美しき日本の残像 (朝日文庫)

  • 朝日新聞出版
3.91
  • (49)
  • (40)
  • (54)
  • (1)
  • (2)
本棚登録 : 384
レビュー : 58
  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022642400

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 何とも痛切な内容の本で、ページを幾たびも戻ったり考えたりしつつ、半月近くかけて読み終えた。
    タイトルだけ見れば、美しい日本に滞在した際の(或いは旅をした)回顧録とでも誤解しそうだ。
    だが話はそう単純ではなく、日本に憧れて日本に住んだ外国人が、変貌してゆく日本への失望を描いた作品なのだ。
    子どもの頃から日本家屋に憧れ、日本の歴史・文化・芸術に深い造詣を持つアレックス・カー。
    日本の山と自然を愛し、日本美術のコレクターともなった彼が、失われた日本への哀愁を込めて語る一冊がこれ。
    的を射た数々の見方・考え方に、情けなくもうな垂れるしかないというのが、私の正直な感想だ。

    何も、外国人の眼を通して日本に失望しなくても、と思われるかもしれない。
    だが彼は、来日して全国をまわりながら、結局は四国の祖谷(いや)に茅葺屋根民家を見つけ、まだここに本当の日本があると確信して住み着いたこともあるのだ。
    徳島県と高知県、愛媛県の境目にある、タバコの葉を唯一の産物とする秘境の一軒家である。それが実に1973年のこと。
    その後の20年間で土地代が半分に下落したというから、バブルにさえ見放された土地ということだ。
    画像で見れば確かに「ああ、良いところだな」と思うが、果たして私たちのうちの何人が、わざわざそこに居を求めるだろう。
    ライフラインに苦労のない、もっと便利なところ、より欲しいものが手に入りやすいところ、情報が簡単に入手できるところ。
    それを求めた結果が、私たちの日本の姿なのだ。

    彼は言う。
    【日本家屋に美しく住んでいる人は全国で20人くらいしかいないのではないでしょうか。
     ・・・・・(中略)特殊な日本人は5,6人いますが、あとはみな外国人です!】
    そしてまた、醜悪なコンクリート、パチンコ屋(本書でこのふたつは非常に多く登場する)、看板、電線に囲まれて、日本人は日本の昔の美を憎んでいるのではないかとさえ思うと。
    プランニングの発想が無いから、それぞれ勝手に家を建てて、勝手にお店を作る。
    もしも上から「この町はこういう町であるようにしましょう」といったら、町全体で、いやもしかしたら国全体で反対運動を起こすというところまで発展させてしまう。
    それだけ“上からの指示”や、理想を掲げようとする人を徹底的に嫌い排除しようという国民性を持つが、それはある意味、【身勝手】と取ることもできるし、ゆえに世代や時代の流れに逆らえず大切なものをなくし、それがいつか自分たちの衰退に繋がるかも知れない、ということへの自覚を持てないでいる。
     
    そう、何事も「民は正しく国は誤り」という考え方が実は自分たちの環境・歴史・文化さえ衰退させているということに、いい加減気づかないと手遅れなのだ。
    いや、もう遅すぎるか。
    日本人は、日本の見方さえ忘れてしまって、いまや「歌を忘れたカナリヤ」なのだと、彼は言う。
    アレックスは祖谷から、京都、東京、亀岡と住処を拠点に移動し、、今なお残る「日本」を求めようと、正面きって闘ったのだ。
    その意味では実に傾聴に値する一冊で、特に第九章の【関西七番巡り】は必読。ただし、かなりの過去記事だが。

    何度も繰り返し書かれている言葉がある。
    【観光になった京都や奈良に騙されてはいけません】
    【京風料理屋の琴を排除しなければいけない】
    【和風旅館の日本趣味がおもしろいのですか】
    【おばさんの茶の湯やお花は日本なんかではないんじゃないか】
    さて私は、一体日本の何を知っているのだろう?

    『徳不孤 心有隣』(徳は孤ならず 必ず隣あり)
    ・・心にいつも理想の炎を燃やさねばならない。
    そうして、新しい日本の美は、再び生まれるのだろうか。
    もっともっと、自分の国について知らねばと猛省した一冊。

    • vilureefさん
      すっごい面白そうな本ですねー(*^_^*)
      また、読みたい本が増えちゃった。

      日本人て“上からの指示”が嫌いな国民性だったんだー、へ...
      すっごい面白そうな本ですねー(*^_^*)
      また、読みたい本が増えちゃった。

      日本人て“上からの指示”が嫌いな国民性だったんだー、へー。
      すごい新鮮ですね、言われてみると。

      電柱、これはよく分かりますよ。
      欧米って全然ないですもんね。
      田舎はどうだか分りませんが・・・。
      石畳で埋め尽くされたローマだって電柱なんてなかったよな。
      町の景観の美しさへの情熱が日本人にないのは認めざるを得ませんよね。

      でもな、こうやって改めて言われちゃうのと反論したくなる天邪鬼の私(笑)
      これは読まないといけませんね、フフフ。
      2014/09/18
    • nejidonさん
      vilureefさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。
      はい、ぜひお読みになってくださいませ!
      たぶん、そちらの図書館にも...
      vilureefさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。
      はい、ぜひお読みになってくださいませ!
      たぶん、そちらの図書館にも置いてあるかと思います。

      実は私も、どこかに反論の余地はないかと、あえてじっくり&ゆっくり読みました。
      そして、撃沈・・(大笑い)
      著者は、環境と住まい方に関して言っているだけではありません。
      すべて、日本への限りない愛情ゆえというのが分かるから、納得せざるを得ないのです。
      vilureefさんがどう思われるか、お聞かせくださいませ~
      2014/09/19
  • 20世紀に入って東洋における文化と自然の破壊は
    著しいものだと著者は力説する。
    ヨーロッパ諸国における産業革命はゆっくりとした変化であり、
    400年以上かかって築き上げてきたものであるのに対して、
    中国や日本では、それらがあまりにも急速に起こった。
    そしてそれは100%異文化によってもたらされたものである。

    著者は合理性や効率性が優先される現代社会において、
    こぼれ落ちた価値観を拾い上げる作業をしている。

    倫理からこぼれ落ちる感覚を大切にしている。
    ロジックが西洋的なら感覚は東洋的。
    言葉の巧みさでは全てを伝えられないことを理解している。

    日本の伝統文化がすべて分業制になっているのは、
    仕事・雇用を安定させるためというのも大きな理由なんだけど、
    その技術を他に持ち出されないようにするため、
    文化を容易に盗まれないために編み出された、と訊いたことがある。

  • 日本人が(忘れてしまったわけではなく)気に留めないような外の人の目線が祖谷を美しく彩る。読めばリアルを欲する良書。

  • Dear AREX,
    著書、拝読しました。
    あなたが日本で古民家、古美術、歌舞伎など、自分が「美しい」と感じたものや、そしてその元となっている日本の自然について、まるで“MY FAVORITE THINGS”を歌うように1つ1つ調度品にように丁寧に1冊の本に並べられていたため、「次は何が出てくるのかな」と最後までわくわくしながら読めました。

    日本の美に対するあなたのユニークな考え方が、時には「外国人だから」といって特殊扱いされるのは、残念でなりません。でも全く問題ではありません。あなたがもう少し長く日本に滞在していれば、あなたの独特な視点やこだわりは「オタク」のパイオニアとして高く評価されていたでしょう。
    また、あなたを「ちょっと変わったアメリカ人」と言うのも、違うなと思います。そういう人はMLBでのプレーにこだわる日本人野球選手を「ちょっと変わった日本人」と呼ぶのでしょうか?
    自分の生まれた国以外の文化に魅了され、それをライフスタイルとして貫き通すことを、そんな素敵な対象を見つけられてうらやましいとは思っても、変だとは少しも思いません。

    90年代にすでに、もう「美しき日本」は残像しか存在しないと考えたあなたは、今の日本を見たらどう思うでしょうか?
    確かに日本はどんどんだめになっています。日本の美は壊滅状態です。でも「徳不孤」です。いつかはあなたの感性への共感が日本に広がってあなたや多くの日本人や世界の人々を引きつける、本当の美しき日本となれたらいいですね。
    おそらくこの本の読者の多くは、単にノスタルジーにひたるだけではなく、「まだまだ日本には、こんなすばらしい美も残っていたよ。」と自分なりの美しき日本を追い求めたい欲求にとりつかれるでしょう。

    それではお元気で。一度、夜を徹して日本の古い民家で語り合いたいです。
    (2007/11/16)

  • 地方にめぐらされた電線、高速から見えるパチンコ店を見るたびに、この本を思い出す。

  • 自然の力を拝借しているという気持ちを常に持ち続けないといけないですね。

  • 最近クールジャパンとか言って得意気な日本が忘れてしまった感性を、外国人の著者が優しく懐かしむように書いている。「文人」とは?オックスフォード大学時代、学長から植民地の者呼ばわりされた事、野の花ならぬノーの花など、ユーモアあるエピソードも楽しかった。

  • 自分達がうつくしいと思っている田舎の風景も分明に侵食されたものというのがよくわかります。
    当たり前すぎて見えていないもの。
    HANDSの影響で(笑)電線というものがこんなに身の回りにあるんだというのも改めて気付かされました。

  • 日本人よりも日本に造詣と愛情の深い、異邦人から見た古き良き日本文化の残像について。著者は徳島県の山中にある祖谷渓谷に古民家を構え、そこから急速に失われつつある日本らしさを憂いている。

    最近になってクールジャパンという言葉が出てきて、日本文化を海外に輸出しようといった号令の下に、様々なソフト産業に対する投資が増えているが、70年代から美術品や古民家に対する投資と目利きを行なってきた著者にとっては、今やほとんど価値のある日本文化の形は残っていないと嘆く。

    我々現代の日本人にできるのは、その残像を現代のニーズに合わせて再び再構築していくことなのか。そんな問いかけをこの本を通じてされている。

  • 坂東玉三郎さんや司馬さんが寄稿されています。まだ読み始めたばかりですが、こういう方の文章に出会うと、奈良が好きと綴る自分の未熟さを恥じ入ると同時に、心が嬉しさでいっぱいになります。

全58件中 1 - 10件を表示

美しき日本の残像 (朝日文庫)のその他の作品

美しき日本の残像 単行本 美しき日本の残像 アレックス・カー

アレックス・カーの作品

美しき日本の残像 (朝日文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする