何とかならない時代の幸福論

  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 718
感想 : 52
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022517418

作品紹介・あらすじ

放送時、大反響をよんだNHK Eテレ「SWITCHインタビュー 達人達」とその未放送分、またコロナ後、新たに設定された対談を収録した一冊。対談はブレイディさんの「(イギリスに移住してから)23年経っても日本はあまり変わらない」、鴻上さんの「日本はどこに向かって変わっていいか分からないのでは」と始まり、日本社会とイギリス社会を交錯させながら、それぞれを象徴する興味深いエピソードが語られる。またあらたにおこなわれた対談では、コロナ禍で表面化した国民性について、日本では自粛警察が勃興し、イギリスではスーパーからパスタが買い占められたことなど国の事情を対比させながら、「生きづらい」という言葉が増す日本でどう風通しをよくし、幸せを感じられる国になる道を探るのか、その可能性とヒントが語られる。

感想・レビュー・書評

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  • 日本人にあるのは「世間」とういう考え方であって、「社会」ではない。
    という定義を軸に展開される、「空気を読んでも従わない」を読んだとき、ぼんやりしていた物の焦点がピタリとあった。
    その著者である鴻上さんと、「子どもたちの階級闘争」「僕はイエローでホワイトでちょっとブルー」で、イギリスの格差社会とそこにいる人々、とりわけ若い世代について伝えてくれたブレイディさんの対談が書籍化されたもの。

    日本は「社会」という考え方が浸透していないのだなぁ…と改めて思う。
    自分に直接かかわる「世間」には敏感だが、自分が直接かかわらない「社会」には無関心になりがち。だから、政治に対する関心も薄いのだろう。
    しかし、コロナ禍があり、人々の考え方も少し変わっていたのではないだろうか。
    今読むのにぴったりな本だと思う。

    ブレイディさんがブレア政権下での多様性教育の改革とその徹底ぶりをかなり評価されていた。日本では、まだスカート丈がとか、Yシャツの下にガラTはダメとか言ってるもんなぁ…とため息が出たが、最近そのブレアさんの租税回避が報道され、なんとも複雑な気分になった。

  • イギリス在住・ブレイディみかこさんならではの視点と、同調圧力から日本・コロナ禍をみる鴻上尚史さん。

    お2人の視点が、深く心に染みる1冊。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    NHK Eテレ「SWITCH」インタビュー(2020年春の対談)が基になっていますが、未放送分や2020年秋にあらたに行った対談も収録されています。
    おなじ年でも春と秋での対談の焦点がすこし違っていて、そこもおもしろく感じました。

    対談形式の文章なので、話し言葉で書かれているため、その形式に慣れない方はすこし読みにくさを覚えるかもしれません。
    しかし本文のデザインは、とても読みやすいものになっていますし、まずは開いてさわりを読まれてからそのまま開き続けるか、閉じるかを決めればいいのだと思います。

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    わたしは日本に生まれ日本以外では暮らしたことがないので、イギリスで子育て中のブレイディみかこさんによって語られるイギリスの教育の現状が、とても新鮮でした。
    イギリスの教育の現状だけではなく、なぜそんなカリキュラムになったのかが、政治的な背景も踏まえて語られていて、教育と政治は切っても切り離せないこと、そして歴史の勉強って本当はこういう風に自分の考えを生み出すために生かされるものなんだな、とつくづく思いました。
    いまも変わらず年号や歴史の出来事を暗記しているような日本の教育からは、絶対に生まれてこない対談内容だと感じました。

    すこし話が戻りますが、「政治と教育はつながっている」という意味で、とても印象深かったのは「自助、共助、公助…という順序」(126ページ~)という章でした。
    「自助(自分で防災する)、共助(周りの人と助け合う)、公助(公的な支援)、そして絆」という言葉は、菅総理の言葉だそうですが、  はじめにこの章を読んだときは「その言葉のなにがいけないのだろう??」と思っていました。
    そこに疑問を持てないというこそ、まさにわたしは「自助、共助、公助」という教育にどっぷり浸かってしまっていたということですね。


    あまりにわからなくて2回目読みをし、そのときになんとなく、この「自助、共助、公助、絆」という考え方こそが、鴻上さんがいわれている「社会」と「世間」という考え方そのものであり、生きづらさ・息苦しさを生んでいるおおもとの考え方なのだ…と理解しました。
    そしてその考え方を日本のトップである首相が堂々と明言していることが、とても問題なのか、と感じました。

    「自助、共助、公助」という考え方を、最も力のある政治家が信念として持っているということは、その考え方の上で教育カリキュラムが成り立ってしまうということです。
    「自助、共助、公助」の考え方は、鴻上尚史さんが言われている「世間」と「社会」の世界観とぴったり重なります。
    生きづらさ・息苦しさを生んでいるのが「世間」と「社会」という世界、でも日本はその考え方に通じる「自助、共助、公助」という理念を掲げて物事を行ったり教育が行われている…ということは、これからもどんどん、生きづらさを感じる人を作り出してまうということです。
    そう考えると、ぞっとしませんか。

    だから学校「以外」の人・物・コトに触れ、違う視点から眺められる人でいなければならないのです。
    ですが、そのきっかけには(悲しいけれど)、学校にいるだけでは出会えません。

    日本の外に飛び出せないのならば、せめて本を開いてみてください。
    自分の信じている考え方が、本当に絶対的な考え方なのか…疑問に思い、考えるきっかけが、きっと本の中につまっています。

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    そうは言っても、「何とかならない時代の幸福論」はピンとこなかったよ…という方には一度本書を閉じ、まずは「『空気』を読んでも従わない。」(鴻上尚史・著)から読まれてみることをオススメします。
    「『空気』を読んでも従わない。」は、中高生向けの新書ですので読みやすいですし、特に生きづらさを感じている方にとっては、目から鱗の考え方が書かれていると思います。

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    コロナ禍は現在進行形で続いています。
    今までできていたことが、できなくなったということは、既存の考え方をぶち壊して新しい概念を作り出すチャンスでもあります。
    苦境の時代だからこそ、今まで信じていたものを一回横に置いて、「何とかならない時代の幸福論」から、自分でこれから自分の歩く道を考えるエッセンスをいただいてみませんか。

  • NHKの対談番組のお二人の回を未放送分も含め加筆・修正し、書籍化したもの。

    お二人が抱いている日本に対する問題意識は、わたしも同感だ。
    欧米の民主主義は歴史の中で血を流して獲得したものであり、日本でなかなかそれが定着しない所以はそこにある、という点はなるほどなと思った。鴻上さんは、日本では一度「世間認定」されたら、相互扶助が働き、とても居心地の良い世界だが、そうなると今度は一歩踏み込んで相手と自分の立ち位置を確認しないと落ち着かない人が多い、と述べており、これも正にそうだなと。

    もともと歩んできた歴史が異なるため、どの国も同じようにいかないが、日本の、周りと同じ出なけれな叩くといったいった姿勢(本書の中では « sameness »と言われていた)は窮屈だなとつくづく思う。ブレディさんは、sympathy(自分の立場から相手に同情するの)でなくempathy(相手の立場に立って考える)、sameness(同一)でなくequality(機会の均等)だと言っていた。

    先日読んだフィンランドの働き方に関する本でも感じたが、同じようなリクルートスーツを着て就活し新卒で一斉に就職したりと、こうであるべき、という圧力が日本はとりわけ強い。そうではなくて、多様性を認め、誰もがやり直したり、周りを気にせずやりたいことに挑戦できる環境だと窮屈じゃないのになと思う。この本でも、日本は他国に比べ、抜群に安全だと言われていた。安全性もなかなか得難い長所だと思うので、同調圧力的なものがなくなれば最高なのにと思う。
    お二人も述べられていたが、やはりまず教育が重要になってくるのではないだろうか。小さい時から違いを認め、自分の頭で考え自己肯定感を高められるようになれば、少しずつ色々変わってくるのではないかと思った。

  • 評価4.5 すごく良かったけど、もう少しタイトルに即した、こういう時代でどう幸福を見つけるのか、今、具体的にできることを教えて欲しかった。お二人が教育を重要視していること、未来に向けて考えてることは非常によく伝わったが。
    ++++++++++++++++
    ブレイディみかこさんと鴻上尚史さんの対談、「何とかならない時代の幸福論」と言うタイトル。これは絶対に読みたい!と購入。
    何とかならない時代。今の世の中の閉塞感、、、ホント何とかなる、って思えないんだよな、と思っていたので。

    さて。ここからお二人が述べていたことについて、印象に残ったことなど記述していきます。
    残念ながら、どうしても日本のここが問題だよね、って言うことが多くなります。(そして長くなります)
    そうすると、そういう論調を嫌う方々は「何でもかんでも欧米が先端、優れているって言うな」「日本の方が良い所だって沢山あるだろ」と否定しがちなので、
    最初に書いておきたいのは、この本でも、確かに日本の良さよりも問題点が中心になっています。けれども、イギリスのダメなところにもきちんと触れていますし、日本の状況をよくするために、何が必要なのかと真剣に考えるからこそ、問題定義が多くなります。こういう場で、日本礼賛をしても仕方ないですよね。・・・まあこれも私個人の考え方ですが。
    さてここからは、ネタばれなので、これから読もうと思っている方はご注意を。

    ●クリエイティビティの目覚めは1・2歳
    ・イギリスの保育士資格取得のためのコースで習ったこと
    ・ミラーニューロン
    ・人と違うことをやってみようと思うのが人間のクリエィティビティの目覚めだから、保育士は、それを妨げてはいけない
    ・日本は人と違うことをしようとすると、我儘と言われたり、みんなと一緒のことをして、と言われる。もしこれがクリエィティビティの目覚めを妨げるとしたら、そういう教育を受けた子供たちは早い時期に創造性を潰されるかもしれない
    ・ここ20年近く日本からグローバルスタンダードな企業が出てこないのも、これが一番の原因では。
     かつての高度経済成長にいく途中のいろんな試行錯誤ができた時代は企業が全部若く、前例がなくても問題がなく好きなことがやれた結果、SONYや任天堂など世界的企業が生まれた

    ●異なる環境の家庭が触れ合う日本の保育園
     ・イギリスは自分たちで保育園を選ぶ。階級が違う子供たちはまじりあわない
     ・日本は自治体が選ぶ。そうするとイギリスと違ってミドルクラスの子供と貧困層の子供が分かれないことになる。それは日本の素晴らしいところで、そういう環境でこその学びがある。

    ●「samaness」と「equality」の勘違い
    ・日本人は平等をsamenessと捉えているのでは
    ・平等の概念は人種・環境・宗教・ジェンダーが違う人たちが共生していくために、違うからと言って不平等な扱いをしてはいけないということ。
    ・それをみんな同じ扱いをしましょう、ということがequality(機会平等/鴻上さん)
    ・単なる「同じ」。同じことが正しいかのような、違うもの同士の共生と言う前提がないsameness(結果平等)

    ●シンパシーとエンパシー
    ・「エンパシー」とは、その人の立場を想像してみる力。英英辞書ではアビリティと書いてある。
    ・「シンパシー」とは感情的に同情したり、同じような意見を持つ人に共感すること
    ・エンパシーと言う能力をあげていくことが、多様性には大事、とブレイディさんの息子は学校で学んでいる

    ●世間と社会
    ・自分と利害関係がある人たちが世間で、利害関係が無い人たちが社会
    ・2019年の台風の時に、避難所がホームレスを断った。
    この時で考えると、避難所に集まった人たちは区役所にとって世間、ホームレスは社会。区役所の人は世間を優先し社会を無視した。
    ・ブレイディさんの息子さんは、この出来事を知り「日本人は社会に対する信頼が足りないんじゃないか」と言った。つまり「周囲の人たちがきっと(ホームレスを受け入れるのは)嫌だって言うに違いない」と考えるからで、それはあまりに社会に信頼がないのでは
    ・日本人がベビーカーで階段を上がっている女性や困っている高齢者を助けないのは、それが社会に属する人で世間ではないから。イギリスは見知らぬ人を助ける。
    ・日本の芸能人はコロナに罹ったとき、「世間」に対して謝罪していた

    ●自助・共助・公助・・・と言う順番
    ・菅総理が「まず自助があって、共助があって、公助だ」と言った。「絆」とも言った。
    ・公助がまさに、鴻上さんの言う「社会」、共助は「世間」
    ・法律で定められている人間関係が「社会」。要するに法律があって国の仕組み(システム)があって、福祉のシステムがあって、それが機能していくのが社会
    ・自助というコンセプトは新自由主義的
    ・自助、共助、公助と言う順番は、ものすごくわかりやすく日本の構造を表している

    ●新自由主義・緊縮
    ・マーガレット・サッチャーは労働階級から成功した人で、「自分の力で何とかする」と言う考えの強い人。つまり「自助」の考え方。「社会はない」と言った
    ・ジョンソン首相はコロナに罹ったあと、移民の看護師二人を名指しして感謝を述べた。「社会はある」との発言もあった。EU離脱を進めてきた人でもあり、イギリス人は醒めて受け取っていた。

    ●一次データと二次データ
    ・ブレイディさんの息子がさんの学校で「一次データと二次データの両方を使ってリサーチする」と言う宿題があった
    ・一次データとは、自分で直接取材やインタビューをしたネタやデータ。二次データとはどこかの世論調査の結果や出版物・ネットに載っている、自分で調べたわけではないデータ
    ・ニュースを見た時に、それが一次データか二次データかを判別できるようになる

    ●その他印象に残ったこと
    ・息子さんの歴史の授業の中で出てきた意見
    「未来の人の知る権利のため」「人間と言うのは、今生きている人だけじゃない。未来に生きる人たちにも、過去に起きたこと、つまり、今の時代に何が起きているかということを知る権利がある」
    →鴻上さん:公文書を改竄することがいかに愚かなことかが分かる
    ※これは私自身『日本語を取り戻す/小田嶋隆』を読んだ時に、すごく印象に残ったことでもあり印象的。
    ・過去20年世界は、それなりに順調に経済が拡大しているのに、日本は物価が変わらないどころか、実質賃金が下がっている。最近よく、日本の若者があまり海外に行きたがらないと言うけど、お金の問題もある。デフレを終わらせて、若い人が海外に行けるようにならないと。だから、結局「反緊縮」につながる
    ・日本にいる外国人によると日本は「ものすごく安全」「客としてはこんなに天国な国はない」だから自分の国で働いて日本で客になるのが絶対いい。間違っても日本で働いて自分の国で客になったらダメ
    ・鴻上さんは「反日業界」に睨まれている!(笑)
    ・初めて選挙に立った時の街頭演説でいきなり「下々の皆さん」って言った人がいる。麻生太郎さん!(爆笑)

  • サクッと読めてとってもいい
    シティズンシップ教育と道徳の話あってそうこれ私がゼミ論で書きたいことって感じゼミ論としてこの本提出したい怠惰

  • この国の未来を考える。今最もトレンドな二人のアフターコロナに向けた有意義な対談。

    イギリス社会と比較しつつ日本社会の欠点を校則ほか同調圧力等から考える。

    世間と社会、シンパシーとエンパシーの比較は興味深い。

    コミュニケーションを身につけるための演劇学習という視点は面白い。国会中継が俄然面白くなるだろう。みんなR4氏みたくなっても困るが。中身がありつつ演劇敵な表現力を政治家はもっと持っていい。

    対談なのですっきりと読めるが一つ一つの内容は実に重い。出版が朝日新聞出版というところはいかにも。

  • 英国と日本を比べても仕方が無いとは思うのですが、どちらもお互いの相似形というか、将来的にどうなるかという事自体は参考になる部分もあるかもしれません。
    英国は社会保障が削減激しく貧困層は相当の貧困らしいので、日本の方がましな感じがしますが、草の根的には英国の方が相互扶助出来ているようです。
    でも日本人は自分が貧困であることを物凄く恥に感じるので、自分と同じ一市民に貧困に対する扶助をしてもらうのは抵抗あるかも。これは自分をひるがえってもそう思うだろうなと。
    特に答えの有る対談では無いのですが、色々考えさせられる本です。

  • NHKEテレ「SWICHインタビュー達人達」2020.3.21放送 の対談。プラス後日の対談も所収。

    鴻上氏はブレイディみかこさんのご指名。みかこさんは日本の情報源はネットだという。その鴻上氏の「AERA dot.」での人生相談が真正面から長く熱く語っているので、日本の状況について学ぶことが多いという。

    イギリスでは中学になると「演劇」の科目がある。そこで「役」になることにより、自分では考ええない人物の気持ちを考えるのに大変有効だ、という。自分の気持ちを言葉で表現する教育に重きを置いているという。それは相手の気持ちも分からなければならず、幼児の時から、泣いてる顔、などをみせ、これはどういう気持ちなのか、などとやるという。
    鴻上氏は演劇人なので、大変興味をそそられた模様。

    なんとイギリスでは教科書がないそうだ。カリキュラムは決まっているので、先生がそれに合わせて教材を作るという。


    2021.1.30第1刷 図書館

  • 自分も持てていないこと
    社会への信頼

    SNSと人と人との直接対話
     どうすれば多様性を
     このままで良いのか
    考えさせられた

  •  前回ご好評をいただいた山口周さんの対談本に続いての、対談本レビュとなります。ブレイディみかこさんの本は「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」ではまってしまってオトナ買いしてたくさん読んだので、「あ、ブレイディさんの本が出ているから買わなきゃ」的に読んだ本です。 別に立ち読みとかもせず、すっと取って、すっと買ったけど、買ってから読むまでは(ほかにも一気に本を買う習慣もあって)時間が空いてしまいました。
     NHK Eテレ「SWITCH インタビュー 達人達」で反響を呼んだ対談を書籍にした、とありましたが、なるほど、『達人達』の対談本は、先日の山口周さんの本でもあったが非常に勉強になりますね。 かつ、対談形式なので表現が口語体で読みやすい。 発言されている側が相手側に平易に理解をさせようと話されていることが伝わるので、言葉遣いも平易で理解がすすみやすい。 さらに私は、先ほどお伝えした通り、ブレイディみかこさんの本は多数読みまくってきたから、対談から引用される本の内容もほとんど理解しているので内容の理解は深かったです。 もちろん読んでいない人でも読める内容だけど、ある程度のブレイディさんの本を読んだ後の方のほうが理解は深いかな、とは思います。
     『何とかならない時代の幸福論』というタイトルはまた難しいなぁ、という読後の印象でして、幸福論、かぁ。 何とかならない時代の、日本とイギリスの文化や教育、政治といった違いを対談しながら、それこそ「幸福論」に近づけるような対談としている。 前半は、ブレイディさんの本に絡めての理解を深ぼっていくテイストで、後半は、主に対話がメインになっている印象。 鴻上さんの「『世間』と『社会』」の考え方は、なるほどなるほど、と思ったし、この考え方は一つ整理学としてよくわかった印象。 日本は『“世間認定”されたら住みやすい国』ともありましたが、なかなか生きにくい世の中(社会)になっているところでの考え方のヒントはいただいた気がする。
     そんな中で、自分として考える、という力だったり、多様性の話だったり、シティズンシップ教育の話だったり、あぁ、そういうところが世の中の流れのはずなんだけれど、どうして日本はこうなんだろう、と、(何とかならない時代と)嘆きたくなりながらも、それはそれこれはこれ、と自分としては心を落ち着かせて、また、明日も生きて行こうと思う。 難しいなぁ。
     自分の考え方に共感する本を読むのは、そうだそうだ、となって感銘を受けるし、応援をされている気にもなるけれど、多様性の考え方からすると、ほかの考え方もより吸収していかねば、という発想も出てきて、うーんなかなか難しいなぁと考えたりもしました。 日本にいるんだから、日本の考え方に合わせなきゃ、というところもあるんだけど。。


    以下、いつもの抜粋引用となります。 
    =======
    ○P47
    (鴻上:以下K)日本人はイギリスやフランスに憧れる人が多いかもしれないんですけど、こういうところを知ると考えてしまいますよね。ブレイディさん的には結局、イギリスは好きなんですか? 嫌いなんですかね?
    (ブレイディ:以下B) 好きですよね。 好きだから今もいるし、日本に帰ってくる気は全くないですもんね。
    (K)そういう激しい格差があっても、好きですか?
    (B)あるんですけど、正直に見せてますよね。 日本はないようでいて、ありますよ。でもそれを、ないように見せようとする。
    (K)なるほど、格差があってはいけないんだという前提が強いですよね。いじめも同じですね。 生徒が自殺してしまった場合、教育委員会も学校も、「調査の結果、いじめは認められませんでした」とデフォルトのように発表しますね。隠すんです。
    (B)私は、そういうところは、日本はちょっと合わない。 まだイギリスの方が、正直に見せてるだけ、戦いようもあるじゃないですか。


    ○P76
    (B)相談に答えるときに、最も気をつけていることは何ですか?
    (K)実行可能なこと― 具体的で実行可能なことを、最後に手渡してあげたいと思っています。「気の持ちよう」とか「がんばれ」という言葉ではなく。
    (B)「がんばれ」は多いですよね。
    (K)がんばれるなら相談しないだろうと思うんですよね。 だから、がんばれとか気にするなとか気合を入れろとかそういう精神的なことじゃなくて、実行可能な、でもすごく具体的なことをちゃんと伝えられたらいいなと思います。


    ○P96
    (B)違うルールを持った人たち…結局、宗教対立とかもそういう問題じゃないですか。違うルールを持った人たちが一緒に生きていく。違うルールを信じた人たちも一緒に生きていく。自分の信じているルールだけが全てではない。そのなかで、じゃあこういうルールもあるんだねって、それこそ、その人たちの靴を履いてみて考えるなかで、まぁ違うんだけど、でもここまでは譲れるかなとか交渉して一緒に折り合っていけるのは、それこそが多様性のありよう。
     無意味なルールをいつまでもせこせこ守って自分たちだけの世界に閉じこもってばかりいると、それは自由や正義の問題じゃなくて、生き残っていけないよっていう問題だといういことが、今、日本ですごく問われているような気がします。


    ○P110
    (B)演劇の授業は、別に役者を育てようとしているわけじゃなくて…みんなが自分のことを言えるということは、他者が言っていることも理解できるようになるということなんですよ。その営みは相互のことだから、コミュニケーション能力を鍛えるのに演劇ほど役に立つものはないですよね。
    (K)その通りです!


    ○P133
    (B)その一方で、やっぱりイギリスはすごいなと思ったのは、相互扶助が、政府とか自治体とは関係ないところで勝手に立ち上がるんです。 自主隔離が始まると、お年寄りだけで住んでらっしゃる家庭は、自分でスーパーに買いに行けなくなる。そういう方のために食事を買って届けるネットワークを作りますから、興味のある人は連絡をくださいっていう手作りのチラシが家の郵便受けに入ってきた。そのチラシには、自分の携帯の電話番号とかメールアドレスが書いてあるんですよ。
     悪用されるかもしれないわけで、平時だったらこういうことをする人はいないじゃないですか。でもイギリスだと、緊急時にはこういう活動が草の根から始まる。だから私もそこに電話して、実は一緒にその活動をやったんですけどね。相互扶助が自然に立ち上がる土壌がある。誰かがやれって言ってるわけじゃないんですよ。やりたいからやる。 コロナ禍の中、そういう活動はイギリス各地で立ち上がったようです。


    ○P218
    (B)それこそうちの息子がイギリスの学校で話し合わされてるブラック・ライヴズ・マターのような社会問題を、日本も学校で話したり家で話したりしたらいいと思うんですよね。子どもたちが自分で考えて発言する場を作るのは、すごく大事なことですよね。
    (K)大事ですよね。 例えば日本で今、起きてる問題を挙げるとしたら…途中まで感染ゼロだった岩手県で一番最初にコロナの陽性者が出た時に、その人はいきなりネットで顔写真と名前をさらされて、職場に100本ぐらいの辞めさせろって電話やメールが来た。それに対してあなたはどう思いますか、というテーマ。
    (B)それは、いい題材ですよね。
    (K)だけど日本の場合はこれをしようとしたら、おそらく学校の先生も教育委員会も「学習の目的は何ですか」と言い出すと思います。 つまり、何が正しくて何が間違ってるかを明確にしようとしたがるんです。明確な答えが出ない問題こそ、自分の頭で考えて議論することが大切なんですけどね。
     (中略)
     ブラック・ライヴズ・マターで、海の中に銅像を放り投げることをどう考えるかという問題だって、正しいのか間違ってるのか、はっきり結論なんか出せるわけがない。でも、そういう問題を突きつけられる世界に我々は生きてるんだってことを共有するだけでも、子どもたちが社会を見る意識は随分変わってくるはずですよね。
    (B)そうですよね。 考えていかなきゃいけないことなんだって子どもに思わせるだけでも違う。


    ○P233
    (B)それと、コロナ禍でも日本人は学習したと思いますね。日本人は全部政府にお任せしている意識から、コロナ禍で、自分たちで考えるという訓練を突きつけられているという気がすごくしてるんです。コロナは嫌なことばっかりだけど、唯一、「日本人に自分の頭で考えること」を突きつけてくれたと思っています。それは、とても素敵なことです。
      自分達で考えないといけないということ思うようになるきっかけがコロナだと。
    =======

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著者プロフィール

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)作家・演出家愛媛県生まれ。早稲田大学法学部出身。
1981 年に劇団「第三舞台」を結成し、以降、数多くの作・演出を手がける。こ
れまで紀伊國屋演劇賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞など受賞。また、自身のプ
ロデュース公演や若手俳優を集めた「虚構の劇団」の旗揚げ・主宰も行う。舞台
公演の他には、エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、ラジオ・パーソナリテ
ィ、映画監督など幅広く活動。また、俳優育成のためのワークショップや講義も
精力的に行うほか、表現、演技、演出などに関する書籍を多数発表している。桐
朋学園芸術短期大学特別招聘教授。 昭和音楽大学客員教授。

「2021年 『ピルグリム21世紀版/ハルシオン・デイズ2020 パンデミック・バージョン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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