静かな大地

著者 :
  • 朝日新聞社
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本棚登録 : 101
レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (688ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022578730

作品紹介・あらすじ

明治初年、北海道の静内に入植した和人と、アイヌの人々の努力と敗退。日本の近代が捨てた価値観を複眼でみつめる、構想10年の歴史小説。

感想・レビュー・書評

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  • 「静内が登場する本と言えば?」と聞くと、真っ先に名が挙がるのがこの一冊。自身のご先祖が開拓者であり、北海道にゆかりの深い著者・池澤夏樹さんが、静内を舞台に和人とアイヌの人々の生き様を描いた歴史小説です。(新ひだか町静内)

  • アメリカではヨーロッパの入植者が大陸とネイティブアメリカンを侵害していったように、北海道では和人が北海道とアイヌを侵害していった。
    鮭や鹿を取りつくし、アイヌを安く働かせ、アイヌの土地を我が物顔で侵食していく和人。山奥へ追い出され、枯渇していく食糧、貧しくなっていくアイヌ。

    明治初年、食い扶持を失った旧徳島藩淡路島の士族たちが、新たな暮らしの場を求めて北海道静内へ移転した。そこで少年期を過ごした三郎、志郎兄弟はアイヌと友達になる。
    三郎は青年となり農業・牧畜の知識を得、少年期からの知り合いアイヌとともに、遠別で馬牧場を開く。動物の扱いはアイヌが優れ、優良馬を産出することとなる。
    宗形牧場はアイヌが安心して暮らせるアイヌ中心の牧場であり、三郎は日本向けの窓口だ。この牧場が成果を上げていることに対して、次第に和人の嫉みや嫌がらせ、のっとり計画に至るまで軋轢が大きくなっていく。

    ●強いものが弱いものを取る。力ずくで取る。それが世の掟だというのなら、アイヌにはもう言うことはない。そのような世には住みたくないと言えば、それ以上は言う事がない。

    欧米の植民地政策に巻き込まれた日本でさえかくのごとし。食うか食われるかのなかで、人はどこまで貪欲になれるのだろう。それは自滅するまでなのか。

  • 北の大地に住むアイヌと南からこの地に入った和人の話。
    和人とは、アイヌが自分たちと考え方の違う人間につけた「名前」だ。シャモと呼ぶ。日本人のことだ。
    アイヌの歴史は長い。しかし、江戸時代、日本人が侵入してきてからの歴史は短い。その短い中で、アイヌは潰され、アイヌプリ(人間らしい生き方)は壊され、日本人への同化が強制された。

    この話は、そんな歴史の中のひとつの出来事が語られている。
    正に「語られている」ことに、魅力がある。それは、アイヌのユカラに通じていくものがある。
    歴史は勝者の記録によって、多くが作られていることを考えると、語り継がれていくものの重要さを作者は意識していたのだと思う。

    時代は、維新の世の中。北海道は、蝦夷地と呼ばれていた。
    お国の事情で、遠く淡路から集団移住してきた武士と、北海道で、シャモに「土人」と呼ばれているアイヌとの出会いから始まる。

    その時、子供だった三郎は、はじめてアイヌと会った。他の者が「ドジン」「蛮人」と蔑んだ見方をしていたのと違い、三郎と弟の志郎は、とても早く進む丸木船とそれを操るアイヌの力強さ、堂々とした態度、良く通る声などに夢中になってしまった。
    そのことが二人、特に宗形三郎のその後を決めていた。

    三郎は、その後、アイヌと共に牧場を作り、成功させ、アイヌ(実は和人の養女)と結婚するのだが、それは、父、志郎の語りを受け継いだ娘の由良が、三郎という叔父さんに強く惹きつけられ、「宗形三郎伝」を書く、という行為のなかで語られていく。

    まず、体を悪くした志郎が幼い娘たちに語る、三郎の話がある。
    そして、成長した由良と夫が三郎の生涯の友であったオシアンクルを訪ね、聞いた話。
    三郎が、札幌で農業の勉強をしていた時に、志郎にあてた手紙。
    志郎の伴侶である由良の母が語る父との出会いからの話。
    叔父の話をまとめることを勧めてくれた由良の夫との対話。

    などが繋がっていく。
    時代は行ったり戻ったりもするが、読者は由良と共に叔父、三郎の成しえたものや、成しえなかったものを知る。
    そして、私たちはアイヌと出会う。
    アイヌと出会った日本人としての自分に出会う。

  • 明治初期、淡路から北海道・日高(静内町)に入植した士族達。多くの元士族たちは、土人をさげすむ中、ある2人の少年がアイヌの少年と交流を深めていく。そして成長と共に、相反する二つの民族という、社会の中で避けられない問題に直面してゆく"伝記"を、ある親族がまとめていくというストーリーだ。時代や語り口が前後するので少し読みにくいが、とても面白く、読み耽ってしまった。

  • (2002.03.03読了)(新聞連載)
    (「MARC」データベースより)amazon
    明治初年、北海道の静内に入植した和人と、アイヌの人々の努力と敗退。日本の近代が捨てた価値観を複眼で見つめる、構想10年の歴史小説。『朝日新聞』連載を単行本化。

  • アイヌと和人(日本人)の間で生きた人たちの物語。
    いかにして和人がアイヌを押さえつけてきたか、よく分かります。
    しかし、焦点はそこではなく、アイヌの自然と共に生きるというライフスタイルを今の私たちはどう感じるかということだと思います。

    物語が終わったところで書かれている小話、『熊になった少年』を読んでハッとした。
    アイヌの物語で描かれる悪いトゥムンチって、私たち和人のことなんじゃないかと。
    和人が作ってきた習慣の中に生きる自分たちは、なかなかそこから離れた生活を送ることはできないが、例えば動物や食べ物に対する感謝の念を持つ、アイヌを排斥してきた歴史を知り謙虚な気持ちを持つなど、個人の心がけで出来ることはある。

  • 北の大地で、川や土と一緒に懸命に生きた人たちが、確かにそこに暮らしていたことを、忘れたくないと思いました。

  • なるほど、「静かな大地」ね。本を閉じた後レビューを書くと、タイトルの意味がああ!!ってわかる時がある。
    アイヌが穏やかに暮らしていた静かな大地に和人が入ってきて荒れて、アイヌがいなくなって静かな大地になったってことでしょうか。

    人生で初めて読んだ、アイヌに焦点をあてた話でした。そして今までの無知を謝りたいです。日本は単一民族国家じゃありません。アイヌがいます。
    アイヌ側から書いた話だから多少の誇張はあるとしても、なんで和人は罪もないアイヌをそこまで徹底的に駆逐したのかねぇ。
    強い日本帝国を作るために、国一丸となって「外のもの」を排除していた時だったとはいえ、現在の阿呆な自分みたいなのが「日本は単一民族国家」って言い切っちゃうくらいアイヌを駆逐する必要は本当にあったんだろうか。
    当時の情勢を考えても、せめて穢多非人レベルの下等民族扱いをすれば、もうちょっと文化も知識も残ったと思うのに、完全に排除だからな・・・

    長めの単行本だけど、語り人・語り口が章ごとにがらっと変わるので、中垂れ感がなく最後まで集中して読めます。
    一冊を通してほぼ、「和人から見たアイヌ」の話しなので、無知な自分みたいなのでもアイヌの考え方がよくわかります。
    「全てのものに魂が宿り、恵みはすべてその神から頂くもの。人間は神の恵みによって生かされているもの」って考えは、自然の中で原始的な生活をしたい自分にとってすごい魅力的です。
    そいういう謙虚な姿勢を持ってるからこそ、欲もないし取り合いもしないんでしょう。

    って、これ書いてて気づいたけど、クリスチャンの考え方とあんまり変わらなくね?古来の日本も似たような考えで、だから祭りとか生贄とかやってたわけじゃん。
    でも今日本もアメリカも、強欲の自己中心的な身の丈以上に求める人ばっかじゃんね。
    あれか!自然から離れて恵みを待たなくても工業的に生活できるようになっちゃったからか!
    自分でコントロールできちゃうから、天に頼まなくてもいいし、欲しければ欲しいだけ自分で作れちゃうから、欲も天井なしなんだ。

    なんだよー。みんな自然に帰れよー。せめて畑でもいいから耕してみろよー。
    人間って思った以上に少ない物だけで生きていけるから。そんなに欲を出さなくても生きていけるってわかるからさ-。きゅうりなんて1人1株で十二分に収穫できるよっ!

    にしても、今の日本の工業化を見ていると、アイヌの文化が廃れるのも時間の問題だたのかもしれんなぁ。
    それでも自然に任せて薄れていくのと、人間が力ずくで廃れさせるのは大違い。日本もアメリカ・インディアンみたいに、アイヌに対する補償とかやればいいのに。在日韓国人と異なって、アイヌにもインディアンにももう帰る土地がないんだからさ。

  • アイヌがいかに崇高な民族であったかが分かる。

    武器を持たず話し合いで解決する。世の中に不必要なものはない。全て神様が差し出してくださったもの。そのアイヌを奴隷のように扱い、衰退させた日本人。

    世の中は、力の強いもの・知恵のあるものが残っていくものかとやるせなくなる本。

  • まず本の分厚さに恐れを感じますが、とてもよい物語でした。映像が浮かんでくるよう。

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著者プロフィール

池澤夏樹(いけざわ なつき)
1945年、北海道帯広市生まれ。1964年に埼玉大学理工学部物理学科に入学し、1968年中退。
小説、詩、評論、翻訳など幅広い分野で活動する。著書に『スティル・ライフ』(中央公論新人賞、芥川賞)、『マシアス・ギリの失脚』(谷崎潤一郎賞)、『花を運ぶ妹』『カデナ』『光の指で触れよ』『世界文学を読みほどく』『アトミック・ボックス』等多数。また池澤夏樹=個人編集『世界文学全集』、同『日本文学全集』も多くの読者を得ている。旅と移住が多い。
2018年9月から、日本経済新聞にて連載小説「ワカタケル」を連載。

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