愛国とナチの間 メルケルのドイツはなぜ躓いたのか

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022517234

作品紹介・あらすじ

リベラル民主主義の守り手と称されたメルケル首相を追い詰めたのは、難民危機を追い風に台頭してきた右翼政党AfD。ナショナリズムの機運が高まり、政党関係なく「愛国」を語り始めるようになったドイツで、いま何が起こっているのか。

感想・レビュー・書評

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  • 右傾化する昨今のドイツ政治事情を解説した書。2020年10月刊行。

    本書によれば、「極右」「ネオナチ」とのレッテルを貼られながらも着実に勢力を伸ばしつつある保守政党 "AfD" は、「ドイツ社会に突如として現れた異形の政党ではなく、社会の根底に脈々と流れ、押さえつけられてきた保守派の本音が、ユーロ危機や難民危機をきっかけにして勢いを増し、政党という形をとって表舞台に躍り出てきた集団」なのだという。

    グローバル化し、格差が広がるドイツ社会から置き去りにされた弱者・貧者に対し、既存政党は十分な心のケアを行ってこなかった(その既存政党を率いるのは「「愛国主義」や化ナショナリズム」を頭ごなしに否定してきた戦後ドイツのエリート達」だ)。こうした既存政党を尻目に、庶民の不満の受け皿として着実に勢力を伸ばしたのがAfDだった。本来なら、中道右派であるはずの(メルケル率いる)CDUが、次々と左寄りの政策を打ち出し、保守系市民の声を拾える政党がAfDしかなくなってしまった、という事情もあるようだ。

    「戦後のドイツは、「ナショナルなもの」を否定することで周辺国の信頼を得、国際社会に復帰した経緯があ」るが、それを頑なに守り続けてきたことの歪みがあちこちで噴出しきている、ということなんだろうなあ。

    かねて疑問だった、ドイツの移民への極端とも言える寛容性について本書は、ドイツ「基本法は、ナチス時代にドイツから多くの人々が海外に逃れ、受け入れてもらったとの反省に立ち、第16条で「政治的に迫害されたものは、庇護権を有する」と定めている。国連の難民条約を批准する国は多いが、憲法で難民の受け入れを定めている国はまれだ。ドイツでは日本の「憲法9条」のような重みを持つ」。そして、戦後のドイツは、ナチスの過ちに対する「反省に立って再出発し、難民を積極的に受け入れることで、「原罪」を償おうとしてきた。この原罪の克服意識は、学校教育を通じて戦後ドイツ社会のアイデンティティーとも言えるものになった」、と解説している。憲法に根拠規定があるとは知らなかったなあ。

    この、人工的に(無理に)植えつけられた贖罪意識、決して健全なものとはいえないな。ドイツが、この鬱屈した贖罪意識から卒業できるのは一体いつになるんだろう。もしかしたら、今がその過渡期なのかもしれない。本書を読んで、そんな風に感じた。

    本書は、風見鶏との批判もあるプラグマティスト、メルケルについて、「彼女には、決して譲ることができない一線がある。それは反ユダヤ主義への対抗、そして自由と民主主義という価値観だ」、その政治手法については、「サイレント・ポピュリズム」(「意見が出尽くしたところで、最後に自分の立ち位置を明確にする」後出しじゃんけんのような手法)だ、という有識者の批評を紹介している。何れにしても、メルケル退陣後の政局は混沌としているようだ。日本の政治の先行きもさることながら、ドイツの先行きも気になるなあ。

  • 選書番号:246

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