ゲーテはすべてを言った

  • 朝日新聞出版 (2025年1月15日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (192ページ) / ISBN・EAN: 9784022520395

作品紹介・あらすじ

高名なゲーテ学者・博把統一は一家団欒のディナーで、彼の知らないゲーテの名言と出合う。ティー・バッグのタグに書かれたその言葉を求める旅の先に、行き着いた場所は……。若き才能が描く、アカデミック冒険譚!

感想・レビュー・書評

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  • 2024年下半期「芥川賞」受賞作品。
    つい先日読み終えたばかりのデートピアと比較すると、全く異なる作風につき、たしかにこれは二作同時受賞もわかる気がした。
    感想としては、なるほどよくできていると思いつつ、個人的にはやっぱりデートピアの良くも悪くも灰汁のようなものに毒されたあとに読んだからか、作者への興味の部分での差を強く感じてしまった。次作は果たして手に取るかどうか。
    でも、どちらも読んでいない方がいたら勧めるのは、おそらくこっち。多くの方に愛される作品ゆえの判断として。 ★3.0

  •  読み終わってから、本に巻いてある帯の文字に気付きました。
    「ゲーテ学者が侵した、超えてはならなかったはずの一線 ―。」

     読み終わったかたには、その意味が分かると思います。読み終わる前には、意味の重要さが分からない。同じ言葉を目にしていても、目に情報として入ってくるだけで意味に気がつかない。捉え方が全然ちがうものに変わる。面白いものですね。

     主な登場人物
    ・ 博把 統一(ひろば とういち) 国立大学教授・ゲーテ研究者、小説の主人公
    ・ 博把 義子(ひろば あきこ)  統一の妻・専業主婦・ガーデニングが趣味、ドイツのyoutuberと繋がりがある
    ・ 博把 徳歌(ひろば のりか)  統一・義子の娘、大学4年生・卒論テーマは「二つの書物―ヨーロッパ文化における聖書と百科全書」
    ・ 芸亭 學 (うんてい まなぶ) 統一の恩師で義父・義子の実父・ゲーテ研究の大家
    ・ 紙屋 綴喜(かみや つづき)  大学4年生・然の教え子で統一が論文指導をすることに。。。
    ・ 然 紀典 (しかり のりふみ) 統一の同僚の大学教授、統一が大学院1年、然が大学4年の時からの知り合い

     あらすじ(と思えるもの。)(さて、いわゆる世にいう粗筋というものは、実際は、それを書く人間の二次創作であると思います。小説のどこを切り取ってどう繋げるかは粗筋を書く人間の主観の総体であり、実際の小説本体とは無関係なものです。なので、この粗筋を読むかたには、実際に原作に当たられることを強くオススメします。)

     博把 統一、義子、徳歌の3人は、12月初めの火曜日の晩に、郊外のイタリア料理店に行きます。その日が、統一・義子夫妻の結婚記念日で、かつ銀婚式に当たることが分かったからです。
     デザートを食べている時、義子が何十種類もの紅茶が並ぶ棚から、紅茶のティーバッグを3つ持ってきます。ティーバッグのタグには小さな字で名言が書かれていて、統一の分のタグには『 Love does not confuse everything but mixes. Goethe 』(愛は、すべてを混乱させることなく、混ぜ合わせる。 愛は、すべてを混淆(こんこう)せず、渾然(こんぜん)となす。  Die Liebe verwirrt nicht alles, sondern vermischt es. ゲーテ)と書かれていました。ゲーテの言葉を引いたことを喜ぶ統一でしたが、言葉の出典が思い浮かびませんでした。果たして、この言葉はゲーテのものなのか、だとすれば出典は何なのか? この疑問を解決する旅が始まります。そして、このことが統一を様々な気付きや、果てはある事件へと導くのでした。

     統一は、帰宅後から、この言葉の出典探しを始めます。英文をドイツ語に直訳してみたり、それをまた和訳してみたりします。原文を探し当てて、文脈の中で言葉の真意を判断したいと考えます。
     この言葉がゲーテの言葉なのか?、を考えた時、統一はドイツ留学時代の友ヨハン(画学生)の言ったある冗談を思い出しました。それは、『ゲーテはすべてを言った』という言葉で、ヨハンは「ドイツ人は、何につけ『ゲーテ曰く、』と言う。なぜならゲーテはすべてを言ったのだから」と言います。なんでも言ったのだから、この言葉もゲーテなら言っているだろう? そんなことは、ゲーテ研究者の統一には許しがたいことでした。ゲーテの言葉として引用するなら、出典を明確にして、真意が分かった上で使いたい。

     ゲーテの言葉を探る中で、言葉に関すること、思想に関することが様々に語られます。大学教授の日常生活や、恩師や同僚との関係なども紹介されていておもしろいです。ある種、職業小説にもなっています。
     なので、読者も物語の展開の中で、いろいろなことを考えずにはいられません。外国の人の名言が語られているのだけど、翻訳されていることで原文の真意は歪められていないんだろうか?、とか、思想の歴史が語られているけど、誰かが言ったことは、その前に他の誰かが言っていないんだろうか?、とか。
     
     閑話休題、あらすじに戻ります。
     統一は、テレビの深夜番組「眠られぬ夜のために」で『ファウスト』を講義するため、原稿を書きながら『ファウスト全集』を読み通し、件(くだん)の言葉の原文を探したりします。
     その後、統一は然から、紙屋綴喜の論文指導を依頼され、然の本『神話力』の刊行記念講演に出かけて、綴喜と会います。名言の原文探しも進めており、統一は研究者仲間などにメールを打ち、ことの経緯を説明し、名言の原文についての心当たりを教えて欲しいと依頼します。

     大晦日、統一、義子、徳歌の3人は、義子の実家である仙台の芸亭 學邸に行き、正月を過ごします。元日には能登半島地震が起こり、統一は13年前のことを思い出したりします。

     正月が明け、東京に戻り、2月になる中、ある大きな事件が起こったりし、物語も急速に進展していきます。登場人物たちの関係性が新たなものとなり、名言探しの手がかりもどんどん見つかっていきます。そして、統一・義子・徳歌、そしてもう一人の人物は、ドイツに行き、新たな出会いや旧友との再会をするのでした。また、ある日、統一は学者として超えてはいけない一線を超えることをしてしまうのです(本の帯の通り)。あとは、ご自身でお読みいただきたく。。。

     この小説には、巻頭に「端書き」があり、そこには、「義父・博把統一から聞いた話を小説の形式で書いた。」と書かれています。つまり、これまで書いてきた、このあらすじは、「小説の中の小説」のあらすじということになるのです。つまり、この小説は、中の物語と小説本体が、入れ子構造になっているということです。
     そして、ストーリーのこのあたりから、この入れ子の小説の書き手(統一の娘婿=徳歌の夫)が分かります。(実は、件の名言の出典についても、この端書きの中にヒントがあったのですが、これも読み終わらないと。。。)

     全体として、小説の構造的にも、扱っている思想そのものも、「入れ子」になっているのが、この小説の特徴といえると思います。精神的に壮大でありまた意外と卑近であり、古い教養小説の系譜を引く形式でもあり新しいものも含んでいるという面白い作品だと思いました。

     人間、年齢を経ると、いろいろなことが分かってきて、何かを断定的に言い切ることには躊躇するものですが、この若い作家には、振り切って思いを綴る勢いがあります。そして、読んできたものや書いているものを愛する誠実さがありました。
     それを楽しみながらレビューを書けることを嬉しく思います♡

     「ゲーテ曰く、やっぱり小説は面白い」w

    • タカツカさん
      はじまして。フォローありがとうございます。

      本作、興味があったのですが積読の本たちの読んでアピールがはげしく、まだ手にとれておりません。
      ...
      はじまして。フォローありがとうございます。

      本作、興味があったのですが積読の本たちの読んでアピールがはげしく、まだ手にとれておりません。
      感想とてもステキですね。感想や想いが感じられて読みたくなっちゃいました。

      今後ともよろしくお願いします。
      2025/01/20
    • みのりんさん
      タカツカさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます。
      お手に取られましたら、どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ。
      タカツカさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます。
      お手に取られましたら、どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ。
      2025/01/20
  • 第172回芥川賞受賞作。
    『DTOPIA』は先月読了しているので、もう1つの受賞作ということで、鈴木結生作品を初読み。

    ゲーテ研究の第一人者、博把統一は銀婚式のお祝いのディナーで、自分の知らないゲーテの名言と出会う。

    『Love does not confuse everything, but mixes』(愛はすべてを混淆せず、渾然となす)

    ティー・バッグのタグに書かれたその言葉を求めて、引用元を探す日々が始まる…

    作中ではいろいろな名言が盛り込まれているけど、その意味がなかなか理解できず、どうしても読みづらく感じてしまった。自分の読解力の無さが残念…

    後半は予想外の展開もあり、物語としては面白かった。語り手は君だったのか〜

  • 第172回(2024年下半期)芥川賞受賞作。
    著者の鈴木さんは21世紀生まれ初の芥川賞受賞作家なのだそうだ。
    オーディブルにて。

    内容はアカデミックなんだけど読みやすいので、知的ゲームを楽しめた感がすごいある。
    一瞬お利口になった感というか・・・
    レベルが高過ぎて読後、頭に何も残ってないことが寂しい笑

    人は世界のすべてを言語化したいと思って生きていて、ゲーテはその理想の象徴なのかな、と。
    僕のぼやっとした解釈はそんなところでした。

    • 丁さん
      たくさんのいいねとフォローありがとうございました 長くやられているんですね 昨日はじめたばかりですがよろしくお願いします 一昨日くらいに読み...
      たくさんのいいねとフォローありがとうございました 長くやられているんですね 昨日はじめたばかりですがよろしくお願いします 一昨日くらいに読み終わったゲーテにコメントさせてもらいました
      2025/09/12
    • たけさん
      丁さん、コメントありがとうございます。
      こちらこそよろしくお願いします。

      私はブクログ長くなりましたが、たまにサボりながらだましだまし続け...
      丁さん、コメントありがとうございます。
      こちらこそよろしくお願いします。

      私はブクログ長くなりましたが、たまにサボりながらだましだまし続けている感じです。
      自分なりのペースで楽しく続けていきましょう!
      2025/09/12
  • Love does not confuse everything, but mixes. - Goethe
    愛はすべてを混乱させることなく、混ぜ合わせる。

    ゲーテ学者がティーバックに書かれていた
    ゲーテが言ったとされるこの言葉を
    ひょんなことから知るが…

    言葉がこの本ではキーワードかなと思いました。
    ゲーテ。学生時代に古本屋で「ファウスト」を
    購入したものの難しくてずっと本棚にしまって
    あるけれど、この本をきっかけに読んでみようかな
    と思いました!


    難しい本や難解なものでも1つ1つの言葉の意味を
    知れば、実はとても面白かったり、興味深いことが
    書かれていると思うと、常にどんな言葉でも
    ちゃんと意味を知って読んでいきたいな。

    少し、哲学関連の知識が難しいので読みづらさはありましたが、ゲーテ関連の知識があればより楽しめるのかなと思いました。

  • 第172回芥川賞受賞作品。
    著者の鈴木結生さんは、年間1000冊の読書量の大学院生です。この小説での数多くの本からの引用に、圧倒的知識を感じました。

    小説は、ゲーテの研究の第一人者の大学教授が、紅茶のティーバックのタグに書かれていたゲーテの言葉の出典を探すことから物語が広がっていきます。

    読み始めは、取っつきにくく難しいと感じました。読み進めていくと、ふっとほどける瞬間みたいに感じる場面があり、途端に面白く感じました。そこからは、ひたすら今まで読んできてよかったと思いながらの読書でした。読み終わってから、もう一度再読しました。理解が深まり、楽しい読書でした。

    ゲーテのことは、ほぼ知らない私でしたが、ゲーテの言葉に興味を持ちました。鈴木結生さん、これからどんな小説を書くのか、とても楽しみな作家だと思いました。

  • 色んなところ(思索的に)に連れて行かれた。

    レストランのティーバッグの包装に書かれていた出典不明のゲーテの言葉。
    その言葉の出典を求めて右往左往する中で繰り広げられる大御所大学教授で第一線ゲーテ研究者の日常のよしなしごと。

    出だしはむしろこっちのほうがエンタメ感強くて直木賞っぽくないかと思いつつも、次第に年間1000冊本を読むと言う著者の博識、学際的な思索の波に翻弄される。

    ところどころ小難しい理屈をこねたり、英語やドイツ語を原文のまま縦書きに嵌め込むというなかなか見ない奇特な表現を織り込んだりすることで、こちらの思考を止めてくるのは芥川賞路線。

    誰それ曰く、の箔。
    言ってなくても言っているように感じてしまう不思議。
    発言の捏造とその非発言証明の困難性。
    そもそもすべての事は既に言われていて、その焼き増しでしかないというある種の真理。

    個人的に最近思っている、コンテンツ自体はもうどちらかというと飽和している、なんならAIの生産性を前に勝機はない。物語を語る力、繋げる力、伝搬させる力がスペシャリティたりうるという私見にリンクを感じ、興味深かった。

    長くない物語の中でよくこれほどまでに転がしたなと思う。
    結末に至るところの思わぬ畳み方は、伏線回収かのようで、ミステリ風味すら感じる。
    いろんなものを混ぜ込みながら、粒はそのまんまな、正に発端となった格言や主人公教授の言うサラダ的な小説。

    172回(2024年下期)芥川賞。

  • ゲーテのある言葉の出典を探し求める物語。
    紅茶のティーバッグのタグに刻まれた「愛はすべてを混淆せず、渾然となす」という言葉が、本当にゲーテの言葉なのかどうかということをめぐり、謎解きの旅が始まる。
    「ゲーテはすべてを言った」と信じるゲーテ研究者の主人公と、「僕はゲーテはすべてを言ったとは思いません」と言う青年。どちらもゲーテへの想いがあり、愛や敬意を感じる。
    また、著作がねつ造と盗用の騒ぎになった大学の同僚の教授の場面は、学問において創作や引用を超える一線はどこにあるのだろうかと考えさせられた。著作権の問題はその判断が難しいなぁと。
    全体的に難しかった。知識があればもっと十分に楽しめたのだろう。それでも、ひとつのものを突き詰めて考えていくことの面白さは十分に感じられた。学問もここまで極められると大変だけど楽しいだろうな。
    ひとつの言葉をここまで深く研究できることがすごいし、その議論を家庭で交わしあえることはもっとすごい。

  • オーディオブックで聴了。芥川賞、というほどのハードルは感じず、気楽に聴けました。

  • 読書備忘録923号。
    ★★。

    芥川賞は好きですよ!
    毎回受賞作が決まったらちゃんと読みます。
    好きですからね!

    テーマがアカンかったわぁ。
    ゲーテ。最も興味が遠い世界のお話。
    テーマがアニメとかだったら★5つ間違いないんです!

    読み手を選ぶ作品です。
    一般大衆娯楽小説ではないですよ。
    ご注意ください。

    読み手は、
    ①ゲーテに人生持っていかれているひと
    ②哲学的思考回路で毎日生活しているひと
    です。

    この2つに当てはまる人は「ゲーテは全てを言った」という言葉だけで納得しちゃうんですよ、多分。知らんけどね。

    ゲーテには数限りない名言があるようです。知らんけど。
    主人公でゲーテ学者の博把統一は家族団欒でイタリア旅行に。レストランで出された紅茶のティー・バッグになにやらゲーテの名言が。
    「Love does not confuse everything, but mixes. - Goethe」と。
    統一は「愛はすべてを混淆せず、渾然となす」と訳す。

    ただ、出典が見つからない。
    学者であるにも関わらず、強引にゲーテ曰くに持っていく。禁忌!
    なんかゲーテに人生を捧げている方々は、すべて「ゲーテ曰く」に持っていくんですよ。知らんけど。
    だからどんな名言もゲーテ曰くになる。すなわち、ゲーテは全てを言った。にたどり着く。知らんけどね。

    あと、漢字とか名前の当て字感が強すぎて楽しめない。
    程よい当て字感なら良いんだけど。
    スマホが済補だよ?頭おかしいんじゃないかと思ってしまった。

    最後は一般大衆小説のようにチャンチャン。でした。

    ホンマ、知らんけど。

    • yukimisakeさん
      本レビューでの「知らんけど」の回数は5回でした。
      yukimisake調べ(´ε` )♥
      あ、また1Qさんが嫉妬しちゃう(//∇//)
      本レビューでの「知らんけど」の回数は5回でした。
      yukimisake調べ(´ε` )♥
      あ、また1Qさんが嫉妬しちゃう(//∇//)
      2025/06/10
    • shintak5555さん
      知らんけどね。も混ぜたつもり♡
      知らんけどね。も混ぜたつもり♡
      2025/06/10
    • 1Q84O1さん
      嫉妬せんけど(・_・)
      嫉妬せんけど(・_・)
      2025/06/10
  • 難しい。とにかく私には難しかった。
    テレビで紹介されてたのを見て、面白そうだと思ったんだけどな…。私にはハードルが高過ぎた。

    読んでて頭に浮かんだのが、森鴎外。
    主人公、博把統一は森鴎外をモデルにしてるのかな?と思った。

    スマホを漢字にすると"済補"という事らしい。
    これは作中だけの漢字なのか?実際そう書くのか?
    気になる。

  • いまいち理解できない部分もあったが、作品
    としては構成がちゃんとしていて、最後まで
    楽しく読めました。
    文章の中でゲーテの言葉がいっぱい出てきて
    ゲーテの言葉にはとても魔力がこもったように
    惹きつける何かがあると感じました。
    ゲーテに惹かれた大学教授の博把統一(とういち)の長年の研究生活のすべてが広がっています。
    私としては少し知識不足の傾向があったので、
    予備知識としてゲーテの事を勉強するべきだったと感じてます。
    難しい専門用語が出てくるので、最初読みにくい
    部分もありました。

  • いやぁ〜、面白かった。
    ちょっと時間もかかって、休み休みで間延びしながら読む結果になってしまったけど…
    前半に文語体?的な表現が多用されているのが原因のひとつであると思う。が意図的だと後半気づく。
    「真実」ってなにか。と言うのがテーマのひとつ。かな。いろいろとある中、そこを感じた。

    ネタバレ、あらすじ
    ゲーテ研究の第一人者である主人公の統一。
    物語の最後に、出典の確実性がはっきりしない言葉の引用をTV番組で言い切るさまが爽快だった。

    そう、爽快な気持ちになる読後感。
    哲学的な思考を織り交ぜながら、実に軽快にユーモラスにまとまった作品。

    引用をひとつ
    學のセリフ
    もしかしたら、あらゆる言葉は何らかの形で祈りになろうとしている、ともいえるかもしれない、とこう思うんだね・・・・
    このあと、ゲーテの引用
    「お前の努力は愛の中にあれ、お前の生活は行いであれ」
    ちょいちょい出てくるゲーテの引用、
    そして、その言葉の解説がおもしろい。

    然の捏造のぶち上げ方が、爽快でカッコいいって思ってしまう。先駆者感。てへぺろ感。爽快だ。
    全体的にてへぺろ感の作品だと思った。
    してやったり感と言ってもいい。
    娘の徳歌の彼氏紹介やら、つづきの論文に関わってる様やら、してやったり感もいい。
    義子も然り。
    してやったり感っ、いいかも。



    今作を読んで、まず思ったのが、
    「ゲーテを読まねば」である。
    なんでって、
    「ゲーテはすべてを言った」のだもの。

    ゲーテ作品、解説系の本を読んだ上で、本書を再読するとどういう感想になるのか。
    そこも再度、味わいたくなる作品。

    偉大な、時代を超えて残っている作品。
    その時代の経験の先の、最先端の作家の作品。
    調べてみると、著者は2001年生まれの24歳。
    ヤバいね。すげえ作家が出てきたよ。
    次回作も必読です。

    今を生きる僕たちは、どちらも味わえる。

    最近、よく思う。人類は進化し続けている。と。
    情報で溢れている。
    コンテンツで溢れている。
    宗教観、人生観、多様性で溢れている。
    さらにさらに生まれ続けている。
    思考の先の思考。研究の先の研究。
    先の先の
    作品が生まれ続けている。
    取捨選択の先に、多様性の先に、相互理解があり、平和な世界が来ると信じたい。

  • 名言についての話だった。
    はじめの方は、実在する人物の著作があるのかと思って、博把統一の名前なんかも調べてしまったが、さすがに創作だった。

    私はゲーテをはじめとする偉人たちの名言には疎いので、この作品に登場する言葉たちが、実在するのかはわからない。けれど、力のある言葉が多くて、知識や経験の塊のような名言に心を動かされることもあった。
    作者や作品が言うなら、偉人たちの言葉なのだろうな、と思いながら読んでいるのが、作品の内容と重なって、なんとも皮肉に思えた。

    情報に溢れ、言葉に溢れる現代だからこそ、この作品はおもしろいのだと思う。
    読み始めはくじけそうだったけれど、最後にいろんなことが繋がっていくのは気持ちが良かったし、混沌としていたものが、うまく混合された感があって、お見事だった。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    「言葉」を見つめ直す。
    「すべて」とはなんだろう。
    「自分の言葉」とは。みんなが使っている言葉の組み合わせでしかないけれど、その組み合わせを大切にしたい。


    ⚫︎感想 
    改めて「言葉」ってなんだろうと考えるきっかけになった。人が発する言葉、言葉遣いはそれまでの人生経験が滲み出るということを改めて面白く思った。

    また、本書に出てくる書籍、名言について興味をそそられた。“Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.”チャップリンの言葉が紹介してあるが、まさに主人公の人生、ひいては全ての人に当てはまると思った。
    統一が人生をかけてきたゲーテ研究、それを根底から揺るがせる自己の発言による恐れや罪悪感。ヒントや答えは灯台下暗し、いつもそばにあった…というのは、誰の人生にも当てはまることだろう。
    「統一」という名前に込められた思いも、所々の当て字などの小技も興味深く面白く感じた。

    心を揺さぶられすぎる話はあまり好みではないので、この作品は静かでやさしく、読了感はエンタメのような爽やかさがあった。もう一度読みたい。

    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)
    【第172回芥川賞受賞作】
    高明なゲーテ学者、博把統一は、一家団欒のディナーで、彼の知らないゲーテの名言と出会う。
    ティー・バッグのタグに書かれたその言葉を求めて、膨大な原典を読み漁り、長年の研究生活の記憶を辿るが……。
    ひとつの言葉を巡る統一の旅は、創作とは何か、学問とは何か、という深遠な問いを投げかけながら、読者を思いがけない明るみへ誘う。
    若き才能が描き出す、アカデミック冒険譚!

  • 何者ですか。この鈴木結生氏は。
    圧倒され続けた読書体験。

    ティーバッグのタグに書かれたゲーテの名言。ゲーテ研究家として、その出典を探さずにはいられない。
    「愛はすべてを混乱させることなく、混ぜ合わせる」
    統一の訳は
    「すべては愛によって混淆せず、渾然となされるべきだ」
    果たしてゲーテはこの言葉を発したのか?

    義理の父と、娘、娘の恋人、研究者仲間、そして妻。全ての人が関連しあって、物語は進んでいく。
    こんな関連のさせ方があるのだということに、ページをめくるたびに驚かされ続ける。
    いやあ、本屋大賞の本も楽しく読めるのですが、パターン化された設定にちょっと食傷気味だったので、喝が入るような読書でした。

    なんて当たり前のことしか書けない自分がいや!
    読み終わったこの感動をどう伝えればよいのか。

    読み終わった後、最初に戻って端書きを読むとこれがまた!

    恐るべし、鈴木結生…

    奈倉有里と逢坂冬馬の姉弟の家庭環境と似てるかもと思いました。世の中の風潮、どこ吹く風で子育てした家庭で育った恐るべき子どもたち…


    ところで
    今ちょうど、NHKのドラマ「東京サラダボウル」を見ているのだが…
    ジャムとサラダのくだりが出るたびに思い出した笑
    「実に神の愛は一つの花からすべての花を萌え出させました。それを知れば、我々人間もいずれは混乱せず混合できるものと信じることができます」よね?


    ゲーテ曰く、「新しい才能は、思いもよらない方向からやってくる」
    ゲーテ曰く、ゲーテ曰く「鈴木結生に注目すべし」

  • ゲーテ、
    たくさんの名言を残しているのは、知っています。
    詩人としても有名なのを知っています。

    でも、この本は、とっても難解でした。

    三分の一くらいで、ギブアップしました。
    自分の読解力と知識の無さに、打ちのめされました。

  • ムズイけど統一感があって分かるわ。愛や多様性をジャムとサラダで言い分けるって頭イイ。自分ならごった煮カクテルはノンアルで。ゲーテ然を気取るには、相反する言葉を混淆せず、渾然となせればよいのかな。

  • 2024年の芥川賞受賞作品。久しぶりに明るい受賞作品。作者は「然教授」のような人ではないかと勝手に想像している。

  • 「ゲーテはすべてを言った」という冗句が本当にあるのかはわからないが、本作の表題はそのすべてである。主人公であり高名なゲーテ学者である博把統一は、家族のディナーの場で、ティーバッグに書いてある彼の知らないゲーテの名言に出会い、名言の何かを探求する。

    物語自体は、非常に淡々としていて前半は盛り上がりに欠けるが、後半になると一機に面白くなる。登場人物全員に意味があるので、意識して読んでみるのもいいかもしれない。

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鈴木結生の作品

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