選書916 『枕草子』の歴史学 (朝日選書)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022630162

作品紹介・あらすじ

【歴史/日本歴史】『枕草子』を歴史学で読み解くと、意外な事実が見えてくる。なぜ「春は」から始まるのか、 道長との関係、通説の登場人物は間違っていた……。浮かび上がる清少納言の感性や姿。さて「春は曙」はどういう情景を描いたのか、著者からの驚きの推論とは?

感想・レビュー・書評

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  • 文学からでなく歴史学からの枕草子への接近。これを全部鵜呑みにするわけではないが、歴史学者の方が読み解かれるとこうなるのか!という新鮮さはあった。ここ数年で新しい枕草子に対する論考が増えている。その中の一つとして読んだ。史実の順序に沿って内容を整理し解析し直す読みも現れているし、興味深いことである。

    手を加えていない、ただ事象として起きた事実としての史実と、「こう読ませたかった」史実と、その中に織り交ぜられた創作(嘘ではなくて。)の3つが枕草子には含まれている。それを念頭に置くと、また違う表情を見せる作品なのだ。ただしここで言う創作とは、後世の私たちによる想像によるフィクションと違って、楽しむための虚構ではない。そういうものは当然史実とも枕草子の原典とも、食い違いが出てくる。

    枕草子の内容は、あくまでも同時代人に対する清少納言の、ひいては定子中宮の後宮からの、公式メッセージであって…。読んだ貴族たちとの間に角が立たないために行うぼかしと、虚構を描く現代小説や創作のフィクションとは質が異なる。当時の読者は、史実と、定子の周辺で起きていた心理的・社会的な動きと、「こう見て欲しい」という思いの微妙な格差や、そこに込められた清少納言の気持ちを、現代の私達以上に、言わずとも読み取っていただろう。

    そのあわいを読み解いてこそ、枕草子からより多くのメッセージが発信されうるのではないかなと思うのでこの本も原典と一緒に参照しながらもう一度味わってみたい。

  • 最終節に結論(主張)が凝縮されているため、そこに至るまでを長く長く感じ、実際に時間もかかった。
    「歴史学」も一部で、いわば「社会学」「清少納言の思想・行動分析」の一冊か。
    カバー裏を読んで期待したとおり、とはならず残念。

  • 枕草子の歴史学というほど歴史学ではなかった。どちらかというと、テーマごとに段を並べ替えた枕草子の現代語訳とこの人の解釈集みたいだった。
    帯に書いてあるような以外な『枕草子』はなかったと思う。

  • ☆おもしろし。利発な人。風景論はだれが最初か?

  • 「姫のためなら死ねる」という4コマ漫画のおかげで枕草子に興味を持ち、枕草子の時代背景を本格的に勉強したいと思って手に取った本。でも、専門的過ぎて難しい。それに、いくら「歴史」だけを知りたいと思っても、やはり最低限の文学的な素養がないと枕草子の歴史背景は理解できないことがよく分かった。

  • 清少納言は道長の推挙で中宮定子に仕え、道長派と見られていた!驚き。内大臣とあるのが定子の兄・伊周と考えられていたものが、実は年代考証で道長ではないかと思われるなど、意外な主張。「しき」をテーマにして「史記」ではなく、四季の風景を枕にした枕草子だということを著者が言うとおり痛感する。「忍んで行った所で逢瀬を楽しむのは夏」(70段)など実に楽しい。梅、桜、藤、橘、梨、桐などの樹木の観察、草に見る季節感、鸚鵡、鶴、鷺、鶯などの鳥の姿と鳴き声の観察など、美しさを受け止める感覚は現代にも通じる眼だと思う。

  • 枕草子のなかの「歴史」を中世日本史専門の著者が読み解く。
    一番注目している点は、枕草子では、官名のみで人物を示しすことが多いのだが、そこを「誰を」さしているのかはっきしさせ、そこから清少納言が、定子に仕えるようになったきっかけや時期を、定説とはちがった推定をなしたところ、だろう。
    へーこのひとが、この時期に、と、読み直すと、既存の「清少納言」のはなしもまたちがった観点から読めますね。

    とはいえ、今回、これを読んだ後に宮木あやこさんのフィクションを読んだので、「・・・・・五味先生の意見に従ったらこれはちがう・・・・」と違和感にさいなまれました・・・。

  • 以前同じ著者の『徒然草の歴史学』を読んだ。
    残念ながら、自分の関心とずれていたのか、あまり面白いと感じられなかったことを覚えている。
    今回は、枕草子。
    時代的には兼好の時代より、多少は予備知識が多いせいか、興味を持って読むことが出来た。

    枕草子執筆のきっかけとなった、上質の紙を献上した「内大臣」が、定子の兄伊周ではなく、藤原公季であるといった、歴史家ならではの指摘が面白い。
    六位の蔵人への人々の扱いとか、僧侶、験者、下衆、農夫といった、貴族ではない人々の様子をすくいとって解説したあたりは、文学としての解説書にはないところ。

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著者プロフィール

1946年生まれ。東京大学・放送大学名誉教授。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。博士(文学)。専門は日本中世史。著書『院政期社会の研究』(山川出版社)、『吾妻鏡の方法』(吉川弘文館)、『中世のことばと絵』(中公新書)、『絵巻で読む中世』(ちくま学芸文庫)、『書物の中世史』(みすず書房)など。

「2019年 『中世史講義 院政期から戦国時代まで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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