本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784022519665
作品紹介・あらすじ
北朝鮮との水面下の接触は続いていた!日本人被害者5人の帰国から21年。交渉は停滞したままと思われていた2023年、政府高官が東南アジアのある都市に極秘渡航し、朝鮮労働党関係者と接触していた。数年前に外務省と北朝鮮の秘密警察「国家安全保衛部」とのパイプが途絶えた後、内閣官房の関係者が第三国で北朝鮮側と断続的に接触し、政府間協議の本格的な再開への意思を探り合ってきたのだ。岸田首相の「ハイレベル協議」発言と北朝鮮の外務次官談話は、5月の日朝接触とタイミングが重なる。「拉致問題は解決済み」との態度を変えない一方、米韓と対立する北朝鮮は日本との対話を探っている。2024年1月1日に起きた能登半島地震被害を受け、北朝鮮の金正恩書記長が岸田首相に見舞いの電報を送った。これは一体何を意味するのか?蓮池薫氏、田中均氏らキーパーソンたちが語る交渉の舞台裏と拉致問題の行方を追ったノンフィクション。解説=斎木昭隆・元外務省事務次官(2002年と2004年、政府調査団として訪朝)
感想・レビュー・書評
-
東2法経図・6F開架:391A/Su96k//K
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
北朝鮮による日本人拉致問題に関するこれまでの流れの整理と、情報のアップデートのために本書を手に取った。本書では、北朝鮮との交渉に携わってきた外交官や政治家、北朝鮮の元高官、韓国の情報機関関係者、帰国した被害者の証言をもとに拉致問題の真相の追究が行われるとともに、これまでの日朝交渉の舞台裏や、表面上はまったく動いていないように見える水面下での動きについて述べられる。
「解説」において、安倍元首相の信任が厚く、日朝間の交渉役を務めたこともある斎木昭隆元外務省事務次官は、著者で朝日新聞元ソウル特派員の鈴木拓也氏について、所属する新聞社の立場と異なり、丹念に取材を重ねる姿勢に一目置いているとしたうえで、「本書は、拉致問題をめぐる日朝関係の難しさを理解する上で、必読すべき好著だと思う」と述べる。これまでの交渉がうまく進まなかった理由をわかりやすく述べるとともに、今後の交渉の行ない方について数多くの提言を行う本書はまさに好著だと思う。
本書の内容で、次のような内容が特に印象深かった。
⑴拉致の目的は工作員養成
「拉致直後の1979年1月ごろ、自分たちは学校に送られて、工作員としての教育を受けるということだった。短期の訓練で日本に送り返すということかと思った。しかし、4月ごろになり、その話が突然取りやめになった。日本国内で自分たちの失踪が問題となり、工作員として使えなくなってしまったらしい」
「北朝鮮は当初、我々を工作員として使おうとしていたのだろう。実際にそういう雰囲気はあったし、指導員からは『日本に行って東大生と仲良くなれ』と言われていた。」
これらは、それぞれ地村保志さんと蓮池薫さんの証言だ。しばしば、北朝鮮による日本人拉致の目的は工作員への日本語教育のためと言われてきたが、本書では複数の関係者の証言から、日本人拉致は「拉致した日本人を工作員に養成し、韓国などに送り込んでスパイ工作や扇動活動をさせるという荒唐無稽な計画からはじまった」と述べる。
⑵帰国者5人に共通すること
「……薫さんは『拉致問題の解決についてどう思うか』とも聞かれた。言葉を慎重に選びながら答えた。『日本に行く気はない。ただ、拉致問題をきれいに解決しようとするのであれば、結局は自分たちを日本に帰国させるしかないのではないか』
実際にはそんな話はないのに、忠誠心を試すために指導員がカマをかけてきたのかもしれない。帰国したいという本心をさらけ出すことで、不満分子とみなされ、自分自身だけでなく家族にも不利益が生じるのではないか。そんな恐れを瞬時に感じ、このように答えたという。日本に帰っても、北朝鮮のスパイではないかというレッテルを貼られ、両親や兄に迷惑をかけるのではないかという心配もあった。北朝鮮で生まれた子供たちへの影響も考えた。ただ、日本にいる家族には、自分が生存している事実を知らせたかった。首脳会談までの数カ月間、悩み続けた心労から、体重はかなり減ったという。帰国後、日本政府の聞き取り調査に『もし自分が帰国に対して積極的な態度を示していれば、今回の帰国はなかっただろう』と答えている。薫さんの直感が正しければ、同じようなチェックを受け、帰国できなかった人がいる可能性も考えられる。」
帰国が実現する5か月前、蓮池薫さんと北朝鮮当局者との間ではこのようなやりとりが行われていた。その後も北朝鮮当局者は蓮池さんや地村さんの本心を探るカマをかけつづけ、蓮池家、地村家ともに子どもを人質として残して一時帰国することとなった。帰国できた5人に共通するのは、北朝鮮当局の信頼を得ていて、日本に戻しても北朝鮮に不利な言動をしないと判断されたからだった。
⑶ストックホルム合意に基づき田中実さんらの生存を認めた北朝鮮
「複数の日本政府関係者によれば、北朝鮮側は2014年秋から翌年にかけて断続的に再調査の『結果』を伝えていたのだ。そのなかで、日本政府が認定する拉致被害者12人(帰国者5人を除く)のうち、1978年に28歳で失踪した神戸市出身の元ラーメン店員、田中実さんの生存を明らかにした。また、田中さんの知人で、1979年に26歳で失踪した金田龍光さんの生存も認めた。金田さんは田中さんと同じラーメン店で働いていた。北朝鮮はそれまで、田中さんは『入国していない』と主張していた。ただ、田中さんと金田さんはそれぞれ結婚し、平壌で家族と幸せに暮らしており、日本に帰る意思はないとの説明だった。2人とも自ら渡航してきたとして、拉致は否定した。横田めぐみさんらほかの被害者についての新たな情報もなかった。北朝鮮側はこうした内容を盛り込んだ報告書を出してきたが、日本側の交渉担当者である伊原氏はその場で受け取らなかった。口頭で聞いた内容をノートにメモし、日本政府として報告書を受け取るかどうかの判断は留保した。
伊原氏からの報告を受け、安倍首相は政権幹部らと対応を協議した。菅官房長官は『これでは国民に説明できない』として、報告書は受け取るべきではないと強く主張したという。安倍首相も同調し、北朝鮮に調査継続を求めることにした。日本政府はいまだに、北朝鮮側 から田中さんらの生存情報が伝えられたことを公式には認めていない。」
私は、この田中さんと金田さんに関することは最近になるまで知らなかった。もっとも、このとき日本側が報告書を受け取っていたら北朝鮮に拉致問題の幕引きを図られていた可能性もあるため、このときの安倍政権の判断の是非は、現時点では保留したい。
そのほか、本書からは、一方では経済制裁を科しつつ他方で交渉を行い、交渉の行方次第で制裁の解除を行う「対話と圧力」といった手法が有効であることがよくわかる。また、拉致被害者5名の帰国につながった小泉訪朝に向けて行われた、アジア大洋州局長田中均氏とミスターXこと国家安全保衛部副部長柳敬氏による約一年にわたる秘密交渉がどのようなものだったかを取材した内容も興味深かった。
以前に比べ拉致問題がニュースになる機会が減り、世論の関心も低下しつつあり、拉致問題の風化が懸念される。鈴木氏は、「独裁体制であるが故に、正恩氏の腹一つで方針が大きく変わることもある。日本との交渉にメリットを感じ、メンツを保つこともできると判断すれば、態度を変えてくる可能性は十分にある。粘り強く働きかけていくしかない」と述べる。局面が打開され、すべての拉致被害者の方々が一日も早く帰国されることを願ってやまない。
著者プロフィール
鈴木拓也の作品
本棚登録 :
感想 :
