聞き書き ある憲兵の記録 (朝日文庫)

  • 朝日新聞社 (1991年2月発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022606372

聞き書き ある憲兵の記録 (朝日文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  山形県出身。軍令憲兵としてチチハル憲兵隊に勤務、敗戦時には情報班長の任にあった土屋芳雄氏の半生を、地元の新聞記者が聞き書きした記録。敗戦後、シベリアでの強制労働を経て辿りついた撫順収容所で〈認罪〉し、「オレが殺したのは何人か」「拷問したのは何人か」と「自分で自分の身体に針を刺すようなつらい仕事」の結果、日本帰国後も中帰連メンバーとして加害体験を綴り、語り続けた。日本軍兵士・憲兵として過ごした中国大陸での十四年間は人間ではなく「鬼」だったと語る土屋の言葉は、「五族協和」「王道楽土」の裏面を生々しく伝えてくれる。

     土屋は憲兵時代の自己を「鬼」(中国で「鬼子」と名指された記憶が根源にあることは疑えない)と総括したが、憲兵時代の回想には、しばしば彼の〈人間的〉な心情が滲み出ている。おそらく土屋は、相当に優秀な兵士であり憲兵だった。観察力に秀で要領も悪くない、状況判断が的確で何より記憶力がずば抜けている。聞き手の記者に〈これは自慢ではない〉と念を押し、記者もそうした意向に沿った編集をしているが、途中のスパイ摘発の場面などは、どこか〈戦功〉〈戦果〉を語る語りと近接してしまっている。
     おそらく軍隊組織は、こうした人間の〈評価されたい〉〈賞められたい〉〈存在意義を認められたい〉という、まぎれもなく人間らしい承認欲求をも動員しながら、人びとを殺戮と憎悪の連鎖へと動員していくのだ。戦時でなければ、また、環境が許せば、土屋氏の優れた能力が、もっと他に活かせる場面はもっとあったはずなのだ。「土屋芳雄は、「村一番の貧しい家に生まれた」という。その「貧しさ」が、自分を戦場へ、憲兵へと駆り立てた主要な引き金だった、と思っている」という冒頭の一言は、だから決定的に重たいのだ。

  • 憲兵時代の苦い経験を持つ一軍人からの聞き取りをまとめたもの。本書では、彼が助命した中国人と、彼が死に追いやった中国人の遺族とでは、余りにも対照的な態度で著者と接するようになったことを叙述する。ここから、拷問のような暴力を背景として他人を支配しても、人を真に心服させることは叶わないことがよく理解できるだろう。また、戦争中とはいえ、他者の人間としての尊厳を尊重することの難しさも感得できる。なお、彼の知りうる範囲で七三一部隊・従軍慰安婦(日本人も含む)・ソ連抑留生活・諜報活動も描かれ、記録としても有益だ。

  • 山形の貧しい農村に生まれた少年が、中国で憲兵となって2千人を逮捕・拷問し、328人を自らの手で殺害した、という告白。度胸試しに縛られた中国農民を銃剣で刺し殺したのち、「なに、相手は中国人、チャンコロじゃねえか。オレは世界一優秀な大和民族なんだ」とつぶやく場面がある。何の根拠もないのに「世界一優秀」と思い込むこの狂気。いまもあまり変わっていない気がする。

  • 人間は状況によってどこまで冷酷になれるのか、これが「戦争が人を変える」ということなのかと、思わされる一冊でした。

  • 「朝日新聞山形支局」というのが象徴的。生々しく書かれていて、ちょっと辛いです。また読みたいとは思わない・

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