グッドバイ

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.82
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感想 : 57
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022516473

感想・レビュー・書評

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  • 実に気持ちの良い物語だった。
    女性商人の話ということで、朝ドラ『あさが来た』のような感じかと思ったが、もちろんドラマのあさとはキャラクターは違うし波乱万丈。

    読み終えて調べてみたら「長崎三大女傑」の一人らしい。
    確かに倒幕を企てたり新しい世の中の仕組みを考えている幕末当時としては危険な人々を経済的に支えていたり、女だてらに外国人と商売をしようと突っ走ったりと、番頭の弥右衛門がハラハラするのも分かるくらいの向こう見ずさは驚かされるが、この作品で描かれるお慶は豪傑という感じではない。

    父と後妻一家が逃げ出した後、たった十六歳で大浦屋を立て直すために女主人となって、元は油商だったものを畑違いの茶葉商いに舵を切り、言葉もままならないのに外国人相手に堂々商売を挑む。

    彼女はいつも必死で懸命で、でもとても楽しそうだった。新しいこと難しいことにチャレンジすることが楽しくて堪らないという姿勢が満ちていた。
    祖父の『勘を磨け』という言葉を頼りに時代の大変換期を進んでいくお慶は気持ちが良い。

    彼女の商売相手、ヲルト商会のヲルトや彼と繋ぐきっかけとなるテキストルもお慶と対等に向き合う人だった。日本を食い物にしようとする外国人とは違っていた。特にテキストルは長い付き合いとなるだけあって魅力的な人だった。

    坂本龍馬を始めとする土佐藩士たち、大隈重信や岩崎弥太郎などとの交流もまるでお母さんが面倒を見るような感じで、この辺は確かに豪傑と言っても良いかも知れない。いくらお金があってもなかなかここまでは面倒見れない。
    しかしそれが後にきちんと返ってくるのだからやはり因果は巡るということだろうか。

    商売人としては決して成功者ではなかったかも知れない。お慶の商売は人との繋がりの中で糸口を掴みそれを広げていくやり方なのだが、『勘を磨け』なかったこともある。
    いわゆる「遠山事件」ではその「人との繋がり」が仇となった。この当時の武家というものは本当にどうしようもない。しかしお慶も決して引かなかった。そして商売人として一度は信用が地に落ちたが、その信用を自ら取り戻した。
    この時なぜ大隈や岩崎は手を差し伸べなかったのかと思ったが、なるほどそういう解釈かと納得出来た。手を差し伸べたところでお慶ならその手を振り払っていたかも知れない。

    こんな「大しくじり」を犯したお慶でも見る人は見ている。時代の移り変わりでご法度と言われたことが先進的となった。無鉄砲もしくじりも商売や人生の一つの節目。
    終盤にタイトルの意味が分かる。実にドラマティックで清々しい物語だった。

  • 幕末から明治へ、時代の荒波を駆け抜けた長崎の女商人・大浦慶の半生を描いた物語。
    とても面白かった。
    物語として読み応えがあったのは勿論、慶がとても魅力的。
    そして何より慶が実在したことが一番の驚きだった。

    「海はこの世界のどこにでもつながっとるばい」
    幼い頃から海の向こうに憧れ眼差しを向けていた慶は、日本人で初めて異国相手に茶葉交易に乗り出す。
    この時代の女性が言葉の通じない異人相手に堂々と渡り歩けるなんて。
    例え失敗してもそこから這い上がる姿がとても素敵だった。
    どんな苦境にあっても決して逃げない。
    己の失敗を総身で受け止める度量。
    真っ正直にがむしゃらに、前へ。
    「今こそが私の正念場、戦たい」

    人としての魅力が溢れるから大勢の人が助けてくれて、慶の周りには常に人が集まってくる。
    これはぜひ朝ドラでドラマ化してほしい。

    木内昇さんの『万波を翔る』と被っている箇所が多々あって読みやすかった。あちらは外務省目線なのでまた見方も違ってて面白い。
    まかてさんの『先生のお庭番』や高田郁さんの『あきない世傳 金と銀』ともちょっと被っていて、色々思い出し比較しながらの読書となり楽しめた。

  • 大浦慶といえば、長崎の女傑であり“龍馬の背中を押した女のひとり”。。ではなかったか、というくらいの予備知識。予備知識というか、どこかの小説で出てきたんだろうし、それがなんだったかも思い出せないのだけれど。
    いやはや、面白かった。龍馬との関わりはそこまで描かれていなかったけれども(実際ごく一時しか接触はなかったのだろうし)でも龍馬だけでなく、激動の幕末~明治の才たる人物たちが多数登場するし、歴史に黒文字で年表に書かれるような出来事の数々が、ひとりの女商人の半生を通して時代のうねりを見せてもらえているようで、その時の風を受けているかのように心におもい浮かべることができた。年表のなかにはいったようなかんじ。
    いろんな見方があるだろうけれど、才能と勇気と向こう見ず、運をつかむ力、、、「才覚さえあれば」というキーワードにもなっているこの台詞が、ある意味この物語の全てでもあろうし、力強い生き様と穏やかな幕引きの光景に、なんとも後味の良い、深蒸した味わいのある読後感。商いはモノを売り買いすることではあるけれど、大商人たる傑物は、利を求めるだけでなく、かかわった人々の志に共鳴して、ひとのぶんまで思いを貯めて、浪漫を膨らませるような、溢れる思いの波に乗れる人なんだろうなあ。読後の茶一杯がおいしく感じる1冊。良き世の中になりますように。

  • 初出2018〜19年朝日新聞

    大浦慶のことは、旧臘出版された植松三十里の『梅と水仙』で知った。津田梅の父仙蔵が長崎に茶葉を輸出してもうけている女性がいると知り、西洋農場で作ってホテルに出荷していたアスパラを缶詰にして香港に輸出するようになるという話があった。

    幕末長崎の油商大浦屋の主となった希以(のち慶)は、オランダ船の船員が茶葉を買ってアメリカに売るのを知って、産地から直接買い付けて私貿易を始め、敷地に茶葉工場を建てて生産し大きく商いを伸ばす。
    外国の商人と付き合って外国語を覚え、坂本龍馬らの亀山社中にも支援するが、駿河産茶葉に押されて出荷が減るなか、維新後熊本藩士の詐欺にかかって大きな負債を負う。
    しかし、借金を返しおわると乞われて横浜の汽罐工場の経営や、蒸気船の船主になる。まさにガールズ・ビー・アンビシャスの人生を送ったことに、コロナに閉じ込められている身としては羨ましく爽快な感慨をもつ。

    それにしても朝井まかてはますます筆の力が上がったと思う。

  • タイトル縛り8作目、「く」。
    現代貿易の先駆者とも呼べるであろう人物、大浦慶という女性を本書を読み初めて知る。

    長崎にお茶というイメージも無く
    とにかく初めて知ることだらけだった。
    なんともカッコ良く真っ直ぐな女性だなぁ。


    「知識を得たい」という前提で本を読んでいる訳では無いが
    自分の知らなかった人物、世界を知ることが出来る本はやはり凄い。
    0と1の差はとても大きいのだ。
    0が1になる事によって
    私の世界は果てしなく広がる。
    やはり本は良い。これだからやめられない。

  • 歴史の人物で女性が主人公の話は久しぶりかな

    新しいことをやるには反感をかったり、そんなことできるわけがないと笑われたりする
    大浦慶は女性であるし、何よりこの幕末だと女性の社会的立ち位置はかなり低かったことが容易に想像できるので一体どれ程の蔑みがあったのだろうかと

    女の分際で
    女のくせに
    女がえらそうに

    こういったことが、当たり前の世の中だったことでしょう。その中で異国を相手に商いをしていく姿は本当に格好いいです

    船に魅せられ、時に転覆しても幕末から維新を航海しきった物語

  • 長崎出身の私としては、言葉に馴染みがあり、読みやすかった。

    女ながら油商の大浦屋を継ぎ、何事にも恐れず挑戦するお慶(お希以)が格好いい。

    幕末の聞き覚えのある名の人物が大勢出てきて、幕末好きにはたまらないんだりうな。

    大浦屋の火事をきっかけに店を捨て、娘を見捨てて後妻と息子と逃亡した父親にはひたすら腹が立つけど、後にのうのうとあらわれて、大きな顔で大浦屋に居座るなんて、腸が煮えくり返るかと思った。でもそんな父親をみとる覚悟をするお慶もやはり格好いい。

    そんな父親に裏で秘密裏にお金を渡し、お慶に余計な心配をかけないように取り計らっていた弥右衛門がまたまた格好いい。
    弥右衛門だけでなく、お慶の周りには素敵な人が大勢。

    読み応えがありました。

  • なんでこの本を読みたいと思ったのかきっかけはよくわからない。何で知ったのかも思い出せない。でも図書館でずっと待っててようやく番が回ってきた。
    主人公、大浦慶についてはこの本を読むまで全く知らなかった。朝ドラ「あさがきた」が大変に好きで、きっと近いものがあると思ったのだろう、それが大当たりだった。
    広岡浅子にしても大浦慶にしても、激動の時代に、しかも女性でビジネスを起こしてそれを大事業とするのだからすごい人たちだ。

    この本、何より表紙のデザインがいい。
    お希以が外国船がやってきた海を見るシーンがこの情景にリンクして、壮大な青い海が脳裏に浮かぶ。
    この話がどこまで史実でどこからが創作なのかわからないところも多く、父との関係や番頭の話がどうなのかわからないが、父の名前もWikipediaで見ると実際と同じなので、ほぼ史実なのだろうと思われる。

    時々話が急に先に進んだり、先に進んでから過去を振り返る形で出来事が明かされたりすることがあり、話を理解するのにわかりにくいと思った箇所もあった。ただそれも半分を超えるとそういう場面が少なくなったのか、話の続きが気になりすぎたのか、あまり気にならなくなった。

    登場人物はこの時代の個性的な人たちが勢揃いするのでまあそれは魅力的なのだが、長くなるので少しだけ。
    まず大番頭の2人がとってもいい!
    先代から使えている弥右衛門、ただの堅物おやじかと思いきや、終盤また粋な形で出てくるなんて(ただかなりの高齢だったんじゃないだろうか)、さすが大浦屋を支えていた番頭さん。
    そしてその弥右衛門の後を継いだ友助、まさか道半ばでこんなことになろうとは…。友助がずっといればまた商売の行方も変わってたのかな。
    品川しゃん、遠山、ハント、あんたらは許さへん。(ハントは騙したわけじゃないし自分も損をしているのだが、もっと遠山から取れよ)

    小説になのにこんなにフレーズを残したものは初めてで、栞を読んでいるページ用以外に2つ使い、時々書き留めながらの読み進めであった。

  • 江戸末期から明治維新、異人を相手に女主人が商いを繰り広げる物語。
    何が良くて何が向くのか、自問しながら生きていく背筋をしゃんとする、そんな主人公に共感し愛おしさを感じる。
    酷いことをされた恨んでいることでも、背を向けずしっかり向き合って尽くす姿は見習うべき。
    レヴォリューション万歳

  • 長崎の油商・大浦屋の女あるじ、お希以―のちの大浦慶・26歳。黒船来航騒ぎで世情が揺れる中、無鉄砲にも異国との茶葉交易に乗り出した。商いの信義を重んじるお希以は英吉利商人のヲルトやガラバアと互角に渡り合い、“外商から最も信頼される日本商人”と謳われるようになる。やがて幕末の動乱期、長崎の町には志を持つ者が続々と集まり、熱い坩堝のごとく沸き返る。坂本龍馬や近藤長次郎、大隈八太郎や岩崎弥太郎らとも心を通わせ、ついに日本は維新回天を迎えた。やがて明治という時代に漕ぎ出したお慶だが、思わぬ逆波が襲いかかる―。いくつもの出会いと別れを経た果てに、大浦慶が手に入れたもの、失ったもの、目指したものとは―。

    20年ほど前、大浦慶さんを巻末の参考文献にも挙げられている本間恭子さんの『大浦慶女伝ノート』で知り、彼女の墓所を探索したのを思い出した。本書の後半部に書かれている品川事件の件は事件の真相を知れば知るほど腹立たしい。本間さんは古文書を調べていく内に、行政もかかわった女性差別判決だという思いに至ったと話していた。Wikipediaに遠山事件の詳細はこちら→https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%B5%A6%E6%85%B6。お慶さんが男だったらたぶん違っただろうと思わざる得ない。お慶さんは不当判決により、負債の3000両(現在の価値でいえば約3億円)と裁判費用及び賠償金1500両を払うことになった! これは現代のお金で4億5千万に相当する。お慶さんは家屋敷を手放し、自ら茶葉を炒って売り歩き返済しているのだ。その後もまた事業にもかかわっていくのだから、スケールの大きい女性商人だったことが伺える。
    先に『大浦慶女伝ノート』を読んでいたため、インパクトが薄くなったがお慶さんを知らない人には是非読んで欲しい。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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