地味で出世意欲もなかったプーチンが、どのようにして大統領になったのかが詳細に描かれている。その記述は素晴らしく、納得させられるものである。
    一方で、プーチンがその後なぜ、どのようにして権力を強化しその地位を強固にできていったのかは、ほとんど記述されておらず、その点は物足りなかった。(そもそも知ることが困難だとも思うが)

    本書が出版された2015年からさらに数年がたち、2022年2月から現在までロシアのウクライナ侵攻が行われている。
    侵攻を行っている張本人のプーチンは「悪者」としか報道されていないが、本書ではプーチンの欠点や悪者エピソードだけでなく、「魅力」も多数描かれている。特に敵対する立場の人にも魅力的だと評価されており、驚いた。当たり前のことなのだが人は単純には評価できないということも改めて思う。

    またこのタイミングでのウクライナ侵攻を行ったロシアの思惑について、メディアでも現在様々に分析されているが、それら以上に私が本書の記述で納得した部分がある。
    あまり納得したくもないのだが、それはプーチンの元経済顧問イラリオノフがクリミア併合に関して語っている場面で、
    「ウクライナで起きていることは、プーチンの個人的心理から起きている」
    ウクライナへの侵攻は「経済的な理由、政治的な理由、安全保障上の配慮、地政学な理由で説明することはできない」。
    「なにか奪うものがあるのなら、私はそれを奪う」という理屈
    という発言だ。

    本書を読んでプーチンの「実像」により迫って改めて思ったのは、ウクライナ侵攻はロシアの思惑ではなくプーチンの思惑なのだということである。
    そしてプーチンの発言や行動の理解は、難しい。

    最後に、本書の魅力の一つはエンターテイメント性のある文章である。
    特に、2012年大統領選直前のプーチンへの著者らのインタビューの描写が良かった。
    プーチンからいかに有益な発言を引き出そうか奮闘する著者らの努力や思考の様子は、緊張感がこちらにも伝わり手に汗を握るものであった。
    記者の仕事の難しさとやりがいの一旦に触れたようだった。

  • ロシアに仕事で関わる人は、プーチン政権や今のロシアの状況を把握する為読んだ方がいい。
    プーチンの発言や、プーチンを知る人へのインタビューなどを通じてプーチンの立ち位置を理解しようとする書。

  • ネット上には真偽のほどが定かではないプーチン伝説が溢れている。
    例え9割がデマだとしても「プーチンならありえる」と納得してしまうこ
    ともしばしばだ。

    ただ、本書はそんなプーチン伝説ではなくとっても真面目な評伝だ。
    実際にプーチンを知る人々の証言を集め、朝日新聞朝刊に連載さ
    れた記事に大幅加筆して書籍化された。

    連載中も毎回楽しみに読んでいたのだが、こうして1冊の本にまとまる
    とロシア大統領プーチンという人はとことん興味深い人物だ。

    KGBの元スパイ。スパイ好きの私にはこれだけでも興味をそそる存在
    なのだが、政治経験ゼロで大統領にまでなってしまったのだもの。

    KGB時代は決して優秀なスパイだったのではない。派遣されていたの
    は旧東ドイツのドレスデン。そこで東ドイツの崩壊に立ち会った。

    故郷サンクトペテルブルクへ戻り、サプチャーク市長の下で第一副首相
    を務めていた時にソ連が崩壊した。このふたつの国の崩壊に立ち会った
    ことが大きな影響を与えたのかもしれない。

    ただ、KGB時代、共産主義には批判的であり、サンクトペテルブルク時代
    には西側の銀行などを誘致し、市場開放には積極的だった。

    夢見たのは西欧型の自由経済。だが、国家が転覆するのだけは我慢が
    ならない。そんなところか。だから、プーチンがやろうとしているのは決して
    ソ連の復活ではなく、あくまでも「強いロシア」なのだ。

    それは「世界一のお金持ち」と言われたロマノフ朝への回帰と見るのは
    蝶々うがった見方かもしれないけれど、プーチンは「大統領」と呼ぶより
    「皇帝(ツァーリ)」と呼ぶ方がふさわしいような気がする。実際、私は
    普段「閣下」と呼んでるしね。

    それにしても本書で証言している人たちのプーチンに対する意見が
    極端に割れているのはおもしろい。とことん批判的な人、とことん好意的
    な人ってなっている。

    これもどの視点で見るかで変わって来るのではないかな。アメリカ寄りの
    視点だと「独裁者、悪魔」になるのだろうし、ロシア視点では「救世主であ
    り、頼りになる大統領」だろうしね。未だ80%という高支持率を誇っている
    のだから。尚、ロシア・メディアが骨抜きにされている件は問題だけど。

    元々が新聞記事なので一般的なプーチン入門というところだね。これまで
    もプーチン関連の作品を読んでいる人には物足りないかもだけれど、彼
    のこれまでの足跡を追うにはいい。

    尚、何故プーチンが森喜朗がお気に入りなのか謎だったのだけれど、
    森喜朗のお父様が日本とロシアの友好に尽力し、ロシアに分骨され
    ているとのエピソードが閣下のお気に召したらしい。一緒にお墓参りを
    している写真が本書にも掲載されていた。

    森喜朗は好きではないが、プーチンに率直にものを言えるところは見直し
    たわ。そういえば、以前、サンクトペテルブルクにアイスホッケーの世界
    選手権を見に行った時、VIP席にプーチンと並んで森喜朗が座っていた。

    「こら~、森~。その席、私と替われ」と叫んでいたことは内緒である。

  • プーチンとは何者なのか、その人間像がよくわかる本である。
    さらに、プーチンを知ることは日本から世界を見るのではなく世界を鳥瞰する意識を持つことに繋がる。
    この本を読むとやはり世界を動かしているのはアメリカ、ロシア、中国、EUであり、日本は出る幕がほとんどないのがよくわかる。GDPでは日本は世界で第3位、ロシアは日本の3分の1以下だというのに。釈然とはしないがそれがリアルな世界の現実なのだ。
    本書は新聞記者が執筆しただけあって読みやすくわかりやすい。プーチンを通して世界を知ることができる本であると思えた。

    2017年2月読了。

  • KGB、サンクトペテルブルク副市長を経て、その後一気に権力の階段を駆け上り、2000年から現在に至るまでロシアのトップに君臨し続ける、プーチンの人間像(原体験、人柄、交渉術、思考等々)を明らかにする。

    プーチンに対して肯定的であるか否定的であるかを問わず、プーチンを直接知る人物らの証言がベースとなっており、全体としてバランスの取れた内容になっている。


    プーチン自身が非凡な頭脳を持っていることに疑いはないだろう。
    しかし、プーチン長期政権の下で、ロシア政治の権威主義化が進み、「制度化されていない専制国家」に立ち至っているという現状は、かなり危ういものがあると感じられた。

    最終部から先は、近時の対日・対中関係について触れられているが、いずれにしても先行きは不透明という印象が強い。
    2016年12月、プーチン来日がようやく実現したが、依然として光明は見えないように思われる。

    ロシアのみならず、世界情勢を理解する上でも有用な一冊。

  • 新聞記者さんが、プーチンの素顔を取材されたもの。朝日新聞連載時から読んでいた(シリーズのものは、最初はものすごく熱心におもしろく読んでいるのに、途中で飛ばし読みになったり、全く読まなくなったりするのはなぜか。わたしだけ⁉︎)大幅に加筆され、1冊の本になった。

    プーチンの「実像」を知りたい人にはオススメだ。とてもわかりやすく書かれているし、いろいろな人に取材されていておもしろい。だけど、ものすごく読むのに時間がかかった。なぜ⁉︎

    プーチンの「実像」なんて、結局よくわからないということがよくわかった。
    プーチンに限らずだけど。

  • 2000年にロシア大統領になり、以後16年間その地位に就いているプーチンの実像を、本人の言動や周囲の人へのインタビューから解き明かしている。
    プーチンについては、柔道愛好家、元KGBと言うことくらいしか知らなかったが、大統領になる前のKGBでの任務、大統領に選ばれた経緯、人間的な魅力、最近の動向など、詳しく解き明かされていて、読み応えがあった。
    ロシアと中国の関係、ドイツ、その他欧州、そして米国、日本との関係がよく理解できた。

  • ロシア・プーチン側から見たクリミア併合の背景も窺えて、非常に面白い。

  • そのタイトル通りプーチンの実像にせまる本。
    もちろん人物に対して賛否はあるが、KGB時代はとにかくぱっとしなかったんだなというのが印象的。
    強運と強いカリスマ性の持ち主であるのは間違いないので、領土問題もうまく解決にもってってほしいと願う

  • 朝日新聞国際報道部がプーチンの素顔を知る関係者へのインタビュー等を通じて彼の思想、向かおうとするところに迫る。
    プーチンはフォーブスが選ぶ「世界に影響を及ぼす人物」に3年連続でトップになった人物、且つロシアで絶対的な権力を握っているだけに、個人の考え方、生い立ち、交友関係等を知ることで、ロシアという国家の方向性も明らかになるのだろう。
    本著の中でロシアを「制度化されていない専制国家」と評しているが、プーチンの次の一手、将来像を彼の個人的な実像を理解することで、今後の国際政治を占うことが可能になるのだと思う。
    (中国は「制度化された専制国家」)

    ウクライナ、シリア情勢も、ベルリンの壁崩以降のヨーロッパ状勢、特に東欧諸国のEU加盟の加速等を”ロシア側の観点”から見ていくと、ロシア(プーチン)の意図が読めてくるような気がする。

    昨今のロシア動向として注目すべき点は中国との接近だろう。アメリカや西欧諸国も中国との関係を重視している中で、今後、中国を中心に国際政治が動いていくような気がする。

    プーチンが柔道を通じて日本に対して個人的な思い入れがあることは有名であるが、本著では日本に関する興味深い事実関係にも触れられている。
    日本がアメリカとの関係を維持しながらどのようにロシアとの関係を深化させていくのか?
    昨今の中露の関係を考えると日中の関係の在り方も大きく影響してくるのだろう。

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