化物蠟燭

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 171
感想 : 35
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022516138

感想・レビュー・書評

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  • 彼岸と此岸、生者と死者、現実と非現実、現在と過去など様々なものが複雑に巧妙に入り交じる作品集。
    ホラーの類いになるのだが、一編を除いて怖くない。むしろ切なさと同時に温かさも感じる。

    亡き妻に寄せる想いと隣の訳ありげな夫婦
    母の介護のためと割り切って辞めた筈の仕事への想いと怪しい薬屋の娘との邂逅
    仕事さえあれば良いと豆腐作りに没頭する女の前に現れた奇妙な老人
    怪談嫌いな怪談影絵職人に託された奇妙な仕事
    面倒な画家の描く姉様絵に惹かれた紙問屋の女奉公人
    奇妙なものが見える男に依頼された怪現象の謎解き

    誰が生者で誰か死者なのか、何が現実で何が幻なのか。ちょっと不思議でギョッとしても最後は温かい。
    ホッとするような、ニンマリするような話もあって嬉しい。
    ただ一つ、「幼馴染み」だけは終始ゾッとする話で怖かった。何故こんな話を真ん中に挟んだのか。人の心が一番恐ろしいということか。

  • たゆたいながらせつなさと儚さを味わえる七つの奇譚。

    「よこまち余話」を思わせる、江戸の市井を描いた今作も良かった。

    まるで蝋燭のように人の想いがゆらゆら、あちらとこちらの岸辺を行ったりきたり。
    この彼岸と此岸の曖昧さ、たゆたう感覚、ひと匙の人情と…この絶妙なバランスが好き。
    そして想いが消える瞬間と共に消えゆく蝋燭。
    そこに残るのは儚さと一瞬の静寂と置き土産のような優しい想い。
    この瞬間、心の一番柔らかな場所を撫でられた感覚に陥る。
    本を閉じ余韻に浸る時間は読み手の心にも置き土産をしてもらった気分。
    やっぱりいつまでもたゆたっていたい気にさせられる、これがたまらない。

    「こおろぎばし」
    「お柄杓」が一番せつなさと儚さを感じられてお気に入り。

    「幼馴染」は別の意味で印象に残った。

  • 江戸の市井を舞台にした妖しい7つの短編集。
    切ないけれどとても心地好く、ずっと読んでいたくなる。

    あちらの世から忍んで来た者たちが、この世の者たちを次々に惑わしていく。
    驚かすためなどではなく、ただこの世に心残りがあるためだ。
    気配を漂わせるだけで姿をはっきり現さない者たちよりももっと恐ろしいのは、生身の人間の心に潜む闇なのかもしれない。
    この世はなんて淡く切ないものなのか。
    生きることに不器用なこの世の者に、あちらの者が巧く交わることで、この世の儚さを一層際立たせる。
    それは美しく気高く、潔い。
    切なくて何度も涙した。

    特に『夜番』『お柄杓』『隣の小平次』が良かった。
    表紙の滝平二郎さんの切り絵が作品の雰囲気にピタリとはまっていてとても素敵。

  • 江戸時代が舞台の、ちょっと不思議なお話の短編集。
    もう一つの柱として、さまざまな職業の人が、己の稼業に精進する様子が描かれる。
    時代小説まだまだ初心者の私にとっては、江戸のお仕事の勉強にもなった。
    ・煙管の部品を作ったり修理したりする「羅宇(らお)屋」
    ・棺桶を急いで作る「早桶屋」
    ・豆腐屋
    ・漆屋、薬屋
    ・油の問屋と小売屋
    ・影絵師、和菓子屋
    ・紙問屋に絵師
    ・指物師

    生きびとと死にびとが、読んでいるうちに万華鏡のように入れ替わる。

    真っ当に働いている人たちには救いがある、という描かれ方をしている。
    婚約者を寝取られた娘にも、きっとこの先幸(さいわい)が待っているはず、と願ってやまない。

    今生が幸せであったかどうか、分かるのはいつの時点なのだろう。
    真摯に生きていたのに報われなかった人は、生まれ変わった来世をもう一度生き直して納得のいく人生をやり直せるのだろうか。

    妖(あやかし)として登場するモノたちは、残してきた誰かを思うために心を残した優しい者が多い。
    “見える人”乙次も感じているように、「生きている者より死んでいる者のほうが素直に思いを語る分、心安い」
    たった一つのことしか願わないからだろう。

    また、一作品だけ毛色の違う作品が入っている。
    何人かの人がレビューに書かれているように、やはり、生きているものの方が怖い
    ・・・と思わざるを得ない。

    『隣の小平次』
    『蛼橋(こおろぎばし)』
    『お柄杓(ひしゃく)』
    『幼馴染み』
    『化物蝋燭』
    『むらさき』
    『夜番』

  • 江戸の市井を舞台に描く、7篇の奇譚集。

    名手・木内さんだけあって、どの話も流石のクオリティです。
    常世と現世をたゆたうような、不思議な余韻に包まれます。
    そんな中、心底ゾッとしたのは「幼馴染み」。結局人の心が一番恐ろしいのかも・・。

  • 【収録作品】隣の小平次/蛼橋/お柄杓/幼馴染み/化物蠟燭/むらさき/夜番
     「幼馴染み」以外は、切なくて、でも前向きになれるような読後感。「幼馴染み」は、あるあるだが、ぞっとする。

  • 久しぶりに読んだ木内昇さん。江戸の職人の言い回し、大店の旦那の言い分、使用人たちの心の裡。それぞれの言葉が語りかけ、たちまち江戸の市井に引き込まれます。
    「よこまち余話」でも不思議な世界を垣間見せてくれましたが、ここではこの世とあの世の境目が繋がります。未練を残してこの世を去らなければならなかった人たちの悲哀が、願いが、今生きている人と交わる時、今に生きる人たちが、一歩前に踏み出します。

    どのお話も染み渡る読後感でしたが、西の薬師、寡黙だが腕の確かな豆腐屋のお由、柄が大きいが心優しいお庸、自分の心許なさを威勢のいい言葉で隠してきたお冴。女たちの姿が印象的でした。

    一つだけ、違和感のあるお話を紛れ込ませてくるのも、巧妙のうちでしょうか。

  • 江戸の町を舞台に描かれた7つの奇譚。
    生まれ変わりとか、この世ならぬものの気配とか、ちょっと「よこまち余話」を彷彿とさせる世界。

    この世に愛するものを残して去らざるを得なかったものたちの思いは、決しておどろおどろしくはなく、優しさと思いやりに満ちて切ない。
    そして、そんなもののけ?たちの思いを理解し受け入れようとする登場人物たちの自然なありようがまたいいのだ。

    どれもがじんわりと胸に沁みる奇譚なんだけど、ひとつだけ本当に怖かったのは「幼馴染み」という作品。
    「まことに恐ろしいのは人ではないものか、それとも人の心か」
    帯の言葉のとおり、やっぱり恐いのは人の心の方だと深く納得。あ~怖かった。

  • 粋だな~。
    木内さんの本領は重厚な歴史小説だと思うのだけど、こういう短編集も大好きです。
    『よこまち余話』と同じ系列の「この世に思いを残した者達」が登場する短編集です。とは言え残したものは怨念では無いので怖くは有りません。一番怖い短編は幽霊が登場せず、現世の人の心の闇を描いた「幼馴染」という面白さ。
    この世とあの世の境目が揺らぎ、切なさ、暖かさが漂い出る。
    ハッとさせられる表現が随所に埋め込まれた良く練られた文章。やっぱり木内さんは素晴らしい。

  • 木内昇さんは幕末物、と勝手にイメージしていたけれど江戸物(妖物も)やっぱりイイ!
    『浮世女房洒落日記』も良かったもんね。
    全く詳しくないけれど江戸時代にそんな喋り方する?と疑問に思ってしまう小説が多々ある中、時代考証がちゃんとしているんだと思う。自然に小説世界に入っていける。
    7編全て好きだけれど、既読の「蛼橋」、それと「夜番」。無口な男の佇まいや息遣いを感じさせる木内さんの描写がとても好み。「お柄杓」は南海キャンディーズのしずちゃんを思い浮かべて読んだ。「むらさき」鮮やかな色彩が読後残った。表紙絵も良き!!

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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