1994(1989)年刊。全4巻中第1巻。
著者はサンディエゴ州立大学歴史学教授兼日本研究所所長。
叙述されるのは、第一次ノモンハン紛争~ハルハ河渡河作戦まで。
日中戦争の最中、第二次世界大戦開戦の数か月前(1939年5月)、満州国とモンゴル人民共和国の国境付近で、日満(当然、日軍が主)と蒙ソ(当然、ソ軍が主)大規模な戦端が開かれた。
結果は機械化部隊と優勢な航空戦力を持つソ連に徹底的に痛めつけられたとされる。
本書はソ連崩壊を受け、ソ連側史料が利用しやすくなった状況を受け、従来から利用できた日本側史料に加え、関係者への取材、ソ連側史料とを総合して、その実像を開陳しようとする。
原版は満州事変から書かれているが、邦訳からは除外された。ゆえに、満州国建国に対する著者の評価が判然としないマイナスはある。米国の見方と極限はしないが、第三国の歴史研究者からみて、満州事変とその建国とが、どのように見えるのはは実は読みたかったところでもあるのだ。
一方、本書はソ連側史料と日本史料とを対比させつつ、共通項を浮かび上がらせ、さらに不明点は両論併記する等、なかなか微に入り細に亘り検討されたことが伺える。あるいは、自らに不利な証言が信頼性の高いものという基本テーゼを守っている。
そういう意味で根拠づけを堅牢にしようと試みる良書だ。ただそんな中ですら、日本国内(特に旧軍関係者)の、関東軍・その参謀らへの辛辣な見方は隠そうとはしない。
しかし、満ソ国境紛争処理要綱を起案した某参謀の近視眼・参謀らしからぬ単純さは目を覆うばかりだ。声がでかいのと、なまじ文書作成能力があったことが災いしている印象を強く残す。
新兵中心の第23師団は陣地構築・訓練が必要であって、現状とても攻勢に出れない実情なのに、他の地域の師団と同一の方針で臨ませる等、補佐役としてこんなに使いにくいタイプもいまい。
そもそも補佐役とは、司令官の気が付かない所に気が付き、それをフォローするというものだが、かかる参謀の重要な役割が充分に果たせないとは…。