記憶喪失になったぼくが見た世界 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 101
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022619891

感想・レビュー・書評

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  • 18歳の美大生の青年が事故にあい記憶喪失になってから、染め物職人になって独立するまでを綴った手記。


    作者の坪倉さんは、交通事故で記憶を失います。記憶喪失と言って思い浮かぶのは、通常エピソード記憶(個人が経験した出来事)を忘れてしまう、という形だと思うのですが、この方は自分が誰か・どんな人間かだけではなく、食べ物とは何かから、おなかが一杯になったら食べるのをやめなくてはいけない事、トイレの使い方、お金の使い方や価値、文字の書き方や読み方・意味に、家族とは何か、友達とは何か、人間とは何かなど、ありとあらゆる記憶を失ってしまいます。
    なので、見るもの聞くものどれも初めて。ある種、とても純粋な世界の形・感想が描かれています。特に序盤の描写は、赤ちゃんとかがもし言語能力を持っていたら、初めての世界に同じようなことを感じているかもしれないなと考えさせられました。

    そんなピュアな描写に反し、人生はとても壮絶。
    本人の努力とともに、時折挟まれるお母様が書かれた記憶がまた心配や悲しみ、悔しさなどが詰まっていて胸が締め付けられます。きっととても大変だった事でしょう。
    退院直後の何もわからないような状態から、就職して独立できるようになるまでになるとは、人間のこころと脳とはやはり神秘。

    ちなみに、文章だけではなく作者さんがのイラストや草木染めの着物のカラー写真も収録されています。着物は落ち着いた自然の色合いが上品で素敵。大人の女性に似合いそうです。

  • 18歳の時の事故で全ての記憶を失ってから染色家になるまでの本。

    冒頭の「三本線…」のところから、
    全ての記憶を失うって大変なことだな。
    そして、言葉の表現の仕方に芸術家要素を感じました。

    本人も大変だったでしょうが、
    ご家族のショックや大変さは想像を越えるものだと思います。
    にもかかわらず、大学へ行かせたり、
    バイクに再チャレンジさせたりと優しさだけではない子供を信じる強い愛情を感じます。

    後半は染色のことがメインとなっていましたが、
    そちらにもすごく興味がわきました。
    すべての生命を大切にする考え方にも共感がわきました。
    すてきな着物きてみたい

  • テレビで以前紹介されていて興味を持った。
    大学入学直後、交通事故によりそれ以前の記憶をほとんど失ってしまったという坪倉優介さん。事故に遭ってから社会人として活躍するまでの軌跡。

    読みながらどうしてもフィクションの様に感じてしまうくらい、壮絶だった。出来事の記憶だけでなく、文字やお金や、満腹になったら食べるのをやめるとか、冷たいお風呂には入らないとか、そういう当たり前のような事柄まで分からなくなってしまったのだから。どれだけ大変だっただろう。就職してからの、染め物の写真もとても素敵だった。

    最初の方の記述では、まるで生まれたての子供が純粋無垢に世界を描写しているようだ、と俵万智さんが解説に書かれていた事と同じことを私も思った。

  • 結構有名な方みたいで、過去の著書がドラマ化されたりいくつかの番組に出られたことがあったそうですが、そういったことを全く知らないで、たまたま見つけて読みました。

    ほんとうの、まっさらになる記憶喪失もあるのだということに驚きました。赤ちゃんからのやり直しというか、生まれ直しというか…。
    そこからの数年間は、ご本人も、ご家族も、いかに大変だったかは想像以上なのでしょうが、とても前向きで、人生どこからでも、気持ちややる気でいくらでもやり直せる、変えていけると勇気をもらいました。
    大変な経験はされましたが、素晴らしいものを手に入れられたのでは、と思います。

    お母さんの気持ちが幕間のように挟んであり、その頃の母親としての複雑な心境が刺さります。

    年齢に見合わない精神年齢や知識量の時期があったことを踏まえると、そういった障害を持つ子供を育てる親としても、学ぶことがあった一冊でした。

  • 冒頭「めのまえにあるものは、はじめてみるものばかり。」
    末尾「ジャンプ!ジャンプ!ジャンプ!やった、ついに飛べたんだ。」

    前にテレビの『激レアさんを連れてきた』で知った坪倉さん。18歳で完全に記憶をなくし、まさに赤ん坊同然の状態から成長しなおし、新たな人生を歩んでいくノンフィクション。
    人やものの名前が分からないだけでなく、満腹ということもわからず、冷めきったお風呂にも入ってしまうなど、感覚などもわからないというのは、ご家族も相当苦労されただろうな。
    テレビの時の発言もそうだったけど、子供の目線というか、素直な、純粋な言葉で表現されているのがハッとさせられたり感動を誘う。

    『アルジャーノンに花束を』を思い出した。

  • 《自分らしく生きる方法は?》

    事故で18年の記憶を失くした著者の、その後12年のストーリーです。
    「生き直す」ことになった彼は、家族、友人に支えられて、師となる人と出会う。

    『自分がやりたいことを真剣にやる』
    誰にでも当てはめる、自分らしく生きる方法。

    過去に捉われず、今を生きる。
    その大切さが伝わってきました。

  • 18歳で事故による記憶喪失となった筆者の坪倉さん。
    坪倉さんの目に映るのは生まれたままの世界。本書は、記憶喪失の坪倉さんが自身のはじめての体験、心情、人間関係を瑞々しくストレートな言葉で綴ったエッセイ。
    お母さん側の視点もあることで、母としての不安や葛藤、また坪倉さんの当時の様子が書かれている点も良いと思いました。

    本書でも書かれていますが、坪倉さんは現在、着物や帯の草木染をお仕事にされているそう。
    坪倉さんの感性と自然のものを用いた草木染が組合わさって、坪倉さんの染物は神様からの贈り物のように思えてきます。

  • もし、自分の名前だけでなくすべての物の名前も、見た覚えすらもなくなってしまったら。
    それを前に、どうすべきか想像することも見当をつける手立てもなくしてしまったら――。

    白紙?とか無?とかいった言葉が頭をよぎる。
    たとえば、つぶつぶしたもの(ごはん)は、口に入れるものだということ、そして口を動かして「食べる」のだということ、お腹がふくれたらやめていいということ、そこから始まる。始める。
    ご本人ならではの視線、当時どう見えていたかを、子供のような気持ちや感覚そのままに表現。
    キラキラとした感受性、周りに迷惑がられるほどの探究心、何より次々襲いかかるあふれるほどの不安が、もやもやとした空気感ごと浮かび上がってくる。

    貴重な体験(こんな言い方どうかとも思うけれど)、よくぞ記録に残してくださったと感謝したいような気持ち。
    ご両親もまたすごい。

  • 記憶喪失になったぼくが見た世界。

    記憶喪失となった坪倉さんの、ものを見る純粋な目、そして純粋な心をとおして、世界はこのように新鮮かつ美しく、また奇妙であるのか、と不思議な驚きを感じた。

    本のタイトルにリンクする感想の書き方をすればこのようになるのだが…

    子どもがいる親としては、「母の追憶」(記憶だったかもしれない)が、涙なくしては読めなかった。

    子どもが、今まで自分たちと積み上げてきた過去を失った悲しみの深さ、絶望感、また、これからどのようになるのだろうという不安も、とても想像が及ばないものである。

    平易な文章で、坪倉さんの再生の物語は、読み手にはスラスラと進んでいくが、実際には2年、3年、という月日が経っている。

    そうした悲しみの中で、子どもさんの再生のために、辛抱強く、母は優しく、父は厳しく導き、坪倉さんが新たな人生を歩みだす。

    親御さんのお気持ちを思うと(繰り返すが、容易に思えるようなものではないが)、坪倉さんの再生にいっそうの感動を覚えたのでした。

  • 「僕には絵があってよかった」
    おそらく、ここまで綺麗に記憶をなくすタイプは珍しいだろう。エベレーター、エスカレーター、飴、チョコレート、友人、家族すら思い出せない彼は、初めはまるで赤ちゃんのようだった。
    そんな彼に平仮名から教え、早いうちに大学へ行かせた両親の決断は正しかった。ノンフィクションとは思えないくらいのサクセスストーリーだ。もちろん簡単な話ではないだろう。彼や両親の苦悩は計り知れない。
    記憶に関して興味があったので非常に面白かった。

    でもどうだろう。自分で立ち上がる素晴らしさを見て輝かしいとは思うが、真似しようにもどこに向かって歩けばいいかわからない。
    いくら本を読んだところで、私はそこまで変われない。
    変えられない日常を少しずつ変えていくしかないのかもしれない。

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