アメリカ歴史の旅: イエスタディ&トゥデイ (朝日選書 325)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022594259

作品紹介・あらすじ

'60年代にアメリカで湧き起こった諸変革の波。建国200年の歴史の跡を旅しながら、新視点からアメリカ社会の本質について考える。「歴史の旅」シリーズ第2弾。

感想・レビュー・書評

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  •  著者がアメリカ中を旅した時の様子も盛り込みつつ、有名無名色々な人の手記や記録を紹介しながらアメリカの歴史の様々な局面をエッセイ風に紹介したもの。読みやすい上に、資料となる写真も豊富で、思ったよりもすぐに読める。中には「しばり首にされたリンカーン暗殺グループ」の写真(p.131)とか、黒人殺されて吊るされている有名な写真(「奇妙な果実」の写真)(p.261)とか、刺激の強いものも。もとは1977年に書かれた雑誌向けの連載らしく、キング牧師の暗殺とかウォーターゲート事件とか、今となっては完全に歴史、となってしまった時代を生きた人の話、というのも面白かった。
     南部や西部の話が半分以上を占めていて、人種差別の生々しい話なんかもある。時々出てくる著者自身のアメリカ観、というのを読むのも興味深い。「アメリカ人はすっかり疑い深くなっていた。まだ独立する前のころ、イギリス本国から派遣されてくる総督たちの横暴に、すっかり手を焼いていた各植民地の人びとは、総督の再任を禁止する法律をつくったところが多い。今なおかなりたくさんの州で知事の再選を禁じているのは、そのころの名残なのである。」(p.90)、ということで、今の制度のルーツがパッと遡れるのもアメリカ史の特徴の1つなのだろうか。1858年に日米修好通商条約の批准書を交換するためアメリカを訪れたサムライ一行の手記(pp.93-8)は結構面白かった。それから「今の労働組合は、戦うときは断固として戦う姿勢を保ちながらも全般的に穏健化し、むしろ保守化の傾向さえ見せはじめている。」(p.110)ということで、よっぽど赤狩りというのが激しかった時代のことが分かった。「おそらくアメリカには、共産主義を異質のものとする強固な同質性があって、その同質性のなかで二大政党が交互に政権をとっているからであろう。共産主義自体がアメリカ化してこの同質性のなかに融けこまない限り、いつも異質の存在としてはじき出されてしまうのである。それではどうしてこの強い同質性が生まれたのだろうか。おそらくそれはアメリカが雑多な移民の国であるために、かえってアメリカの国旗と国歌に対する中心指向が強いためであろう。」(pp.121-2)、「共産主義に対する常軌を逸したヒステリー症は、アメリカ国民の一つの性格となったのではないだろうか。」(p.128)という話だった。他にも、「思うにアメリカには、何か犠牲者を探し出して、多数派が狂信的に荒れ狂うような反理性的伝統がある。自分たちだけの力で無から創りあげた国だけに、他の国ほど国家の中心になるものが具体的な形で存在していないから、そのためにかえって求心力を探し求める偏狭な愛国心が、理性を無視した異常な現れ方をするのではないだろうか。」(p.262)という部分でも述べられている。なんか本当に田舎の村社会の閉鎖的な感じがすごいして、アメリカで暮らすということは外からアメリカを見るのとは違うことが確認できる。ちなみに赤狩りに関連して、p.128にセーレムの魔女狩りの話がコラムにまとめられている。セーレムはわざわざ行った街なので、内容も興味深いが、「劇作家アーサー・ミラーは『るつぼ』という作品を発表して、こういう非理性的な傾向に抗議をした。」(p.128)という、この『るつぼ』を早速図書館で借りたので、ぜひ近々読んでみたい。そして当然のことながら、差別の対象にはアジア人、日本人も含まれていて、ベトナム戦争の時のある将軍の発言、「『東洋人は、西洋人のようには命を重くみないのだよ。東洋では、命はあり余っていて安いのだ』こういう考えをとりやすいのは、年齢の高い層、軍人、右寄りタカ派の政治家などである。」(p.138)という、本当に恐ろしい話。p.155の「ピストルと斧をもって黒人を追い出すマドックス父子」とか。ここまでではなくても、「一九六八年秋のはじめ、ニューヨーク市マンハッタンでアパート探しをしているうち、私は何度か奇妙な経験をくり返した。」(p.215)というくらいの差別だったら、今でもあるかも、と思ってしまう。書かれた年から50年くらい経った今では事情が変わっていることを望むばかり。あと、植民時代の話と、途中でも出てくる先住民の人たちに対する仕打ちも凄まじい。「いま世界最大の農産物輸出国となっている合衆国の農産物のうち、実に七分の四はインディアンに教えられたもの」(p.162)なのに、という話。それから奴隷人口の変化、の表がp.196にあるが、これを見ると、1860年に北部自由州でたとえゼロになったとしても当初以上に南部奴隷州の数が増えているというのはどういうことだろう、と思った。北部の人も喜んでいる場合じゃないよな、という感じ。
     著者の本はこれまでにも何冊か読んだが、とても読みやすい。(23/09/16)

  • 一つのテーマが2、3ページでまとまっていてとても読み易い本だった。また写真、挿絵がとても多いのでイメージが湧きやすくアメリカの歴史的な背景をよく理解できる内容です。奴隷船の積み方の絵はちょっと衝撃的でした。

  • タイトル通り、アメリカの歴史の旅に出かけたような壮大さが感じられる。写真も多いので歴史の絵が浮かぶ。アメリカの歴史から政治、マフィア、黒人運動、野球など様々なジャンルの歴史の旅。

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著者プロフィール

東京女子大学名誉教授。主な著作:『検証アメリカ500年の歴史』(平凡社,2004),『アメリカを揺り動かしたレディたち』(NTT出版,2004),M・L・キング『黒人の進む道』(訳,明石書店,1999)。

「2005年 『民衆のアメリカ史 下巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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