- Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022619624
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
『ぼくらの文章教室』文庫化で改題。おおまかなテーマとしては、『13日間で「名文」を書けるようになる方法』と同じく、テクニック的なことではなくではなく誰にむけて書くか等の基本姿勢的な部分。個人的には引用されている作品の分析になっているのが面白く、文章の「書き方」以上に「読み方」のほうの勉強になった気がする。
教材として引用されている作品の中でも、とくに強烈なのは文学作品ではない、作家ですらない一般の方のもの。自殺した老農婦の遺書と、41才の息子と共に餓死した77才の母親が残した実際の日記『池袋・母子 餓死日記』が衝撃的だった。死の理由自体については、とくに後者は色々言いたくはなるのだけど、そういう点はひとまず別に考えて、誰にむけて何のために書かれたのかという問題を考えるときにこれほどの適材はないでしょう。
本来名文を書ける作家が死を前にしていきついた境地として小島信夫『残光』と多田富雄『残夢整理』も印象深い。とくに小島信夫についてはかなり詳細に分析されていて、ちょっとした小島信夫論としても読めました。
カーマイン・ガロ『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』も目からウロコ。良い文章とは良いプレゼンに通じるものがあるんだ!なるほどプレゼンというものは、何を伝えたいか、誰に伝えたいかがそもそも明確なものだから、それをそのまま小説に置き換えれば応用が効くのはある意味当然。
ランベルト・バンキ『仕事ばんざい―ランベルト君の徒弟日記』、岩淵弘樹『遭難フリーター』、シモーヌ・ヴェイユ『工場日記』は、題材になりにくい「労働」というものについて、ノンフィクション的な日記からの考察。本来、基本的に誰かに読ませる目的ではないはずの「日記」というものには独特の着眼点がありますね。ふと、日記にキティと名前をつけて友達に手紙を書くように日記を綴っていたアンネ・フランクのことを思いました。
鶴見俊輔『思い出袋』の校長先生の話もわかりやすくて良かった。壇の上から長話をする校長先生は、聞き手のことは全く考えず自分が気持ちいいから喋っているだけ、しかも文字通り上から目線で。これは文章の書き手が読者に対して絶対にしてはいけないこと。高橋源一郎は鶴見俊輔が相当好きなようで、かなりたくさんの引用あり。本書は文章教室であり書評エッセイではないのだけれど、教材になった本を読みたくなります。 -
作品紹介・あらすじ
「文章」の書き方は、自分の好きな「文章」が教えてくれる。
だからまずは自分の好きな「文章」を見つけよう。
タカハシさんが好きなのは、明治生まれの貧しい農夫木村センの文章や、免疫学者・多田富雄、スティーブ・ジョブズの驚異のプレゼンなど。
タカハシさんはそれらの、どこが好きなのか?
どうすれば、こんな「名文以上の名文」が書けるようになるのか?
これは、専門家やエライ人以外のみんなのための文章教室。
文庫化に際して「補講 二〇一八年の秋に学生たちが『吉里吉里国憲法』を書く」を増補。
(『ぼくらの文章教室』改題。)
*****
読み始めて直ぐに「何か読んだことあるな」と思ったら文庫化に際して「ぼくらの文章教室」を改題したとのこと。そうか「ぼくらの文章教室」を読んでいたんだ。でもあれは何年も前に読んだもの。何故直ぐに「何か読んだことあるな」と思ったのか。それは冒頭で紹介されている木村センさんの文章が強烈だから。「老人の美しい死について」という書籍からの引用なのだけれど、多分僕の何十年にも渡る読書歴の中でも、トップに位置するくらいに強烈で悲しい文章だった。ちっとも上手い文章じゃないし、漢字も殆ど使われていない。文字が読めなかったおばあさんが、どうしても「最後に」家族に伝えたいことがあったので、お孫さんと一緒に文字を習い始めて、書かれた文章とのこと。多分生まれて初めて書いた、唯一の文章なのだと思う。同じようなことを書いてしまうけれど、僕はこんなに強烈で心にいつまでも残る文章を他に知らない。だから読み始めて直ぐに思い出した。
この本には文章を上手く書く秘訣とか、小説の書き方とか、そういうハウツー的なことは一切書かれていない。その代わり、「文章」とは何か?という根源的なことが書かれているように思う。上記の木村センさんの文章と同じく、色々な人々の文章が引用されているけれど、どれも心にずっしりと重たいものを残してくれる。それらはそんじょそこらの小説などからは絶対に感じ取ることが出来ない。 -
祝文庫化!
朝日新聞出版社のPR
「文章」の書き方は、自分の好きな「文章」が教えてくれる。だからまずは自分の好きな「文章」を見つけよう。タカハシさんが好きなのは、明治生まれの貧しい農夫木村センの文章や、免疫学者・多田富雄、スティーブ・ジョブズの驚異のプレゼンなど。タカハシさんはそれらの、どこが好きなのか? どうすれば、こんな「名文以上の名文」が書けるようになるのか?
これは、専門家やエライ人以外のみんなのための文章教室。文庫化に際して「補講 二〇一八年の秋に学生たちが『吉里吉里国憲法』を書く」を増補。
(『ぼくらの文章教室』改題。)
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20891 -
「文章技術」ではなく、「文章」自体を論じる本。
文庫化にあたり、『ぼくらの文章教室』から改題。 -
高橋さんの小説は読んだことがない。
ラジオやエッセイで紡がれる言葉は、優しい語り口でとっつきやすく、いつも文章について考える機会を与えてくれると思う。
ときどき、鋭く本質をついていていてまるで刃のようであると思える時もあるが、その刃は「虚」に対するものであり、人間のそのままが素直に出ているもの、嘘のないものを尊重する高橋さんのお人柄が言葉に出ていると感じる。
わたしの身の回りにあるものを見つめよう。
言葉を投げ続けよう。
時には捨てていこう。
書こうとする文章の方向を見定めよう。
そこにある文章(行動)について考えてみよう。 -
作家・高橋源一郎による「文章読本」というべき内容の本ですが、たんに文章のつづりかたにかんする指南書ではなく、いわばことばを紡ぐことによって世界に対峙する方法を学ぶための本というべき内容になっています。
本書では、いわゆる文豪たちの名文がとりあげられるのではなく、遺書を書くために文字を学んだ一人の農婦のことばや、餓死することになった女性ののこしたノート、スティーヴ・ジョブズのスピーチなど、一般的な文章読本では見られることのない文章からの引用がおこなわれており、それらのことばを記したひとたちが、世間的な基準ではけっして名文といいがたいことばを用いることで、読者になにをとどけようとしていたのかということを、読者に考えさせます。
そんななかで個人的に印象深く感じられたのは、本書にとりあげられている鶴見俊輔の文章です。鶴見はいうまでもなく戦後日本の代表的な思想家の一人であり、平明なことばで深い思想を語った人物であることはわたくしも知っていましたが、彼の骨太の思想がもつ力強さの秘密がどこにあるのかということが、上に示したような「文章読本」としてはかなり特異なセレクションのうちに置いてみることによって、はっきりとさせられているように感じました。 -
農婦が力の限り書いた文章から、スティーブ・ジョブスの名講演から、鶴見俊輔の文章から。引用されている文章を読むだけでも心揺さぶられる。心のままを伝えられる文章を書くには、まずは何をおいても、動く、動かされることに敏感な心を育てることなのではないかと思った。