十字街―久生十蘭コレクション (朝日文芸文庫)

著者 : 久生十蘭
  • 朝日新聞社 (1994年11月発売)
3.50
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  • レビュー :2
  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022640543

十字街―久生十蘭コレクション (朝日文芸文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 舞台は1930年代のパリ。貧乏似顔絵画家の小田孝吉は、ある日地下鉄で死体を運ぶ二人の男を目撃したことから謎の事件に巻き込まれる。序盤はスリリングでわくわくしたのだけど、途中からどんどん関係者が殺されて、わりと重要キャラだと思っていた人物が突然死体になって出てきたり、突拍子もないことが次々起こるばかりで、後から説明があるのかと思えば放置のまま、謎はひとつも解明されずストレスが溜まる一方。あげくてっきり探偵役だと思っていた主人公が犯人らに襲われて頭を殴られ、それっきり正気に戻ることなくフェイドアウト。ええ~何も解決してないよ!?

    スタヴィスキー事件(1933年にフランスで発生した疑獄事件。時の政権をも揺るがす一大スキャンダルに発展)という実際の事件をモチーフにしているようですが、つまりそれだけ。結局フランスの警察や政治家がいろいろ暗躍して証拠隠滅のために次々と関係者を闇に葬っていた、その犠牲者の中にこの小説の登場人物たちも含まれてしまった。謎解き、真犯人逮捕などの痛快な結末は一切なし。うーん、ちょっと期待していたのと違ったかな。パリを舞台にしたエンタメ活劇だと思っていたので。

    あと記述にちょいちょい矛盾があるのがとても気になって。いちばんわかりやすいところで小田孝吉くんの年齢。「三十二才という齢にはどうかと思われる緋色の派手なベレェは~(18頁)」と最初のほうにあるのに、中盤で彼の友人が「二十九にもなって子供くらいの知恵しかない気のきかない小田孝吉が~(108頁)」と述懐していたり、どうやらアラサーあたりらしいけど正確にはまちまち。にもかかわらず、そんなアラサーの孝吉くんが身分証明書を持たないというので尋問から庇ってくれた「二十四、五の若い女のひと」高松ユキ子いわく、「連れはなんだと聞くから。子供ですって……赤いベレェなんかかぶっているから、女の子だと思ったかも知れないわ」・・・って、アラサーの男が、二十代女性の子供でしかも女の子に見えたかも???いくら日本人若く見えるからって、フランスの警察官はアホなの?老眼なの?まあ高松ユキ子自体はよく見たらそんなに若くなかったようですが、にしたって、せいぜい孝吉と同世代でしょ?うーん無理がありすぎる・・・

    いかんいかんまた校閲ガールならぬ校閲おばさんになっちゃってるよ自分、と反省しつつ解説と、橋本治の巻末エッセイを読んだら、奇しくも両方で、十蘭がちょいちょいいい加減な記述をすることについて言及されており、なーんだ、私のチェックが細かいせいじゃなかったのね、と一安心。ちなみに解説者は、殺害現場は十三区なのに、十四区だの十五区だの書かれてる部分があることを指摘、橋本治は別の著作で十蘭が何度も「北斎の赤富士」を「広重の赤富士」を書いていることなどについて指摘されてました。とはいえ、双方とも別に十蘭をディスっているわけではなく、まあそういう細かいこと抜きにしても十分十蘭は面白いよね、すごいよね、っていう話なんですけど、うんまあ、さすがに今回は、事件の解決がなかったストレスもあって私もちょっとモヤモヤしちゃいました。十蘭は今までに結構沢山読んだつもりだけれど基本的に短編集中心だったので、起承転結の構成完璧なイメージだったから、余計に予想外というか裏切られたような感じがしたのかも。

    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは!(^^)!
      十蘭、今まで岩波や河出から出てるわりと純文学寄りの短編しか読んでこなかったので、とにかく巧いという印象だったんですが、エンタメ作品だと途端にぶっとんじゃうんですねえ(苦笑)

      これは昭和26年の朝日新聞夕刊で連載したものだそうで、やっぱ新聞連載っていうのもあるのかしら、解説などでも同じことを何度も繰り返して書いちゃってるような点も指摘されてました;

      でも次は「魔都」に挑戦したい!
      2016/11/08
    • 淳水堂さん
      こんばんは!

      あ、本当に連載だったんだ(笑)
      「魔都」は読んだことあって、あっちも筆が勝手に進んでしまったような感じだったので、レビューを読んでこれもそうなのかな?と思ったんです。

      「魔都」でも大変な目に合う登場人物の事を「ああ、筆者(十蘭自身の事)は〇〇(登場人物名)にこのような試練を与えるつもりはなかったのに」などと書いているので、連載を書くと、細かいことは気にせずに筆が進んでしまうタイプで、読者も「まあ十蘭だし」と分かって読んでるんでしょうかね(笑)

      しかし戦時中の人だからなのか、
      登場人物へ実に冷静でごく自然に「運命は過酷」と示してくることがあってドキッとすることが合ります。
      そのため逆に「十蘭のことだからこの主人公はきっと悲惨な運命に…」と思っていたらいいラストを迎えて安心することが合ったり。
      良くも悪くも油断できない作者です。
      2016/11/08
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは~!

      そうなんですよ、新聞連載だったそうで、毎日のことですから、週刊誌連載よりもっと書きっぱなしだったんでしょうね…(^_^;)

      >「ああ、筆者(十蘭自身の事)は〇〇(登場人物名)にこのような試練を与えるつもりはなかったのに」
      これは酷い!(笑)まるでヤハ男ですね。まあ、ある意味、作者は登場人物から見れば神のようなものではありますが・・・

      『十字街』でも、てっきり主人公だと思っていた人物が、途中で殴られてアホの子になってしまい、これが普通だったら終盤で記憶を取り戻して「真犯人はアイツだ!」とスカっと終わるところ、そこは十蘭ですから、まさかの、アホの子のまま去っていってしまって仰天でした。
      ほんと十蘭は油断も隙もありませんね(笑)
      2016/11/09
  • あんまり十蘭読み込んでませんが。ノーフューチャー文学としてすばらしい。

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