- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022618108
感想・レビュー・書評
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胡錦濤政権から習近平政権へと移行しつつある2012年に執筆された、中国政治情勢の解説書。
改革開放路線の下で鄧小平が描いた青写真は、先ず富める者から富ませて経済を牽引させ、その富を貧者に再分配して国民全体を富ませようというもの。しかしながら、江沢民の「先富」路線は既得権者による汚職や拝金主義によるモラル喪失をもたらし、胡錦濤の「共富」へのスムースな移行を妨げ、江沢民派(上海閥)と胡錦濤派(団派)が激しい政治闘争を繰り広げた。
胡錦濤政権後期、汚職摘発によって徐々に江沢民派は勢力を弱めつつあったが、胡錦濤は李克強をその後継者に据えることには失敗し、江沢民派の習近平が次期国家主席の座に座ることに。
本書を読んで意外だったのは、中国の指導層が、第二の天安門事件の発生を恐れて、ネット空間を飛び交う過激な意見に神経質になっているということ。拝金主義の下で利益に敏感になった若者が暴発し、貧しい庶民の不満を吸収して膨れ上がると、共産党政権の屋台骨が簡単に揺らいでしまう。そうならないように細心の注意を払っているということ、知らなかったなぁ。とすると一番厄介なのは、中国の指導者が、モラル無き利己的な庶民の声をコントロールできないかもしれない、ということなのかもしれないな。
著者は、終章で自分の生い立ちを語っているが、本書でこの部分が一番衝撃的。著者は、満州国新京市(現在の吉林省長春市)で生まれ、幼くして、我が国敗戦後の国民党軍と共産党軍の激しい内戦に巻き込まれ、餓死寸前の状態で死地を彷徨ったという。そのためか、著者の中国への情念の強さ、本書を通じてひしひしと伝わってきた。
本書では、習近平政権誕生前の中国の複雑な政治情勢が良く分かった。「チャイナ・セブン」でこの続きを読まなきゃ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
説得力がある
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中国で生まれ育った著者ならではの中国との距離感は、ややもすると「甘い」という評価になるのかも知れません。読んでいると、ところどころそう感じる部分もあります。中国の政府首脳が日本との戦争など考えていない、むしろ友好関係を築きたいと思っていることはわかります。しかし、東シナ海で実際に漁場を荒らされている漁師さんたちに著者の言葉はどこまで説得力を持って響くでしょうか? むしろ肝心なのは、現在の険悪ムードに染まりきった日本の状況下で、著者のような冷静な分析や視点を、日本社会全体に理解してもらうために何をなすべきか、ということだろうと思います。
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