わかりやすさの罪 (朝日文庫)

  • 朝日新聞出版 (2024年1月10日発売)
3.93
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  • 本 ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022620873

作品紹介・あらすじ

“わかりやすさ"の妄信、あるいは猛進が、私たちの社会にどのような影響を及ぼしているのだろうか。「すぐにわかる! 」に頼り続けるメディア、ノウハウを一瞬で伝えたがるビジネス書、「4回泣ける映画」で4回泣く人たち……。「どっち」?との問いに「どっちでもねーよ! 」と答えたくなる機会があまりにも多い日々。私たちはいつだって、どっちでもないはず。納得と共感に溺れる社会で、与えられた選択肢を疑うための一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 世の中の物事は複雑で、自分の頭の中も複雑なのだから、その複雑な状態を簡単に手放して、わかりやすく考えてみようと強制してくる動きにからめとられないようにしよう。

    ****
    ル・ボン『群衆心理』 2021年9月 (NHK100分de名著)★3

  • わかりやすいは正義なのか?
    と言う疑問を最初から最後まで滔々と説明してくれるのをこの文章は何が言いたかったのかを理解するのに何度も読み返しながら時間をかけて読了。
    送り手の幅を読み手がそのまま受け取ろうとすると
    文庫一冊ぐらいになって当たり前だろう。
    要約しない。
    出されて来た選択肢を是としない。
    常に心掛けようと思います。

  • 3年半経っての文庫化。確かに当時、本の要約などいろいろ、わかりやすさや簡単に知ることができる、的な発信が多かった気がする。ちょっと前だが筆者の主張を知りたい

    #わかりやすさの罪 (文庫)
    #武田砂鉄
    24/1/10出版

    #読書好きな人と繋がりたい
    #読書
    #本好き
    #読みたい本

    https://amzn.to/48Pflui

  • 簡単にわかりやすさを選ばないで、違和感やわかりにくいというところを大事にしよう。というのでこの本も最後に結論という章は無かった。
    武田氏の感じるモヤモヤ感は共感できるところも多いが、そもそもが誰かに対しての反論で構成されているような本書、そこがちょっとスッキリしなかった。

  • 決して読みやすい本ではないが、大事なことが書かれてあると思う、
    分かりやすいを疑うことから始めよう

  • 普段、仕事は分かりやすく話すように伝えていましたが、この本を読んで、全てを分かりやすく簡潔に伝えることは果たしていいのかと考えさせられました。

    自分の立場だけではなく、様々な立場から考えたとき、誰しもが同じ考え方ではないなぁと思いました。

  •  文庫化されていることを知りサクッと読んだ。もはやおなじみと化した砂鉄節がこれでもかと炸裂していて楽しかったが、それだけで済まないズシンとくるものがあった。
     世間の言葉使いやその風潮について逐一理詰めでツッコミを入れており、今回の大きなテーマは「わかりやすさ」。普段何気なくスルーしていることを今一度立ち止まって論考を深める作業は必要だと理解しつつ、大量の情報に溺れる日々ではいちいち気に留めていない。しかし、そうやってかまけていると権力や企業はその間隙をこれでもかと突いてくる。このように社会的に「わかりやすさ」が跋扈しやすい状況では流れに身を任せていない人間は偏屈、天邪鬼などと言われてしまう。しかし著者はそんな他者のことなんてつゆ知らず、ひたすらに思考し続けていることに勇気をもらえた。
     本著はここ5年くらいの社会のムードを分析しているので、最近の小説を読んでいるときに「まさしくこの話!」と思う場面がたくさんあった。最初は偶然の一致かと思っていたが、それよりも物書きの人が抱く現在の社会に対する違和感が一致しているということなんだろう。
     奇奇怪怪のTaitan氏が解説でも書いていたが本著の恐ろしいところは「何でも分かりやすくするの良くないよね!複雑なものはそのまま受け取ろうよ」といった短絡的な結論に向かえないところ。特にこうやって読んだ本の感想をつらつら綴っているのは「わかりやすい」要約を作る作業と変わらない。また個人的にグサッときたのは以下のライン。身に覚えがありすぎてコーヒー吹いた。

    *「さっきの話はとても重要で」ではなく、「さっきの話はとても重要だと思っていて」とする言い方。自分が話していることなのに、自分が話していることではないみたいだ。自分をどう見せるかに卓越しているかどうかが問われすぎているからこうなった、と結論付けるのも早計だが、あまりの頻度に驚いてしまった。感情を吐き出すのではなく、その感情を吐き出す理由、つまり「なぜなら」を必須にしているように思える。*

     ここで書いているのは本の感想なので「思った」の文末は致し方ない部分があると自分を甘やかしつつも断定を避けて保身に走っていると言われればそれまでだ。あと特定のラインを引用して本を象徴するような書き方もしているので心に鈍い痛みが…

    *本を通読し、ココがポイントであろうと加工する行為は、その本の「真」を摑むための行為ではない。加工では「真の情報」は摑めない。本は、そして文章は、すぐには摑めないからこそ、連なる意味があるのだ。簡略化される前の、膨大なものを舐めてはいけない。*

     何かをわからないまま置いておく、もしくは議論し続けるだけの忍耐力が社会から失われつつあるのは間違いなく近年は加速している。安易な二択の奥に潜む有象無象に思いを巡らせたい。戒めとして引用。

    *わかりにくいものをわかりやすくすることは難しいことではない。切り刻んで、口にしやすいサイズにすることはおおよそ達成することができる。でも、それを繰り返していると、私たちの目の前には絞り出された選択肢ばかりが提示される。選択肢が削り取られる前の状態を知らされなくてもそのことに慣れてしまう。「便利」と「わかる」が一体化している*。

  •  朝日新聞出版から出ている雑誌「一冊の本」に二〇一八年から二〇二〇年まで連載されていたコラムをまとめた本。テーマは書名の通りで、連載当時に世の中で流通していたわかりやすい言説に対して著者が疑念なり考察なりをめぐらせていく。二〇二四年の文庫化にあたり各章に「いま思うこと」という付記が加わっている。書かれている対象はさまざまで、池上彰の『わかりやすく<伝える>技術』だったり川口俊和の『コーヒーが冷めないうちに』だったりするのだけれど、どちらも電車内の広告や書店で平積みされているのをチラッと見る程度しか馴染みのない(なんだか嫌だなこういう本は、と感じるだけで、手に取ろうとは全く思わなかった)自分には、まあそういう内容だろうな、仮にああいう本を読んだとしても、という感じだった。読み応えのあったのは、著者が文芸誌の編集者をしていた頃新人賞の応募作をひたすら読み続けていた話から始め、流行りの音楽に話題をすべらせつつ、ベタな共感を目指す創作姿勢に疑問を投げかける13章。一冊の本をページごとに分担して読み発表しあうという、よくある読書会のスタイルに、それって本を読むより、その場にいる人と繋がることを優先してない? と疑念を呈する23章。そもそも未知の新型のウイルスだから、どうしたらいいかわからないのに、それにわかりやすい説明を求め続ける人々と、わかりやすい説明を提供しようとする側の両方とも変なのでは? という「おわりに」。推し活って、とにかく推し続ければいいのだから迷わなくていいし、スッキリしてるし、楽しいんだろうけど、そんなわかりやすく誰かを、何かを、推し続けていいの? という「文庫版によせて」。実務上では、限られた時間の中で会議をしてとりあえずの結論を出して仕事をせざるをえないけれども、いや、でも、自分は、そんな簡単に結論や方針なんか出せないもんね、という気持ちでこれからも生きていきたい。

  • 「わかりやすい文章」を書くことや「わかりやすい資料」を作るべきだと思っていたが、立ち止まって考えてみたいと思った。

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    ・こんなにも堂々と、複雑に入り組んだものを嫌悪し、ちゃんとほどいてから私の目の前に差し出してください、と要請するのが、当たり前になったのはいつからのことなのだろう。…どうしてわからせてくれないのか、どうして私が知らないことを言うのか。鎮座した自分の目の前を通り過ぎていく情報に対して、フィットするものだけを選ぶようになった。23

    ・建築家が小説を書けば絶対に面白いものになる…建築家は、あらゆる空間にいくつもの可能性をぶつけていく職業だから129

    ・短いプロフィールに「二児の母」と書いてある。141

    ・「過圧縮ポップ」…要素を全部盛るように、短時間の間に圧縮していく。…「情報量が多く、メロディや曲展開が細密化し、1曲の中にジェットコースターのようなめまぐるしい展開を持つ」173

    ・「わからなくても恥ずかしがらずに質問するゲスト」が求められているが、そこに用意されるのは、大抵。若い女性である。事務所から「おバカ」でいけ、とキャラ付けされたような誰かである。その誰かは、本当はおおよそクレバーだ。219

    ・「冗長率」とは「一つの文章の中に意味伝達とは関係ない無駄な言葉がどのくらい含まれているかを数値で表したもの」…うまく話の腰を折る、といのは解決しているように思わせて、実のところ、さらなる混在、齟齬に誘い出している言葉でもある。234,235

    ・「不便な本屋はあなたをハックしない」…私たちの情報網を勝手に完成させ、更新してくるGAFAだが、これらに体をあずけすぎると、いつのまにか自分の言動が絞り込まれていく。自分のためのおすすめ商品を紹介してくれるありがたさと裏腹に、自分が好む範囲が絞り込まれていることに恐怖を覚える人はまだまだ多い。243
    →確かに、昔自分はそれに恐怖を覚えていたはずだったのに、最近はそれを忘れていた。。

    ・毎日送られてくる新聞には、か習う、自分の知らないことが、そしてまったく知りたくもないことが、確実に一定数含まれている。246
    →そうそう!だから新聞取るのやめられない

    ・「出版物が世の中全ての悪いことを亡くすことはできないが、人の心に良い方向を生み出す、何らかの小さな種子をまくことはできる。人生の中で大きく実となり、花開く種子をまくという仕事が出版であり、これが当社の理念です」…小学館の理念である。267

    ・「うまく言葉にできない」という感想は、
    ただただ、言葉にする能力が欠けているってことなのかもしれないのに、そういう即物的な反応が何より素晴らしいとされてしまう。323
    →耳が痛い。自分の語彙力の貧弱さを言われているようだ。

  • 細谷功さんの「具体と抽象」で、「分かりやすさってそんなに大事か?」と感じていたので、タイトルが気になって手に取ってみた。

    職場の上司とかで「俺にわかるように、短時間で説明しろよ」という人がよくいると思うんだけど、そういう人に対するモヤモヤとかが背景にある。

    偉い人は忙しいし、結論だけで良いというニーズも分かるのだけど、内容によっては結論に至った経緯とか微妙なニュアンスとか伝えたい時もあるって話。

    【総評】
    基本的なスタンスには共感するけど、ちょっと自分には合わなかった。具体的には「分かりやすさに対するアンチテーゼの本だから、この本はわかりにくくても良い!」という開き直りが垣間見えるところとか。ただ、良い意味でキャラは立っていて、そういう人なんだな、というのはよく分かる。

    【内容について】
    本の要約サービスに対する著者の怒りは理解できる。
    でも、自分はYouTubeの要約チャンネルを見ている。見る側の理屈で言うと「読む本を選別する」という観点で有益なのは確か。(タイトル詐欺なども多いので)

    自分が今書いているこの感想も、要約行為には変わりないんだよなぁとか考えたりする。
    でも読んだ本の中身なんて正直すぐに忘れちゃうから、思い出すのに役立ってるのは確か。
    中身をまとめるというより、読んだ時に考えたことや感じたことを書いとくとより良い感じなのかもしれない。

    【印象に残った部分】
    ・こっちが理解できるもんを出してくれという生ぬるい受動性と、こっちはそっちも理解してますから、という身勝手な能動性

    ・大切なことは、「こんまり化する民主主義と差し出された本をそのまま信じるのではなく、自分の中で民主主義がこんまり化しているかもしれないと考える主導権を持ち、目の前にある偶然を確保する姿勢」もしかしたらそうかもしれない、という偶然を、他社に委ねすぎなのではないか。

    ・検索できるのは自分の知っていることのみ。そうならないよう、検索未満のうっすらとした記憶や興味を特定の場所(本屋)を徘徊することによってかたちにしたい

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著者プロフィール

1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年よりライターに。近年ではラジオパーソナリティーも務める。
『紋切型社会――言葉で固まる現代社会を解きほぐす』(朝日出版社)で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞などを受賞。他の著書に『日本の気配』(晶文社、のちにちくま文庫)、『マチズモを削り取れ』(集英社)などがある。

「2022年 『べつに怒ってない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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