江戸を造った男

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022514097

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学小説】七兵衛(後の河村瑞賢)は、明暦大火の材木買い占めで巨万の利益を得る。やがて日本列島の航路開設や治水・鉱山採掘などの大事業を次々と成功させていく……。新井白石をして「天下に並ぶ者がない富商」と称賛された男の生涯を描く長篇時代小説。

感想・レビュー・書評

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  • 高田屋嘉兵衛は海商だから分かるけど、この時代に国(藩)をまたいで終生活躍する政商なる者がいたのには驚いた。我が郷土にも清原太兵衛とか周藤弥兵衛とかの公人、私人が治水に挑む土木工事で功名を得るが、河村屋七兵衛のスケールは凄まじい。城米廻漕、治水、灌漑、鉱山採掘などなど、ことごとく成果を収める。難事業の数々だが、工事はもとより、複雑な利害関係を調整するその手腕がいかに優れていたかを教える。幕命によるいずれの公共事業も、齢50を超えて携わり、82歳で逝く間際まで仕事を請け続けたというから、高齢化社会で憂いに沈んではいられない。

  • 河村瑞賢と言えば、高校生の時、日本史の問題集で東廻航路・西廻航路とセットでおぼえさせられたくらいで、ほとんど知らない。
    そしていつも私は角倉了以(高瀬川や天竜川などの開削をした商人)と河村瑞賢がごっちゃになるのだった。

    河村瑞賢もまた商人で、幼いころ紀州から江戸の口入屋に奉公に出された。
    主人が亡くなって店を辞めてから、彼は自分の才覚だけで生きていかねばならなくなった。

    欲しいものを、欲しい人が、欲しい形で提供する。
    今の世の中では当たり前のことだが、商売というものを論理的に考えることが今ほど当り前ではなかった当時、彼の目の付け所は当たるのだった。
    そうして霊厳島で材木商として店を構えるようになったころ、明暦の大火で店は全焼。
    なけなしの金を集めて瑞賢は考える。
    江戸の町に今必要なものは何か。

    雪に覆われ、道すらも埋もれてしまった木曾の山の奥に、瑞賢は木材を買いに行く。
    そしてそれで得た金で米を買って、焼け出された人たちに振る舞った。
    もちろん個人の財産で出来る事などたかが知れている。
    しかしその行いを聞いた人たちが、幕府に納品した米の残りを瑞賢のところへ届けるようになる。
    幕府に渡したところで、武士にしか行き渡らないことを皆知っていたから。

    当時の幕府の中枢は、保科正之。
    秀忠の隠し子で苦労しただけあって民政に長けた人である。
    災害に強い街づくりの前に、野ざらしになっている遺骸を始末しないと悪疾が蔓延し、生き残った者たちの命まで奪われます、と直訴した瑞賢にその事業を一任し、そしてここから瑞賢と幕府のつながりが始まるのである。

    増え続ける江戸の庶民に食料がいきわたるように、産地から江戸への航路を造り、推理が悪いために米が作れない越後に用水路を造り、川の氾濫に悩まされる大阪で治水工事をし、新潟の銀山の採掘に尽力する。

    瑞賢がやるのは、道筋を造ることだ。
    航路を造るということは、安全な港を見極め、積み荷の検査所や、陸を示す火をともす場所(灯台のようなもの)を造ったり、悪天候の時に船を休ませる溜りを造ったり…まあ、いろいろだ。
    潮の流れを知り、季節ごとの雨風を知り、難所の航海に詳しい人たちを知り…まあ、いろいろ考えなければならない。
    出来上がった道筋からは、瑞賢は身を引く。
    必要な人を必要なところに配置できるのも、瑞賢の才の一つだ。

    “人に「働け」と命じても、人は働かない。心地よく働く仕組みや状況を作ってやれば、人は自ずと働く。”

    江戸を造った男、河村瑞賢は、江戸城を造ったわけでも、江戸の町を造ったわけでもない。
    江戸幕府が民を安んじるための、つまり経世済民の基礎をつくったのだ。

    公共工事をして終わり、ではなく、その先を見据えた仕事。
    今目の前にある利ではなく、その先に大きな利となることを、自分だけの為ではなく、社会のためにできた男。
    それが、河村瑞賢。
    ということを、あっという間に500ページを読み終えてしまうくらいの勢いで読ませてくれた。
    とても読みやすくて、伝記のような内容なのに、ずっと心がわくわくしていた。

    よし、これでもう河村瑞賢と角倉了以を間違えることはないだろう。
    たぶん。
    しばらくは。

  •  書名から、徳川家康の頃の話かと思ったが、家綱、綱吉の時代に海運、治水に貢献した一商人の話だった。

     伊勢国から江戸に出てきて材木商人として一代を築いた河村屋七兵衛が、幕府からの命を受けて、東北地方の米を江戸に運ぶための東廻り・西廻りの航路を開拓することに挑み、苦心の末、成功する。
     安定して江戸に米が入ってくることで、市民の食べ物の心配が軽減され、幕府の統制力が強化される。まさに、市民が流入して興隆著しい江戸の基礎を磐石のものにしたと言えよう。『江戸を造った男』とはまさに言い得て妙だ。
     ところがこの話はほんの前段で、一商人に過ぎない七兵衛に幕府は次々と大きな仕事を依頼するようになる。氾濫が続いていた大坂の治水工事に続き、銀山の開発と、大プロジェクトの責任者に抜擢される。

     七兵衛の成功の秘訣は、見知らぬ土地でまず人々の信頼を得ると同時に、常識にとらわれずに知恵を絞り、また費用と工数を入念に計算して資金の算段をつける、という現代のプロジェクト・マネージメントに通じるものがある。

    「状況を見極め、対策を立て、段取りを決める。最後にそれを実行に移せば、自ずと事は成ります」(P.252)

    「何かがうまくいかない時は、必ずその大本(原因)を探るのです。そうすると必ずおかしな点が出てきます。それをつぶす作業を繰り返していけば、徐々に目論見の精度は上がっていくものです」(P.242)

     さらに、計画を立案するだけでなく自ら汗をかいて現地を見てまわり、そこで働く人々や生活する百姓たちに目を配り、資金が足りなくなれば自腹を切ってでも仕事を完遂させようとする。その姿におのずと評判があがり、人々が自然と応援してくれる、という人望の大切さも示している。現代のビジネスマンから見ると模範的なリーダー像なのではないか。

     河村屋七兵衛はその功績が幕府からたたえられて、異例なことに商人から武士に格上げされる。のちの河村瑞賢、教科書で名前だけ知っていた人物がこのような偉業を成し遂げていたことを初めて知った。

  • めっちゃ面白い。
    タイトルに引っ張られる感はありますが、江戸をと言うより、国を造ったと言っても過言じゃないかも。
    ものすごく勉強になったのは、人間は安きに流れやすいのに、何とかしてやろうと思い詰めるほど考えて、考えて、考えて、やり抜くのは大切なこと。
    今一度自分のやってることを振り返らねばと思った次第。

  • (1)読んだ本
    システムエンジニアとして知恵と胆力で危険をくぐり抜け、江戸時代の各種インフラ構築事業に邁進していく「江戸を造った男」を読んだ。
    こんな立派な人が江戸の始めにいたことを知らなかった。新井白石との交流や、堀田正俊の刃傷事件のエピソードを絡ませながら、その活躍は見事である。
    そして、いつか機会を見つけてこの偉人の足跡を辿りたい。
    (2)感想
    感動したポイントをビジネス、人としてのありかた、リーダ、仕事に対する心構え、家族愛に分類し、主人公のセリフをもとに、感想を述べたい。それらの一言一言に重みがある。
    ①ビジネスの基本
    「あきないとは人のしないことをし人の望むものを望む形で供すること、目先の理にこだわらず大局観を持ち 互いの利を考える、今自分が何をすべきかを常に考える」
    まさに特許やビジネス特許のことであり、Windowsの発明者ビル・ゲイツやアイフォンの発明のスティーブ・ジョブズが実行したことそのものである。
    ②人としてのあり方
    「自分の人生は自分で決めよ、 責を追うのも自分だ、人はこの世にその恩を返すこと。自分より優れているものに対して敬意を払え」
    古今東西の人としてのあり方である。簡単なようで難しい。
    ③リーダ、仕事に対する心構え
    「最後の最後まで諦めるな、心地よく働ける 仕組みが大事、日々 小目標を設定し それを達成させよ」
    部下掌握の基本であるが、なかなか実行できない。
    だから、気持ちを掴んで仕事をさせよとか、ワンページでまとめよとか、PDCAが今でも不文律である。
    ④家族愛
    「どんな悲しみでも前を向いて進む、丈夫な体に産んでくれた両親には大感謝」
    苦しかったはずである。愛息を2人もなくした悲しみは想像ができない。また、健康な身体は、基本中の基本で、父母のお陰であり、自分も同感である。
    (3)自分が学びたい点
    ①今を精一杯生きる
    ②細かいことをおろそかにしない
    ③自分の人生は自分で決める
    以上



























  • タイトル:江戸を造った男
    作者:伊藤潤
    出版社名:朝日新聞出版
    読了日:2022年11月10日
    所感
    河村屋七兵衛(瑞賢)は正直知らなかった。材木商として明暦の大火後の江戸の町再建の下支えをしたことから、城米廻漕航路の開拓、越後国の大用水路の構築、淀川と大和川の治水工事、越後会津の銀山開発など幕府推進の大規模インフラ事業を実行した男の仕事に対する姿勢や情熱がつぶさに描かれていてとてもおもしろかった。韓国ドラマの「商道」と同じように目先の利にこだわらず世のため人のために働くことが経世済民となる七兵衛を見習い、自分の人生を再考したいと思った。

  • 名前は聞いたことがあるようなないような。まさかこんなすごい人がいたとは!久しぶりに読んでよかったと思いました。この本との出逢いに感謝。

  • 河村瑞賢。まさに江戸時代の日本を造り上げた偉人。東回り航路、西回り航路などの海運の基礎を構築、さらに治水工事や銀山採掘などにも貢献し、初期の江戸時代の経済の根幹を支えたと言っても過言ではない。
    本当にこんなすごい人がいたという事に驚きました。
    商人ではあるが、目先の小利にはこだわらず、万民のために働き、巨万の富を築きあげた。為政者ではなく、商人であるが、巨万の富でさらに新たな事業をてがけ、結果として人々を潤していった。
    この生き方が素晴らしい。

  • 最初の章が印象的。一気に物語に引き込まれる。

  • 2019.10.01
    商人とはこのようなものであったかと思う。尊敬される人とはこのようであるのか!とも思わされた。
    しかし、人生の手本になるような一冊であった。

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著者プロフィール

1960年神奈川県横浜市生まれ。私立浅野中学、浅野高校、早稲田大学卒業。日本IBM(株)入社後、おもに外資系日本企業の事業責任者を歴任。
著書に『戦国関東血風録 北条氏照・修羅往道』(叢文社)、『悲雲山中城 戦国関東血風録外伝』(叢文社)がある。
加入団体に『八王子城とオオタカを守る会』『八王子城の謎を探る会』『ちゃんばら集団剣遊会』『三浦一族研究会』等。
趣味 中世城郭遺構めぐり 全国合戦祭り参加 ボディビル エアーギター アマチュア・ウインドサーファーとしてソウル五輪国内予選に参加(8位) 「湘南百年祭記念選手権」優勝等各種レース入賞多数
*ご意見、ご感想等の連絡は下記のメールアドレスへ
jito54@hotmail.com

「2006年 『虚けの舞 織田信雄と北条氏規』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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