間違いだらけの文章教室 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.70
  • (3)
  • (8)
  • (9)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 152
感想 : 14
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022619624

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 文庫はまだ、図書館になかったので、単行本で読みました。
    『池袋・母子飢餓日記』について著者が考察している部分が非常に印象に残りました。
    以下抜粋。
    「この母親は全身全霊で「考え」ようとしたのである(中略)つまり、この文章は、誰に向かって書かれたものであるか。この文章を読む者は、誰でも胸が苦しくなる。怪しい思いに悩まされる。「確かに、この人は苦しいんだろう。でも、わたしには関係ない」といえなくなる。(中略)これは生きていくために、正気でありつづけるために、人間でありつづけるためには、ことばしか武器がなかった人間が書いた、文章であること。おそらく、ここに人間が書く文章の、ひとつの限界がある。真似する必要などない。そんなことは誰にもできない。だが、「それ」があることを知ればいいのである。「それ」があることを知って、その上でぼくたちは、ぼくたちの文章を書けばいいのだ。そして、文章を書いている時、ほんと僅かの間でいい、ことばしか武器がなかった人がいたことを思い出してほしいのである」
    以上の、部分を読んだだけで打ちのめされ、この本を読んだ価値があったと思わされました。

    あと、この本の後半に出てくる、金子光晴『ねむれ巴里』『愛情』、鶴見俊輔『思い出袋』『神話的時間』『教育再定義への試み』を引用して「一度だけの使用にたえる文章」について説明されている部分も、面白かったです。引用された文章も読んでみたいと思いました。

  • 『ぼくらの文章教室』文庫化で改題。おおまかなテーマとしては、『13日間で「名文」を書けるようになる方法』と同じく、テクニック的なことではなくではなく誰にむけて書くか等の基本姿勢的な部分。個人的には引用されている作品の分析になっているのが面白く、文章の「書き方」以上に「読み方」のほうの勉強になった気がする。

    教材として引用されている作品の中でも、とくに強烈なのは文学作品ではない、作家ですらない一般の方のもの。自殺した老農婦の遺書と、41才の息子と共に餓死した77才の母親が残した実際の日記『池袋・母子 餓死日記』が衝撃的だった。死の理由自体については、とくに後者は色々言いたくはなるのだけど、そういう点はひとまず別に考えて、誰にむけて何のために書かれたのかという問題を考えるときにこれほどの適材はないでしょう。

    本来名文を書ける作家が死を前にしていきついた境地として小島信夫『残光』と多田富雄『残夢整理』も印象深い。とくに小島信夫についてはかなり詳細に分析されていて、ちょっとした小島信夫論としても読めました。

    カーマイン・ガロ『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』も目からウロコ。良い文章とは良いプレゼンに通じるものがあるんだ!なるほどプレゼンというものは、何を伝えたいか、誰に伝えたいかがそもそも明確なものだから、それをそのまま小説に置き換えれば応用が効くのはある意味当然。

    ランベルト・バンキ『仕事ばんざい―ランベルト君の徒弟日記』、岩淵弘樹『遭難フリーター』、シモーヌ・ヴェイユ『工場日記』は、題材になりにくい「労働」というものについて、ノンフィクション的な日記からの考察。本来、基本的に誰かに読ませる目的ではないはずの「日記」というものには独特の着眼点がありますね。ふと、日記にキティと名前をつけて友達に手紙を書くように日記を綴っていたアンネ・フランクのことを思いました。

    鶴見俊輔『思い出袋』の校長先生の話もわかりやすくて良かった。壇の上から長話をする校長先生は、聞き手のことは全く考えず自分が気持ちいいから喋っているだけ、しかも文字通り上から目線で。これは文章の書き手が読者に対して絶対にしてはいけないこと。高橋源一郎は鶴見俊輔が相当好きなようで、かなりたくさんの引用あり。本書は文章教室であり書評エッセイではないのだけれど、教材になった本を読みたくなります。

  • 作品紹介・あらすじ

    「文章」の書き方は、自分の好きな「文章」が教えてくれる。
    だからまずは自分の好きな「文章」を見つけよう。
    タカハシさんが好きなのは、明治生まれの貧しい農夫木村センの文章や、免疫学者・多田富雄、スティーブ・ジョブズの驚異のプレゼンなど。
    タカハシさんはそれらの、どこが好きなのか? 
    どうすれば、こんな「名文以上の名文」が書けるようになるのか?

    これは、専門家やエライ人以外のみんなのための文章教室。
    文庫化に際して「補講 二〇一八年の秋に学生たちが『吉里吉里国憲法』を書く」を増補。
    (『ぼくらの文章教室』改題。)

    *****

    読み始めて直ぐに「何か読んだことあるな」と思ったら文庫化に際して「ぼくらの文章教室」を改題したとのこと。そうか「ぼくらの文章教室」を読んでいたんだ。でもあれは何年も前に読んだもの。何故直ぐに「何か読んだことあるな」と思ったのか。それは冒頭で紹介されている木村センさんの文章が強烈だから。「老人の美しい死について」という書籍からの引用なのだけれど、多分僕の何十年にも渡る読書歴の中でも、トップに位置するくらいに強烈で悲しい文章だった。ちっとも上手い文章じゃないし、漢字も殆ど使われていない。文字が読めなかったおばあさんが、どうしても「最後に」家族に伝えたいことがあったので、お孫さんと一緒に文字を習い始めて、書かれた文章とのこと。多分生まれて初めて書いた、唯一の文章なのだと思う。同じようなことを書いてしまうけれど、僕はこんなに強烈で心にいつまでも残る文章を他に知らない。だから読み始めて直ぐに思い出した。
    この本には文章を上手く書く秘訣とか、小説の書き方とか、そういうハウツー的なことは一切書かれていない。その代わり、「文章」とは何か?という根源的なことが書かれているように思う。上記の木村センさんの文章と同じく、色々な人々の文章が引用されているけれど、どれも心にずっしりと重たいものを残してくれる。それらはそんじょそこらの小説などからは絶対に感じ取ることが出来ない。

  • ななめ読みなんで一部抽出した感想です。

    これは著者の文章観を紹介する本だ。
    いい文章とは何かを生き生きとした文章を通して感じる事ができた。

    -1番うまい現代の作家は、スティーブジョブズだ-
    このフレーズに続く「スティーブ・ジョブズのプレゼンの書評」の書評が最も印象に残った。

    プレゼンではストーリーを話せ、と会社のSVによく言われる。
    聞き手は内容も知りたいが、聞く事自体を楽しみたがっているからだそうだ。

    なるほど…。これは仕事に限らずだよな。面白かったことを伝わるように伝えたい欲求は誰にでもあるんじゃないかな。
    ならば、日常のカケラを拾い集めてギュッとピシッとできる技術を俺は身につけてみたいっす。

  • 祝文庫化!

    朝日新聞出版社のPR
    「文章」の書き方は、自分の好きな「文章」が教えてくれる。だからまずは自分の好きな「文章」を見つけよう。タカハシさんが好きなのは、明治生まれの貧しい農夫木村センの文章や、免疫学者・多田富雄、スティーブ・ジョブズの驚異のプレゼンなど。タカハシさんはそれらの、どこが好きなのか? どうすれば、こんな「名文以上の名文」が書けるようになるのか?
    これは、専門家やエライ人以外のみんなのための文章教室。文庫化に際して「補講 二〇一八年の秋に学生たちが『吉里吉里国憲法』を書く」を増補。
    (『ぼくらの文章教室』改題。)
    https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20891

  • 「文章技術」ではなく、「文章」自体を論じる本。
    文庫化にあたり、『ぼくらの文章教室』から改題。

  • 高橋さんの小説は読んだことがない。
    ラジオやエッセイで紡がれる言葉は、優しい語り口でとっつきやすく、いつも文章について考える機会を与えてくれると思う。
    ときどき、鋭く本質をついていていてまるで刃のようであると思える時もあるが、その刃は「虚」に対するものであり、人間のそのままが素直に出ているもの、嘘のないものを尊重する高橋さんのお人柄が言葉に出ていると感じる。

    わたしの身の回りにあるものを見つめよう。
    言葉を投げ続けよう。
    時には捨てていこう。
    書こうとする文章の方向を見定めよう。
    そこにある文章(行動)について考えてみよう。

  • 作家・高橋源一郎による「文章読本」というべき内容の本ですが、たんに文章のつづりかたにかんする指南書ではなく、いわばことばを紡ぐことによって世界に対峙する方法を学ぶための本というべき内容になっています。

    本書では、いわゆる文豪たちの名文がとりあげられるのではなく、遺書を書くために文字を学んだ一人の農婦のことばや、餓死することになった女性ののこしたノート、スティーヴ・ジョブズのスピーチなど、一般的な文章読本では見られることのない文章からの引用がおこなわれており、それらのことばを記したひとたちが、世間的な基準ではけっして名文といいがたいことばを用いることで、読者になにをとどけようとしていたのかということを、読者に考えさせます。

    そんななかで個人的に印象深く感じられたのは、本書にとりあげられている鶴見俊輔の文章です。鶴見はいうまでもなく戦後日本の代表的な思想家の一人であり、平明なことばで深い思想を語った人物であることはわたくしも知っていましたが、彼の骨太の思想がもつ力強さの秘密がどこにあるのかということが、上に示したような「文章読本」としてはかなり特異なセレクションのうちに置いてみることによって、はっきりとさせられているように感じました。

  • 農婦が力の限り書いた文章から、スティーブ・ジョブスの名講演から、鶴見俊輔の文章から。引用されている文章を読むだけでも心揺さぶられる。心のままを伝えられる文章を書くには、まずは何をおいても、動く、動かされることに敏感な心を育てることなのではないかと思った。

  • はっきりとは憶えていないが、高橋源一郎の「ぼくがしまうま語をしゃべった頃」という横長の単行本を見つけたのは、母が亡くなって、アルバイトをしながら、未練たらしく、大学に籍だけ置いて、留年を繰り返していた頃、駅の近くにある大きな市立図書館でだった。
    変わった本だなあと思って手に取り、その時は拾い読みした程度。
    後に、「さようならギャングたち」が講談社文庫で出て、やはり拾い読みして面白そうだったのと、巻末の確か著者自身で書いた年譜の大学除籍のところで、「大学はなかった」と何度か書かれているのに、当時の自分の状況を重ね合わせていたのか、購入して読んだ。
    現代詩も、純文学もよく知らず、ストーリーこそ小説と思っていた僕には、まるで詩を繋げたような作品に、さっぱり理解出来なかったのを憶えている。
    しかし、妙な魅力があり、「ジョン・レノン対火星人」「オーバーザレインボウ」「僕がしまうま語をしゃべった頃」(文庫版)などを読んだ。
    文庫の世界も新陳代謝が早く、それらの作品も、手に入らない。
    先日、よく立ち寄る書店の新刊コーナーで、この本を見つけて、購入した。
    小説と違って、とても分かり易く面白かった。
    本書で取り上げられている鶴見俊輔や赤坂真理の作品を、読んでみたくなった。
    「優雅で感傷的な日本野球」も読んでみたくなった。
    「吉里吉里人」も再読したくなった。(これは大変である)

全14件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

作家・元明治学院大学教授

「2020年 『弱さの研究ー弱さで読み解くコロナの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高橋源一郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×