時代の風音 (朝日文芸文庫)

  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 335
レビュー : 29
  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022641397

作品紹介・あらすじ

20世紀とはどんな時代だったのか-。21世紀を「地球人」としていかに生きるべきか-。歴史の潮流の中から「国家」「宗教」、そして「日本人」がどう育ち、どこへ行こうとしているのかを読み解く。それぞれに世界的視野を持ちつつ日本を見つめ続けた三人が語る「未来への教科書」。

感想・レビュー・書評

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  • 宮崎駿、司馬遼太郎、堀田善衛という豪華な御三方の鼎談集。

    言い出しっぺの宮さんは書生という立ち位置で、主に司馬さんと堀田さんが語られています。
    宮さん目当てで買いましたがこれは良書ですね。面白い。

    司馬さんも堀田さんもいったいどれだけ物知りなの?と驚きの連続でしたが、とくに司馬さんの知識量...はんぱない。
    日本史は勿論のこと、世界史までもが、まあさらさらぽんぽんと、出るわ出るわで。
    世界史に疎くても、興味がなくても、へぇ~。ほぉ~。とするする読めてしまいます。
    話したいことと、伝えたいことの違いをよぉく理解してる、頭の良い大人という印象。作家としては勿論、ひととしても貴重な方だったのですね。
    堀田さんはちょっと毒のあるユーモアなおじさんといった印象で、なんて素敵な企画なんだ!と感激しました。

    「敗戦を終戦という言葉で濁す」
    「言葉で巧みに本質をすり抜けるようにできている」なんていうのは、福島原発の汚染問題なんかにも通ずるものがあるし、
    「国是(憲法)というものをいたずらにいじってはいけない」というお言葉も説得力がある。
    宮さんが熱風で書いていたのはここと繋がっているんでしょうね。
    宮さんにとって、このお二方にお会いできたこと、直接お話ができたことがどれだけ糧になっていることだろう。

    以下、備忘録。
    「子供は大人の父である。子供にすべてがある。」
    「ガウディのあの変なお寺ですが、なんで日本人はあれがすきなんですかね。」
    「陸がやせると海もやせる。」
    「家と人間がいっしょに年をとっていくのを見ると、日本は捨てたものではないと思うんです。」
    「世界で、いちばん公害問題で地球規模で心を痛めているのはオランダでしょう。」
    「二酸化炭素が増えれば地球があったかくなって、北極の氷などが融けて海面の水位が上がればオランダは水没して国がなくなります。」

    中でもとくにいいなと思ったのは、司馬さんが宮さんの映画を絶賛している文章で
    「ときには絵画は負けたかなと思うことがあります。」
    「人間が立体的で、絵の中で風が吹いてきたら、女の子のスカートがふわっふわっとなってふくらんでいく。それで風という目に見えない空気の動きを表現している。」とおっしゃっています。
    宮さんが一方的に敬愛しているのではなく、両想いなんですね。素敵。

    ほかにも食べ物の文化...ジャガイモがヨーロッパを救ったなど、とっつきやすい話題もあり、飽きずに読み進められたのもよかった。

  • もちろん宮崎駿関連本として手を伸ばしたのだが、いろいろ思うところあり。
    1992年の鼎談を単行本→文庫化。当時堀田74歳、司馬69歳、駿51歳。
    そりゃ駿も聞き役に回るわけだ。
    もちろん当時から駿は知識詰め込み型だったはずで、だからついていけた。
    鼎談以前から日本論や国家論や文明論を咀嚼していたはずで、その中で「となりのトトロ」がものされたわけだ。
    この鼎談の延長上に「もののけ姫」と「千と千尋」がある……というのはさすがに言いすぎかもしれないが、駿が文化人として見習っている人たちなんだろう。

    んで当時わたし9歳。
    高校生のころに堀田善衛には手を伸ばして、全然太刀打ちできなかったなぁ。
    司馬は「竜馬がゆく」の講談調の読みやすさに乗せられてスイスイ読んでスッカリ忘れてしまった。
    このふたりは巨人のごとく広く深く語り、正直読み切れず。
    高校生当時ならわからないまでも必死に食らいついていたな、と、梅原猛・中上健次「君は縄文人か弥生人か」、柄谷行人・蓮實重彦「闘争のエチカ」、浅田彰・島田雅彦「天使が通る」などを律義に読んでいた自分を思い出す。
    すっかり読む体力が落ちていることに気づく。

  • 知の巨匠たちがポンポン話すのに頑張ってついていく気分。司馬遼太郎は日本とアジア、堀田善衛はヨーロッパを軸に物事にアプローチする。結果、2人が話しているのを読むと世界の大方をカバーできているかのような気持ちになる。
    でも、ポンポン話しすぎずにもう少し一つの話題について深く話してもらいたかった次第。

    この対談についていけるくらいの知的体力を養えたのは大学時代の財産。って言っちゃっていいかな。
    なぜだかトルコに行きたくてたまらなくなった。

  • 堀田善衛と司馬遼太郎の博識・博学の二人ががっぷりと四つに組んでの対談。宮崎駿はもっぱら聞き役。
    知識の拡がり、深さ共に素晴らしく、歴史認識、国家の行く末、宗教、果てはイスラムからアニメーションまで、縦横無尽の如く議論が尽きない。

    この中で、司馬遼太郎が、戦車隊の隊長として終戦を迎えた時に思ったのが、「なんでこんなばかな国にうまれたんだろう・・・(略)・・・昔の日本は違っただろう。しかし22歳のときだから、日本とは何かなんぞわからない。もの書きを始めてからは、少しづつわかってきたことどもを、22歳の自分に対して手紙を出しつづけてきたようなものです」
    それに対して堀田善衛が、「それは司馬さん、私なんかも完全に同じですよ」
    私は戦後生まれだけれども、この二人の言葉を聞いた時、思わず涙が出て来た。

    もう一つ、後世になって過去を見た時に、その時代の感覚というものは非常につかみにくいと言う例を幕末や戦前の例を挙げている。そして司馬は「そういう時代に対して、私は非常に寛容です」と。
    朴 槿惠(パク・クネ)もこういう感覚を見につけてほしい。

  •  堀田という深みのある人と、司馬という広がりのある人の対談に、宮崎という若造が耳を傾けるという構造。もちろん宮崎も普通の人にとっては、大きな知性の人なのだけど、さすがに前述の二人の前では小さくなって見える。堀田とか司馬の知性ってのはすごいなあ。

     堀田が指摘している、徴兵制による国民軍を創設したのはナポレオン(p30)というのは興味深い。国家ありきではないということが、よく分かる。それまで傭兵が戦っていた戦争を、国民が戦うようになったのは、発明されたシステムなのだということ。有事法制などを考えると、そこには「守るべき国家」がまずあって、そのために国民は我慢をしいられると言う構造だが、それは決して自明のものではないんだというのは、興味深い。

    豆知識的に、司馬が釈迦族の先祖のサカ族は遠くは古代ペルシアの騎馬民族だったということ。(p87)

     古代日本の国際化について司馬は次のような興味深い発言をしている(p155)
     
     堀田 奈良朝時代、奈良の町は国際化されていて、半分ぐらい外国人じゃないですか。
     司馬 そうかもしれませんね。奈良朝の人たちは外国人、内国人という意識がはっきりしなかったから、明日香は漢人(あやひと)というか、朝鮮に存在した古い楽浪郡の中国文化をもっていたひとたち-そういう知識人の集落でした(以下略)
     
     また明治天皇の教師だった元田永ざね(浮のつくり)のプロフィールもp246にあり。

  • この本は、日本が生んだ稀有な才能である宮崎駿、堀田善衛、司馬遼太郎という博学な作家3人を交えた対談集です。本書の中でも述べていますが、宮崎駿は一人の“書生”という立場から対談を進行する役目を主に務め、司馬、堀田の両氏が対談の発言が中心を占めています。
     この本が始めて単行本として発行されたのは1992年のことだそうですが、今(2008年)から16年前です。ベルリンの壁崩壊、ロシアのペレストロイカ、天安門事件、クウェート侵攻など、国際情勢が大きな変化を見せた時代の直後ということになります。16年前ですと、私は22歳ですが、このような大きな変化をテレビや雑誌で見て、これから世の中はどうなってしまうのだろうと思ったものです。そして『朝まで生テレビ』などを観て、大島渚、野坂昭如、いまや政治家になってしまった桝添要一などの話に耳を傾けていました。
     そういった激動の変化をつぶさに見ているそのリアルタイムに、この3者の対談が行われたことは奇跡であり、こうして文庫本で読めることは、日本人にとっても大きな価値のあるもののように思います。といいますのも、この本はまるで現在の日本を見透かしているかのような、“預言の書”になっているからです。“預言の書”と言っても、何年が何月に大地震が起きるというような卑近なものではなく、日本という国がどこへ進もうとしているのか、世界がどのように動いていくのか、という民族、社会、国、世界、文化、そして地球・・・という大きな視点での提言としての“預言”です。しかもこの“預言”は、“歴史”という人類の歩みをつぶさに考察して明らかにされており、決して突拍子もないことではないことです。
     本の最後には地球温暖化について語られていますが、今から16年前、誰がこれだけこの問題の重要性に気がついていたでしょうか。16年前に既にこの問題を提起しているということが、本書を読むだけの価値を語っているように思います。1992年の混迷は、また違った形の混迷さを迎えています。この本からは、そこから抜け出すヒントがあるように思います。

     そして面白いと思ったのは、司馬遼太郎が宮崎駿に、「物の怪を扱ったアニメーションを作って欲しい」と提案していることです。この司馬遼太郎の提案は、後の『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』に通じていること間違いなしです。また、司馬遼太郎は『ルパン三世』も観ていたことが分り、しかも宮崎駿が携っていたときの頃の『ルパン三世』の違いを感じ取っていたようです。司馬遼太郎の頭の中は、一体どんなことになっていたのでしょうね。

  • 1992年に行われた堀田善衛、司馬遼太郎、宮崎駿の対談本。冷戦終了直後の価値観の確立に悩む宮崎駿が他の2人の教えを請うってスタイルで、対談内容は進められている。この時期に宮崎駿の混乱は『紅の豚』なんかに反映されているのか。ええと、たった15年前とはいえ、この15年の世界史の変動は凄かったんだなぁと思わせる内容。この本の持つ知的枠組みたいなものが現状とまったく乖離してるんだもん。今読むにはけっこうキツイ。ただ、堀田善衛、司馬遼太郎が大戦前後の体験について語る部分がどれも非常に面白い。

    いくつか思った事。『となりのトトロ』の批判に「農村を美化している」ってのがよくあって、宮崎駿は分かった上で美化して作ってるんだろう、って前々から思っていたわけだが、どうもやっぱり分かった上で作ってるみたいだ。
    “私は敗戦後、学校とNHKのラジオで、日本は四等国でじつにおろかな国だったという話ばっかり聞きました。実際、中国人を殺した自慢話をする人もいましたし、ほんとうにダメな国にうまれたと感じていたので、農村の風景を見ますと、農家のかやぶきの下は、人身売買と迷信と家父長制と、その他ありとあらゆる非人間的な行為が行われる暗闇の世界だというふうに思いました。ですから、日本の景色を見ても、水田を見ても、咲き乱れる菜の花畑を見ても、みんな嫌いな風景に見てました。嫌いだったんです。それを回復するためにえらい時間がかかりました。”(PP.164-165)。

    あと司馬遼太郎の発言。
    “私は戦争の末期、旧日本軍の兵士でした。戦後になって日本がほうぼうで悪いことをしたというのを初めて知るんですけども、私はそんなの目撃したこともないし、もちろんやったことなどなんにもない。満州でもない。中国の人ともうまくいってました。(中略)私はそういう残虐事件がなかったんだということは決して言わない。なぜかといったら、全戦線を見てまわったわけではないんですから。自分の知った範囲ではまったくなかったということですから。同時代でも、その現場、現場でつかまえかたが違いますな。”(PP.46)。

  • 某所読書会課題図書.単行本として1992年11月の刊行されているので、91年12月のソ連崩壊の影響を受けての発言が多かった.この大事件の背景として、89年11月10日のベルリンの壁崩壊、その年の夏の8月19日の汎ヨーロッパピクニックがある.やや戻るが92年1月15日にはユーゴスラヴィア解体、93年11月にはEC統合とヨーロッパで大きな動きがあった.第5章 "宗教の幹"が楽しめた.宗教革命が日本でもヨーロッパでも13世紀に起こっている由.法然、親鸞、日蓮、道元らの出現.フランスでのワルドー教の発生などなど.中身の濃い鼎談だが、堀田善衛の深い知識はどこから来ているのかな.

  • 切り返しがすごい。
    遠くを見通すときの本。
    とりあえず鎌倉時代の勉強したくなりました。

  • 確かに面白い組み合わせではありますが、3人の良さがうまく化学変化しているとは思えなかったところが残念でした。
    例えば、1つの話が面白くなったところですぐに話題が変わるという塩梅で、その話もっと掘り下げてほしい・・と思った個所もかなりあった。

    とりあえず、司馬遼太郎の以下の言葉は最も印象に残った。
    戦時中の戦果の話で、「英語圏では、はっきり沈んだとか何人殺されたという言葉をちゃんと普通に使うのに、日本は玉砕したとか雅語に近くなる。とにかく言葉で巧みに本質をすり抜けるようにできていますね」(P149)
    本質を隠蔽するだけでなく、大本営発表のように嘘も方便だと開き直るわけですから始末に負えません。
    さらにひどいのは、ウソの戦果を根拠に次の作戦を策定していたとなれば、もうアホかとあきれるしかありません。
    とはいえ、こうした欺瞞や誤謬に満ち満ちた敗戦の本質について、国家としてきちんと反省、総括したものがないというのも困ったもので、将来同じ過ちを繰り返さないためにも、歴史から謙虚に学んで現代に活かしてほしいものです。

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著者プロフィール

アニメーション映画監督。1941年、東京都生まれ。作品に「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「魔女の宅急便」「紅の豚」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」「崖の上のポニョ」など。

「2013年 『風立ちぬ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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