タイガー理髪店心中

  • 朝日新聞出版 (2020年1月7日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (216ページ) / ISBN・EAN: 9784022516619

みんなの感想まとめ

老いと記憶の流れをテーマにした物語は、静かに心に響く深い感情を呼び起こします。時間の経過と共に変わるもの、忘れ去られる記憶や、逆に蘇る思い出が描かれ、派手さはないものの、心に刺さる印象を残します。主人...

感想・レビュー・書評

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  • 老い…時間の流れからは誰も逃げられない。
    静かに流れていく時間のなかで確実に変化していくものもある。忘れていく記憶、逆に呼び戻される記憶、思い出したくないこと。

    派手な話ではないものの、心にチクチク刺さる内容だった。
    見てはいけないものを見てしまったという、後悔の気持ちすら残る。
    あとからじわりと思い出すような、印象深い1冊。

  • ねぇ、これがデビュー作なんてうそでしょ!??

    鳥肌がすごいよ…
    できれば少しくらい酔ってから読んだほうがいいのかもしれない。

    全体的に薄く漂うユーモアすら背筋を凍らせる。
    悲しい過去を背負った老いた主人公たちの小さな狂気が、こう、ゆっくりゆっくり迫ってくるような。

    個人的には残暑の行方のほうが好きですが、表題作もめちゃくちゃすごいです。(語彙力

    この先この方がどんな作品を生み出すのかとてもとても楽しみです。

  • 八十歳を超えた理髪店を営む夫と、認知症になりかかっている妻との暮らしを描いた、林芙美子文学賞受賞の『タイガー理髪店心中』と、もうじき七十七歳を迎える飲食店女将が、店をやりながら一回り以上年上の夫の世話をしている『残暑のゆくえ』の二篇。『タイガー』のほうは六歳の子供を亡くした過去が、今も二人の中にわだかまっていて、『残暑』のほうは、満州引き揚げの記憶にとらわれ続けている。

    どちらの話も、これまで取り繕って、見ないふりをしてやり過ごしてきたことが、老年になり、剥き出しになったようで、これが人間の姿かと思うと、怖く、またかなしい気持ちになった。『タイガー』のほうは、子供が亡くなった穴は、夫がかつて深く掘り広げた穴であり、そのことに夫は罪悪感を抱いていて、それで認知症気味になった妻がその穴に固執するのが、なによりつらい。妻が穴に落ちたのを陰から見、見殺しにしようとしたときは、ぞっとした。一方、『残暑』のほうは、店子である大学生に「高齢者DV」とアドバイスされた夫の行動の底にあるものは、戦時下の子殺しからくる悪夢のようなものであり、妻はそれを引き受けて添い遂げようとしている。おっとりした、かわいらしいおばあさんの中にある悲しみ。つくづく、生きるのってつらいなあ。

  • ふむ

  • 83歳理容師虎雄とそれを支える寧子の話。

    虎雄は寧子の認知症を認めているくせにそれを認めず放置している。仕事と友人にしか手間暇を掛けず、身内程蔑ろにし、人を下に見る癖が抜けないあの感じ。上の世代は特にそのタイプが多いよなぁ、と苦々しく思う。何しろ私の父と非常に似ている。
    子供時代にいじめていた同級生が店に訪れた時「許しに来てくれたのだ」と感じる図々しさ。そのおめでたさに苛つくが確かにその思考回路も分かる。相手を思いやる事をサボってきた人ならではの結論。

    物語はそんな虎雄の異常さをうっすらと纏わせながら描かれる。傍からみた老夫婦ののんびりとした光景を浮かばせながら。これはホラーかと思った。認知症の寧子の方がよっぽどまともに思える。

    もう一つの収録作の老夫婦。
    満州からの引上げ組という背景があまりに重く、言葉がない。
    我が子を母親が殺さねばならない。こんな狂った世界が現実に、そして手の届く世代におこっていたという事実が信じられない。

    読み味もとても良い。デビュー作とは驚きです。

  • 語り口や雰囲気はすごく良い

  • 同級生へのいじめの一環で、自分が深く掘った穴に、我が子が落ちて死ぬ。因果なことだなぁ。一見穏やかな老夫婦の辛い過去や、老老介護の場面で生じる互いへの殺意が描かれていた。

  • 第4回 林芙美子文学賞受賞作「タイガー理髪店心中」に「残暑のゆくえ」を加えた2篇収録。

    表題作はのどかな田舎町で暮らす、どこにでもいそうな老夫婦の話。

    亡き父が残してくれた理髪店「タイガー」83歳の寅雄だが、未だ現役で店主として店を続け、妻の寧子と共に一見平和な暮らしを送る。

    平々凡々な日常生活を送る中、少しづつ壊れて行く妻、それをどこか俯瞰的に見つめる夫、文中からは未必の殺意が感じられ静かな恐怖を感じる。

    「残暑のゆくえ」は食堂を営む日出代とその夫の過去の秘密が、ほの暗さを纏いながら徐々に明かされ陰鬱な読後感。

  • 奇妙な読後感が残る中編が2つ.村田寅雄がやっているタイガー理髪店を寧子がサポートしている.数少ない登場人物は、友人の長谷川伸也、結衣子など.特に大きな事件もなく、のんびりした空気が流れる物語.何とも落ち着く.後半は、日の出食堂を切りまわす日出代と須賀夫の物語.満州からの引揚者の日出代の思い出がいろいろことに展開していく.両編ともなにげない植物、フジウツギ、ヒイラギ、サルスベリなどが話の中で重要な位置を占めているのが面白かった.

  • 寅雄さんのことが好きになれなかった。小説だから、必ずしも登場人物に感情移入できなくてもよいのだと思うし、悪人が主人公の話もあるけど、寅雄さんはけっこうなくずなのに、なんとなくいい人ふうに描かれている感じがして、それが嫌だった。自分に甘いというか、都合よく考えすぎている人の、嫌な感じを意図して書いているならうまい。意図してるのかな…。特にサムイチさんのエピソードが、寅雄に都合が良すぎる解釈で頭を抱えた。許しにきたってなんでそんな話になるのか理解できなかった。
    タイトルはすごく素敵。タイガー理髪店心中って一度聞いたら忘れない。

  • 短編2作品とも老人から語られる物語。

    ●タイガー理髪店心中
    できることなら向かい合いたくない、事勿れで過ぎれば、主人公の誰にも明かせない過去と今の胸の内は物語にはならないのだけれど
    長年連れ添い、一緒に苦しんでこようと、波風たてないように繕って過ごす時間は、必ずしも愛情だけを育むものではないとぐずぐずと考えてしまう作品。
    狂気や気味の悪さの表現が天下一品。


    ●残暑のゆくえ
    70代の女性が幼少期の1年ほど、母と過ごした日ばかりにとらわれていることが気になるが、読むうちに納得がいき、寄り添って抱きしめたいような気持ちになった。

    戦争、特に満州から帰ってきた方達の物語で苦しく想像するに耐え難い内容も、主人公が「泣いたことがない」と言うとおり明るくユーモアで日常を生きているために読み進められるのだけど、何も語らない人の強さが切なかった。

    物語だけれど、世界で戦争が起こっている状況でご縁のあったこの作品は考えさせられるし、
    生き残っても時間は止まり、殺されていることを忘れてはいけない。

  • 表題になっているタイガー理髪店がよかった。

    たまたま、いっとき縁のあった人の実家の床屋がちょうど同じロケーションで。
    西側に国道、すぐ前には住民の使う細い生活道路。
    道の端っこの土部分になんとか工面して植物を植え育てる。まさにその通りで、あの家のことかと思った。
    この時代背景で虎雄だったら、きっちりした七三分けよりクラシカルバックの方が、しっくりくると思う。
    勝手にクラシカルバックにされたら、困るだろうけど。

    あの夫婦同様の道を、私の知る夫婦もたどるのかも…となんとも言えない気持ちになった。
    本の内容より、床屋用語や店内に馴染みがあるので、そこばかり注視していた…

    なんとも悲しくて切ない気持ちになる話でした。

  • 妻が認知症になっていくのを見ている夫の頭の中。外面と実際に思っていることが違っているのがリアル。せっかくよい嫁だと思っていてもわざと難しい顔をするところなど父にもあてはまるか。一瞬殺意を抱いてしまうところは私にも思い当たる。そしてボケた妻の本音が出てくるところがこわい。題名に心中が入っているのは言わずもがなの感じもするが、作者の意図が知りたい。
    「残暑のゆくえ」は平凡な暮らしの中で小さな幸せを紡いでいる主人公とその夫の過去がだんだんにわかってくる。のんきに暮らしている私からすれば凄惨な過去だ。95歳の父がエリート軍人教育を受けたあげくに戦地に赴く前に敗戦したので、こういう過去を知る人ももうあまり存命ではないか。とはいえいまも戦争が日常の国もあるし、世界的にきな臭くなってくるし、人間はなかなかこういう記憶を忘れることはできない。

  • 2篇の短編だが、二組の老夫婦を描いた幻想と現実
    の境を見事に表現した文章に、ゾクゾクさせられた。
    ホラーでは無いが、老夫婦の老いて行く現実世界
    と重苦しい過去との邂逅。
    老いて行く日々は目の前の事は忘れて行くが
    過去の記憶は逆に鮮明になって行くのかも知れない。

  • すごく洗練されて上品な印象すら受ける、静かな狂気。少しずつ少しずつ食い込んでくるような、削られていくような。

    迫る狂気と不穏な空気、美しい風景描写が同時に、静謐に描かれる。そして当たり前の様にそこにある自然な殺意。恐ろしい…けど恐ろしくない。なんて言えばいいのかわからない。

    舞台が理髪店なところもいいな。清潔感があって。

  • R2/10/25

  • 中編2編
    どちらも歳をとって来し方を折に触れ振り返る,過去へ誘う物語.過去が記憶と妄想といってもいいような思い出に溶け合って独自の世界を作っていく.少し怖いようなところもある物語.

  • 何を信じていいのかわからない不穏な空気。
    本当が何なのか、虎雄の語ることは願望や恐怖で全てが妄想である気もする。
    そうなるとこの話全体の根底が覆されていくような気持ちになる。
    だけど実際に相手の気持ちの全てがわかるわけない。
    長く連れ添った夫婦であったとしても語り合えないことはある。

  • 文学…
    なんだわなぁ

    高齢化社会へと突き進む昨今、老人そのものや終活、または看取りを題材にしたものも結構多く読んだが、70〜80代が一人称で語るものは初めてだった。

    二作品共に、その背景に人の命を奪った人間の「傷」が横たわる…という特殊なものだった所為なのかあまり心動く事は無かった。


    ◯タイガー理髪店心中

    父の代からの理髪店・タイガー理髪店の経営者・寅雄84歳は、過去に自分がイジメで同級生・サムイチを突き落としたその穴に、幼かった一人息子・辰雄が転落し亡くなっている。

    この所急激に物忘れが酷くなってきた妻・寧子の言動に疑念を抱きながらも振り払う日々だったが、ある秋の日、サムイチを彷彿させる客が散髪に訪れると、寧子がハルゼミを捕りに行くと言い残し謎の外出をする。
    そしてある晩、水切りカゴの茶碗の音をきっかけに狂気を孕んだ表情の寧子は「辰雄の所へ行く」と言い残し家を飛び出すのだった。

    夜な夜な繰り返される悪夢の道行き…
    そしてついに大雨の降る深夜、寧子があの穴に転落するのだった。


    ◯残暑のゆくえ

    ひとまわりも年上で寡黙なの夫・須賀夫の営むアパートの一角で定食屋を経営する日出代は、買い物の通り道のうらぶれた地下道を通る度、遠い日の記憶、そして自分を殺そうとした亡き母の自分への気持ちに想いを馳せるのだった。
    深夜、目に見えぬ敵に向かって獣のように殺気立ち暴れる須賀夫。

    ある日、亡くなった蝋燭屋・鶴田禄郎の息子が訪れ黄ばんだノートを見せられる。
    そこに書かれていたのは、「子殺し」と呼ばれていた禄郎と須賀夫が満洲の同じ部隊に属していた事…そして、引き揚げの際の、目を背けたくなる様な惨劇の様子だった。

  • タイガー理髪店、老いた店主は夜な夜な目の色を変えてさまよい出る妻の後を追う。
    はるか昔に死なせてしまった息子を探す妻の後を追う。
    じんわりと物悲しく恐ろしい。

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