記憶喪失になったぼくが見た世界 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 716
感想 : 95
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022616869

作品紹介・あらすじ

18歳の美大生が交通事故で記憶喪失になる。それは自身のことだけでなく、食べる、眠るなどの感覚さえ分からなくなるという状態だった-。そんな彼が徐々に周囲を理解し「新しい自分」を生き始め、草木染職人として独立するまでを綴った手記。感動のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 記憶を失った著者の驚きと感動の物語。激レアさんを見るまで知りませんでした。「記憶」の上に人間が暮らしているという当たり前すぎる事実。その重要さを改めて感じさせられた。

  • テレビで著者を観て話が興味深かったので。まず文章が上手い。言葉も全て忘れてしまった著者の手記なので文章力はのちに手に入れたものだ。なので書き方に「アルジャーノンに花束を」のような演出がされている。でも彼の感性は素晴らしく瑞々しく、記憶はなくても記憶力はある。彼の体験から赤ん坊は世界をこんな風に感じているのかもと想像することができるような内容。
    母親としては彼のお母様による手記の部分もいろいろと考えさせられる。一日中続く質問責めに根気よく対応していたお母様も疲れ果ててついついキツい言葉を発してしまうところはまさに育児ノイローゼ。育て直しといえる状態の苦労は並大抵ではなかっただろう。

  • この世には体験者しか書けない世界があるが、この本はまさにそう。解説で俵万智が書いている通り、子どもの感性をそのまま書いたような文章は、書こうと思って書けるものではない。この文章を読むことで、毎日見過ごしているあらゆることが、全く新しい、けれどよく分かる感覚で立ち上がってくる。
    記憶は、結局全部は戻らなかったのだから、著者は1.5倍位の人生を生きたことになる。それも稀有な体験だ。
    「かあさんだよ」、ごはん、チョコレート、UFOキャッチャーなど、何度も読み返したくなる素晴らしさは、前に読んだ時と変わらないが、自分が年をとって、坪倉さんのご両親の偉大さを感じた。もし子どもが事故にあったら、自分は親として、ここまで見守りつつも手を離すことができるだろうか。

  • 今日、アマゾンを覗いたら、ランキング1位だった。とても読みたくなって帰宅途中に紀伊国屋へ。
    著者は18歳の時にバイク事故でそれまでの記憶を失った。自分が誰か、ここはどこか、話かける人は誰なのか、文字もご飯もお風呂もわからない。
    それでも家族、特に母親がじっくりと接していき、人としての生活を取り戻していく。記憶を失ってからの小さなエピソードが淡々とした文書で書かれており、合間合間に母親の当時の思い出が書かれている。本として読むには、あっという間に読み終わるものだが、その日々の不安や困惑は想像すら出来ない。
    美大を出た著者は染色家の道をたどるが、化学染料ではなく、自然の植物を使って染色するという。18年という歴史がなくなってしまった著者が、命あるものとして歴史を重ねてきた植物を使って染色するというのは、勝手ながら感慨深いものであると思った。

  • 記憶がなくなるとこうも人はわからなくなるものかと驚いた。
    家や、人が流す涙さえ何なのかわからなくなったというエピソードがありありと書かれていた。
    また「過去」が記憶から消えたことで、筆者の過去に対する考察がとても印象深かった。「過去がないと生きてる意味がない」という発言の真意を理解していないが、人は人生を今ゼロから始めることはできないのかもしれないと思った。

    視野を広めるという意味の読書をされようと考えている方は是非。

  • よくドラマなどで目にする「事故による記憶喪失」という症状。大切な人との記憶を失い、すれ違いなどを経てまた新たな関係性を築き上げたところで過去の記憶が戻り…というのはよくある話ですが、現実はそれほど甘くありません。

    自分が何者かはもとより、周囲の人間が離している言葉の意味や、自分の身の回りにあるもろもろの物体の名前や役割、はては社会生活で必要な知識をも失った筆者は、「できない自分」「かわいそうにみられる自分」に苛立ちながら、そして困難を抱えながら新たな生活を進めてゆきます。

    「事故による記憶障害」という症状との闘病記録としても読みごたえがありますし、現在は染織の専門家として活躍する著者の自伝(読み物)として楽しむこともできます。
    解説で俵万智さんが書いている通り、芸術を選考する著者が記憶を失ったことは、もちろん不幸な出来事ではありましたが、「世の中を新鮮な感覚で再発見した」という経験はアーティストとしては財産になった部分もあったのかもしれません。
    そして著者を支え続けた、それぞれに母性・父性を全開にしたようなご両親の力にも感動しました。息子を常に受け入れる母親と、時に厳しく突き放すように見えても根底では息子をきちんと愛している(そしてそのことを度々行動で示す)父親という、やや古風な家族像が著者の回復によい影響を与えていることが(そして著者が両親に感謝していることが)ひしひしと伝わってきて、子育てをしている身としても学ぶところが大きかったように感じます。

  • 自身の言葉で始まる文章はまるで1,2歳児の言葉がでない子どもの心の声の様だ。そこから大学へ戻り、更には染めの仕事をする…壮絶な人生、だがとても明るく真っ直ぐに生きていらっしゃる。

    いつか染められた着物を目にしてみたい。

    途中に母親の手記もあり、見守る優しさと強さを感じる。

    解説で俵万智氏が書いたとおり、『もともとの絵画的な才能に濁りのない感性が宿り、芸術家としてプラスだったのでは』と。+にできたのはご自身の努力、家族や友人の愛情、何よりとても素直な心の持ち主なんだろうな、と思った。

  • 「自分、もしくは家族や友人がその当事者だったら...。」と色々考えながら読んでみた。こういったことに急に直面する可能性は十二分に考えられる。今までこういったことを真剣に考えていなかったので、この本を読んで色々考えさせられました。
    本人は、壁を乗り越え新しい一歩を歩み進んでおられるようでよかった!そして、大変な苦難に打ち勝ったご両親の素晴らしいサポートを心から尊敬したいと思いました!!

  • 記憶喪失というのが、単純に過去を忘れるというだけでなく、言葉の意味や、物の名前、文字の書き方、体験して覚えたことなど、色々な事がまっさらになってしまうのだと、初めて知った。(重症度は人によってなのだろうが)

    周りの人と理解し合えない中、子どものように世界を見つめる筆者の目線をおもしろく感じた。

  • 電車の中で読み始め、読み終わりました。
    出だしの線の表現はとてもすごいなぁと、線を眺めながら思っています。

    母親として、お母さん目線でも考えてしまいます。
    1人で大学へ行かせる、しかも電車で。
    一人暮らしをさせる。
    旅に行かせる。
    済んだ過去はやわらいでしまうけれど、その真っ只中にいる時は一分一秒がどんなに不安で不安で不安でたまらなかったことかと思います。

    あとがきで俵さんが書いているように、本当に素晴らしいお父さんお母さんです。
    作者の生き方も、ご両親の生き方も、見習うところがたくさんあります。

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