ハングルへの旅 (朝日文庫)

  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022605443

作品紹介・あらすじ

『朝鮮民謡選』をくり返し読んだ少女時代。心奪われる仏像がすべて朝鮮系であることに気づいたのは、30歳過ぎた頃。そして、あたかも、見えない糸にたぐり寄せられるかのようにして50代から著者が学び始めたハングルは、期待通りの魅力あふれる言葉だった。韓国への旅の思い出を織りまぜながら、隣国語のおもしろさを詩人の繊細さで多角的に紹介する。

感想・レビュー・書評

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  • 『自分の感受性くらい』『倚りかからず』などの作品を残した詩人・茨木のり子(1926~2006)
    彼女は50歳のときにハングルを学びはじめた。

    「韓国語を習っています」
    と、ひとたび口にすると、ひとびとの間にたちどころに現れる反応は、判で押したように
    「また、どうしたわけで?」
    「動機は何ですか?」
    と決まっていたらしい。
    隣の国の言葉を習っているだけだというのに。1976年当時のことである。

    カルチャーセンターの「朝鮮語」初級クラスで、老若男女40人ほどが授業を受ける。ここで茨木さんは、先生というよりは師と呼びたい金裕鴻先生と出会い、一心不乱に勉強した。
    当時、ハングルを習うのは、あまりにも少数派で、あえてその少数派を選んだ人々は日本人の中でも相当個性の強い人が多いと、茨木さんは振り返っている。
    だからこそ、このクラスの受講生の方々の言動や授業の様子は大変エネルギッシュなものだった。そして学ぶことの楽しさにも満ち溢れており、わたしもやってみたいとウズウズせずにはいられなくなる。

    茨木のり子さんはやはり詩人だ。彼女は日本語とハングルの間を行ったり来たりしながら、言葉のもつ美しさやもどかしさ、そして言葉には決して叩き潰すことのできない尊さや力強さが存在するということをわたしたちに伝えてくれる。

    「私たちの言葉を習ってくれて、ありがとう」
    茨木さんはハングルを習い始めて1年半目、初めて韓国に行く。その時に空港で出会った韓国のおばあさんから、この言葉を言われた。それ以後も、何度か同じような言葉を聞いている。
    「日本語を習ってくれて、ありがとう」
    なんて、わたしは思ったことはあっただろうか。
    彼らの言葉を否定し日本語教育を強いたわたしたちの国。1945年以降、韓国で改めて自分たちの母国語を学び直された世代の人たち……。
    そんな過去に対して向き合ったとき、悶々とした感情が生まれてくる。
    「私たちの言葉を習ってくれて、ありがとう」
    何気なく告げられたであろう言葉だからこそ、この言葉の重みを感じずにはいられなかった。

    茨木さんは韓国で訪れた土地の人々や子どもたちと、たどたどしくても一生懸命に韓国語で話を交わす。
    釜山から大田へ行く高速バスの中での少年とのやりとり、楽安という村の子どもたちの無邪気さ、白馬江ですれ違った主婦たちの賑やかな舟遊び……
    その「旅の記憶」には、決して華々しさはないけれど、どれもが印象的な出来事であり、本来、旅ってこういうものなんだなぁとしみじみ思う。

    また第二次世界大戦前、戦中に活動した舞踏家・崔 承喜、朝鮮民芸・陶芸の研究家・浅川巧、朝鮮語弾圧の当時もハングルで詩を書いた詩人・尹 東柱の3人の生涯についても触れられていた。
    彼らへの尊敬の念、愛しさ、やりきれなさが、文章の端々から滲み出る。わたしはどの人物のことも、もっと知りたくて仕方がなくなった。

    今、茨木さんが50歳の頃から45年が経った。
    その頃よりは隣の国の言葉を耳にする機会も増えた。それでもまだまだ彼らの言葉を習うことが、当たりまえのことにまではなっていないなぁと感じている。
    そしてそれは言葉に限ったことではなくて。
    「十年たてば山河も変わる」
    これまでも、これからも、少しずつ巌は動いていくのだ……と思いたい。

    • shokojalanさん
      地球っこさん、いつも素敵なレビューを拝読してうっとりしています。ありがとうございます。

      あくまで私の狭い観測範囲ですが、10代~20代前半...
      地球っこさん、いつも素敵なレビューを拝読してうっとりしています。ありがとうございます。

      あくまで私の狭い観測範囲ですが、10代~20代前半の若い世代のうちk-popの好きな層は自然な流れで韓国語を習っているような気がします。
      ソフトパワーの力はすごいなと思います。それが日韓の良い関係構築の土台になってくれると嬉しいですね。
      2021/04/19
    • 地球っこさん
      shokojalanさん、おはようございます♪

      私の方こそshokojalanさんのレビューにいつもうっとりしています。
      shoko...
      shokojalanさん、おはようございます♪

      私の方こそshokojalanさんのレビューにいつもうっとりしています。
      shokojalanさんとブク友さんになれてよかったなぁと、レビューを拝読するたびに思ってます(*^^*)

      そうですよね、わたしもソフトパワーの力はすごいなあと思います。
      若い世代のk-pop好きさんたちだけでなく、わたしはおばちゃんですけど韓国の俳優さんが好きだし、韓国のメイクとか美容とかに興味がある女性も多いだろうし、好きなこと(ひと、もの)をもっと知りたいという気持ちがあれば、自然と言葉を理解したくなりますよね。
      全国的にそうなのかは分かりませんが、子どもたちの行っていた高校では第二外国語の選択が、韓国語と中国語でした。
      若い頃から近隣の国の言葉に触れるのは、
      学習として言葉を覚えるだけでなく、きっと未来にとって、とても大切なことだと思います。

      茨木さんのこの本を読んでると、本当に言葉の力を感じました。
      地道なことだけれど、きっと日韓の良い関係構築の土台になってくれると願ってます。

      コメントありがとうございました!
      2021/04/19
  • フォローしている地球っこさんのレビューを読んで、図書館で借りた本。
    いつも素敵な本に巡り合わせで下さり、ありがとうございます。

    上手く感想がまとめられないので、是非地球っこさんのレビューを読んで頂きたい。
    こんな風に書けたらなぁ…とため息の出るレビューです。

    日本語と韓国語(ハングル?朝鮮語?どの表現が的確なのか分からない…)、両言語に対して、自分自身が興味を抱いていたことと、まさに同じことが語られ、調べられ、学ばれていて、あー、もっとこの本に早く出会いたかった…と嬉しくも残念な気持ちになってしまった。

    大学受験の頃、民俗学や言語学にささやかな興味があり、それを学べる大学を自分なりに調べて見つけたが、通うに遠く(下宿など許されなかった)、偏差値も遠く(浪人も許されなかった…受験勉強への熱意もなかったけど)…ひよって無難な文学部に鞍替えしたことを、こういう本を読むとつくづく後悔してしまう…自分、弱すぎたなぁ…と。

    司馬遼太郎さんもそうだが、戦争を知る世代の隣国への尊敬と思慕の念の下に書かれた物は、様々な情報に左右されがちな自分たちが、本当に知りたいことを伝えてくれていると感じる。
    でも、そういった本にはなかなか出会えない。


    強く印象に残ったところだけ忘れないようにメモ。

    Ⅴ章こちら側とむこう側
    p229の忘憂里
    朝川巧という日本人のこと。
    日帝時代の朝鮮で林業試験場の監督して働くかたわら、人々が日常に使う民芸品の美しさに心を奪われ、科学的で明晰な研究をした。その研究は後に柳宗悦に多大なる影響を与えたという人物。
    朝鮮とそこに暮らす人々をこよなく愛し、昭和6年肺炎で急逝されたが、遺言により朝鮮式の葬式を行い彼の地の土に眠る。
    ー母が民芸好きなので、柳宗悦の名前はよく聞いていたが、更にその先の人物が…民芸館に行かねば。


    p241尹東柱
    27歳の若さで亡くなった詩人。日本に留学生としてやってきたが、独立運動の嫌疑により敗戦の日の半年前に、福岡刑務所で獄死させられた。
    彼の日本での孤独な姿、1984年に叶った10歳の離れた弟さんと茨木さんとの会談。
    ー詩はちょっとハードルが高くてなかなか手が出ないのだが、この方の詩集は読んでみたい。

    2021.5.23

    • 地球っこさん
      ロニコさん、こんにちは♪

      ロニコさん、こちらこそいつもありがとうございます、です(*^^*)
      ロニコさんのレビュー、いつも上手にまと...
      ロニコさん、こんにちは♪

      ロニコさん、こちらこそいつもありがとうございます、です(*^^*)
      ロニコさんのレビュー、いつも上手にまとめられておられるので、ついダラダラ書いてしまうわたしは、こんな風にまとめられたらなぁと思ってました。
      これからもレビュー、楽しみにしてます!

      「……戦争を知る世代の隣国への尊敬と思慕の念の下に書かれた物は、様々な情報に左右されがちな自分たちが、本当に知りたいことを伝えてくれていると感じる。……」
      の一節がとても胸に響いています。
      ああ、そうか。わたしはそういうものを読んでいきたいんだなぁと。
      ロニコさんのレビューで、言葉にできずにモヤモヤとしてたものが、はっきりしました。ありがとうございます♪
      でもなかなかそういう本には巡りあえませんね……
      わたしが「ハングルへの旅」を知ったのは、なんでだったかなぁ。
      うーん、今30分くらい考えてたけど思い出せない 笑
      「ハングルへの旅」に感動したので、茨木さんが作中で読まれた本を探しました。

      尹東柱の本は、茨木さんが読まれたものの他に2冊も読んでしまいました。
      けっこうのめり込んじゃいました 笑

      次は浅川巧のところで読まれた「朝鮮の土となった日本人」を読もうと思ってます。

      こういう繋がりを辿って、これからも「本当に知りたいことを伝えてくれる」本に出会いたいと思います。


      2021/05/23
    • ロニコさん
      地球っこさん、こんばんは^_^

      コメントをありがとうございます。

      そんな風に地球っこさんに言って頂けるなんて、本当に恐縮です。

      確かに...
      地球っこさん、こんばんは^_^

      コメントをありがとうございます。

      そんな風に地球っこさんに言って頂けるなんて、本当に恐縮です。

      確かに、そういう本にはなかなか出会えないですよね…なので、そういった本に出会える、このブクログの皆さんの本棚は何よりありがたい存在なのです。

      私も尹東柱さんの本、浅川巧さんの本、探して読みたいと思います。

      これからも宜しくお願いします^_^/
      2021/05/23
  • 解っているようで、知らないことも多い隣国の韓国。50代から始めたハングルは著者にとっては、超魅力ある言葉。

    ただ、この本が発刊されたのは、今から35年前。それからは韓流ブームとかで政治的にはべつに文化的には随分近くなったようです。妻も娘も私を置いてなんども韓国へ旅行してますし、仕事では何度も行ってますが文化的には一番遅れているのは私かも。

    例えば、大陸から伝わってきた陶器の文化ですが、肝心の韓国はふだん使いはステンレスの食器ばかり、なぜかと思えば戦乱で逃げまどうことが多く、運びやすく割れにくいと。陶器の食器を使えるというのは平和の証拠だと。

    北朝鮮を疎ましく感じていますが、韓国にとっては同胞といえども背中合わせで暮らしているし、軍隊、徴兵制があるんですよね。

    知っているようで、知らないことが多すぎる隣国。一度、韓国の田舎へゆっくり旅行でもしたくなりましたな・・・。

  • 35年ほど前にかかれた韓国語を学ぶ著者のエッセイ本。
    読みやすく、早い人なら1日あれば読み切ってしまうようなテンポの良さがありました。

    詩を書く方特有の視点や、韓国の詩をや歴史用いた言語や韓国という国の美しさなどを軽快な語り口で綴られていく著者の愛が、何度も読み返したくなる心地良さを生み、時間があれば思わず手に取ってしまいます。

    私は図書館で借りて読んだのですが、あまりにも気に入ったのでこの本は購入しようと思います。

  • この本、図書館で借りて読んだばかりなのだが、なんと今月、新装版が出るらしい。
    著者が「韓国語を習んでいる」というと「また、なんで?」と問われたという1980年代。
    今やK-POPや韓国の映画・ドラマに魅せられる人が増え、
    それに従って言語への関心も増してきたということが、
    30年以上を経ての新装版刊行に結びついただろうか?

    かく言う私も、遅まきながらハングルを学びはじめた1人。
    そのうえで、この本を読むときに注意しなければならないのは、
    ここに書かれているのは今から30年以上前の状況だということ。
    当時はまだ、韓国でも漢字が使われていた。

    著者は「日本とは異なる漢字の読み方を学ぶのが難しい」と書いている。
    漢字で書かれていれば、黙読で意味を拾うには役立ちそうだが、
    言語を学ぶには邪魔になりそう。
    すべてハングルで書かれている今ならば、
    そのぶん紛らわしさから逃れられるのではないだろうか。

    韓国の旅を振り返るエッセイもすてきだが、
    特に心に刺さったのは、柳宗悦を導き、文字通り現地に骨を埋めた浅川巧と
    同志社大学に学び、終戦直前に福岡の刑務所で獄死した詩人、尹東柱に触れたくだり。
    読書から、さらに遠く深くへ導かれる一冊だった。

  • 今では考えられないけれど、まだ韓国語を勉強する人が少ない時代に綴られた貴重なエッセイ。
    情報が少ない時代でも歴史や語源を噛み砕いてここまで深く勉強することが出来るのかと驚いた。わかってはいても残虐な歴史背景に正直ウッと胸が痛くなるところもあるが、現地での話や日本語との繋がりなども面白く、最後まで一気に読んでしまった。著者が今の時代を見たらどう思うのだろうか。

  • 詩人茨木のり子さんの韓国語学習遍歴の本。さすがに詩人だけあって言葉に対する感受性が高い。そして日本の古典も読んでいるのだから、日本の古語や古朝鮮語との関係に動かされ、音の響きを鑑賞、会得し、日本語にはないい言い回しに感心しと全身で韓国語に取り組んでいる姿が想像される。
    この本の出版後韓流ブームが起き、いまでは韓国語を学習することが珍しくなくなったし、文化交流もずいぶん進んだと思う。そもそも文法や語彙もウラルアルタイ語系列なので日本人にとって勉強しやすい言語の一つであることは間違いなない。庄内弁が韓国語と共通の語彙があることは驚いた。
     この本でも韓国の仮名吏読(りとう)があることに触れられているが、日本の漢字仮名交じり文ほどには行き渡らなかったようだ。
     やはり書き言葉は圧倒的に漢文であったのだろう。朝鮮民謡選は読んでみたくなった。

  • 茨木のり子さんの詩をちゃんと読んだことがないのだけど、(広く愛知という意味で)同郷ということも、こんなに韓国に愛着を持っていらっしゃったということも知らなかった。
    50代でハングルを学び始めるエネルギーと、「写真を見たら素敵な人だったからこの人の詩を読みたくなった」なんて告白するお茶目なミーハーさに、すっかり茨木のり子さんが好きになってしまった。

    このエッセイを書かれたのは戦争を知っている世代がまだ多かったころ。詩人らしい細やかな感性と言葉遣いで、韓国語を学びながら感じた言葉や文化の面白さだけではなく、韓国を知る中で感じた日韓の過去の歴史の重みも語っていてよかった。
    戦後の気配がまだ残っていたこの頃は、隣国に対する罪悪感もさらりと書くことができたのに。当時を知らない世代が増えるにつれてそれを「自虐史観」と言い出す輩が増えてきたことを悲しく思う。

  •  関川夏央『人間晩年図巻』で茨木のり子に関心が湧いた。借りてみる。詩人ならではの切り口でハングル学習、韓国の風物、人情、その他もろもろが語られている。
     井沢元彦『崩れゆく韓国』で知ったばかりの崔承喜について詳しく書かれているのはよかった。彼女の舞踊を鑑賞したとはうらやましい。歴史的証言と言えよう。

  • 義兄に借りました。
    どうやら私は石垣りんさんとこの方を混同していた模様。読んでいて何か違う、何か違うと思っていたら別人でした。そりゃあそうだろう。

    母が少し前にNHKハングル講座を視聴していてそのついでに少しカナダラを覚えようとしたことはあるのですがもうすでにすっかり忘却の彼方です。もう一度やってみようかなあ。
    昨今、韓国ドラマのおかげで随分と日本での市民権を得た韓国語です。この方が今の状況をご覧になられたらほほえましく思うのか苦笑いされるのか。どちらにせよ大衆にうけいれられたと言う点では良いことだと思われるのかな。

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著者プロフィール

1926年、大阪生まれ。詩人、エッセイスト。1950年代より詩作を始め、53年に川崎洋とともに同人雑誌「櫂」を創刊。日本を代表する現代詩人として活躍。76年から韓国語を学び始め、韓国現代詩の紹介に尽力した。90年に本書『韓国現代詩選』を発表し、読売文学賞を受賞。2006年死去。著書として『対話』『見えない配達夫』『鎮魂歌』『倚りかからず』『歳月』などの詩集、『詩のこころを読む』『ハングルへの旅』などのエッセイ集がある。

「2022年 『韓国現代詩選〈新版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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