城と隠物の戦国誌 (朝日選書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.91
  • (4)
  • (3)
  • (3)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 34
レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022599612

作品紹介・あらすじ

「村に戦争が来る」「村が戦場になる」そんな噂を聞いたとき、ただ呆然としていれば、ヒトもモノも敵方の雑兵たちに「乱取り」されてしまう。この乱世を行き抜くための危機管理の焦点に城と隠物があった。多くの落城の光景の中に女性や子どもの姿がある。城は村人たちの避難所であった。だから、城の維持・管理は彼らの責任で行った。城から遠ければ、山中の「村の城」に篭もって難を逃れた。それでは財産はどうするか?持ち運べないものは穴を掘って埋めて隠したり、寺社や他所の村や町に預けたり。「隠物」「預物」の習俗は生き残り策の土台にあった。発掘された銭甕や地下の穴など考古学の成果に注目した著者は新たな視点から戦国びとの危機管理の実態を描き出す。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 戦国時代、武将の争いに巻き込まれ翻弄される農民や町民がいかにその身や財産を守ったかという事実を幅広い史料と考古学、さらには国際比較を通した文化人類学的視点まで駆使して鮮やかに描く。城を取り巻く曲輪に具体的な避難場所に迫る地方探訪もまた楽しい。山城から発想を膨らませた村の城、考古学的裏付けのある山谷のシェルターも興味を惹かれる。特に太平洋戦争時の防空壕にまで受け継がれる行き伸びるための知恵(それは決して現実には効果がなかったとしても)としての観点は、文化の連続性と固定制を明白にしている。預物や隠物への執着もまた同じ事実を捉えている。そういった意味で、問題の今日性を実感できる論旨となっているし、そのこと自体が本書の魅力を増している。

  • 2009年刊行。著者は立教大学名誉教授。

     「城」とは、戦乱下の民衆の避難場所⇔城の修復・維持管理の職責は民衆に課されていた。
     戦火の中、いやそれ以上に戦火が蔓延する時代相において、貨幣、農具、銃砲刀剣の隠匿する必要性は高かった。そういう機能を果たしていたのが城である。
     これらの実情について本書は詳述するも、著者の他書の読破歴があれば、さほど内容の意外性は大きくないだろう。

     しかしながら、城と呼ばれる存在のみならず、中世後期の「神社・仏閣」が民衆の防衛施設となっていた事実はどうだろうか。
     そして、それが特に権門とはいえない神社・仏閣であった場合、これら神社・仏閣と、いわゆる領主が運営する城との間で、地域防衛に関する連関を考慮し、建築されていた事実はどうか。
     こういう観点でみると、本書の内容は、著者以外の類書から見出すことはなかなか難しい。

     すなわち、従来言われてきた神社仏閣の世俗権力からの独立性。換言すれば、そのアジール性は、それを侵す者に対する神罰・仏罰ゆえに規定されていることに留まらず、それらが持つ防御施設・戦乱保護施設の側面から担保されたものであったこと。こういう事実が中世後期ないし近世最初期に存していたことを本書から窺い知れよう。

     本書のこれらの論考が依拠するものは、各種文献、郷土史家との連携と現地踏破、種々の先行研究であり、極めて広範な分析対象であるという印象は強い。
     勿論、本書の分析地域は、著者が史料を広範に渉猟してきた関東(北条氏)が多いのは確かだ、しかしそれに止まらず、九州やその他の地域にも言及されていることからみて、本書にある城や神社仏閣の機能が、関東諸地域の地域性ではないということを示している。

     そして最も基礎的な点。それは、本書の内容というよりは、著者のかような着想の特異性が如何に生まれたかである。従前より不思議に思っていたこの疑問は、本書を見れば氷解していく。
     すなわち、日本の中世・近世民衆史の専門家の著者にとっても、西欧社会史(特に中世ドイツ)の成立と亢進によって露わになってきたアナール学派的発想に関心を向けないではいられなかったところだ。
     それは、同じ中世を扱っていることは勿論だが、アナール学派的な発想は、中世に限らず、それこそあらゆる時代に妥当する歴史研究のパラダイム変化(もう少し穏当に言うなら、歴史解釈の方法論が新奇に追加された)である。

     本書における、日本の城と中国・西欧ドイツの城郭との比較を見ると、世界史研究におけるアナール学派の議論の進展にインスパイヤされてきたことを、本書は雄弁に語るものとなっているのだ。他の研究者の戦国・織豊権力研究とを比較する場合、この発想の違いが関わっていないかは、読み手としては気にしておく必要があるのだろう。

  • 戦国時代、都市や村が戦火に巻き込まれそうになったとき、民衆は大きく2つの対抗策があった。

    1.領主の城に行き、篭城する。
    2.近くの山野に身を隠す。

    1に関しては、映画やテレビ・小説などでおなじみなので、説明は不要だと思います。
    2に関しては、生命・財産を守るための知恵が必要でした。

    本書は、乱世を生きる民衆が生き残るために、とった様々な手段を解説しております。

    ・生命・財産を守るために地下シェルターを作って隠れる。
    ・戦国時代の貸金庫ともいうべき、土蔵に財産を預ける。
    ・戦後、預けた財産をスムーズに引き渡すためのルールを明確化する。
    ・戦火を避けるために、攻め寄せる軍勢に賄賂を贈る。

    などなど、当時の民衆の逞しさを語るエピーソードを数多く掲載しています。

    また、当時の文書も例としていくつかあげられています。
    特に16世紀の関東弁丸出しの文書などからは、当時の話し言葉の一端を垣間みることができました。

    また、戦国時代の民衆の文章表現も多彩で、戦が迫ってくる事を、
    「乱が行く」と表現したりします。
    台風や旱魃のように、天災的な印象さえします。
    当時の民衆の心情にある無力感を垣間みれて、興味深かったです。

  • 「歴史を知ることは、今を知ることなんだよ。」とセンセイはおっしゃった。その時は意味がよくわからなかったけれど、今はよくわかる。戦国時代の民衆に学ぶべし。

  • 「城」というと、平時は在地領主の館であり、戦時には兵隊が立てこもる拠点としての機能をもつ、という理解が一般的である。それに対して、本書では、城のもっとも重要な機能は、戦時における地域住民の避難場所である、という新しい説を披露する。すなわち、中世の在地領主は、戦時において領民をいかにして守るか、というのが重要な課題だったのである。これまでに発掘されたいくつかの中世城跡を例にとって、縄張りのどの場所が住民の避難場所であったかを推察することが、本書で取り組んでいる大きなテーマである。たしかに、多くの山城は外周に大きな曲輪を設けているが、この部分は軍事施設とみなすよりも、住民の避難場所だとみなす方が自然かもしれない。
    著者の主張は、多くの戦国研究家や考古学者に受け入れられているようである。本書は、近年出版された戦国城跡に関する書物で軒並み引用されるヒット文献になっている。

  • 乱取りから逃れるために民衆が逃げ込んだ領主の城は、その日のためもあって維持・管理には民衆が動員された。また、山中には「村の城」が設けられた。さらには、地中に掘られた穴に隠れることも。
    さらに、財産を守るため寺院や他の村、土倉などに預けた(寺院や他村は謝礼なしか。土倉は有料)。その時間的余裕がなければ、地中に埋めて隠した。

  • 戦国期、戦地に住む人々が危機を前にどのような行動をとったのかについての研究はまだ少ない。
    この本は村の城研究の第一人者である著者による村の危機管理研究の現段階におけるまとめである。
    中世城郭構造を再検証し避難民の収容がいかに城主たちにとって重大なテーマであったのかを指摘し、戦地の住民たちが大事な資産を守るために行った隠物・預物の習俗を各地の発掘結果、多数の文献から読み解く。
    さらにはそうした緊急時の対応が多くの近隣の村々との間の情報ネットワークを通じて行われていた形跡まで存在する。
    生きた戦国社会を再現するには支配者たちの歴史を知るだけでは不十分であって、こうした時代を生きた民衆の姿に目を向ける事で初めて生き生きとした戦国時代の姿が浮かんでくるのだという事を思い知らされる。

全7件中 1 - 7件を表示

藤木久志の作品

ツイートする