朔が満ちる

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 599
感想 : 70
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022517678

作品紹介・あらすじ

かつて中学1年の時に僕は、酒を飲む度に荒れる父親に手を焼き、遂に斧で殴りかかって殺そうとしたことがある──心に傷を負ったまま家族とも離れ、悪夢のような記憶とともに生きていく史也。荒んだ生活の中で、看護師の千尋との出会いから、徐々に自身の過去に向き合おうとする──これは「決別」と「再生」の物語。サバイブ、したのか? 俺ら。家族という戦場から――家庭内暴力を振るい続ける父親を殺そうとした過去を封印し、孤独に生きる文也。ある日、出会った女性・梓からも、自分と同じ匂いを感じた――家族を「暴力」で棄損された二人の、これは「決別」と「再生」の物語。父へ、母へ、この憎しみが消える日は来るのだろうか。酒を飲んでは暴れ、家族に暴力をふるう父に対して僕には明確な殺意がある。十三歳で刑罰に問われないことは知ってはいるが、僕が父を殺せば、もう母とも妹とも暮らすことはできないだろう。それがわかっていても僕は父を殺そうとしている。自分のなかに黒い炎を噴き出す龍が住んでいる。いつそれが自分のなかから生まれたのかわからない。龍は僕に命令した。今だ、と。         (本文より)

感想・レビュー・書評

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  • どう考えても 史也の行動は

    正当防衛だと思えるが

    親に手をあげたということは

    強烈な罪の意識になる



    一見 梓と史也は

    親からの非道な仕打ちから

    サバイブしたように見えるが

    中身が違う



    だからこそ 傷をいやし合い

    梓が和解への道を

    作ることができたんだろうな



    しかし 個人的には

    斧の刃が父親のほうに

    向いちゃってたらいいのに・・・

    と思ったよ



    月が満ち欠けして

    また新しく生まれ変わったように見える

    人生もまた やり直せるなら

    という願いに通じるのね


  • 『朔が満ちる』
    初めての読んだ窪美澄さんの小説です。

    第一章 三日月/幾度となくくり返される悪夢
    第二章 上弦の月/真夜中のサバイバーたち
    第三章 十五夜の月/道行二人、北へ
    第四章 下弦の月/闇夜の告白
    第五章 新月/見出すもの、見出されるもの

    父親の暴力に怯え耐え続けた史也。

    13歳のある日、いつも通り酒を飲んで
    暴れ始めた父親が母と史也に暴力を振るう。

    史也の中で抑え続けていた殺意が暴れ狂い、
    手にした斧を振り下ろしていた。

    母と妹の千尋を守るためだったが、父親の怪我は
    階段から転落したことにすり替えられてしまう。

    明確な殺意があり、罪を犯したと理解している
    史也は裁かれない罪を抱え隠して生きていた。

    同じこちら側の梓と出会った事がきっかけで、
    史也の生き方が少しずつ変わっていく。

    今もどこか、目に見えない場所で息を潜めて
    我慢して泣いている小さな子どもの存在を
    考えずにはいられない物語。

    生き延びた子ども(サバイバー)が抱える苦悩。

    乗り越えようと懸命にもがく姿に逞しさを
    感じると共に、乗り越えられない苦しさもある、
    その両方を否定せずにいたいと感じました。

    小説後半にある史也の想いが胸に刺さりました。
    『ただ、元気で生き延びてほしい、
    と祈ることしかできない』


  • 「許すって何だろう」 窪美澄が描く家庭内暴力を受けた子供の苦悩 (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)
    https://dot.asahi.com/wa/2021072100026.html

    朝日新聞出版 最新刊行物:書籍:朔が満ちる
    https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=22999

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      かつて父に斧を振り下ろした青年。家庭内暴力からの「サバイブ」と「再生」。 『朔が満ちる』 | BOOKウォッチ
      https://books....
      かつて父に斧を振り下ろした青年。家庭内暴力からの「サバイブ」と「再生」。 『朔が満ちる』 | BOOKウォッチ
      https://books.j-cast.com/topics/2021/08/11015802.html
      2021/08/12
  • 機能不全家族に育ち、自らの身体に流れる血を憎悪し、汚らわしさすら感じる。そして自分も親と同じようになるのではという恐怖に苦しむ主人公の若者横沢史也。

    彼の心の揺れ動きが、私の心を揺さぶる。

    普段は真面目で大人しいと評される青森の公務員である父。酒が彼を一変させ、制御不能な暴言暴力で家族を怯えさせる。

    そんな父から自分たち子どもを守るために逃げることを望んだ母は最後まで父から離れなかった。

    「団らん」「温かさ」の象徴である「家族」のもう1つの側面を同世代の窪さんが描く。

    「家族」が抱える闇は外側からは分かりづらい。それがたとえ親族であっても…。

    私も実家を出てから長い時間がかかり、自分の生い立ちの環境に疑問を持ち始めた。
    何が起こっていたのか、自分で言葉にするのも難しいし、加えて周囲の人々に不用意に家族や親のことを持ちかけると、大概言われる。

    「親だって完璧じゃないんだし。許してあげなさいよ。」
    「もういい年なんだから、親より大人になればいいじゃない?」
    「親と仲良くした方が楽になれるよ。」

    確か青木さやかさんも同様の言葉を知人に掛けられ、実母と再会し最期を看取った。

    主人公史也が実父の最期に向けて気持ちが行きつ戻りつしながらも恐怖に苛まれる様がとても丁寧に描かれている。
    合わせて年老いた母に対する嫌悪や僅かな同情のような思いが混じり合う複雑な思いはよくぞ書いてくださったと言いたい。
    思慕と憎しみ。嫌悪と憐憫。相反する感情が境界線を失い溶け合い、ことを複雑にする。

    私は縁遠くしている実家の誰が亡くなっても涙は流さない。ほっとすることもおそらくない。
    恐怖で足も手も出ない。動けない。心も凍ったまま。

    親が嫌い。家族が嫌だ。
    それらが禁句だった時代が少しずつ変わろうとしている。

    嫌悪や憎悪。恨みや少しばかりの甘ったるい記憶。諦めと受容。他責と自責、自罰。
    複雑に絡み合った一筋縄ではいかない感情をずっとこれからも抱き続ける。

    理解のある伯母や勤め先の写真家成田さん、そして誰よりも出会って心寄せ合った梓たちが物語の展開を明るさへ導く。
    私にもそんな存在が欲しかった。
    読みながら彼らの言葉や受容してくれる様に涙が止まらなくなり、私に向けられているかの如く甘く温かな錯覚に陥った。

    でも現実もう少し複雑だよなあ。親戚に頼れたらそもそも問題がもっと早くに改善する気がする。

  • かつて中学1年の時に僕は、酒を飲む度に荒れる父親に手を焼き、遂に斧で殴りかかって殺そうとしたことがある──心に傷を負ったまま家族とも離れ、悪夢のような記憶とともに生きていく史也。荒んだ生活の中で、看護師の千尋との出会いから、徐々に自身の過去に向き合おうとする──これは「決別」と「再生」の物語。
    サバイブ、したのか? 俺ら。家族という戦場から――家庭内暴力を振るい続ける父親を殺そうとした過去を封印し、孤独に生きる文也。ある日、出会った女性・梓からも、自分と同じ匂いを感じた――家族を「暴力」で棄損された二人の、これは「決別」と「再生」の物語。父へ、母へ、この憎しみが消える日は来るのだろうか。

    DVサバイバーというあらすじを読んでいたので、陰鬱で重苦しい内容かと思っていたけれど、親しみやすい語り口なのでそこまでじめじめとせずに読みきれた。中高生にも勧められそう。
    窪美澄さん、「ふがいない僕は空を見た」ぐらいの衝撃的な小説また書いてくれないかなぁ。


  • ー 家には秘密がこもる。その家族だけが抱えている秘密が。あらわにならなければ、その秘密は腐臭を放つ。 ー



    困難な子ども時代を何とか生き延び、大人になり社会に出ても、
    親のせい、育った環境のせいにするなと必要な支援を受けることも出来ず、
    自死やDV、虐待の連鎖につながることもある。



    史也が、父の死後、誰もいなくなった実家を訪れた時に駐在さんと交わした会話に気持ちが揺さぶられた。
    人を助けることの難しさ。親から暴力を受けて自分の子どもにも暴力をふるうようになる人と、そうはならない人の差って一体何なのだろう。

    自分を責めないことか。助けようとしてくれた人もいたことか。親じゃなくとも愛してくれる人がいたことか。


    わからないことや正解がないことも多いけれど、希望を感じられる作品だとおもう。
    史也に伯母さんや妹がいてよかった。梓や吉田さんに出会えてよかった。

  • この理不尽な怒りをどうしよう。
    自分の妻や子どもに暴力をふるう夫。酒に酔って爆発加速するその理由なき怒り。それをかわし、耐え、そして生き延びたものを指す言葉「DVサバイバー」。
    ただただ、生き延びてくれてありがとう、とよく頑張った、とその背中をなでてあげたくなる。
    けれど、そんな手は必要ないのだ。彼らに必要なのは、そんな上っ面の同情や根のない共感じゃない。

    母を妹を守るために闘った13歳の少年。抱えた秘密。
    DVサバイバーたちはお互いに同じ匂いを感じるという。なんとなく同じ側の人間だ、とわかるらしい。
    幼い時、庇護する手を失い、受けるべき愛情を得られず、日常的な暴力にさらされてきた彼らが、自分自身の足で立ち、その手で生きるべき道を手に入れていく、その道の困難さよ。

    史也がどうにか飼いならして生きている怒りの龍。その龍が吐き続けていた消せない炎を、自分の中で小さな火として灯しながら生きていくしかないのか。

    この物語は終わらない。彼らのサバイブは続く。彼らの新しい人生は、いつ火を噴くかわからない危うさを含んでいる。だからこそ、この物語は忘れられないものとなる。
    (ただ一つ気になることもありて

  • やっぱり窪さんは上手い。文章に無理がなく、読み始めからぐいぐい引き込まれていく。
    酒を飲むと母と息子に暴力を振るう父親を抱えた家族の緊張感。母と妹を守るため、父を殺そうとした史也が大人になっても抱え続ける罪悪感と苦悩。喉の奥に何かを押し込まれたような圧迫感を感じながら読み進む。

    過去を隠して付き合った恋人との別れ、同じように重い過去を抱え生きていた水希の自死、人との関わりを避けて生きてきた史也が運命のように出会った梓。
    梓に惹かれていく過程も、史也が少しずつ変化していく姿も全く無理がなく描かれていて自然と肩入れしてしまう。
    暴力をふるう父はもちろんだが、そこから逃げ出そうとせず、子供までも暴力に晒す母にも嫌悪感しかない。ただ、史也が父親に殺されることなく、家族という「戦場」を生き抜きサバイブしてくれたことが嬉しいし、今もすぐそこにいるだろう同じ境遇の子供たちが何とか生き延びてくれることを願うばかり。

    重苦しい物語にあって、ラストには明るい光が見えてくることで救われ、最後はもう涙なしでは終われなかった。久々の星5つ作品でした。

  • とても読みやすかった
    そして一気読みしてしまった
    虐待の描写が辛いのだが、その様子が目に浮かぶので読みながら涙してしまった

    自分の子供はどう思ってるのかな?

  • 許す必要もわかり合う必要もない。
    許さずに決別することで再生することができる。
    暴力をふるい続ける父親への殺意や
    一緒に逃げて守ってくれなかった母親への愛情と恨みを
    梓という存在が隣にいる状態で向き合えた史也は
    あの頃の殺意と決別して新しい家族へと向かっていけたのかもしれない。
    それは共依存とはまた違う、だけど離れられない関係であると思った。

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著者プロフィール

1965年東京都生まれ。2009年「ミクマリ」で第8回「R‐18文学賞」大賞を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』で第24回山本周五郎賞を受賞、本屋大賞第2位に選ばれた。12年、『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞を受賞。19年、『トリニティ』で第36回織田作之助賞を受賞。その他の著書に『水やりはいつも深夜だけど』『さよなら、ニルヴァーナ』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『いるいないみらい』『たおやかに輪をえがいて』『私は女になりたい』など。

「2022年 『いるいないみらい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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