からゆきさん 異国に売られた少女たち (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022618740

感想・レビュー・書評

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  • なんとなくこういうことなんだろうな、と思っていたことが本当に甘すぎて、いい歳をして我ながら無知すぎていやになる。

  •  2018年最初の読書は、浅草の見世物小屋のエピソードが冒頭に出て来るから、と知友に勧められたこの1冊を再読。東京ではなく九州から、男たちではなく女たちの側に視点を置き直せば、こんなにも歴史は違って見えてくるのか、と改めて深く驚かされる。
     
     19世紀の欧米列強諸国によるアジア・アフリカ各地への侵略と植民地化は、大量の単純労働力を必要とし、レイシズムの暴力に裏打ちされた人身売買の土壌となった。北はシベリアの奥地から、南はインド、ボルネオまで、「からゆきさん」たちはまさにそのような現場に入り込み、あるいは送り込まれた。朝鮮に行った「からゆきさん」が、朝鮮の男たちに買われたときには、彼らを痛めつけた「日本人」たちへの恨みと憎しみをぶつけられた、という記述には思わず立ち止まってしまった。

     とりわけ重要だと思ったのは、こうしたヒトとモノの剥き出しであからさまな移動が、日露戦争以後には困難になっていた、という指摘である。そのことは、日本の国境が障壁として強固になったという以上に、アジアの植民地分割が一段落し、帝国同士の「壁」が相互に高くなったことを意味しよう。もう一つは、「からゆきさん」の移動ルートが、いわゆる「大陸浪人」のそれとほぼ雁行していたことである。あくまで同時代資料のレベルだけれど、高歌放吟する壮士たちの文化に自分がずっと親しめなかったのは、彼らがこうした女性たちに支えられ守られていたにもかかわらず、「お国のため」という言葉でそのことを当然視していくような姿勢にあったのか、と今ごろになって気付かされた。「アジア主義」を肯定的に評価する論者には、「からゆきさん」問題をどう考えるか、ぜひ詳しく語ってもらいたいものだ。 

  • 中村淳彦の『日本の風俗嬢』(新潮新書)、坂爪真吾の『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、そして鈴木大介の『最貧困女子』(幻冬舎新書)など、性産業を描いた書籍は、近年、新書を中心に好調な売れ行きを見せている。現代の格差社会を背景にした売春を描いたこれらの書籍には、「エロ」だけでは語れない女性たちの姿が綴られている。

     作家・詩人である森崎和江の『からゆきさん 異国に売られた少女たち』は、今から40年前の1976年に刊行された書籍であり、今年8月に朝日文庫より復刊された。過去の名著は、なぜ今、漫画家・今日マチ子の描く少女の表紙によって復刊されたのだろうか? 本書を一読すれば、この海を渡って売春を行った「からゆきさん」たちの境遇が、驚くほど現代に似ていることがわかるだろう。

     シベリア、朝鮮、大連、上海、シンガポールなどのアジア各国からアメリカ、オーストラリアまで、海を渡って世界各地で売春を行った女性たちは「からゆきさん」と呼ばれた。明治維新によって鎖国からの開放された日本からは、新天地を求める男たちだけでなく、それを慰撫する少女たちが海外へと連れて行かれたのだ。本書の軸となるのは、明治29年に天草に生まれ、朝鮮へと売られたおキミ。作者は、偶然知り合ったおキミの幼女である綾から、その壮絶な体験と、老婆になってまで悔い続ける姿を知る……。

     よく知られているように、もともと、日本は性に奔放な土地だった。田舎の村々には夜這いの風習が近代以降も残り、当時の福岡の新聞には「13歳以上の者にして男と関係せざるものはない」と書かれるほど。キミの育った天草地方でも、日露戦争の頃までは夜這いの風習が残されていて、心の通った男とは妊娠してからの婚姻が当たり前だったという。

     しかし、おキミたち「からゆきさん」が、男たちから求められるセックスはそんな牧歌的な日常とは程遠かった。口減らしのために、浅草の見世物小屋の養女となったおキミは、16歳の頃、再び李慶春という男のもとに養女として出された。しかし、李の目的は、養女として貰い受けた彼女に売春をさせること。ほとんど誘拐に近い形でおキミは神戸に連れて行かれ、貨物船に乗せられた。そして、その船内で李をはじめ数々の船員たちと「おショウバイ」をさせられたのだ。それを断れば、食事すらも与えられず、おキミはただただ男たちを受け入れるしかなかった。おキミとともに貨物船に乗せられた14人の少女たちは、昼も夜も「おショウバイ」を強要され、誰もが泣いていた。そして、貨物船が朝鮮半島南端の漁港木浦(もっぽ)につくと、少女たちは北朝鮮の鉄道敷設現場につくられた娼楼へと送られる。

     娼楼での暮らしはさらに過酷を極めた。少女を買う男たちは、工事現場の人夫として集められた荒くれ者であり、日本人工夫は、背中一面に刺青を持った粗暴な男が多かった。一方、朝鮮人の中には、日本人に対する恨みの感情を晴らそうという者もいたという。おキミは、朝鮮人の性欲を満たすことには耐えられた。けれども、人間としての誇りを奪われることには耐えられなかった。朝鮮人の男4-5人に囲まれ、限界まで尿意を耐えさせられた挙句、小便を漏らし、笑われた。この記憶が蘇るとき、おキミは朝鮮語で叫び声をあげた。その屈辱は、すでに老後になったおキミの心の中で、いまだ癒えぬ傷となっていたのだ。

    「いんばいになるか、死をえらぶか、といわれたら、死ぬんだった。うちは知らんだったとよ、売られるということが、どげなことか……」

     おキミは、養女の綾に何度もこう語った。

     綾とふたりきりになった時、おキミは「夜叉のよう」に狂ったという。綾の実母は、おキミと同じ娼楼で体を売っていた。そんな綾に向けて、数々の男にされてきたのと同じような口調で、おキミは綾が淫売の血を引いていることを口汚く罵った。綾は、森崎に向かって「売られた女とは一代のことではない」「身を売るっていうことはいちばんふかい罪なの」と語り、「いのちにかえても、すべきことではない」とつぶやく。背負いきれない過去のトラウマに押しつぶされたおキミは、精神科の病院で死んだ。

     「からゆきさん」たちは、貧しい家の生まれだった。生きるために、彼女たちは養女として出され、密航船に詰め込まれ、見知らぬ土地で男たちの性欲の相手をさせられた。それから100年あまり。今、再び貧困から売春をする女性たちの存在が取り沙汰されており、中村淳彦によれば、韓国人はもちろんのこと、脱北者や中国朝鮮族の女性たちまでも体を売るために来日しているという(『日本人が知らない韓国売春婦の真実』宝島社)。貧困、格差、越境……「からゆきさん」少女たちの姿は、現代の女性たちに重なるだろう。

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プロフィール

1927年旧植民地朝鮮で生まれる。底辺や女性の視点からこの世界を問うてきた。『からゆきさん』『慶州は母の叫び』などのノンフィクションでも知られる。

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