スター

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.73
  • (57)
  • (102)
  • (87)
  • (16)
  • (3)
本棚登録 : 1235
レビュー : 115
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022517197

作品紹介・あらすじ

国民的スターって、今、いないよな。…… いや、もう、いらないのかも。誰もが発信者となった今、プロとアマチュアの境界線は消えた。新時代の「スター」は誰だ。作家生活10周年記念作品〔白版〕「どっちが先に有名監督になるか、勝負だな」新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原尚吾と大土井紘。ふたりは大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。受賞歴、再生回数、完成度、利益、受け手の反応――作品の質や価値は何をもって測られるのか。私たちはこの世界に、どの物差しを添えるのか。朝日新聞連載、デビュー10年にして放つ新世代の長編小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 作品の質や価値は何を持って測られるのか?
    古き良きものとニーズに合わせて生まれ変わってゆくもの。
    一言では言い尽くせない難しい問題だと思いました。
    学生時代に合作した映画で賞をとった尚吾と絋。卒業後、二人は別々の道を選ぶ。尚吾は古き良きものを追い続け、絋はYouTubeの世界で活躍する。
    自分を正当化したいがために相手のことを意地でも認めないながらも、自分自身の中にも揺らぎを感じ始める。
    結局、物事の価値に絶対的な正解なんてない。
    「自分がいない空間に対して『それは違う』、『それはおかしい』って指摘する資格は誰にもない」
    「誰かがしてることの悪いところよりも、自分がしてることの良いところを言えるようにしておこう」
    これは、どんな世界、関係の中でも言えることだと思いました。

  •  物語の主人公は、立原尚吾と大土井紘・大学三年生で映画賞の共同監督をしてグランプリを受賞した。

     大学を卒業しそれぞれの道を歩む
     ―どっちが先に有名監督になるか勝負だな。

     尚吾は、映画好きの祖父から「質のいいものに触れろ」と、片や紘は、父親から「よかて思うものは自分で選べ」と教えられた。

     尚吾は、レジェンドとも呼ばれる鐘ヶ江誠人監督が所属する映画製作会社へ、
    紘は、ある人から頼まれユーチューブの動画を撮ることになり、再び上京し二人はスタートラインに着くことになった。

     かつてグランプリを受賞したというプライドは影を落とした。才能があるという問題以前に高くて厚い壁にぶち当たることになる。世の中はそんな甘いもんじゃない、と痛感するが、少しのライバルの情報でも、隣の芝は青く見え焦りを覚える。

     尚吾「俺たちは、世に出られるハードルが高くて、だからこそ高品質である可能性も高くて、そのためには有料で提供するしかなくて、ゆえに拡散もされにくい」

     紘「常に、次に撮るもの、次に編集する素材で両手がいっぱいだ。腰を据えて何かを考える時間は足りない。アウトプットにインプットが追いついていない感覚が怖い。ましてクオリティ無視で大量生産では満足いく水準に全く達していかない」。

     彼らの不満は募るばかり。主張は理解できるが、やがて他者の考えを批判し排他的になる。以上が、この小説のあらすじです。

    「誰かがしてることの悪いところよりも、自分がしてることの良いところを言えるようにしておこう」と書いていた。金言だと思う。

     今、国民的スターと呼ばれる人は、誰なのか?名前が出てこない。

     テレビの電源を入れると、この人誰?
     ユーチューバーだった。
    プロとアマチュアの境界線は消えた。その通りだ。何ともやるせない。

    先日、テレビを視聴していると高倉健さんが笑ってた。昔の「徹子の部屋」の映像だった。
     読書は楽しい。

  • 昔ながらの質の高い映画作りを目指す尚吾と、感覚的に自分の美しいと思う瞬間をカメラに収める紘。大学時代に共同監督として有名な映画賞を受賞した2人が、有名映画監督の弟子とYouTubeでの動画配信という、全く別の道を歩み始める…。まず、この設定が熱い。熱すぎる。

    そして二人は別々の道で頭角を表していき、互いに比べ合い嫉妬し合いながらも、自分の作るべき作品や、作品の質は何をもって測られるのかという問いを深めていく。二人がその問いに、どんな答えを見つけたのか是非その目で確かめていただきたい。

    いろんなコンテンツで溢れた現代。

    例えばアニメばかり見ている人からすると、小説なんかはつまらないと感じるのかもしれない。

    逆に小説ばかり読んでいる人からすれば、アニメなんかはつまらないと感じるのかもしれない。

    違う分野に対して、自分の分野と比較して誰もが物申したくなる。しかしそんな比較や物申すなんてことは至極無駄なことなのである。

    比較などする必要はない。だって今は、誰しもが自分の好きなものや綺麗だと思うことを、素直に裸の気持ちで表現して伝えられる時代なのだから。

    大は小を兼ねない。

    自分が思う最高や正解なんて、とある特定の世界の中の頂点に過ぎない。いろんな種類の人が、いろんな種類の欲を満たすためにコンテンツを消費していく。その欲に、どっちが大きいだのどっちが小さいだの、優劣はつけられないのだ。

    消費者は、自分に合ったコンテンツを選ぶ。

    創作者は、自分の考える最高を描く。

    それでいいのだ。たったそれだけのことなのだと、そう思わせてくれるお話だった。

    私はこの小説に出会えてよかった。そう思います。 

  •  本に挟まれていたチラシに朝井リョウくんの一言が載っていた。

     どの家庭にも届く“新聞”に
     小説を連載することは
     子どもの頃からの夢でしたが,
     いざ現実になったとき,新聞の影響力は
     小さくなっていました。
     そんな認識のズレを行き来するうち
     削り出てきた文章たちです。

     本作品は,もともと「朝日新聞」に連載されたものらしい。
     いいものとは何か? 価値あるものとはなにか? そもそも,万人に価値のあるものというものはあるのか。
     映画監督をめざす二人の大学生(尚吾と紘)。卒業したあと進んだ道は,今までの映画界の王道(尚吾)と,ユーチューブを舞台とする新しい発信地(紘)。
     ライバル意識も燃やしながら,それぞれの場所でもなかなか満足できない二人。二人が,それぞれに自分のやっていることの現代的な意味などを考えながら,自分が求めたいものとは何かを考えていく。そこに絡んでくる千紗の物語も,とてもいい。
     主人公の尚吾と,その友人,紘。そして尚吾と同棲する千紗。3人とも前向きな生き方をしていてとても共感できた。というか,今回の小説は,みんな前向きだわ。読んでいて気持ちいい。372ページの千紗の言葉が一つの結論かな。
     
     最初に紹介したチラシによると,本作品と対照的な形で「正欲」という作品が来年春に出版されるらしい。「本書が白版,『正欲』は黒版」だとリョウくんは言うが…。どんな作品なのか今から楽しみ。

  • 新聞連載時から読んでいた作品。単行本化にあたり加筆修正されたとのことで購入して再読。

    社会に出て迷える若人が幾つかの経験から何がしかの答えを出す物語、というのは定番ではあるだろう。
    ただ本作はただの成長物語にとどまらない。
    多様化した価値観の中で、創作者や創作物の価値とは何か、そもそも価値のある無しは誰がどう判断するのかといった、すべての人に関わる問いを投げかける。
    日々変わるネット環境の中で感じる迷いや戸惑いにどのくらい深く向き合っているか。
    都合の良い答えを出して安心していないか。
    誰の何を信じて価値観の優劣を測っているのか。
    そもそも価値観とは何か。

    文芸作家である著者にとってはともすればブーメランになりそうな題材を、低迷する古参メディアである新聞に連載するというチャレンジにも拍手を送りたい。
    新聞にとって耳障りの良い話ではないが、中高年記者の皆様におかれては、この小説を読んで自社や自身の立ち位置を今一度考えてほしい。

    改めて読むともう少し深めて欲しかった部分などもある。
    それでも、現代の混沌を切り取ってそこからひとつの前向きな解を導き出すこの作品は、十周年記念に相応しい力作だと思う。

    今作は白版だそうで、来春黒版も出版されるとのこと。
    楽しみにしている。




  • 斜陽産業とかオワコンとか、自分がかかわっている世界についてそういう風に言われること、それを完全に否定できないこと。
    今まで通りでは成り立っていかないその中でどう生き延びていくか考えること、そういうあれこれが若い視点で描かれる。
    その世界にあこがれて、その世界で生きていくことを夢見てもがく二人。学生時代に映画祭でグランプリを取る、という「栄光」を背負い、そこからどう進んでいくか、を試される日々。
    伝統的な手法を守る名監督の下でまっすぐ進み続けようとする尚吾と、時代が求めるものに合わせYouTubeでの表現に進んでいく紘。それぞれの背景や生活環境、そして求めるもの信じるもの、の対比が、二人の現在を浮き上がらせる。
    「学生から就職」の夢と現実と葛藤という流れは朝井リョウらしくリアル。今回もYouTubeやオンラインサロンの現状をからめて「古き良き時代」と「新時代」のコンテンツ変化が古いアタマで読んでもわかりやすい。
    ただ、読み応え、という点では少し物足りなさを感じる。長く残る(残したい)往年のスター、名監督、名画座、そういう古き良きものと消費され回転していく新しいものたちをもう少しくっきりと描いて欲しかった気もする。

  • 物事に対する気持ちや意見を誰もが簡単に発信できる時代となり、価値とか質とかがどれだけの意味を持つのか。
    これだけ幅広く色々なものが発信される世の中では価値観は人それぞれで、それに意見する意見も幅広く様々。
    そんな中で自分の心にぶれないもの、自分の心に嘘のないものを作り出していくというクリェイター達の、その気持ちに至るまでの苦悩葛藤がとても良かった。

    今という時代をきっちり捉えた小説だなあとしみじみ思う。

  • 貶し合い、比較のオンパレード
    監督の言葉と感情が一番響いた

  •  濃密な時間が流れている。読み終わって、作中の時間が一年余りしか経っていないことに驚くほどに。
     二人の若さがまぶしく、対極にあるかのようで近い魂のありようが羨ましいほどだ。惹句にあるようなライバルものではない。もがきながら、真摯に自分の生き方を模索する二人(だけではないが)の姿が描かれている。嫉妬や焦りは当然あるが、拗れていかない素直さが好もしい。意見の違う人たちも頭から否定することはない。ないからこそ、迷い、悩むわけで。
     接する大人たちが、ちゃんと「大人」なのが嬉しい。若者を育てようとし、一方で自分も自分らしさを追求しようとしている、「まっとうな大人」像の体現者たち。できすぎなほど。
     作中、ある人物がある監督の映画を好きになった理由を「答えじゃなくて問いをくれるから」と答えるが、この本もまた、「答え」ではなく「問い」をくれる作品だ。

  • 中に挟まってた朝井リョウさんの白版へのコメントで「子供の頃、新聞に小説を連載するのは凄いことだった。実現した今新聞の影響力は小さくなっていた。」みたいなことを書いていてそれを言えちゃうのもすごいし、実際内容がお金を払って見に来てもらう映画と無料で色んなコンテンツが提供されるYouTube。
    影響するもの、それを作る側、受け取る側の心を考える作品だった。これからのエンタメコンテンツとして難しい問題だよなと思った。

全115件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

'朝井リョウ
一九八九年岐阜県生まれ。二〇〇九年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。一一年『チア男子!!』で高校生が選ぶ天竜文学賞、一三年『何者』で直木賞、一四年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。その他の著書に『星やどりの声』『もういちど生まれる』『少女は卒業しない』『スペードの3』『武道館』『世にも奇妙な君物語』『ままならないから私とあなた』『何様』、エッセイ集『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』などがある。

「2020年 『夜ふかしの本棚』 で使われていた紹介文から引用しています。」

朝井リョウの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

スターを本棚に登録しているひと

ツイートする
×