若い読者のためのサブカルチャー論講義録

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  • 朝日新聞出版
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022514295

作品紹介・あらすじ

本書は、二〇一六年四月から七月に京都精華大学で開講された講義「サブカルチャー論」を再構成したものです。

感想・レビュー・書評

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  •  大学の講義を一冊にしたもので、結構楽しんで読んだ。宇野常寛という人が何の研究者なのかはわからないが、サブカル研究者とかでいいのだろうか。
     少年マンガやロボットアニメを解説しながら、日米安保もしくは成長物語から脱成長へと進む話をからめていく。
     ハンターハンターでゴンが父親と再会して、少年の成長物語を放棄して、まだまだ少年マンガには書くべきものがあることを示したとか、述べられているが、それはそれとして、ハンターハンターが影響を与えているのはあの「実は自分たちの住んでいた世界は巨大な湖の真ん中の小さな島だった」だろう。あと、ものすごい長い科白。大量のモブキャラ。あのモブキャラの使い方もあきらかにワンピースの大量性とは異なる。
     あの外側の世界は宇宙と似てる。宇宙は地球が消し飛ぶほどのエネルギーを持つものがたくさんあり、実際に人類は到達できない。この「実際に到達できない」は、チートクラスに強くなった念能力者たちとからまり、宇宙に挑戦する人類のような絶望感と面白さを、今までの世界に打ち付ける。世界を上書きしたような展開。これはトリコやなんか島に乗り込んでいく話とか、いろんなマンガに影響を与えた気がする。でも決定的に異なるところは、「宇宙にとっては王位継承戦争は一発で消し飛ばせるもの」であることだ。王位継承戦争を巡って、様々な思惑が交差しているが、あの湖の底から化け物みたいなやつが現れたら幻影旅団ごと全員死亡である。この、物語の世界に侵入した宇宙物理の大きさみたいなものが、あの話の未だ誰もできてない面白さになっているように思う。
     あと、ビューティフルドリーマーは女性の欲望の実現に邪魔な存在がどんどん排除されていく世界への押井守からの告発的映画だというのはまあそうだろうなあと思うし、クローズの自己完結性やセカイ系の作品群を「結末でアスカにフラれないエヴァ」と先輩の批評家の言を引用したり、男の子は世界の運命を背負っている女の子に愛されることによって何者でもない自分を肯定できるというセカイ系への喝破はわかりやすかった。
     あと、『リンダ リンダ リンダ』は観たくなった。
     そして、「まだ存在してないけれど現実の可能性を探り出すための虚構、そういった想像力がこの先のサブカルチャーには求められていくのではないか」と結論している。
     このサブカル話のなかに、タケシ映画のキッズリターンを入れていきたいなと、私は考えてる。何者でもない自分をいかに肯定または否定するか、が、大きな問題設定であることはよくわかった。

  • アニメやJPOPなど身近な文化から、現代思想について論じられた本。

    身近なので分かりやすく、また内容としても現代思想のながれなどもわかり、とてもよかった。

  • 2018/4/7読了。
    主に男子向けのマンガ・アニメ・アイドルといったサブカルコンテンツの流行の変遷を追うことで、それらが写した社会と個人、欲望と想像力の関係を分析し、通史的に提示する。極めて王道的な手法によるサブカル文芸概論。
    講義録という語りの文体が大変読みやすく、半藤一利の「昭和史」シリーズを思わせる歴史一気読み本と言って良い。
    もう一つ思い出したのが、最近読んだピエール・バイヤールの『読んでいない本について堂々と語る方法』。本書では多くのコンテンツの内容やストーリーがざっくり要約されて紹介されるのだが、『読んでいない〜』を読んだ後では、その紹介を信用して良いのかどうにも信用がならず、困った(笑)。そこを盲目的に信用しないで読むのが、評論を評論家の創作物として客観的に読む批評的な読み方というものなのだろう。

  • P290
    目的のない青春の美しさ

    P291
    何かのためにモラトリアムがあるのではなく、
    モラトリアムそれ自体が楽しい

    P291
    日常の愛おしさ

    P293
    ハルヒは学園生活を楽しむために、無自覚だが、
    オカルト的な文化を用いている。
    そして自覚なハルヒであるところのこなたは完全に、
    当時の視聴者と同じように自分の高校生活という
    現実を豊かにするために、アニメという文化を
    コミュニケーションのツール、
    つながりの口実として使用している。
    これはある種の、新しいタイプのオタクの
    自画像だと思う。
    つまらない現実からの逃避ではなく、
    自分の人生を、いまこの〈現実〉を豊かにするために
    アニメを使う。

    P303
    日常と非日常の混在

  • マンガ・アニメ・アイドルなどの歴史を当時の社会情勢から紐解いた本。ガンダム、エヴァと初めロボットアニメが盛り上がった背景にある日本の敗戦コンプレックスなど、流行った当時の日本人のマインドとサブカルが多いにリンクし合っていることを解説してくれている。また本の序章と結論で述べられている「サブカルの意義」。元々は、社会的活動で現実を変えられないことを知ってしまった若者たちが「世界が変わらないのであれば自分の見方を変えいよう」という虚構への逃げ道としてのサブカルだった。しかしその役割を終えた今は「現実にない(けど実現できそうな、するべき)未来を提示する」のが役割なのではないか、という点が興味深かった。

  • 「ゼロ年代の想像力」を潜り抜けてきた身としては、平易に復習ができてとてもよかった。ただ、時代をするどく写し取ったサブカル作品もある一方、そうではないものもあふれてていたわけで、サブカルを読めば時代が理解できる、というよりは、時代に沿ったサブカル作品はこれなので、あわせてこう読める、ということにしかならないのでは、という疑問も頭をよぎった。主題としては、ここにあげられたサブカル作品での想像力をこれからの世界に活かせないかということなのだが。それは”まだ存在してないけれど現実の可能性を探り出すための虚構、そういった想像力がこの先のサブカルチャーには求められていくのではないか。”(p.386)と。///ジャンプをはじめ、アニメ、マンガというものがどのようなテーマ、形で描かれ、それが発表された時代をどう写していたかということについては説得力を持って読めた。"カリフォルニアン・イデオロギーが広がることで、「自意識を変える」よりも「世界を変える」ことのほうにリアリティが出てきた。社会の前提が変化したことで、サブカルチャーについて語ることが、そのまま社会を語ることに結びつかなくなっています。"(p.36)といった視点も含めて。/わざわざ作家の想像力で作られた虚構って、相対的に需要が下がらざるをえない。面白い現実に出会うためのコストが百分の一、1万分の1になってしまってる。アニメからアイドルへのサブカルチャーの中心の移動はその一側面、不可逆の現象。/人間はもう情報をパッケージしたソフトというものと手を切ろうとしています。/といった状況も踏まえて、それでも、”虚構、あるいは目に見えないものの世界を一度経由することで得られる思考法−を抽出すること”という問題意識で書かれた一作。あげられた作品でどれかひとつといえば、それまでのロボットアニメの常識をことごとくこわしたという「ガンダムW」に興味が。

  • コミュニティモデル、作品の過程を一緒に作っていくモデルはサブカル以外のその他の多様なビジネスに転用される一方で、やっぱりコンセプチャルな本物が良いよね、と回帰していくというサイクルが繰り返し続いているように思う。

    今の時代の流れを感じつつ必要な見せ方で売り出すことと、そもそも本質的にいいものをつくること、当たり前ですがこの二つが大事かと思った。おもしろい本でした!

  • 面白かった。
    サブカルチャーをこんなふうに捉えて分析することで、歴史や社会情勢との関係、影響、
    そして人々がその時代ごとに何を求めていたのか、どんな欲求を満たすためにサブカルチャーが作られていたのか、すごくよくわかった。
    サブカルを見ればその時代が分かる、って感じに。

    実際私が通ってるサブカルはAKB48あたりからだけで、前半は全くわからないアニメの話ばかりだったけど、自分の親や祖父母の世代と照らし合わせて読んでた。
    超納得する分析がたくさんあった。

    最終的に、虚構の役割は、
    努力すれば実現できるかもしれないけど今はまだ存在していないものを提案し、これから存在しうる可能性を探り出すこと、って言ってた。
    結論それかぁ、わかってたよー、というオチだったけど、そのオチに行くまでの宇野さんの分析、解説は読む価値あったなあと思って読んでよかった。

  • 面白かった!

    「世界の終わり」というモチーフが、バブル経済下の嗜好品であるということは、
    近年の作品で「大災害」がジョークとして扱われなくなったことでもわかる。

    ドラマを見ていても、フィクションに求められることがどんどん変わっていて、
    大げさな演出や主人公の立ち回りは、視聴者には共感し難く、
    インターネットの力で、ずっと「現実」とリンクしている。

  • サブカルチャーについて、非常に読みやすくわかりやすく書かれていた。久しぶりに熱中して一気読みしてしまった。

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著者プロフィール

1978年生まれ。評論家。批評誌「PLANETS」「モノノメ」編集長。主著に『ゼロ年代の想像力』『母性のディストピア』(早川書房刊)、『リトル・ピープルの時代』『遅いインターネット』『水曜日は働かない』『砂漠と異人たち』。

「2023年 『2020年代のまちづくり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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