ベラルーシの林檎

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022566737

感想・レビュー・書評

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  • 『ベイルート961時間』に引き続き、こちらもパリ在住の女性。
    『岸惠子自伝』(2021年刊)で本書を知ったのだが、こちら(1993年刊)はざっくりと彼女の歩みを辿った感じ。読む順番としては正解だったかも。

    「窓はひとりでは開かない。窓は自分で開け、自分が身を乗り出さなければ空気は変わらないのである」

    岸惠子さん。
    生粋の浜っこで一人っ子。横浜の海や港祭りに花火と、「何でも好きになる子供」だった。
    12歳の頃横浜大空襲で罹災して以来、まるで子供らしさから脱皮するかのように「大人は誰も信じない」と決心。文学にバレエ、女優業と好奇心の赴くまま、一心不乱に好きなことに取り組んだ。24歳で仏監督であり医師のイヴ・シャンピ氏と国際結婚を果たし、パリに移住する。
    一世を風靡した『君の名は』よりも、出国直前に出演した『雪国』のエピソードにページを割かれていたのが少し意外だった。(フランス大使に「メロドラマ」と一蹴されたのが影響しているのかな…)

    「私のなかの国境が動いたのだった」

    本格的な女優業はパリ行きを境に影を潜めるのだが、この先のジャーナリスト活動では生まれながらの好奇心が本領発揮されているように思えた。(実際「フィクションの世界からノンフィクションの世界へと引っ越しをしていく別の自分が生まれてきてしまった」と、複雑ながらもワクワクしているような感じさえ伺わせている)
    今も尾を引く国際問題に踏み込んだリポート、率直且つ鋭いご意見。それらはさながら、(1ヶ月ほど前から読み続けている)『地図でスッと入る』シリーズの歯に衣きせない文章を思い起こさせた。

    幼い頃から「海の向こうを旅してみたい」という憧れがあったからか、訪問先がどんな「僻地」であろうと率先して足を運ばれた。
    そうした国々のルポは建国40周年の節目に訪れたイスラエルで始まる。(彼女が訪問を志願したきっかけが嘘のような本当の話で、その章を読了してからは暫く放心状態だった)
    ディアスポラ(離散)を余儀なくされて以来、何千年ものあいだ国を持たずに世界中で生きてきたユダヤ人。戦後十数年経っても異端扱いされた国際結婚の末、遠国の地を行き来している岸さん。

    「国境」というテーマを軸に執筆された本書には、国境がコロコロと変わるケースについても触れられている。しかし両者の運命や生き方を見ていると、まるで最初から国境なんて存在していなかったかのように境目が見えてこなくなるのだ。

    その傍らで日本との心の国境ははっきり引かれていたように伺えるが、それは今も続いているのだろうか。それはそれで(我々にとっても)寂しいけれど、心ゆくまで色んな「海の向こう」を確かめに行って欲しい気もしている。

  • アメリカのブックセールで購入。

    フランスに住んでいたので、岸恵子さんというお名前に惹かれ、多くはない日本語コーナーから見つけた。お名前以外、内容も何も知らないまま手に取った。日本の書店だったら出会えていなかったと思う。

    フランスで過ごされたお話し中心かと思っていたが、想像以上に難しい題材だった。
    岸さんの文章力、おちゃめなユーモアの中に芯の強い女性であることが伝わってきた。(文章の巧みさは、なるほど川端康成のくだりで納得)

    岸さんだからこそ、またその時代だからこそ経験することができた多くの世界的な動乱がとても活き活きと綴られている。
    昨年フランスではJ'accuse (私は弾劾する) の映画が公開され、話題となったが、その話 (映画のもととなった事件) も出てくる。

    フランスでは岸さんのように友人を通して異国のことを学ぶ機会が多かった。本書を読んで、彼らのことを思ってみたり、私が訪れた時にはすっかり明るい雰囲気を放っていたエストニアを思ったり、何とも言えないこみあげてくる気持ちに浸ることができた。
    また、実際に訪れたことのない場所についても、まるで自分が訪れているかのように思い描きながら読んだ。

    島国である日本に生まれた日本人が読むべき一冊だと思う。映画雪国を観てみたいと思う。

  • 先日テレビ番組の「徹子の部屋」に岸恵子が出ていた。今は日本に住んでいるという。確か80歳を目前としていたがそのはんなりとした語り口と姿勢の美しさに驚いた。

    岸恵子
    女優...パリ在住...ぐらいの知識しかなかったけれど、この本を読んで、思うこと多々あり。

    知識人との国際結婚、その人脈と環境、そして岸恵子本人の資質、それらを通してみる国際問題の断片。ジャーナリストのようなことを一時されていたようでその時のことが書かれている。
    民族問題とか社会や文化..etc

    漠然と思うことはあってもこうして文字にすることって須郷能力だと思う。
    あまりに美しい人だから内面のこうした知の部分が逆に見えにくかったのかなぁ〜と思う。
    素敵だと思う。

  • ユダヤ人とイスラエル、東欧の民主化、フランスでの生活、戦後の復興からバブルを経て現在までの日本、いろんな事柄を岸恵子さん自身の視点と切り口で書かれています。
    期待してたよりもずっと面白かったです。

    ユダヤのこと、東欧や旧ソ連の国々のこと、私は今まで全然知らなかったことを読むことができました。
    日本を出てフランスで暮らすこと、岸さんの時代は今よりもはるかに苦労も大きかったことと思います。世界をまたにかけてという華々しいイメージの裏で、日本にもフランスにも自分自身の根をある場所がないと感じていたという。。

    岸恵子さんの女優としての活躍は、私はほとんど知らないのだけれど、結婚を控えて日本を発つ前の映画「雪国」、観てみたいなぁ。
    そしてほかのエッセイも読んでみたいと思います。
    岸さんは、本当に美しさと強さと、旺盛な好奇心と深い思慮と、いろんなものをお持ちの素敵な方なんだろうなと思いました。

  • ただの女優かと思っていたけど、文章、内容共に、素晴らしい

  • 岸恵子の「ベラルーシの林檎」を読んだ
    教養溢れる素敵な書き手で、はじめから引き込まれた
    いつか、バルト三国や周辺の国を巡り歩くことができたら楽しそうだな、と思った
    彼女が過ごしていた時代のパリは、とても素敵な雰囲気に包まれた場所のように感じる
    でも、今のフランス政府はイスラム女性のスカーフを法律で禁止するような暴挙に出ている
    イギリスもそうだけど、ここ数年の欧米諸国の頑なで優しさのない政策には強く憤りを覚える

  • 「わりなき恋」を、待ってました!という方が多くて、ほほう、と思って古い作品のほうを読んでみました。エッセイですが。いやあ、格好良いですね岸恵子さん。映画の「雪国」も見てみたくなりました。自分も、もっと勉強せねばです。

  • 第二次世界大戦を経験し、フランス人と国際結婚・離婚し、海外リポーターとしての経験から綴られた作品。
    岸恵子さんならではの経験、考えが述べられており、参考になる。

  • バルト三国・イスラエルパレスチナ・戦後日本のミックス。
    微妙に作者の「日本」に共感できない。
    「芸能界」か「東京」と読み替えればいくらかは納得。
    および、外国での隔離感には同感。

    追記
    映画招かれざる客について、何かで同じ話を読んだと思ったら、「放送禁止歌」内だった。

  • 何気なく本屋で手にとって購入。前半の著者、及び著者を取り巻く人々の生き様に感銘を受けた。お金にならない誇りを大切にしている人たちは今どのぐらいいるのだろうか。文章全体に気品があり、読み心地が良かった。

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