- Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022517340
作品紹介・あらすじ
伝説のデザイナーがいた。前田美波里をスターにした資生堂のポスター、大ブームになったパルコの広告。それらを手がけた後に渡米し、アカデミー賞に輝いた彼女は、変化の時代をいかにサバイブしたのか。スティーブ・ジョブズも崇拝したエイコの「私」に迫る評伝。
感想・レビュー・書評
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エネルギーとかパワーのある方の本が読みたかった。で、石岡瑛子さんの回顧展が大ヒットした前後で、この本とか、回顧展の図録を、とてもいいよとお人に勧めたりもしたなと思い出して、もう一度熟読リトライした。
いや、4日間、ただただこの本だけ集中した。他にうろうろしながら読める本ではない。石岡瑛子さんの持つエネルギーに、文字伝いと言えども向き合おうとすると、他の本には行けないし、ゲームとかもしようと思わない。濃い、密度の濃い評伝だった。
孤独で、つよくて、繊細な。そういうひと。
PARCOのポスターも、うっすらイメージが有る。ほんとに小さい頃、一番身近なおでかけは、池袋だったから、どこかで触れたのかもしれない。正直、そのころの印象は『怖かった』。今見ても、怖い。資生堂ホネケーキは、祖母の家に行くといつもあって、美しいルビー色も匂いも好きで。今もストッカーに一個や二個は、そっとしまっていたんじゃないか。
『ホネケーキを贈ってくれたひとは、あなたに自分の美の秘密を明かしてくれているのかもしれません。』
みたいな文言が、贈答用の箱にはカードで添えてあったように思う。キャッチコピーとか、コピーライティングなんて知らなかったけど、品物と結びついているんだから、すごいものだ。
映画『ザ・セル』を観てみると、焼けつくような砂漠に、痛いほどのブルーの空。そこに瑛子さん独特の白いドレスを着たジェニファー・ロペス。それを見た時、連続フィルムみたいに、PARCOの『わからないけど怖くて』『でも何かありそうで』『尖った』広告が、角川文庫の(だったはず)広告の青い空が、細かいことはわからないのに、影絵みたいにガッと浮かぶ。
怖かったのも当然なのだ。真剣に作ったものなんだから、怖くもなろう。遊びじゃないんだぞ、という圧が、まだ幼いまでもいかない、小さな子供には、怖かったのだろう。石岡さんの作ったものは、どこまでもやっぱり、大人のための、ビターで官能的で、本気な創造物。
今の私が見て、元気が出たとか、パワーもらえたかというと、ちょっと違う。まだ、私は迷い道にいる。ただ、歳とか、お金とか、そういうことは一旦置いて。うろうろしないで。本当に納得の行く答えが出るまで、迷路の上に見える空をじっくり見て。青いな。マジで蒼い。って。ふらふらしないで、腰据えて答え探そう、って。それだけは感じた。納得もしていないのに、へにゃへにゃした解答をだすくらいなら、ああ、私はここまでだ、って、斃れてもいいから、それで本当にいいのか?という問いを、厳しく投げ続けていきたい。
生き方にドラマがある人は、やっぱりすごい。クレイジーで、ラブリーで。怖くて、きれいだ。こっちの弱さを切り裂いてくる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
石岡瑛子さん自体の人生が面白いので、本もとても面白い。映画(アカデミー賞)、演劇(トニー賞)、音楽(グラミー賞)を受賞してる唯一の人。起業論としても面白い。一気に読めます。
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産経新聞2021117掲載
読売新聞202127掲載
毎日新聞2021515掲載 -
2021/04/01 購入
2021/05/01 読了 -
世代的には、コッポラ監督作「ドラキュラ」でアカデミー賞衣装デザイン部門を授賞し一躍有名になった衣装デザイナー、という印象の石岡瑛子。キャリアの始めは資生堂の広告デザインで、独立してからはパルコの広告・CMで知られた人なんだなーということをほとんど初めて知った。本人は衣装デザイナーという肩書は決して用いず、アートディレクターとして広告に映画に演劇に、ミュージックビデオにサーカス、本の装丁などジャンルを問わず、ニューヨークを拠点に国境もなく数々の作品を手掛けた。その活動は本当に精力的でボーダーレス。
前半ではアートディレクターという職業や役割がもう一つわからず、写真家やデザイナーや様々なスタッフみんなで作り上げた作品をその名も「EIKO BY EIKO」という作品集にまとめて出版し、それを世界進出への名刺代わりとしたこと、レニ・リーフェンシュタールに影響を受け仲も良かったことから、あまり共感できず、やっぱり世界で名を成す人ってこのくらいエゴイスティックでないといけないんだろうなあ、と思った。が、後半、ファインアートには進まず、あくまでオファーを受けてそれに応える形でジャンルを問わないクリエイションを続け、それによりいわゆるアーティストほどの評価には繋がっていなくとも自分の好きな道を突き進んだ独自性と、有名になってからも守りに入らず衰えを感じさせず、若いアーティストたちとの新しい挑戦を好んだ柔軟性に魅力を感じるようになった。
タイトルのタイムレスは、石岡のクリエイションのポリシーだが、彼女の仕事ぶりや生き方は、年齢にとらわれず文字どおりのエイジレスだ。著者はそんな石岡の人生を辿る際、いちいちその時何歳だったかを書かない。生年から計算すればわかるのだが、びっくりするほど若々しく、70代で亡くなったのがあまりに早く感じられるほど、まだ50代くらいだったんじゃないかと思われるほど。こんなカッコいい女性いたんだ!
石岡本人が使っていた言葉のようだが、文中何度も何度も出てくる「お手合わせ」という表現は何だか品がない気がしてひっかかったが、全体として主人公への敬意が感じられる読み応えのある評伝だった。 -
東京都現代美術館で初の回顧展「血が、汗が、涙がデザインできるか」を観覧して、あまりの素晴らしさに新たに出版された伝記作品である本作を会場で購入したが、回顧展の直後に読んだこともあってか、彼女が一生涯を捧げた作品の数々やその完成に至る格闘をまとめた本作は非常に面白く読めた。
私が彼女の存在を認知したのはMiles Davisの80年代を代表する一作といえる『TUTU』のアルバムジャケットのデザイナーとしてであった。80年代マイルスのアルバムジャケットは『You're Under Arrest』を始めとして「評価を差し控えさせていただく」と言いたくなるような酷い出来のものが多い中で、真っ直ぐにこちらを見つめるマイルスのポートレートをあしらった『TUTU』の完成度は群を抜いている。
一方で、私自身の石岡瑛子に関する初期知識は実はそれくらいであり、展示を観て、東京藝大を卒業後にデザイナーとして入社した資生堂を始め、パルコなどの広告分野での目覚ましいクリエイティビティ、そしてそこから徐々に演劇・オペラ・映画などの衣装デザインなどへと活躍の幅が広がっていく創作の幅の広さに驚かされた、というのが正直なところである。
そして最も刺激的であったのは、広告ポスターのようなクリエイティブにおいて、印刷会社から上がってきた見本刷にう対する容赦ない赤ペンの数々であった。そこには「文字が汚い!!」などの容赦ないコメントが浴びせられているが、タイポグラフィのセンスの全くない私などが見ると、どこに汚さがあるのか、正直よく分からない。そう思いながらじっくりと見本刷りを見ると、確かにフォントに若干の刺々しさがあるなどの細部に気づく(とはいえ、それは素人が見てもほとんど認知されないレベルの問題であるのは間違いがない)。プロフェッショナルという存在は、ここまでの細部に半ば狂気的に取り組むのか、という認識を新たにした次第。
ぜひ本書は冒頭の回顧展とセットで体験していただきたい。何かを生み出したい、生み出そうとしている人に物凄い刺激が得られる展示会だと強く自信を持ってお勧めできる。