そして、海の泡になる

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.28
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本棚登録 : 188
レビュー : 32
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022517326

作品紹介・あらすじ

バブル期に、個人として史上最高額4300億円の負債を抱え、自己破産した朝比奈ハル。「北浜の魔女」と呼ばれた彼女は、平成が終わる年にひっそりと獄死した。和歌山の寒村で生まれ育ったハルは、いかにしてのし上がっていったのか、彼女は果たしてどんな人物だったのか。その生涯を小説に書こうと決めた“私”は、生前の彼女を知る関係者に聞き取りを始める。
終戦、バブル崩壊、コロナ禍……。それまでの日常が、決定的に変わってしまうとき、この日本社会に生きる人々はどう振舞ってきたのか。
「小説トリッパー」二〇一九年夏号から二〇二〇年春号の連載を、大幅に加筆修正。注目の著者による勝負作。

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった一冊。

    マネーゲームに身を投じ、自己破産し獄死した一人の女性朝比奈ハルの生涯をインタビュー形式で描いていく物語。

    バブル期、崩壊、コロナ禍、時代を振り返り、今の時代をしっかり追う、この重なり合う描き方はもちろん、終盤にミステリなんだとしっかりと気づかされる仕掛けが巧い。

    この、時代の流れに沿った人の欲望を見事に分析し、生き方に繋げていく…好きに生きることって案外難しい中、ハルの生き方は輝かしく見えたな。

    伏線も確認して納得。

    面白かった?と聞かれたら、うん、面白かった!と応える、そんな社会派ミステリ。

  • 前作「blue」では平成が始まった日に生まれ、平成が終わった日に命を終えた一人の青年の物語を描いたが、今作では太平洋戦争前に生まれ、焼け野原の戦後を力強く生き、バブル期にはマネーゲームに興じ、個人としては最高額と言われる4,300億円もの負債を抱えた一人の女性・朝比奈ハルの半生をインタビュー形式で描く。
    戦後、バブル、そしてコロナ…
    この3つの時代の大きな分岐点を、よく比較して描かれていると思う。
    そして、その大きな波を自分らしく生きた朝比奈ハルと言う女性は、読んでいる途中は自分勝手だと思っていたが、最後まで読んでみると、「こんな考え方もあるかも」と思えるような仕上がりはさすが。
    すっかり半生記を読まされていると思っていたら、まさかの残り100ページを切った当たりでどんでん返しを入れて来るのは、久々にゾクゾクした。
    でも、インタビュー形式だと思っていなかったので、評価は少し低めで…
    大幅な加筆でコロナ禍に合わせて来た作者の力量は確かだろう。

  • 前作「ブルー」と同様の時代振り返りミステリー。平成に絞った前作と異なり、終戦直後から令和2年の今までを俯瞰。敗戦、バブル崩壊とコロナ禍を重ね合わせ、1人の女の生き様が証言形式で語られる。時代背景の説明が若干わざとらしく、二番煎じの感もあるが、葉真中さんらしい仕掛けは健在。終盤の展開に「エッ!?」となる。皮肉にも想定外のパンデミックが訪れたことで、より現実味が増す話になったのではないかと。加筆修正は大変だったでしょうが…。

  • 葉真中さんが続く。「W県警の悲劇」はらしくなかったが、こちらはいつもの社会派ミステリ。構成は真梨幸子さん風に感じたが。

    本書は「北浜の天才相場師」「バブルの女帝」等と呼ばれた女将、尾上縫がモデルとなっていることは想像に易い。破産した時の負債総額は4300億円。当時借入金が1兆円超え。そしてその当人は株式の知識ゼロ。ガマガエルの石像を御神体として祀っていた。

    と、そんな人物を時代と共に紐解きながらミステリとして完成したこの本。この人がアレンジして描かれているのは楽しく面白かった。コロナとバブルのコラボ。だが、足りないとすればコクと深みか。尾上縫本人のエピソードが強すぎるので、ミステリ要素が不要に感じる。

  • 終戦からコロナの時代まで。大阪万博はいけそうだけど、オリンピックは無理かも、という正に今のこの時までを駆け抜けた女性の物語。インタビュー形式だけど、突然視点が変わってちょっと驚く。自由とお金。気持ちよい程徹底した生き方に見えたけど、幸せだったのか?と聞かれて戸惑うその気持ちが少し分かる気がしました。刑務所まるごと買収できる程の資産を持ちながら、そこに幸せはなかったらしい。ただ、コロナ禍の今「お金」だよね、とも思う。現実問題。葉真中さんは、こういう痛みを伴う疾走感を書かれるのが上手だな、と思います。

  • その時代に起きた出来事や犯罪が詳細に語られていて、リアリティあるなと思っていたら、実際に起きた出来事や人物をモデルにしていたということを読み終わった後に判明しました。
    実際のモデルは尾上縫。小説の中では、「北浜の魔女」と呼ばれた朝比奈ハルとして登場します。

    一対一のインタビュー形式で、物語は進行します。刑務所で一緒になった女性や幼なじみなど朝比奈ハルの関係者たちから浮かんでくる「朝比奈ハル」像。その生涯は、壮絶な人生を歩んでいます。朝比奈ハル自身の視点はなく、関係者自身の生涯にハルの過去を取り入れながら、事件の全体が見えてきます。

    終戦やバブル崩壊、コロナ禍。一見バラバラな出来事ですが、共通しているのはお金の動き。振り幅は違えども、お金が招く人々の幸福や悲劇が共通しています。ここに登場する人物が、まるで現実で生きていたかのように心理描写がリアルでした。集団心理やそれぞれが持つ何かしらの欲望、人間ってこうも人が変わっていくんだなと思い知らされました。
    何事も程々だなとは思いましたが、改めてお金の魔力は恐ろしいと感じました。

    後半までは、特にミステリーというよりは、ザ・ノンフィクションのようなドキュメンタリーを読んでいたのですが、徐々にミステリーへと変わっていきます。
    インタビュアーの「私」は誰なのか?事件の本当の真相とは?「うみうし様」とは?次々と出てくる衝撃の事実に圧倒されました。
    なんとなく違う真実があるのでは?とは思っていましたが、まさかこう来るとは・・・。証言者が発する伏線も後に回収していて、楽しめました。

    犯人は直接この人!という書き方ではなく、間接的に匂わせる書き方でしたが、読み手としては、あの人だと想像することができます。

    平成のバブル期が多く描かれていましたが、コロナ禍だからこそ感じたこと、特に最後の部分が印象的でした。歪みはあるかもしれませんが、人間の本性が多く詰まった作品でした。

  • 2021.07.11

    面白かった!読みきるつもりなく読み始めたけど止まらなくて3時間ほどで読了。さすが葉真中さん!
    「人」を書くのが上手。普通の人の人生なのに引き込まれる。
    尾上縫さんという方が朝比奈ハルのモデルになっている人んですね。後で調べてみよう。

    お金があってワガママに生きても幸せになれないなら「幸せ」ってなんなんだろうって思った。

    コロナとバブル。これから日本で生きてて幸せになれることってあるのかな…。

  • 尾上縫がモデルであろう女性の戦後~バブル期~現代を通した一代記。
    いくつかのエピソードに謎解きの鍵が仕掛けられており、ミステリーとして面白く読めた。最大の鍵は正直、都合がよすぎると思うが許容範囲。

    登場人物が漏らす本音が通俗的だが名言っぽく心に刺さった。
    「お金は平等。ただし偏在している」
    「左翼思想は何物にもなれなかった男の僻み」
    「自由は怖い。他人の支配下にある方が安心する」
    「大蔵省のビビり役人が失われた30年の元凶」
    「モノはたくさんあったけど、本当にほしかったものは一つもなかった」
    「自分だけいい目にあってツケを他人に押し付けた奴らが憎い。だが憎しみの本音も『自分もいい目をみたい』という妬みなのが情けない」
    「(戦争に)また負けたのか」


    敗戦で誇りを失い、代わりに繁栄を手に入れた日本が、その豊かさも失ってしまった現代。「ドリフターズ」信長のセリフ「飯も誇りもなくなると、どうでもよくなる」を思い出す。

  • 02月-20。2.5点。
    バブル期に活躍した、料亭の女将。尾上縫がモデル。
    刑務所で亡くなるが、半生を取材するという形式で、関係者の証言で進む。

    うーーん、事件の真相があっけない感じ。それなりにサプライズはあったが。

  • 葉真中さんの作品「絶叫」で感じた主人公女性の強い生命力をこの作品のハルさんにも感じた。しかし幸せだったのか?の問いかけに対するハルさんの答が、生きることの難しさ、切なさを表している。
    泡とはバブル。戦後からバブル崩壊までが一つの時代とするなら、今またネット社会、グローバル化の加速からのコロナ危機でまた時代が一つ終わっていくのだろうか?このネット社会において世界を脅かしているのが、生きたウイルスという皮肉。泡は消えていったが、コロナウイルスは、そう簡単に消えてはくれない。

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著者プロフィール

1976年東京都生まれ。2013年、「ロスト・ケア」で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビュー。2019年、『凍てつく太陽』で第21回大藪春彦賞、第72回日本推理作家協会賞長編及び連作短編部門受賞。ほかに、『絶叫』『コクーン』『Blue』『そして、海の泡になる』など著書多数。

「2021年 『W県警の悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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