魔都―久生十蘭コレクション (朝日文芸文庫)

著者 :
  • 朝日新聞社
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レビュー : 18
  • Amazon.co.jp ・本 (494ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022640635

感想・レビュー・書評

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  • 巧緻にして端麗な短編群の後に読むと
    手に汗を握りつつ脱力すること必至!(笑)な
    久生十蘭の『新青年』連載長編。

    物語は、1934年12月31日から明くる1935年1月2日の
    足掛け三日間の東京市街でのドタバタ劇。
    フランスの庇護を受けるアジアの小国皇帝が
    愛人である日本人女性と密会するため、お忍びで来日したが、
    彼が所有するダイヤモンドを巡って悪人たちが蠢き、
    皇帝に間違われた新聞記者は一部始終を記事にしようと目論み、
    敏腕警視が捜査に乗り出したが……といったところ。

    著者存命中に書籍化されなかったため、
    本人による修正が加えられていない、
    世界大戦間期の『新青年』という雑誌が醸した
    エログロナンセンスな「悪ノリ感」に満ちた空気を
    追体験できる。

  • あとがきでも書かれているが、かなりの凝り性で演出過剰だったらしく、それに対して相手の反応が薄いとがっかりしたとか。また久生十蘭のペンネームは、演出家で俳優シャルル・デュランから取ったらしいが、編集者に「久しく生きとらん、食うとらん と読める」と言われ拗ねたとか、「字画はすごくいいんだ」と反駁したとも。
    しかも本人には知らされなかった末期癌の中書いた最期の作品が「主人公が癌を苦にして自殺する」というもの。友人のコメントでは「彼は死ぬまで凝ったね、どうも凝り死にだな」。

    ★★★
    そんな作者の後述筆記による長期連載作品なので、かなりの絢爛豪奢でユーモラスで凝って捻ってハッタリの利いた創り。
    大都市東京。某国の王様と国宝の宝石がなくなった。解決までの猶予は24時間。いろんな人々の思惑が入り乱れる。
    たまに作者自身が焦れて顔を出してきたりして(「ああ、作者はこのような苦難を彼に与えるつもりはなかったのに」みたいな)、口述筆記で気分が乗ってしまったんだな、と思えて楽しい。
    ★★★

  • 昭和9(1934)年の大晦日、三流新聞の記者である古市加十は、ひょんなことから銀座のはずれのバーで安南国の「王様」と引き合わされる。そのまま「王様」の妾宅へ連れてゆかれた古市は、偶然にもそこで愛人の殺害現場を目撃、さらに「王様」は謎の失踪をとげる。これはたんなる偶然なのか、それともなにかしらの罠なのか。古市はこの「特ダネ」で一発あてようとみずから事件の渦中へと身を投じる一方、その冷徹さから恐れられる警視庁の真名古刑事もまた、そこにとてつもない陰謀の匂いを嗅ぎ取り独自に捜査を開始するのだった。政治的な思惑や安南におけるボーキサイトの利権をめぐる争い、裏切りや騙し合い、組織の腐敗など、まさに闇鍋のように混沌としたこの時代の空気に充満した傑作探偵小説であると同時に、モダン都市東京を描いた貴重なポートレイトでもある。

    物語は、大晦日の宵の口にはじまり年が明けた2日未明に大団円を迎えるまでの1日半ほどの出来事を描いている。初出は雑誌「新青年」昭和12(1937)年10月号から翌13(1938)年10月号まで連載された。ざっくり言うと、一日の出来事を一年間で書くという趣向だったわけである。そのため、あらためて続けて読むとやや冗長だったりご都合主義的に感じ取られる箇所もないではないが、そのあたりの事情を汲めば気になるほどでもない。

    じつは、終盤までこれは本邦初(?)の警察小説なのではないか、と興奮しながら読んだ。上層部の権力闘争や組織の腐敗と戦いながら、懐に「辞表」をしのばせつつ真実を突き止めようと孤軍奮闘する刑事の姿は、この小説のもうひとつの読みどころでもある。ところがどうしたわけか、最終章ではいきなり義理人情的な決着がなされてしまう。「定本久生十蘭全集1」(国書刊行会)に付された解題で、江口雄輔氏は次のようなエピソードを紹介している。「軽井沢の山荘でシャンパンや生卵を摂りながら、『魔都』の最終回を口述筆記させられた、という土岐雄三の証言もある」。もしそうだとすると、この最終章での決着への違和感はやはり執筆当時の「趣向」から生まれたものといえるかもしれないが、震災から10年あまりを経て完全に復興をとげた帝都東京の近代的な「顔」とは裏腹に、いまだ精神的には前近代を引きずっていた30年代の東京の、まさに「時代の気分」といったものが臆せず表出されているようでむしろ興味深くもあるのだ。

  • あとがきで久世光彦が描いている。
    同潤会アパートに残された「あの時代」。西洋と東洋のバランスのとれた不思議な時代と凶々しい予感。童謡の切れ目に一瞬まぎれこんだ重いウッドベースの音。の、黴臭い映像が見える気がする。魔都の舞台、昭和9年。
    "魔都"、ジャズの喧噪/ピストルの音が響く上海/霧の中に赤や青のネオンがにじんで/繁華街/秘密結社やスパイについて、ひそやかにささやかれて。
    ひけらかすほど難解なことばと西洋建築のディテールが振り撒かれた、あやしげな都をかけめぐる十蘭のはなしことばは軽快で、「そんないきなり!」と不安になるほど軽々しく大事な展開をさらりと言ってのける。屍にかわりゆく描写はやたらとリアルで、すうっと足元が冷えるが、それを冷静に見下ろしている自分もいる。
    そういえばこれは探偵小説だった、と忘れそうになるほど、十蘭に帝都東京を引っぱり回されたあとには、夕闇にそびえ立つビルヂングやアパートメントの露台が残像となってまぶたに残る。

  • この頃はまだ作者がちょくちょく登場するのか。けっこう叙情的な面もあってその点は好みだったが、探偵小説としては期待を超えてはこなかったかなという印象。

  • 2015年8月1日伊勢BF

  • 猥雑で妖しくて寂寥として思惑うずまく雰囲気とか帝都の描写とか堪能。

  • 安南国皇帝の愛人が東京で殺された事件が帝位を巡る争いや王家秘宝のダイヤモンドと絡み、登場人物が各々色々と誤解をして巻き起こる24時間の出来事。
    切り口の良い場面展開で胡散臭い登場人物達の欲と愛情が入り乱れる流れに時として作者も口を出し…と混沌としている筈なのにモダンな文章がそれを上回って結末まで読者を運んでくれます。

    昭和10年代の胡散臭くて妖しい大都市東京の雰囲気を思いっきり味わえました。

  • 中国、上海などを舞台とした作品です。

  • 110410/今年16冊目

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著者プロフィール

1902-1957。作家。雑誌『新青年』などで活躍。「鈴木主水」で直木賞受賞、「母子像」で国際短編小説コンクール第一席。

「2015年 『内地へよろしく』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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