森と田んぼの危機(クライシス)―植物遺伝学の視点から (朝日選書)

著者 : 佐藤洋一郎
  • 朝日新聞社 (1999年11月発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022597373

森と田んぼの危機(クライシス)―植物遺伝学の視点から (朝日選書)の感想・レビュー・書評

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  •  佐藤氏は静岡大学農学部の助教授で、この本は森と田んぼを切り口に植物遺伝学者の目から見て、人間が自然に対してしていることの問題と、共生のための処方箋が書かれています。

     最近何冊かの遺伝子操作についての書物も読みました。そこで私が大変気になるキーワードが「多様性」です。私は遺伝子操作の問題はつまるところ多様性の喪失ではないのか と最近は考えています。この本を読んで益々、生態系を多様に保つこと がこれから先人間に課せられた大きな課題だと感じます。

     この本を読む前に『地球持続の技術』(別に紹介メールを出します)も読みました。この2冊の本はどちらも地球に(自然に)優しくあるための手立て、『地球持続の技術』ではエネルギーの観点より、この本では生物学的な観点より、が書かれた本で、どちらにも「あっ!」と認識を多々新たにさせられました。

     興味を引いた何カ所か引用します。

    《O157とカイワレダイコンについて書かれた箇所》

     私は、根本的な席因は、農作物を土から離してしまったことにあると思う。養液栽培を行うことで、たしかに害虫や病気の発生はコントロールしやすくなった。仮に病害虫が発生しても、土の場合に比べてはるかに早くそれをコントロールできる。養液を媒介とするカイワレダイコンのハウスは一つの閉じた系-生態系をなしている。養液のコントロールは一見科学的なように見えるが、多様性という点からみると極めて不安定な状態にあるといえる。ここに、植物には無害だが人体には有害な微生物が入り込んで増殖しないという保証はない。管理がいいかげんだったから病原性大腸菌が増えたというのではおそらくない。反対に、きちんと養液を管理しようとしたことによってO-157が増殖した可能性が高い。被害を受けた患者とカイワレダイコンの生産者にはまことに気の毒だが、あのような事故は、いつどこで起きても不思議はなかったのである。強いて言うなら、非は、農薬の害に目を向けすぎるあまり無農薬ならばなんでもよいと考えた消費者にあった。もちろん、消費者のニーズに応えるという名目で、土を使わない「清浄な」栽培を広めた政策に問題があったことはいうまでもない。

    《日本の美田について書かれた箇所》

     日本では、田には農薬をまき、手をつくして、稲以外の生き物の生存を許さないようにしてきた。それは、美田といわれる日本に固有の水田を作り出しはしたが、田が本来持つ生態的エネルギーのかなりの部分を無駄にしてしまった。生態的には、今の水田稲作は不経済な稲作である。しかも、そのために相当のエネルギーを消費して。それに比べて、彼らの田はなんというエネルギー効率だろうか。貧しい地域と私たちが頭ごなしに決めつけていたアジアの片隅には、こんな生態系が息づいていたのである。私には、ここに二十一世紀の農業の生態系、水田の生態系のヒントがあるように思えるのである。

    《トキについて書かれた箇所》

    種の絶滅がなぜ問題かということになると、「人間の横暴が弱い種を絶滅に追いやっている」といったような、極めてあいまいで感覚的な捕え方がなされていることが多い。トキの絶滅の場合にも似たような議論があった。人間がトキの生活の場を奪い絶滅に追い込んだのであり、人間のこのような横暴は許されないというような意見が主流を占めていたように思う。一方それに合わせるように、最後の個体のDNAを保存しておき、クローン技術によって将来復活させれば、種の絶滅はたいした問題ではないという議論も登場した。

     トキの絶滅が問連なのは、トキという特定の種が失われるということのほかに、さまざまな種の連鎖によって成り立っている生態系そのものに影響が及ぶからである。

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