ネバーホーム

制作 : 柴田元幸 
  • 朝日新聞出版
4.21
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本棚登録 : 117
レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022515094

作品紹介・あらすじ

【文学/外国文学小説】ポール・オースターが「簡素で美しい小説」と熱烈に推薦するハントの長編小説。南北戦争時代のインディアナ、愛するひ弱な夫をおいて男に変装して戦場に向かった女性兵士は生き延びられるのか。史実に基づき静かな声で語られる、最優秀アメリカ文学賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 読んでいてこんなにどきどきした小説は久しぶりだった。アッシュと一緒に砲撃を切り抜けたし一面死体の野原を歩いたしうっすい布きれ一枚で糞尿のバケツを運んだ。終盤、どきどきしすぎて気付いたらページを繰る手の反対の手を握りしめながら読んでいた。名作。

    ーーー

    じぶんが加わったすべての戦い、野営地ですごした日々、アクロンふたり組と森をあるいた体験、大佐との話、わたしの顔にふれた大佐のいとこのやわらかい手、木にのしかかられてうごけなかったあの時間。わたしは軍服からぬけ出てマスケット銃もなくしてあなたの似すがたもなくしてしまいました、…かあさんのこともかんがえますがべつにそれも気になりません。「すべてのことの外側にじぶんがすわっていて、息ができて、しばらく外から見ていても口のなかのホコリで息がつまったりはしない気がするのです」とわたしは描いた。じぶんがこう書いてそれがとどいたことをわたしは知っている。いまその手紙はここに、わたしのかたわらにあるのだ。


    わたしたちのテントのそばにじぶんひとりのテントをはっている、ほかの連中よりかしこそうな男がいたので、バーソロミューからこの手紙が来たあとその男に、愛は義務に勝つべきだとおもうかときいてみた。「愛? なんだそれ?」とこのかしこそうな男は言ってペッとツバをはいた。


    「世界がぜったいあたしを見ない場所をどうみつけるか、あたし知ってるのよ。あたし、影のなかもあるけるし光のなかもあるけるのよ。みんな、見てみたい?」

    ーーー

  • アッシュ(兵士)でありコンスタンス(妻)である主人公は南北戦争に出征する。
    愛する夫へのラブレターはロマンチックだが、「ペネロペがいくさに行ってオデュッセウスが家にのこる」物語なのだ。ペネロペ=アッシュ=コンスタンスの冒険は激戦、捕虜からの脱出、病院への監禁など苛烈で、大勢の人を殺す。神話で言うなら「勇者」であろうが、現代においてはもはや戦士は讃えられない。
    柴田さんの翻訳も素晴らしい。彼女の一人称による語りは独特で、学のない田舎の女性が凄惨な戦いの場面も夫への愛情も朴訥に語る。ラストの意外さに象徴されるようにいわば「信頼できない語り手」だが、レトリックとしての信頼できなさ、ではない。彼女が生きる人生で、独自のフィルターを通じた、彼女が見る/見たい世界なのだ。

    柴田さんのトークからの追記。
    ・見事なのは粗筋以上にヴォイス。
    ・平仮名漢字が混在した翻訳では、主人公の素朴な語り、男社会に入った女性の立場などを表現した。

  • 「優しい鬼」でK.O.負け(使い方がずれているかもしれないが許してほしい)を受けた著者の、昨冬の新刊。がまんしていたのだが、どうしても読みたくて買ってしまった。まず出会う一文目のなめらかさといったらもうどうだ。などと言いつつ、正直とちゅうで少し飽きかけたのだが、話の展開とぬめるような語りに気を持ち直し、そこからはためらわなかった。訳者あとがきにもあるように、主人公の気持ちがわかりやすく伝わってなどは来ない。耳元で語られているのに体温を感じないような文章は、わたしを途方にくれさせ、しかしおおいに満足させた。

  • おすすめです!「わたしはつよくてあのひとはつよくなかったから、わたしが国をまもりに戦争に行った」夫の代わりに男装して兵士アッシュとして南北戦争に参加した妻コンスタンス。ひらがな混じりの一人称の文体が、田舎の素朴な女性をイメージさせる。戦争に行く際に悲壮感はなく、自分を試したい、という気持ちも感じられる。しかしやはり戦争は悲惨で、戦場にいるうちにコンスタンスは身も心も兵士になっていく。戦争は人を変えてしまい、家に帰っても帰った気がしなくなる。ネバーホーム。彼女にもう、戦争に行く前のホームはない。

  • neverhomeとは著者の造語。作品中で登場人物が語る「たしかにもどってきましたけど、家に帰ってきた気はしませんでした」というとことばや、主人公が、農場と夫を恋しく思いながらも戦場にいてしあわせを感じている、といったところににじみ出ているように思う。
    女性が男性のふりをして南北戦争に出兵していた、という史実を下敷きに書かれた小説。
    なぜ戦争に行ったのか、母親はなぜ死んだのか、語られているようで実は語られない。わたしたちが日記に本当の気持ちを書いているようで書いていない、そんな感じ。
    主人公の語り口が独特で読みづらいのだが、これは著者がえがいた主人公の「語り」をそこなわずに訳しているからこそである。柴田さんはやはりすごい。

  • 書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記は控えさせていただきます。

    http://www.rockfield.net/wordpress/?p=11854

  • 南北戦争さなかのアメリカ。
    小さな農場を営んでいた夫婦のうち、心身ともに丈夫なかたわれが北軍に参戦する。
    女であることを隠して。
    物語は彼女によって語られる。
    悲惨で過酷な戦闘。残してきた夫への想い。強くてまっすぐだった母の記憶。
    しかし慎重に語りから遠ざけられている真実もある。
    戦場での振る舞い。夫との関係。母の死の真相。
    彼女が「信用のおけない語り手」だと判明していく過程がスリリング。

  • 女性が北軍に兵士として参加し,男とバレないで戦ったり生活したり,その苦労と戦争の悲惨さ滑稽さがいろいろな切り口で描かれています.コンスタンスが夫に持ち続ける愛の行き着くところが,本当に切ない.そして,柴田氏の南部の香りのするぶっきらぼうで格調高い訳がすばらしいです.

  • おもしろくて夢中になってイッキ読み。
    こういう本を読んでいると、日常の合間に読書、が完全に逆転して、読書の合間に日常、になってしまって困る。

    誰かが過去の出来事を語っているのを聞いているときに、本人にとっては真実なんだろうけど、実際は事実とはちょっと違うのでは? でもこの人、無意識にそこは見ないようにしてるんだろうなぁ、なんて思うことがたまにあるけれど、レアード・ハントは、そういった自分の中にある嘘や虚構を見ないフリできない人の悲しみを、ものすごくリアルに描く人だなと思う。
    あまりに語り手の声がリアルで、読んでいるといつの間にか私自身が登場人物に取り込まれてその一部になってしまうように感じる時もある。

    前半を読んでいるときは「今回の話はすごく分かりやすくて楽だな~」と思ってたのに、途中から、徐々にいつものレアード・ハント的流れに。最後の1ページにはかなりビックリした。
    とても優しくてとても冷徹な目で描かれた話だった。

    著者は元国連報道官、と聞いて、私はそれが実際には何をする仕事なのかぜんぜん知らないけれど、「元」がついていることをちょっと残念に思った。
    この著者のように、人が意図せず作り上げる虚構のさまざまを冷静に見通して、かつそれを純化することができる人こそ、国連みたいに人の業と業のぶつかりあいを調整していくような組織にいてほしい、とチラリと思ったので。
    実際は、そういう仕事は人の業なんてものは見えず考えない人の方が向いているのかもしれないし、私もどんな仕事かも知らずにイメージだけで言っているので、全然見当違いかもしれないけれど。

    どうでもいいことだけど、最近、アメリカ史にハマっていて、History.comというサイトが、2~3分の短い歴史解説映像が満載でおもしろいので、毎夜延々と見てます。で、ちょうど「南北戦争には女性もけっこう参加してたんですよ~」っていう動画を見た直後にこの本を読んだので、その偶然の予習にうれしビックリ。
    男装なんて簡単にばれるでしょー、と思ったけど、当時の男装した女性兵士の写真を、読み終わった今改めて見てみると、かなり男らしくて、確かに女性だとはすぐには分からないかも。
    訳者あとがきで名前が挙げられていたセアラ・ロゼッタ・ウェイクマンは、父親に借金があって、お金のためにそうしたみたいです。大変だっただろうなぁ。

  • 南北戦争へ夫の代わりに出兵した女性の話。
    戦争のおそろしさ、人を愛するうつくしさ、生きることの厳しさが、作者独特の世界観で描かれる。

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著者プロフィール

Laird Hunt シンガポール生まれ。サンフランシスコ、ハーグ、ロンドンで育ったのち、インディアナの家族代々の農場に住む。インディアナ大卒業後、ナローパ大創作科で芸術修士号を取得し、ソルボンヌでフランス文学を学ぶ。東京、ニューヨークにも住み、ニューヨーク国連の報道課勤務時に最初の長篇小説を執筆。現在コロラド州ボールダー在住、デンヴァー大学創作プログラム教授。これまでに『インディアナ、インディアナ』『優しい鬼』(朝日新聞出版)、『ネバーホーム』(2017年12月刊行予定、朝日新聞出版)、The Evening Roadなど長篇7篇を刊行。作品はこれまでフランス語、イタリア語、英語に訳されており、自らもフランスの小説を翻訳している。

「2017年 『英文創作教室』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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