本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・本 (280ページ) / ISBN・EAN: 9784022599568
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
現代における名声とは難しい。芸術家の場合、それは自らの分野に関する才能だけでなく、セルフプロデュース能力やブランディングも含めて判断されるものだからだ。本書はル・コルビュジエの建築だけでなく画家や雑誌出版としての側面、彼自身の性格やその影響力について述べていくことで、「20世紀最大の建築家」と呼ばれるに至るその全体像を明らかにしていく。巻末の相関図は興味深く、初期は美術界からの影響を受けていたル・コルビュジエがやがてデザイン・建築界に影響を与える側になっていくのがわかりやすく整理されている。
-
「時代に選ばれた建築家」
20世紀モダニズムを代表する建築家ル・コルビュジエ。その生涯、メディアを巧みに利用することによって世界にその名を広めていった戦略を、パブリシティや絵画・音楽・自動車や飛行機など彼が関わったテーマごとに検証、日本との関わりや世界の中での位置づけなど、様々な角度からその軌跡をたどる。
20世紀前半、画期的な作品で世界を席巻したル・コルビュジエ。その名はあまりにも有名ですが、本名はシャルル・エドワール・ジャンヌレ。もともとはフランス系スイス人で、後にペンネームとして使うことになった「ル・コルビュジエ」は「からす」という意味だそうです。
お膝元フランスの「サヴォワ邸」はじめ日本ではお馴染み上野の「国立西洋美術館」など、その建築は世界各地に残りますが、同時代に活躍しその作品がほとんどアメリカ国内に限られた建築家フランク・ロイド・ライトとは対照的に、意外にもアメリカとは非常に縁が薄かったというのも興味深い話でした。
今に残る建築を見るとき、20世紀以降のものとそれまでのものとは大きな気分の違いがあることに気づきます。それまでの伝統的な建築といえば石やレンガを積み上げて重厚に作られ、それらの多くには何らかの装飾があり、非常に情緒的女性的であるように見えます。
それに対して20世紀初頭に始まるモダニズムの建築というのは、イメージとしてとにかく四角い。そしておおよそ装飾というものが無いです。機能的で合理的、無駄がないという面から言えばそれは、必然的な進化であったのかもしれません。けれども本書を読んでいくと、その大転換に大きく舵をきる役割を果たしたのが、ル・コルビュジエという建築家であったことがわかります。
昔ながらの伝統的な建築を重んじる守旧派にその活動を阻まれながらも、彼は建築にとどまらない巧みなメディア戦略によってその活動の舞台を世界へ広げてゆきます。「ピロティー」「屋上庭園」「自由な平面」「水平連続窓」「自由なファサード」を「近代建築の5原則」として発案し「住宅は住むための機械である」と言って憚らぬ機能主義のうちに、次世代の世界の建築家に大きな示唆や影響を与えることになる多くの作品を世に残しました。
日本でも前川國男・坂倉準三・吉阪隆正といった建築家がコルビュジエのアトリエに入所して「国立西洋美術館」設立の際に尽力しています。また直接の弟子ではなかったもののそのエスプリを最も受け継いだといわれる丹下健三の作品が、国立代々木競技場や東京都庁舎、広島平和記念資料館として見られることなど、その系譜を思うとき非常に感慨深いものがあります。
いかに美しく人の心を捉えたのだとしても、結果的に今世界の大都市にあふれているのは、ネオ・ルネサンスでもアール・デコ様式の建築でもありません。装飾が排除され、スタイリィッシュで機能性の高いオフィスビルやマンションの谷間を歩きながら「ル・コルビュジエ」は時代に選ばれた建築家だったのだと思いました。
著者プロフィール
暮沢剛巳の作品
本棚登録 :
感想 :
