マジカルグランマ

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.25
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感想 : 247
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022516046

感想・レビュー・書評

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  • 正直ほかの柚木先生の作品のように刺さらなかったのは、自分と遠い(と思いたい)世代だから。
    でも「マジカル」という考え方は心から深く頷けたし、新しい問題意識の提示としてはとても面白い読み物でした。
    世の中の「こうあるべし」に沿わない人が中傷を受ける展開や、そんな中でも負けないしなやかな主人公がお婆ちゃんなのは意外性があり、この作品を読んでいる際に柚木先生がTwitterで書かれていた「弱者が被害を受けて悲しんで終わるストーリーなんて書くものか」(とても朧げな意訳)という主張がズドンと柱になった物語でした。ちょっと笑えるクセのある結末ですが、痛快でハッピーエンドに間違いない。

    「マジカル」願望について私たちは被害者にも加害者にもなり得ることを考えると、主人公と同じ世代の方だけでなく、仕事や家事・育児で疲れた女性、10代まで幅広い層にぜひオススメしたい一冊でした。

    ちなみにストーリーの中で出てきた「困ったことになるくらいには」という言い回しがとても素敵。相手の非に対して「良くなかった」「辞めた方がよかった」と言うより柔らかな印象があって好きでした。これからぜひ使いたい。

  • 面白かった!痛快という言葉がピッタリで、でも色んなことを考えさせられる、そんな作品でした。
    75歳の正子は、75歳から女優に復帰する。世間の人たちが思う「理想のおばあちゃん」として。だけど、理想のおばあちゃん=マジカルグランマって何?誰のために世間の理想を生きてくの?特定の人たちを守るために、引き立たせるために存在するマジカル○○。ステレオタイプをなぞることで、理想からこぼれた人たちをさらに居づらい立場に追いやっていたのではないか。そう気づいてから、正子は正子を生きることとなる。彼女の才能はどこまでも自由で伸びやかで快活。正子がお化けになる章は、ページを繰る手が止まりませんでした。
    登場人物の中でも杏奈は「嘆きの美女」の耶居子みたいで、彼女の成長もとても温かい気持ちで応援していました。
    物語の最後、杏奈が明美へ送った手紙が、この作品で言いたかっただろう事を色々とまとめてくれてますが、良い意味で、自分中心に生きてもいいんじゃない?とあっけらかんと言ってのけて行動できる、そしていつまででも何歳になっても自由に飛べる!とても勇気と希望をもらえた作品でした。

  • こちらの予想をどんどん覆す展開にページをめくる手がとまりませんでした。
    ご都合主義展開は否定できないけど、それを差し引いてもおもしろい。
    "マジカル◯◯"という言葉の意味を知らなかったけど、もう少しそういうことにも敏感になっていかなくては、と気付かさせてくれもします。オススメ。

  • 75歳の正子さん、昔女優で監督である旦那さんとは家庭内別居で、尊敬する先輩大女優の紀子さんにあこがれていて。
    そんな”おばあちゃんな正子さん”が活躍したり、落ち込んだり、復活してみせたり、とにかく自分の気持ちに正直にあれやこれや奮闘していくストーリーです。

    押しかけてきた旦那さんのファンだという女の子、隣の若夫婦、息子や町内のご近所さんたちが、正子さんと係わっていくうちに、それぞれ個性的でおもしろいキャラが立ってきて良かったです。正子さんも”かわいいおばあちゃん”なんかじゃないし…

    みんながいい人ってわけじゃなかったので最初はちょっと読みづらいかな?と思いましたが、どうなるかわからいワクワクする展開にすぐ引き込まれました。

    作中で「風と共に去りぬ」を引き合いに出てきた「マジカル○○」いう考え方は知らなかったので、その辺がちょっと消化不良なのですが、正子さんがCMイメージを壊さないようにって言われていたのにぶち壊しちゃって何もかもなくして、けどその後で全く違う形で復活して、その辺すごくおもしろかったです。

    1日で読了、土曜でよかったなぁと思います。

  • 柚木麻子さんの小説読破、これで9冊になりました。
    女同士の友情をテーマにしたものが多いと思います。
    いえ、正確には友情と言っていいかわからない、微妙に違う気もするけど、他の言い方が思いつかなくて。

    そして直木賞候補のこの作品。
    林真理子さんのイチオシだったそうです。
    近々受賞作の大島真寿美さん『渦妹背山婦女庭訓 魂結び』を読む予定。

    netの炎上とかゴミ屋敷、グレイヘア、老々介護、ニートなど、平成~令和に話題になっている事柄が続々。
    きっと令和の次の時代に読んだら死語だらけの小説になっているだろうなー。
    直木賞とらせてあげたかったです。

  • 「マジカルニグロは白人しか助けない。マジカルゲイはヘテロセクシャルしか助けない。そして、マジカルグランマは健康な若者しか助けない。なぜなら、差別する側にとって都合よく作られた人格だからだ。つまり、自分と似たような立場の誰かと助け合うことで、この世界が押し付けてくる規範に抗うことはできるのではないか。」

    物語に落とし込み切れていない感じはあるのだけども、『感じ良く従順なイメージも1つの差別』というテーマを貫いていているのが良かった。
    綺麗にまとめるよりも、勢いと熱を叩きつけたかったのだろうと思う。
    ラストもあえて丸く収めず乱すところが好き。

  • "おばあさん"の概念が壊される本。
    柚木麻子さんの著作を読むのは初めてだけど、こういう豪放磊落な文章を書く人なんだなーと意外だった。最初正子が抱えていたいろんな問題が、思わぬ形で叶っていくのを見るのは痛快で面白かった。
    結末も読者の予想に忖度しない感じで、なんというかこの本の結末にはぴったりだったと思う。
    この本はフィクションではあるけど、何歳になってもわがままに、やりたいことをやって生きていいんだと思えた。
    自分が主人公みたいなおばあさんになりたいかと言われたら別だけど笑

  • 同じ柚木さんの書いた「ランチのアッコさん」より読みづらい。登場人物たちがなんだか誰も彼も優しくないのだ。

    読み手が思う「こういう風になって欲しいな」がことごとく覆されていく、予想が外れて…というか、こっちに行った方が絶対面白いのに、と思うコースを外れていく様子が落ち着かないのである。

    と、実はこの小説にとっては、このコースを外していくことが非常に重要なテーマになっている。こうでないと、この小説が成り立たないほどに。

    「マジカルグランマ」とは世間がこうあって欲しい、おばあちゃん像を指す造語。優しくて世話好きで家事が上手くてちょっとおとぼけででも色々世知に長けていて…。都合のいいおばあちゃん像のことなのである。元となった言葉は「マジカルニグロ」、白人にとって都合のいい黒人召使のことである。

    そういう「マジカル…」ではない、「マジカル」から脱したいという、主人公正子さんの活躍を描いた小説なのだから、「マジカルおばあちゃん小説」であってはならない。予定調和や安易なハッピーエンドは読者の求める「マジカルファミリーストーリー」なのだから。

    でも俺は予定調和な小説が好きだけどな。

  • マジカルグランマのマジカルはそうゆうことなのかー!と読み進めていくうちに納得。

    装丁とタイトルから勝手にほっこり系を想像してしまうが、そこは作者のなせる技。
    そう簡単にはいきません。
    積み重ねてきた先入観やステレオタイプはこうやって作られてきたんだなと。

    我が強くてわがままで。自分を常に見ていてほしい。自意識の塊みたいなおばあちゃん!
    マジカルグランマとは程遠い。
    でもそれの何が悪い。

    大切なのは自分軸で生きていくこと。

  • 著名な映画監督の夫を亡くした後、CMにて温和でにこやかという好ましいおばあちゃんのステレオタイプを演じて人気者になった正子75歳。夫のファンだと正子の屋敷に転がり込んだ若い杏奈と、実はエゴ丸出しでCMイメージとはかけ離れた正子との共同生活は、初めはお互い利用し合う程度の仲だったところから少しは理解し合える仲になって来る終盤になって話しは急展開、意外な結末へ。
    後期高齢女史の自立、自己実現物語かと思いきや、もっと軽やかで今風な展開〜意外な結末は楽しい。

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著者プロフィール

1981年生まれ。大学を卒業したあと、お菓子をつくる会社で働きながら、小説を書きはじめる。2008年に「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞してデビュー。以後、女性同士の友情や関係性をテーマにした作品を書きつづける。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞と、高校生が選ぶ高校生直木賞を受賞。ほかの小説に、「ランチのアッコちゃん」シリーズ(双葉文庫)、『本屋さんのダイアナ』『BUTTER』(どちらも新潮文庫)、『らんたん』(小学館)など。エッセイに『とりあえずお湯わかせ』(NHK出版)など。本書がはじめての児童小説。

「2023年 『マリはすてきじゃない魔女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柚木麻子の作品

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