植物でしたしむ、日本の年中行事 (朝日文庫)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022618313

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学評論随筆その他】正月の門松、雛祭りのモモなど、日本の行事やならわしには、決まった植物が登場する。それはなぜか? 植物の特性と歴史的見地から、行事の原点を解く。すると、自然との結びつきを大事にしてきたかつての日本人の暮らしが見えてくる。

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  • 台湾や東南アジアなどでは、タロイモは水田で栽培される。イネには考古学的証拠があるが、タロイモは花粉もプラントオパールも残さないので、発掘されていない。稲作をしないニューギニア、ミクロネシア、ポリネシアでタロイモが栽培されている。日本では、庄内地方では水田でサトイモが栽培されており、田イモの名は北陸、関西、中国、四国地方にも残る。

    紅葉は、夜間の低温と昼間との気温差が大きくなると、葉柄の付け根と茎の間に離層が形成され、低温によりタンパク質が分解されてアミノ酸になり、アミノ酸と糖からアントシアニンが生成されるとともに、葉緑素が分解されて緑色が消失する。アントシアニンが生成されない種では、葉緑素に含まれていたカロテノイド系の色素が目立つことにより黄色に染まる。欧米では赤が優る紅葉は少なく、黄褐色や黄色が多い。日本のモミジとカエデの野生種は、欧米の合計より多いが、中国の方が多い。

  • 20150823中日新聞、紹介

  • ・湯浅浩史「植物でしたしむ、日本の年中行事」(朝日文庫)は 植物から民俗、年中行事を見るといふ内容である。目次を見ると、「神と交わる木、マツ」「アズキの威力」等々で計24、植物好きの人ならば知つてゐるかもしれない多くのことも、さうでない私にはほとんど知らないことばかりであつた。民俗行事にある植物が使はれることがあつても、それがその植物のいかなる点 に由来するのか、私はこれを知らない。さういふ人間には有り難い書である。例へばマツ、本書では漢字で松とは書かずにカタカナ書きである。マツは神格を持つ。これは門松から容易に想像される。ならば古代から門松があつたのか。「『万葉集』の七〇首をこすマツの歌の中にも、門にマツを飾る歌は一つもない。 (中略)新年に門松を立てる行事は、平安時代以前にはなかったらしい。」(14~15頁)そして11世紀後半になつて門松は生まれた。本当は「古色蒼然と した松の古木は威厳を感じさせ畏怖の念を抱かせる。」(14頁)ことの方が先なのである。そこから神の依り代たるマツも門松も生まれたのである。これなどはある意味単純明快、身近な松だからこそであらう。
    ・私が考へもしなかつたこと、「秋の七草考」の中に「オミナエシは女郎花か」といふ小見出しがある。ここでも万葉集の山上憶良の秋の七草を引く。そこでオミナエシは「姫部志」と書かれてゐる。これは何だといふのである。万葉の他の歌でもやはり女郎花といふ表記はない。それでも姫や娘、美人といふ語を含むか らには全く無関係とも言へない。ところが「部志」に相当する部分が女郎花にはない。これはなぜか。前がオミナ、女であるなら、エシ(ヘシ)は何か。「それは飯で、メシからエシへと変化したのである。」(195頁)正確にはメシからヘシ、その現代仮名遣いでエシである。「オミナエシの蕾は黄色で、粟粒に似ており、キビも思わせる。アワやキビの飯は、米の飯にくらべて下位のものとされていた。男尊女卑の時代、米飯の男飯に対してアワ飯は女飯となったのである。 オミナエシには粟花という方言があり、同類に白いつぼみをもつオトコエシがある云々」(同前)つまり男飯と女飯が、オトコエシ、オミナエシなのである。普通はオトコエシの方が大きいからと説明されてゐるはずだが、実はさうではなく、これもまた古代の男尊女卑の名残であつたといふ。試みにインターネットで検索すると、確かに男飯、女飯が出てくる。しかし確信を持つて言へない。曖昧、逃げである。その点、本書の説明は明快である。植物の側から見ると、さうなるしかないといふことであらう。今一つ、ススキである。仲秋の名月にススキを供へるのは昔からの風習である。「中秋の名月に添えられたススキは、その後どう処置されるのだろうか。」(201頁)これも考へもしなかったことである。枯れた花は捨てる、これと同様に考へてゐた。言はば再利用など想像すらしなかつ た。ところが利用するのである。神奈川県ではそのススキを庭に挿したり、煙草乾燥小屋や門口に挿したりしたといふ。これは一種の豊穣祈願であるらしい(同 前)。似たことは台湾でも行はれるといふ。台湾ではお守り的な感じで使はれる(204頁)らしい。それはなぜか、「ススキにはテキリグサの方言があるように、葉辺は鋭利で、茎の切り口も鋭い。うっかり触れたり、踏むとけがをする。」(207頁)これが悪霊にも効くのである。ここから、更にサトイモに話は進む。なかなか一つの植物で終はらない。しかも、いづれも植物学の話題である。民俗はあつても中心は植物、これが本書である。書名通りだが、これが本書のおもしろさである。

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著者プロフィール

■湯浅 浩史(ユアサ ヒロシ)
1940年生まれ。農学博士。東京農業大学大学院農学研究科博士課程修了。元東京農業大学農学部教授。元生き物文化誌学会会長。(一財)進化生物学研究所理事長・所長。
世界60か国を訪れて、植物を調査。専門は民族植物学。
月刊誌『子供の科学』で30年以上連載を続けている。

「2020年 『びっくり! 世界の不思議な植物』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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