焼野まで

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 60
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022513588

作品紹介・あらすじ

大震災直後、子宮ガンを告知された。火山灰の降り積もる地で、放射線宿酔のなかにガン友達の声、祖母・大叔母が表れる。体内のガン細胞から広大な宇宙まで、3・11の災厄と病の狭間で、比類ない感性がとらえた魂の変容。前人未到の異色作。

感想・レビュー・書評

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  • 四次元照射の癌治療を受けるために鹿児島にやってきた女性の問わず語り。村田さんの夢をいっしょに見ている感じです。ストーリーがあるわけじゃなくてもこんなにどっぷり浸れるのは、自分にもいつ起きても不思議じゃないという年になったからでしょうか。
    海に沈む夕陽の情景を帯下(こしげ)と例えるなんて、村田さんにしかできないです。

  • 『光線』連作短編で扱った題材を長編化して描いた作品。
    主人公がガンの治療で滞在する街に程近い火山島の噴火や、治療に用いられる放射線といった事柄が、病気が発見されるのと前後して起きた震災・原発事故と相俟って、また光、火、太陽といったイメージと連関されて、輻輳的に描かれているのが印象深い。
    放射線治療の宿酔に疲弊し、日常や周囲の全て、家族さえ疎ましく遠退いて感じられ、現実との繋がりを喪いかけていた主人公が、当面の治療を終えて脱いだ靴を履こうと探す、それは恐らく主人公の帰還を指し示しているのだろうと思う。

  • 著者が子宮体癌を患われたのを知ったのは、一昨年の春にオール讀物で杉本章子さんと対談された記事を目にしてだった。かつて講演をお聴きしてファンになったお二人が、ともに癌に襲われた。杉本さんは残念ながら余命宣告を受け逝かれる。著者のことは気になっていたが、ここに小説としてその闘病が著される。放射線治療を選択し、精神的、肉体的に追い込まれ、肉親あるいは周囲の人たちと接する余裕も失う。火山灰の降りしきる土地で、鬱々とした時間が過ぎていく。生死について大上段に構えず、飾ることもなく綴られる心理が生々しく伝わってくる。

  • 体内で蠢くがん細胞を噴火する活火山に見立てたような構成で、
    目に見えない体内で起こっていることを、見に見える火山に重ね合わせて描いている。
    がん治療という重苦しい題材だが、淡々とした筆致は必要以上に読者を煽ることなく、
    小説というより長編の詩を読んでいるようだった。

    5グレイのきつい照射の後の描写は、読むのもかなり辛かったが、
    それ以外は心が静まり返って、なぜか無の境地にいるような気さえした。
    私もがんを経験し死を身近に感じたことがあるので、
    誰にでも起こりうる事という諦観があるからかもしれない。

    個人的なことですが、ここのところ不眠気味だったのが、
    寝る間にこの本を読むとすぐに寝付いた。
    読書セラピーのような(そんなものがあるのか知らないが)
    心のさざ波を鎮めてくれる不思議な本だった。

  • 311大震災の後、著者は子宮体がんを宣告される

    その著者の経験も投影されていると思われる作品。
    主人公は標準的な治療を選ばず、南の果ての地での放射線治療を選択する。
    一人ウィークリーマンションに住み、火山の爆発が毎日起こる硫黄臭い町で通いで治療を受ける。看護師である娘には大反対され、放射線宿酔に悩まされる。そのまどろみの中、亡くなった親戚や懐かしい風景などが出てくる。

    現実なのか夢なのか分からない色鮮やかな世界。昔からの友人も癌になりお互い励まし合うが、やがて彼は先にこの世を去ってしまう。

    最後には娘も歩み寄って来てくれ、彼女の治療はまだ続く。がん患者の不安な気持ち、何かにすがりたくなる気持ちがしみじみと伝わってくる作品。

  • 描写読みやすい小説らしい文章は好感が持てる。ストーリーは淡々と経過する狭小な時間軸の断片描写で奥行きを感じない。

  • 子宮体がんの治療のため、1ヶ月の放射線治療を受ける「わたし」。
    その放射線センターがある町は、度重なる火山の噴火で噴煙に覆われている。
    滞在するウイークリーマンションのTVからは、東日本大震災の惨状が流れてくる。

    著者の実体験をもとに描かれた作品だが、
    重い。重すぎる。

  • 大動脈瘤の手術後、何一つ後遺症もなく仕事に復帰されたご主人、そして著者は東日本大震災の頃、癌の告知を受け南九州のオンコロジーセンターで療養を。村田喜代子 著「焼野まで」2016.2発行、放射線照射による闘病の記です。友人の「病気ってのは閉塞状況、囚われている。健康っていうのは自由。病人に自由も何もない。」の言葉は胸を打ちました。また主人公(著者)の「百の意見が交錯するが、一様に同じなのは健康になることへの欲望。食欲、性欲、物欲、生存欲など、欲がつくものは見苦しい。」とありますが、欲があるから人間ですよね。

  • この作者の世界観が好きです。

  • 子宮がんになり、手術を拒み四次元放射線治療をするために、ひとり桜島の近くのウィークリーマンションからオンコロジーセンターに通う日々。宿酔をやりすごしながら、ねずみ200匹の致死量という2グレイ=2シーベルトを毎日照射する。
    福島原発事故と時期を同時にし、桜島の噴火や、同じくガンと戦う人たちとのやりとりなど、悲しみ辛さは淡々としているところが、とてもひきこまれた。

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著者プロフィール

1945(昭和20)年、福岡県北九州市八幡生まれ。1987年「鍋の中」で芥川賞を受賞。1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年「望潮」で川端康成文学賞、1999年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞、2021年『姉の島』で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。ほかに『蕨野行』『光線』『八幡炎炎記』『屋根屋』『火環』『エリザベスの友達』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』など著書多数。

「2022年 『耳の叔母』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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