枕草子のたくらみ 「春はあけぼの」に秘められた思い (朝日選書)

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著者 : 山本淳子
  • 朝日新聞出版 (2017年4月10日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022630575

作品紹介

【文学/日本文学評論随筆その他】藤原道長が恐れ、紫式部を苛立たせた書。それが随筆の傑作「枕草子」だ。権勢を極めてなお道長はなぜこの書を潰さなかったのか。冒頭「春はあけぼの」に秘められた清少納言の思いとは? あらゆる謎を解き明かす、全く新しい「枕草子」論。

枕草子のたくらみ 「春はあけぼの」に秘められた思い (朝日選書)の感想・レビュー・書評

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  • 「源氏物語」で有名な著者が「枕草子」を?しかも「たくらみ」とは何だろう?
    と、興味津々で読んでみたが予想以上の読み応えで、読後しばらく茫然とした。
    山本さんはなんて素敵なお仕事をしてくれたのだろう。
    時系列に従って懇切丁寧に読み解く仕業は、まるで平安京の内裏に身を置いたかの
    ような陶酔感をひきおこす。
    これを読まなければ、枕草子の真の魅力に気づきもしなかった。
    もっとも、しばしば涙ともに読み進めたのだけれど。

    「たくらみ」と言うと何やら怪しげな響きだが、それは「いとめでたき」皇后定子と
    その華やかな文化を後世に伝えようとした工夫のこと。
    何故そのような工夫が必要だったかというのを、実に解りやすく解説してくれる。
    定子の肉親や男たちによる権力抗争の中で、24歳と言う若さで亡くなった定子。
    しかし清少納言はそんな不穏なことは書かず、定子崩御への言及さえしない。
    それは、死後までも定子を貶めようとする権力者から、定子を守るすべであったと言う。
    また、後宮を離れてからの「つれづれなる(この言葉の意味も初めて知ることになった)
    日々」を送る定子を、慰め励ます意味もあった。
    こんなこともありましたね、あの時は面白かったですね、と語り掛けているのだ。
    それがどれほど悲運にみまわれた定子を励ましたかは想像に難くない。

    枕草子というと、美しく聡明な皇后と機知にとんだ女房のやり取りと思われがちだが
    それも事実とは反する。
    あくまでも皇后が与え、清少納言がそれに応えるという形の中で生まれたものなのだ。
    数々の機知の場面も定子あってのものと、感謝と鎮魂の思いが枕草子の主眼であり、
    だからこそ後世まで残される必要があったと著者は述べる。
    「をかし」が生まれるその瞬間に、まるで立ち会ったかのような臨場感にしばしば
    包まれるのは、キーポイントとなる章段(現代語訳付き)の引用の巧みさと著者の
    愛情深い解説によるところが大きい。

    定子を愛した一条天皇と皇后定子の喜びと悲しみ、一心に見つめる清少納言の健気さ。
    筆をとりながら、どれほどの涙が流されたことだろう。
    枕草子どころか、私は著者のたくらみにも陶然としてくる。山本さんには心から感謝を。
    古典がお好きな方には特に、あまりそうでない方にもおすすめ。

    巻末に「内裏・後宮」の見取り図と主要人物の関係系図、年表付き。
    読後それを見ながら再度楽しめる。

  • 日は入日 入り果てぬる山の端に 光 なほとまりて 赤う見ゆるに 淡黄ばみたる雲の たなびきわたりたる いとあはれなり

    枕草子の後半に書き連ねてある「日、月、星、雲」の段。上の部分はその中の「日」の段にあたる。
    初段の「春はあけぼの」にも通じるお題ありきの構成をとる。自然への洞察力に長け軽妙で小気味いい清少納言らしい文章だ。
    もちろんこれだけを読んでも十分に枕草子の世界を堪能できる。
    ただ、この背景にあるものを知ったらどうだろう。また一段と作品世界が広がることは間違いない。

    この本によると、おそらく「春はあけぼの」は定子の生前に書かれたもの。そして上に上げた段は定子の没後に書かれたものとある。
    平安という雅の中にありながらも、時代の波に翻弄された悲劇の中宮、定子。
    そんな彼女の心を慰めるため、そして彼女の魂を鎮めるために書かれたのがほかでもない枕草子だったのである。

    いったんこの作品がある種の挽歌だったと知ると、枕草子における清少納言のきらびやかな貴族社会への執着に合点が行った。
    もともと山吹の花のくだりが好きで、ここを読むと定子の清少納言への愛情の深さに胸がいっぱいになってしまうのだが、この本を読んだ今はどのくだりを呼んでも清少納言の定子への思いがひしひしと伝わってきて切ない。

    高校の授業で出会った枕草子。
    知っているようで全然知らなかったその世界。
    一筋縄じゃいかない。
    だからこそ面白い。
    平安の時代に思いを馳せながら、読み耽るのもいとあわれなり(笑)

    尊敬するブク友さんから紹介された素敵な本です。
    読んでよかった。
    ありがとう~♪
    久々のレビューでした!

  • 枕草子の記述と史実を丁寧に突き合わせおて、枕草子が書かれた意図を解き明かすのとともに、歴史的事項についても考察したもの。特に、長徳の変の引き金となった藤原伊周・隆家兄弟と花山院の乱闘事件において藤原斉信が果たした役割についての推察は、これまで見たことがなかったが、非常に説得力があった。定子の死の文脈上での藤原重家・源成信や藤原成房の若くしての出家への言及も行き届いた感じ。
    枕草子が定子(とその時代)の「めでたさ」を伝えるために書かれたというのは常識の範疇だろうが、ある種対立関係にある当時の貴族社会にいかに受け入れられるかに細心の注意が払われているか、書かれていることといないこと、両方を丹念に見て立証している。
    定子の出家については動揺して思慮分別を失った、社会的自死という解釈で、確かに別の時代/文化だったら自害みたいなものというのには賛成だが、ミウチの庇護のない皇族/王権の脆弱さ(それこそ花山院退位事件)や安和の変などをごく近い記憶として知っていれば、自分の在所と知っていながらここまでやるということは帝が自分を見切ったと「政治的に」考えて絶望するのは自然だと思うのだが。実際にはそれで終わりではなかったので短慮に見えるが、一条帝の「変」後の寵遇が異例かつ一条としてもらしくない行動だったので、事件の最中には予見できないのでは。また、定子の「滅びゆく」あはれさ、というのは、若くして死ぬという結果に引かれすぎに思えた。
    定子が若死にしなければ、清少納言もここまで強く伝えようと思わなかったかもしれないし、様々な立場での「鎮魂」の必要性も生まれず、今のような枕草子になって・受容され・伝承されなかったかもしれないと思うと、皮肉にも感じる。

  • 誰もが知る「枕草子」。でも、本書で著者が解き明かしていくその姿は、まったく思いもかけなかった新しい光を放っている。なるほど、そういうことなのだと、目から鱗がポロポロと落ちる思いで読んだ。

    -才気煥発の人、清少納言による、ユニークな美意識に貫かれた随想-「枕草子」の一般的なイメージはこんな感じだろうか。平安文学好きなら、もう少し知っているかもしれない。清少納言は中宮定子を理想的に描き、その没落後のことは一切書かなかった。定子の産んだ内親王や親王については、不思議なことにほとんどふれられていない。紫式部はその日記に清少納言を辛辣に(と言うより感情的に)批判して書いている、などなど。

    本書を読んで、清少納言や「枕草子」について抱くイメージがガラリと変わった。そして、いくつもの漠然とした疑問(上に挙げたようなこと)への、説得力のある「解答」をもらったと思う。著者の考察は、多くの研究者によって積み重ねられてきた「枕草子」研究や歴史的事実に立脚しているが、同時に、思い切って人物の内面に迫っていく独自の視点が導入されていて、そこに大きな魅力を感じた。

    まず最初の、「枕草子」はなぜ、なんのために書かれたのか、という問題の立て方に、あ!と思った。私たち、いや私は、つい無意識に、平安時代の書き手たちを、現代の「作家」と同じように考えてしまうが、そもそも当時は(印刷などできないのは言うまでもなく)ものを書く紙が非常に貴重で高価だったのであり、「執筆する」ということの意味が現代とはまるで違う。「枕草子」も、紙を提供する人があり、ある明確な意図と目的を持って書かれたのだとあって、この「序章」ですっかり引き込まれてしまった。

    第一章以降は、基本的に年代を追って、「枕草子」の各章段を引きつつ、その背景や清少納言の意図を探っていく形となっている。いやまったく、次から次から「そうだったのか」ということの連続で、自分がこれまでいかに固定的なイメージで読みとばしていたか、痛感させられた。「春はあけぼの」という出だしからして、ここまで重層的な読み方ができるのかという驚きでいっぱい。今まで何を読んできたのか…。

    「枕草子のたくらみ」つまり執筆の目的についての著者の考えは、序章から明らかにされている。中宮定子の生前はその慰藉のため、死後は鎮魂のため。定子没後、藤原道長が栄華を極める世となってなお、なぜ「枕草子」は読み継がれ、その存在を抹殺されることがなかったのか。その理由を解き明かした終盤の筆致に、最も迫力があると思う。以前の著作「源氏物語の時代」でも感じたが、中宮定子の運命に寄せる著者の思いは、しみじみと深い。

    著者は、「枕草子」において清少納言は自ら道化となり(もちろん定子のため)、自分の一面でしかないあるキャラクターを演じたのだと書いている。また、紫式部がなぜ清少納言に対して苛立ったのかも推測していて、このあたりが非常に面白かった。この二人の女性が生き生きとした姿で立ち現れてくる気がした。

  • 文句なしに楽しめた!未知の枕草子の世界に興味津々にならざるを得ない本でした。とても解り易く枕草子の世界に誘って頂き言うこと無し です。これはもう枕草子のたくらみ(寧ろ清少納言のたくらみ) と言うより山本淳子さんのたくらみ ですね。久しぶりに学習意欲を揺さぶられました❗ありがとうございます。

  • 桃尻語訳もあり、明るく溌剌としたイメージの枕草子だが、それは中宮定子に捧げられたレクイエムだった。
    清少納言の策略通りに千年後の私達は中宮定子サロンが雅やかさを愛でている。
    清少納言はエッセイだけでなく、策士としても超一流だということ。
    そして、その策略を読み解き、一般人に判りやすく解説してくれている著者に感謝。

  • 面白かったです。
    『枕草子』はリアルタイムに書かれたものではなく、中宮定子が幸福でキラキラとしていた頃のエピソードを清少納言が定子への思慕をこめて後から書いたものだったのですね。定子の実家の凋落後の境遇等を想像しながら読むと、以前と違った感想を持つだろうと思います。
    著者が当時の時代背景や様々な文献から『枕草子』を読み解いていきます。そして『枕草子』にこめられた清少納言のたくらみが最後に明かされます。なんて切なくて愛しいのでしょう。清少納言の気持ちに寄り添えたような心持ちです。
    興味のある方は是非!

  • 昔は源氏のが好きだったけど、歳を重ねると枕草子のほうが好きになった。小説と随筆だから単純にはくらべられないけれど、どんなに厳しい状況でもひたすらご主人さま大好き!すてき!うちのご主人さまやその家族はこんなに素晴らしい!を貫き、敢えて中関白家の栄華を人々に、後世に伝えた清少納言。
    ただ単に主人である皇后定子礼賛ではなく、皇后定子に仕えた側近中の側近であり、しかも道長サイドとも懇意であった清少納言の立場や、時に道化になることすら厭わず、後ろ盾を無くし没落しつつも第一皇子の生母という高度に政治的で難しい状況にあった定子を支え続けた、平安のキャリアウーマンの矜持を感じます。

  • 時代背景がよくわかった。作者は、本当に定子と清少納言が好きなのだろうな。私も、好きになった。

  • 中宮様と清女の関係をちゃんと理解して解説してくれてて嬉しい。
    おもわず泣いた。

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