ネバーホーム

制作 : 柴田元幸 
  • 朝日新聞出版 (2017年12月7日発売)
4.29
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  • 本棚登録 :83
  • レビュー :10
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022515094

作品紹介・あらすじ

【文学/外国文学小説】ポール・オースターが「簡素で美しい小説」と熱烈に推薦するハントの長編小説。南北戦争時代のインディアナ、愛するひ弱な夫をおいて男に変装して戦場に向かった女性兵士は生き延びられるのか。史実に基づき静かな声で語られる、最優秀アメリカ文学賞受賞作。

ネバーホームの感想・レビュー・書評

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  • 読んでいてこんなにどきどきした小説は久しぶりだった。アッシュと一緒に砲撃を切り抜けたし一面死体の野原を歩いたしうっすい布きれ一枚で糞尿のバケツを運んだ。終盤、どきどきしすぎて気付いたらページを繰る手の反対の手を握りしめながら読んでいた。名作。

    ーーー

    じぶんが加わったすべての戦い、野営地ですごした日々、アクロンふたり組と森をあるいた体験、大佐との話、わたしの顔にふれた大佐のいとこのやわらかい手、木にのしかかられてうごけなかったあの時間。わたしは軍服からぬけ出てマスケット銃もなくしてあなたの似すがたもなくしてしまいました、…かあさんのこともかんがえますがべつにそれも気になりません。「すべてのことの外側にじぶんがすわっていて、息ができて、しばらく外から見ていても口のなかのホコリで息がつまったりはしない気がするのです」とわたしは描いた。じぶんがこう書いてそれがとどいたことをわたしは知っている。いまその手紙はここに、わたしのかたわらにあるのだ。


    わたしたちのテントのそばにじぶんひとりのテントをはっている、ほかの連中よりかしこそうな男がいたので、バーソロミューからこの手紙が来たあとその男に、愛は義務に勝つべきだとおもうかときいてみた。「愛? なんだそれ?」とこのかしこそうな男は言ってペッとツバをはいた。


    「世界がぜったいあたしを見ない場所をどうみつけるか、あたし知ってるのよ。あたし、影のなかもあるけるし光のなかもあるけるのよ。みんな、見てみたい?」

    ーーー

  • アッシュ(兵士)でありコンスタンス(妻)である主人公は南北戦争に出征する。
    愛する夫へのラブレターはロマンチックだが、「ペネロペがいくさに行ってオデュッセウスが家にのこる」物語なのだ。ペネロペ=アッシュ=コンスタンスの冒険は激戦、捕虜からの脱出、病院への監禁など苛烈で、大勢の人を殺す。神話で言うなら「勇者」であろうが、現代においてはもはや戦士は讃えられない。
    柴田さんの翻訳も素晴らしい。彼女の一人称による語りは独特で、学のない田舎の女性が凄惨な戦いの場面も夫への愛情も朴訥に語る。ラストの意外さに象徴されるようにいわば「信頼できない語り手」だが、レトリックとしての信頼できなさ、ではない。彼女が生きる人生で、独自のフィルターを通じた、彼女が見る/見たい世界なのだ。

    柴田さんのトークからの追記。
    ・見事なのは粗筋以上にヴォイス。
    ・平仮名漢字が混在した翻訳では、主人公の素朴な語り、男社会に入った女性の立場などを表現した。

  • おもしろくて夢中になってイッキ読み。
    こういう本を読んでいると、日常の合間に読書、が完全に逆転して、読書の合間に日常、になってしまって困る。

    誰かが過去の出来事を語っているのを聞いているときに、本人にとっては真実なんだろうけど、実際は事実とはちょっと違うのでは? でもこの人、無意識にそこは見ないようにしてるんだろうなぁ、なんて思うことがたまにあるけれど、レアード・ハントは、そういった自分の中にある嘘や虚構を見ないフリできない人の悲しみを、ものすごくリアルに描く人だなと思う。
    あまりに語り手の声がリアルで、読んでいるといつの間にか私自身が登場人物に取り込まれてその一部になってしまうように感じる時もある。

    前半を読んでいるときは「今回の話はすごく分かりやすくて楽だな~」と思ってたのに、途中から、徐々にいつものレアード・ハント的流れに。最後の1ページにはかなりビックリした。
    とても優しくてとても冷徹な目で描かれた話だった。

    著者は元国連報道官、と聞いて、私はそれが実際には何をする仕事なのかぜんぜん知らないけれど、「元」がついていることをちょっと残念に思った。
    この著者のように、人が意図せず作り上げる虚構のさまざまを冷静に見通して、かつそれを純化することができる人こそ、国連みたいに人の業と業のぶつかりあいを調整していくような組織にいてほしい、とチラリと思ったので。
    実際は、そういう仕事は人の業なんてものは見えず考えない人の方が向いているのかもしれないし、私もどんな仕事かも知らずにイメージだけで言っているので、全然見当違いかもしれないけれど。

    どうでもいいことだけど、最近、アメリカ史にハマっていて、History.comというサイトが、2~3分の短い歴史解説映像が満載でおもしろいので、毎夜延々と見てます。で、ちょうど「南北戦争には女性もけっこう参加してたんですよ~」っていう動画を見た直後にこの本を読んだので、その偶然の予習にうれしビックリ。
    男装なんて簡単にばれるでしょー、と思ったけど、当時の男装した女性兵士の写真を、読み終わった今改めて見てみると、かなり男らしくて、確かに女性だとはすぐには分からないかも。
    訳者あとがきで名前が挙げられていたセアラ・ロゼッタ・ウェイクマンは、父親に借金があって、お金のためにそうしたみたいです。大変だっただろうなぁ。

  • 南北戦争へ夫の代わりに出兵した女性の話。
    戦争のおそろしさ、人を愛するうつくしさ、生きることの厳しさが、作者独特の世界観で描かれる。

  • 南北戦争に男性兵士を装って参加した女性のものがたり。だからといって歴史的小説というわけではない。語られるのはほとんどが主人公の内面である。戦争が主役ではない。

    アッシュの人生は戦争以前にすでに損なわれている。その理由が少しずつ明らかにされるものの、真実はとても曖昧だ。彼女自身も自分の傷をはっきり言語化できず、その癒し方もわからなかったのではないか。

    戦地に赴いたのも、持って行き場のない悲しみや怒りの発露であったように思える。

    場面ごとに話が完結し、短い短編が連なっていくような読み心地がある。作者特有の比喩もすばらしい。

  • これは…。
    弱い夫にかわり、男装して南北戦争に参戦した女性の物語。
    だけれども、体と心に負った傷により、認識が歪んでいくにつれさらされる、母の死で負ったトラウマが、男とは女とは、戦争とはホームとはと胸ぐらをつかむように問いかけてくる。
    柴田元幸先生の、技巧の極致をこらしながら、そう感じさせない訳がまた、こう…素晴らしいという言葉しかないじゃないか!
    「こわがる心はいずれひとを見つけます」
    とっくに見つかっているのに、そうじゃない振りをしている、すべての人よ、この小説は張り巡らせた嘘の壁を引き剥がす。

  • 南北戦争で北軍として戦ったコンスタンス。彼女は愛する夫を故郷に残し、男のフリをして誰よりもタフに戦う。話は彼女の一人称で語られるのだが、その語り口がとても素朴で率直で彼女の全体像が伝わってくる。彼女の言葉がひらがなまじりだったり、翻訳にも工夫がされている。夫や母親のこと、戦争の間に出会う人や体験したこと、全て彼女の視点で語られるが、どこか曖昧で焦点がはっきりしない。実際にあったことなのか夢で見た風景なのか。でも読んでいくうちに、そんなことはどうでもよくなる。ラストに至るまでに彼女がたどった道のりの哀しさや美しさに、ただただ言葉を失う。とても印象に残る作品だ。

  • 高倉の健さんみたいな女子。

  • セアラ・ウェイクマンについて知りたいが、論文を読むしかないのかな。むむ?

  • 朝日新聞出版 最新刊行物:お知らせ:『ネバーホーム』発売記念 柴田元幸さんトーク&サイン会 1/10開催!
    https://publications.asahi.com/news/796.shtml

    朝日新聞出版のPR
    南北戦争がはじまって、インディアナの農場で暮らしていたコンスタンスは夫のバーソロミューに代わって、北軍への入隊を決意する。名前をアッシュとかえて、男性の格好をして。
    女性にやさしい「伊達男アッシュ」とも呼ばれ、勇敢に戦い続ける。女であることがばれないかとおびえながら、野営地ですごし戦闘と行軍をくりかえす。夫と手紙のやりとりをし、亡くなった母と語り合う。
    https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=19553

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